新たな名前
「まさかこんなことになるとは.....」
あちらの世界では身長はそれなりにあったが、こちらの世界ではかなり縮んでしまっているようだ。
「それより名前を.....」
「あぁ、そうだった.....」
どうしようか.....
「付けてくれない?」
「はい?」
「名前付けるのって苦手で。ごめん。」
「それは構いませんが、そんな大切な役目を私に預けても大丈夫なのですか?」
「僕は多分、アラゴナイトさんが助けてくれなかったから死んでいました。だから、助けてくれた貴女だからこそお願いしたい。」
「それは.....」
一息。間を置いて
「それは本当に私に任せて頂いて大丈夫なのでしょうか?」
「あぁ。構わない。」
偉そうに言える立場ではないのは分かっている、だが、今に自分が生きているのは間違いなくこの人のお陰なので、委ねることにした。
「はい。そうですね.....グラス・ドラゴアイなんてどうでしょうか?」
「じゃあ、それで。」
「貴方が倒れていたのは広く、綺麗で、風がよく通る場所でした。そこの芝は豊かで、心も豊かになって欲しいという願いを込めています。」
英語もあるのか。かなりごちゃ混ぜな世界だな。
「そこまで考えたのか.....」
「私はグラス様、貴方を支えるのが役目。貴方のためなら、これくらいの事なんてことありません。」
そんなものなのか?
「じゃあ、改めて。僕の名前はグラス・ドラゴアイ、これからよろしく。」
「はい。精一杯仕えさせて頂けます。お気軽にラナと及びください。」
今から始まるんだ。僕の新しい生活が。
「これからどうしましょうか?」
「そうか僕は勇者になるためにここに来たんだったな。」
「学校に行ってみてはどうでしょうか?」
「学校?学校があるのか。」
「はい。下位の学年で三年、上位の三年があります。条件は11才から入学できます。」
「そういえば、僕って何歳なの?」
「それなら調べることが出来ます。少しお待ちください。」
ごそごそと引き出しの中を漁るラナさん。やがて、白色の石を取り出してきた。
「これを持ってください。」
「これは?」
「歳を刻む石、齢刻石です。これに触れると色によって年齢が分かるようになっています。」
「何色になったら入学できる?」
「何色と言うか明暗で判断します。暗ければ暗いほど歳を食っています。その逆で、明るければ明るいほど、若いといえ判別ができます。」
「そうか。」
「どうぞ。」
触ってみるとほのかに暖かい。色は、白が少し曇った程度だった。
「これは............」
「どうなの?」
「10才ですね。丁度10才です。」
「あと一年猶予があるな。」
「猶予?」
「少しでも学校で上位に入れるよう、勉強とか筋トレとかしとかないといけないと思って。」
「それはそれは.....精が出ますね。」
喜ばしいことです、と、朗らかに微笑みかけられるとこちらまで嬉しくなる。
「早速行ってくるわ」
「はい。無理はなさらないように。あと、暮れにはお夕飯を用意しておりますので。」
「分かった。」
「何をしようか.....?」
外に出てきたが、やったら良いことが分からない。まず何から取りかかるのがいいのだろうか?
そうだ、走り込みをしよう。体力はあっても困らないだろう。
家の回りにある木を目印に、その間を往復する。シャトルランみたいな感じだ。
まずは柔軟をして、靴はなぜか運動靴のままだから紐を固く結び
息を整える。
「一本目。」
まずはそこそこのペースで、体温を上げていく。
「ご.....五十本目ぇ...」
少しキツくなってきた。ここからペースアップを図ろう。
七十本を過ぎた頃から足が痛くなってきた。踏み出す度に鈍い痛みが走り、肺が熱く息が吸いづらくなる。
そして、木のシルエットが黒くなってきた頃。
「ひ...ひゃっ、ぽん.....終了.....」
あぁ、力が抜けて上手く立てない。まぁ、初日はこんなものだろう。しかし、年齢が若くなると体力と速度が大幅に下がることが分かった。ん?家からドアが開く音がしたな。
「あら?」
「あぁ、ラナ。すまないが立たせてくれないか?足に力が入らなくて。」
「全く、無理はなさらないよう忠告しましたのに。」
「すまん。」
そう言うとラナは僕の身体を易々と持ち上げた。
「うおっ!お、重くないのか?」
「えぇ、鍛えているので全く重くありませんよ。」
「そうか、それならいいんだが.....」
その後軽く水浴びをし、食事をすませ寝床についた。明日からも続けないとな...