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本当にぎこちない


「それでさー、ヒロくんまた宿題忘れてきたんだよー?」

「勉強に身が入らないのは相変わらずだね」

「でも定期テストで平均点以上は取れるから、特に問題無いんだって」

「そういう要領の良さも変わらないなぁ」

 

 彼女の家にお邪魔して三十分経つが、私達はお喋りに夢中になっていた。

 くだらない会話を無駄とは思わないし、むしろ相手の考えを知ることが出来て好きだ。

 特に咲那(さな)の話し方には感情が出やすい。

 それを読み取るだけでも興味深くて、退屈することがない。

 今まで飽きたこともない。

 

「ねぇ光凛(ひかり)ちゃん、光凛ちゃんはなんで恋愛感情を知りたいと思ったの?」

「うーん、たぶん咲那ちゃんを見たからだと思う」

「私を?」

「うん。告白してきた時の君は、すごく一生懸命でとても眩しかった。その姿が羨ましかったのかなぁ」

「うぅ……。なんか照れるし、もっと甘えたくなっちゃう」

「甘えていいよ。咲那ちゃんの気持ちを分けて欲しい」

 

 真っ直ぐ目を合わせて言う私に、彼女は恥ずかしさを覚えたのだろうか。

 赤らめた顔は少し下を向き、視線も違う場所を眺めている。

 その姿は恋する乙女を体現しているかのようだ。

 とても女性的であり、なんだか置いていかれている気分にもなる。

 私の心はそれに共感したいと叫んでいる気がした。

 だけど何をするべきか分からない。

 思考の方が呆然と立ち尽くしている。

 本当にぎこちない。

 

「思い切り甘えてもいいの?」

「いいよ。二人だけだし」

「じゃあ目を瞑って」

「うん」

 

 初めてキスをした時と同じ前置きを促される。

 もちろん、ただの口付けで終わりそうな雰囲気じゃないことは分かっていた。

 だけどそれで良いと思う。

 私も知りたいから。

 

「いくよ?」

「うん、いいよ」

 

 彼女の声と呼吸音、ゆっくりと膝で歩いてくる振動が鼓膜に伝わる。

 きっとまたあのくすぐったさを感じるのだろう。

 だけど今度は拒みたくない。

 分かっているなら、もう驚きはしない。

 きっと受け入れられる。


 彼女の手は頬ではなく、私の肩に乗せられた。

 少しだけ顎を上げて、心構えが出来ていることを知らせる。

 しっかりと想いを染み込ませるように、柔らかな感触が唇から伝ってくる。

 押し潰れないよう、丁寧に確認しながら、ゆっくりと密着感が強くなっていく。

 咲那の口が開くのが分かった。

 すぐに私の下唇が、モチモチした肉感に挟み込まれる。

 指で摘んだ感触とはまるで違う。

 それは決して不快なものではなく、自分でも意外なくらい気持ち良く感じた。

 正面からの呼吸が荒くなっていくのが分かる。

 きっと彼女は興奮しているのだろう。

 唇への吸い付き方が激しくなった。

 

「んっ」

 

 時折漏れる彼女の声は色気を増していき、肩に掴まる指の力も強まっている。

 私は応えるようにゆっくりと口を開いた。

 彼女の舌は確かめるみたいに唇に当てられ、その後口内へと入ってくる。

 歯茎や頬の内側を這い回られる感覚は、ものすごくくすぐったい。

 思わず私も吐息が漏れる。

 しかし止まることのない彼女は、舌の上から裏側へと、探るように舐め回す。

 その邪魔をしないように、私も必死で舌を動かして応える。

 本当にぎこちない。

 

「あっ……!」

 

 息だけではなく、声まで反射的に出てしまった。

 感情云々ではなく、日頃体感することのない刺激が、冷静ではいられなくさせる。

 もう腕を降ろしているのも限界だった。

 この言い様のない快感をもっと続けて欲しくて、彼女の華奢な身体に腕を回した。

 すると彼女は顔を離してしまう。

 

「光凛ちゃん……? もしかして今ドキドキしてる?」

「すっごくしてる。こんなの私じゃないみたいに」

「嬉しい。私のことでそんなに頬っぺを赤くしてくれるんだ」

「よく分かんないよ……。でもまだ終わりにしないで」

「可愛いね」

 

 その後も激しい口付けを交わした。

 気が付けばお互い抱き合う姿勢になり、私からも彼女の口の中へと入り込んでいる。

 探り合う舌と舌の感触と、混ざり合う唾液の媚薬効果が、こんなにも気持ちを満たしてくれるなんて。

 体の芯から熱くなり、胸の高鳴りが鎮まることを忘れている。

 これが女の本能なのだろうか。

 目の前にいる人に身を委ねたくて、腕にも強い力がこもる。

 

「光凛ちゃん、エッチな顔になってるよ」

「だって咲那ちゃんがどんどん激しくするから」

「それは光凛ちゃんも同じでしょ?」

「そうかも。何も考えられなくなってた」

「ディープキス作戦、大成功だね! でもそろそろ終わりにしなきゃ」

 

 不思議に思った私は、掛け時計に目線を移す。

 この部屋に来てからもう二時間が過ぎていた。

 

「そっか。そろそろご家族も帰ってくる時間だよね」

「うん。続きはまた今度にしよ!」

「続き? キスの?」

「次は押し倒しちゃおうかなー」

「それはちょっと……」

 

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