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本当に最低だ

 自分の事ならいくら罵られても構わない。

 でもこんな奴らの発言が原因で、真面目に受け止め過ぎた咲那(さな)だけが、深く傷付けられたのが許せない。

 命を絶とうとするまで追い詰められた彼女を、平然と笑えるあいつらが許せない。

 咲那を返して。

 私の大切な恋人を返して。

 煮え(たぎ)るような憎悪は、この体をまっすぐ隣の教室へと乗り込ませていた。

 私を見た根本は少し目を丸くしたが、すぐに馬鹿にしたように笑い始める。

 

「なぁに? 大好きな彼女の敵討ちでもしに来たの? すんごい顔してるけど」

「そうだよ。私言ったよね?」

「何を言ったの? 変人の話はあんまり頭に残らないんだけど」

「咲那ちゃんに何かあったら、あなたを許さないって言ったよね!?」

「勝手にすごんでるけど、ひとりで何が出来んの? バカなの?」

 

 私はすぐ近くの机に置いてあるボールペンを掴み、根本の腕に力いっぱい突き立てた。

 なんの躊躇も無く、ただ憎しみだけを込めて。

 あまりに突然の出来事で根本は反応すら出来ず、叫び声を上げて刺さったペンを抜き取る。

 痛みに震える彼女の腕からは、床まで血が滴っていた。

 

「あんた狂ってんじゃないの!!? こんなのただの犯罪よ!! 傷害罪で捕まれ!!!」

「そうかもしれないね。今の私は狂ってるよ。あなたが泣こうが死のうがどうでもいいと思ってる。むしろもっと苦しみなよ」

 

 投げ捨てられた血塗れのペンを拾い、もう一度根本に向かって構える。

 根本は腰を抜かしたのか、立ち上がれないまま後退りをしている。

 周りの取り巻きは抑えようにも、私の狂気に満ちた表情が恐ろしいのか、固まったまま近寄れない。

 私は何もかもお構い無しに、今度は脚に向かってペンを振り下ろした。

 

「ぎゃああああ!!!! や、やめて!!! もうホントにやめてってば!!!」

「じゃあ後ろの窓から飛び降りてよ。脳みそが空っぽのあなたでも、少しは咲那ちゃんの痛みが分かるかもしれないからさ」

「謝る!!! 謝るから!! あんたにも八巻(やまき)さんにもちゃんと謝るから許して!!!」

「そんなの都合良過ぎだよ。あなたは咲那ちゃんを殺したのと同じだよ? 謝るだけで人殺しは許されるの?」

 

 脚に刺したペンを引っこ抜き、三度(みたび)根本に振りかざして威嚇する。

 引き抜いた時の返り血は、ブラウスの白に真っ赤な斑点のように飛び散ってこびり付く。

 しかし憎悪に囚われている私は、そんなの全く気にならなかった。

 むしろ見下した先の恐怖に歪む表情を見て、少しだけ鬱憤が晴れている。

 咲那ちゃんを取り戻せないなら、せめてこの憎い女を死にたくなるほど痛めつけたい。

 咲那ちゃんの受けた痛みを何倍にもして体感させてやりたい。

 そんな血なまぐさい思考が渦巻いている。

 

「じゃあどうしたら許してくれるの!? なんでもするから!! もう絶対馬鹿にしたりしないから!!!」

「許さないって言ったじゃん。もう忘れたの? ニワトリより脳みそ小さいんじゃない?」

「お願い許して!! もう痛いのやだ!!!」

「咲那の痛みはずっと無視したくせに……!」

 

 追い討ちをかけるように突き刺そうとしたが、同じタイミングで背後から羽交い締めにされた。

 相手は力が強く、怒り狂った私でも全く身動きが取れない。

 

三隅(みすみ)!! もう辞めろって!」

「ヒロくん!? なんで邪魔するの!? いいから離してよ!!」

「離せるわけねぇだろ!! お前これじゃ本当に犯罪者になっちまうよ!!」

「いいよ犯罪者でもなんでも!! この女のせいで咲那ちゃんがどれだけ辛かったか!」

「その辛さを我慢してた八巻を、お前が全部否定してどうすんだよ! こうやって暴力で解決出来ないから、あいつは悩んでたんだろ!?」

 

 そうだった。

 咲那はいつも気持ちを大切にしてた。

 相手の気持ちも自分の気持ちも、一番大事な部分は分かり合えるように、ちゃんと話し合おうとしてた。

 その話し合いすらさせてもらえないから、苦しんでいたんだ。

 私は今、根本を痛みで屈服させていただけ。

 話合いはおろか、相手の意見に聞く耳持たないところなんてこいつにそっくりじゃないか。

 私は咲那を一番悩ませた人間と同じことをしている。

 咲那のやり方を全否定している。

 本当に最低だ。

 

「………返してよ。私の一番大切な人を返してよ!!」

 

 私の口から出た悲痛の叫びに、誰一人として応えようとはしない。

 静まり返った教室内には痛みに耐える根本と、打ちひしがれる私のうめき声だけが響く。

 こんな自分がすごく嫌だ。

 感情に支配されるなんて動物と同じだ。

 でも理性による制止が働かない。

 ただ涙を流すだけの私を、ヒロくんが優しく慰めてくれた。

 

 その後、騒ぎを聞き付けた教師に連れられ、応接室にて事情の説明を求められた。

 ただ泣き続けるだけの私にヒロくんも付き添い、代わりに全てを打ち明けてくれた。

 彼がここまでしてくれるのは、私を想っているからなのだろうか。

 報われない想いと知りながらも、好きな人の為に動くのはどれほど辛いのだろう。

 今の私には少しだけ分かる。

 私なら応援なんて出来ない。

 きっと関わりを無くすか、弱みに付け込んで助けようとするだろう。

 でも彼からはそんな意図を一切感じない。

 私の方が彼の好意を利用しているみたいだ。

 本当に最低だ。

 

 その日私は自宅に帰された。

 家にも連絡が届き、両親は困惑している。

 咲那への虐め、そして彼女に対して抱く好意を告白して、ようやく理解された。

 私は二週間の停学処分となった。

 

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