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いかなごのうた     作者: ふじたごうらこ
◎  リリース前の話  ◎
10/15

第九話・ヒット祈願・鳴釜神事・後編


 鳴釜、行きました。

 最初の祈祷受付で作詞者の立場からのヒット祈願です。というと「心願成就」 でいいですかと聞かれる。願い事、祈願内容は神に取り次いでくれる神社側としては何らかのカテゴリに分けて把握するのだろう。

 おりしも境内は七五三の季節でかわいい着物姿や正装した子供と若いお父さんお母さんでいっぱい。病気平癒祈願らしき年配の方々と一緒に祈祷所に入り祈願、その後に鳴釜です。場所は祈祷所とは別棟にある。

 異界への移動気分でわくわくして、お釜殿に入る。これからの特殊神事に期待感でいっぱい。祈願内容は表向きはヒット祈願だが、鳴っても鳴らなくても神意。そして私の受け止め次第です。


 結果としては珍しいことがおきたので書いてみます。


」」」」」」」」」」」


 さて殿にあがると、正面に大きな釜がある。すでに火が入れられている。正面の壁には大きなしゃもじが三つ掲げられ、そこに注連縄しめなわ。釜にも注連縄。そこは神域中の神域で一般の私は立ち入り禁止。自然と背筋が伸びる。

 阿曽女あぞめと言われる釜を扱う人が一名、もう一人の阿曽女あぞめは私の斜め後ろに座る。お二人とも上下白装束。祝詞のりとを述べるのは神職だけだそうで、到来されるまで彼女と話をする。阿曽女さんたちは若くはない。何十年もここに仕えておられるのだろうという風格と柔和な笑みを浮かべる。私が「やはり阿曽の出の方なのですか?」 と水を向けると「いいえ」とおっしゃる。

「今はもうね、そういうのはないです。私も市内から来ています」

「そうなんだ……」

「もし鳴らなくてもがっかりなさらぬようにね」

 神事前のこの発言は予測していた。実際に行った人のブログにも書いてあったから。がっかりするといけないので、あらかじめ阿曽女さんは祈願主にくぎをさしておくのだろう。

 ……鳴らなくても大丈夫ですよ。だってもう作曲していただいたという時点で私は満足しているから。でも、私だけでなく魔王魂さんたちの手が入っている以上、この曲が広く親しまれてくれたら嬉しいと思うの。それだけ。

 ね、この轟轟と燃えている大きくて黒い釜の下数十メートルの先に温羅うらの首が埋まっている。彼は千年以上も前に吉備津彦に殺されてここにいる。そしてかつて愛していた阿曽女が釜をゆでてそれを合図に人々の願いがかなうかどうかを占う……阿曽女がいなくなれば、その地出身の女性を代々その役目を負わせる……今は令和の時代で、阿曽出身でない女性がやってもちゃんと占ってくれる。

 温羅、なんと義理堅い男だろう、そしてなんという数奇な運命か。


 こういった神事は公式の文献でも備中の吉備津宮に鳴釜あり、と出てくる。吉備津神社はいわば辺鄙な場所だ。にぎやかな都会でもない。でも古来からの伝説が今に至るまで息づいている。それが私を魅惑する。

 やがて神職が来られて祝詞を唱える。飛行機が下に沈むような音が二度ほど聞こえる。これか、違うかな、どこから聞こえるかが私にはわからない。でもごおぉ、ぐぉお、と遠吠えのように聞こえるのがソレなのか。とまどっているうちに祝詞は終わり、神職は一礼すると本殿へ向かわれた。今日は多分忙しいのだ。すると釜の前にいた阿曽女さんが私の前に座り「今回は聞こえませんでした」 とおっしゃる。

 私はまだとまどっている。

「あの、私には音が、低い音でしたけれど聞こえましたがではあれは外の車の音でしょうか」

 するともう一人の阿曽女さんが「私も聞こえました」 とおっしゃる。

 しかし、もう一人いた家人は「何も聞こえなかった」 という。二対二だ。

 阿曽女さんがいうには、同じこの部屋にいて一人は聞こえなかったのにもう一人がよく聞こえたといいだすのは結構あるあるらしい。

「ですので、願主のあなたの受け止め次第です」

 私は笑った。

「それではいかなごのうたはヒットすると唸ってくれたことにします」

 阿曽女さんも微笑む。聞いてみたら火を入れていない誰もいない釜殿に一人いて、唸る音がすることもあるとか。

「ああ、とても不思議ですね」

「そう、ここは元々が不思議な場所なのです」

 一応科学的には釜鳴現象は熱音響効果ともいって立証はされている。下記は2003年に発表された土浦工業高校理科研究部のもの。わかりやすいので引っ張ってきました。興味のある人は参考にしてください。


http://www.stirling-tech.sakura.ne.jp/rikaken/genden/2003.html


」」」」」


 しかし同じ部屋にいて耳の悪い私が聞こえ、もう片方がまったく聞こえぬと言うのも不思議な話だ。

 阿曽女さんに「私、補聴器を使っているのですよ」 というと、こともなげに「そういう人のほうが敏感かも」と言う。これまた非常に印象深い。


 結論、祈願主が決めるということで「いかなごのうた」 は


① 半分が好感をもって受け入れられる。

② が、もう半分は興味がない。


 と理解した。半分でも上等だし光栄だ。というわけでこれを読む読者の半分が動画の方にもいって視聴していただけると嬉しいです。よろしくお願いします。









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