表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

6/25

第6話 測定

 新入生の人数は340人ちょい。

 その全員が第一体育館に集合し、測定するのだ。

 必然的に、数列に並んで、順番を待つこととなった。


 退屈そうに僕の番を待っていると、前の男子生徒に話しかけられた。


「なぁ」

「んんっ!? な、なにかな?」

「名前、なんつーの?」


 な、名前……?

 きゅ、急にどうしたんだろう?


 男性は犬の獣人セリオン

 頭頂部に茶の犬耳が二つついており、どことなく人懐っこそうな雰囲気を纏っている。


 だけど、身長は180センチはゆうにある長身。

 しかも獣人特有の骨太で、制服のコートの上からでも分かる筋肉質な肉体だ。

 背丈が小さく身体も細い僕とは、比較にならない。


 彼を見上げていると、恐怖や猜疑心が湧いてくる。


「……りっ、理由を聞いてもいいかな?」

「理由って……ぷっ、別に理由なんてねぇっしょ!」


 ばんッ! 彼の大きな手が僕の背を叩いた。


「が……ッ!」


 吐き出される肺の空気。

 鳩のごとく突き出る僕の胸。

 足元の平衡を失うが──ぎぃッ、と一睨み。瞬時に腰を落として態勢を整え、相対する。


「おぉっと、わりーわりー、強すぎた。と、そんな怖い顔すんなよー。ただダチになりたかっただけじゃん」

「……え?」

「良い奴そうだったから、声掛けたっしょ」


 にっ、と人の好さそうな笑みを浮かべる獣人の彼。


 悪い人では……なさそうだ。

 力加減を間違えただけか……!

 勘違いしちゃったじゃないか、こんちくしょう……っ!


「もうっ、初対面で背中を叩かないでよ!」

「いいじゃん、フレンドリー、フレンドリー! 実際、俺っち達の壁、無くなったっしょ?」

「う、うぐ……確かに」

「ならダチじゃんっ!」


 そう言って、差し出してくる右の手。


 少し、手の平で踊らされた感があって気に障るけど……。

 でも明るくて優しそうだし、友達は多くて損することは無い(ほとんどの場合)。


 少し不服ながらも、握手した。


「よろしくね。えっと……名前は?」

「ランドルフ・カイウーヴ。そっちは?」

「シロガネ・シュテルだよ」

「おぉ、"シロっち"ね! よろピクゥー!」


 す、すごい距離感を詰められてる気がする……!

 しかも、どことなくチャラい!


「ランドルフって、フレンドリーなんだね……」


 と、僕に友達? が増えたところで、


 ぱりィんッ!


 ガラスが割れるような音が、体育館に響いた。


「な、なに今の!?」

「あっちじゃね?」


 僕とランドルフが音のした方向を見てみると、


「あわわ……やっちゃいマシた……」


 割れた水晶の前で、龍の少女が慌てていた。


 入学式の時。尋常ではないインパクトを残してくれた、あの龍の少女、ジンユー・ファンウェイだ。

 目の前のテーブルでは、割れた水晶に驚いた教師が、眼鏡の位置を整える。


「こ、これは……! 魔力量だけで言えば、第七位階以上は確実ですっ! この測定水晶では測れません!」


 同時に、その発言を聞いた生徒達と教師陣がざわめきだす。


「聞いた、シロっち? 第七位階以上って、マジヤバくね? 一発で宮廷入りっしょ」

「……その話し方から宮廷ってワードが飛び出すと思ってなかったから、そっちの方に驚いてるよ」

「ひ、酷ぇべー!」


 と、笑いながら肩を組んでくるランドルフ。

 肩を組むって、出会って一週間くらいからじゃない?

 いくらなんでもボディタッチが激しすぎるよ……。


 なんてランドルフに驚いていたのも事実だけど、内心、ジンユーさんにも驚いていた。


 位階いかいというのは、魔法使いの世界において、一種の格付けみたいなものだ。

 この帝国の魔法省が発表している基準で言えば、全十三位階が存在する。


 最高位の第十二位階は、神や、神龍シェンロンのレベル。

 未来永劫、超える者はいないと言われている。


 一つ下の第十一位階は、三百年前の大戦で死龍と呼ばれた四匹の龍、百年に一度現れる人間の天才、あとは……不死王ノーライフキング

 まぁ、辿り着く者はまずいない。


 その下に、第十、第九、第八……とあって、次に第七位階が存在する。

 低いように思われるかもしれないが、90パーセントの魔法使いが、第六位階を越えられずに生涯を終えることを鑑みると、そのすごさが改めて感じられる。


 ま、ありていに言っちゃえば、彼女は"化け物"だ。


「はいはい、みんな落ち着いてー! 測定を再会してー!」


 ぱんぱん、と手を打ち鳴らしながら声を張る森人エルフの先生に従い、測定が再開される。


 だけど、あんなものを見た後だ。

 測定を終えた生徒の大半は、なぜかしょんぼりしている。


「おっし、次は俺の番じゃん! シロっち、ルックミー!」


 そうこうしているうちに、順番は僕の前のランドルフにまで回ってきた。


 彼は測定水晶に手をかざし、目を瞑ると、意外にも集中し始める。


「ほぉぉぉぉ……」


 手から魔力を流され、光を帯びだす測定水晶。

 先生が見てみると結果は、


「第三位階ですね。お疲れ様です」

「うぇ~い! 普通、サイコー!」


 新入生としては、ザ・普通だ。

 だいたい、魔法を勉強したことない人間の平均が第一~第三くらい。

 魔法学院の新入生なら、その一段階上と考えても、問題ないだろう。


 と、冷静な分析をいっちょかましたところで、


「僕の番か……」


 先生が記録用紙に記入し終えたのを見計らって、僕は前に歩み出た。

 ランドルフと同様、測定水晶に手をかざし──魔力を流すッ!


「ふおおぉぉ……」


 研ぎ澄まされる右腕の神経。

 イメージするのは、身体を巡る血の流動。

 僕の血はまるで津波のようで、勢いよく手の平に押し寄せる、そんな感覚。


 そして、全身全霊を投じて魔力をこめると──光らないッ!


「あのぉ……もう、魔力を流していいですよ?」

「……すみません、流しています」

「え、本当ですか……?」


 やめてください、その疑うような眼差し。

 心にぶすりと突き刺さります。


「……これが、全力です」

「……あっ、はい。では、第零位階ですね……」


 悲しいかな、これが現実だ。

 僕には魔力がほとんど無い。

 完全にゼロ、という訳ではないが、ジンユーさんと同じように測れないのだ。全く逆の理由で。


「……ありがとうございました」


 感謝だけ伝え、僕は測定水晶を後にした。


 優しいかな、ランドルフは「大丈夫っしょ! 元気があればなんでも出来るっしょ!」とか「逆にすごくね? マジでパナいって!」と、慰めてくれた。

 うん。持つべきものは魔力じゃない、友達だ。


 あ、負け惜しみじゃないからねっ!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ