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第2話 帰宅

「おかえりなのじゃ」


 可愛らしい少女が土下座していた。


 彼女は地べたに正座し、三つ指ついて頭を下げている。

 背の低い僕よりも一層体格が小さく、顔立ちも幼い。

 十四・五才ほどに見える……って、そんな事よりも!


「リリー!? なっ、なにしてるの!?」

「わかりきっておろう。愛するお主に"おかえり"を告げているのじゃ」

「いつもはしないじゃんっ! きょ、今日に限って、なんで!? とりあえず頭を上げてよ!」

「はぁ……。たまには趣向を変えてみたんじゃがなぁ、抱かれぬか……」


 僕に聞こえないくらいの小さな声で呟いたリリーは、むくりと頭を上げ、見るも妖艶に立ち上がった。


 少し残念そうだ。

 しかし、濡れそぼったピンクの髪や、上気した白い肌が、シャワーを浴びた直後の妖艶さを放ってやまない。

 加えて、服装はシースルーの透け透けベビードール。精緻な透かし彫りの下の、セクシーなランジェリーも丸見えだ。


「ちょ、ちょっと! なんて格好なのさ!」


 顔を赤くなってしまう。目線を逸らさざるを得ない。

 だが僕と対照的に、リリーに羞恥を感じた様子は無い。


「お主とわらわ、二人きりの家なのじゃ。別によかろう」

「い、いや、そういう問題じゃないよ! 僕が主人だし、礼儀とか色々あるよねっ!」

夢魔サキュバスの世界では、正装に近いんじゃがな」


 するっ、と少女の背後から黒い尻尾が姿を見せる。

 しなやかに波打つみたく動くそれは、植物の茎のように細くて、先端が逆ハートマーク状。

 間違いなく、サキュバスの尻尾だ。


「リリーが夢魔なのは知ってるけどさ、僕は別にサキュバスじゃないからね!」

「ウブなふりが上手いのぅ。……して、なぜ悲しそうな表情なのじゃ?」

「ぎくっ!?」


 鋭い視線に、僕の表情は感情を読み取られた。


 彼女、リリー・グラムとは、もう長い付き合いだ。

 過去にいろいろとあって、僕が隷属魔法で彼女を従えている形なんだけど、今となっては、どちらが主人なのか分からない。


 リリーはどこか偉そうに、僕が落ち込んでいる理由を聞く。


「ほれほれ、なにか訳があるのじゃろ? 申してみよ。わらわなら、解決できるやも知れんぞ」

「え、えぇっと……」


 情けなくて言いにくい事だ。

 つい、その場で身じろいでしまう。

 だけど、勇気を振り絞って、口を開いた。


「実は……"ライテン掃除屋さん"を解雇されちゃったんだ、僕に魔法が使えないからって」

「ほうほう、それで?」

「初級でいいから、魔法の資格を取れるところを教えてもらえないかなぁ……って? ……できれば楽なとこ」


 魔法の資格を取るには、何パターンか方法がある。


 一つは、魔法学院に入って学ぶこと。

 これが一番オーソドックスだ。


 もう一つは、受験資格が得られる職に就くこと。

 これも、手段としてはありだろう。


 最期に、人間や善良な悪魔に迷惑をかける不死やゴミ悪魔達を狩りまくり、英雄として国に表彰されること。

 はい。無理です、論外です。


 しかしながら、魔法学院の願書受付は終わってるし、元清掃員では、受験資格が得られるような職には就きにくい……。

 世知辛いのじゃ~……。


 でも!

 リリーなら、どこかを知っているはず。そして、僕が働けるように取り計らってくれるはず。

 という淡い期待を抱いて、聞いてみたのだ。


「……あい分かった」

「本当!?」

「夢魔に二言は無い。ほれ、こっちじゃ」


 良かったぁ。

 人脈の大切さを改めて思い知ったよ。


 リリーはくるりと反転。

 背を向け、ついてこい、と言わんばかりに歩き出す。


 しゃなりしゃなりと先導する彼女の、体格にしては大きく据わったその腰元に、後を追う僕の両目が吸い込まれそうになる……が、なんとか耐える。

 さらに、柔らかい尻肉に食い込んだショーツを、わざとらしく指で直すエロさに……耐える!

 加えて、階段を上る際。リリーが急にペースを落としたので、甘く芳醇な香りを嗅覚で感じるほど、お尻が近づいたが……これまた耐えるッ!


 夢魔の魅惑的な身体に、我慢強く自分を保ちつつ、僕は葛藤していた。しかし、


 がちゃ。


 自分で扉を閉めた音で、はっと我に戻った。

 気が付くと、なぜかリリーの自室にいたのだ。


「え? え……えっ? リビングとかじゃないの?」


 恐る恐る聞いてみる僕だったけど、正直、聞くまでもなかった。

 リリーは精を搾取する夢魔──それだけで察するに十分足りる。


「まずいッ! 死ぬ! 搾り尽くされて死ぬううぅぅ!」


 慌てて扉を開けようとするけど……開かない!

 横にスライドしたり、はたまた上に上げようとしたり、肩でタックルしたり、様々な手段を試すけど、一向に開かない!


 ここまでびくともしないとなると、もはや、鍵や腕力なんて次元の話じゃない。

 これは──


「魔法じゃ、諦めい」


 リリーの声が僕の背中に突き刺さる。

 格闘していた扉から振り返ると、リリーが目を細めて、いたずらっぽく笑っていた。


「くっ……ッ! 扉に《固定フィックス》の刻印魔法を貼っていたな! 解除には、リリーの力以上の《流動フロウ》を行使しなければいけないし……魔力の無い僕には、解除できないじゃないか!」


「説明ご苦労様。さすが、わらわの主様じゃ。飲み込みが早いのぅ」


 左の肩紐に左手を掛け、悠然とこちらに近づいてくるリリー。

 僕は後退ろうとするも、背中に扉が当たる。


 逃げ場は無い。


「ひ、卑怯だ! この部屋に連れてくるために、絶対《魅了チャーム》を使っていたよね!」

「そうじゃ、意外と我慢強かったのぅ。常人なら数秒と耐え切れず、乱暴に襲いかかるであろうに」

「で、でも僕には少ししか効いてないよっ。だから、ここは穏便にすませて……」

「ばーかっ♥」


 僕を罵倒し、直後。手隙の右腕を前に伸ばし、詠唱する。


「《円環サーキュルス》・《複製デュープ》・《集束フォークスド》」


 魔法の一分野、魔術における単純な三節の詠唱だ。

 しかし、位置の指定と複製の個数を省略しきった高度なテクニック!


 避けなくちゃ! そう考えるけど飛び避ける暇も無く、僕の四肢に、それぞれ一つずつ光輪が発現した。

 そして、それらは高速で収束し、鋼鉄の手錠のように手・足首を締め付ける。


 身体の自由は、完全に奪われた……。


「惨めじゃの~♥」

「は、放してっ! お願いだから!」


 動こうにも動けない。

 抵抗しても、手首と足首が痛みを叫ぶだけだ。

 まるで、凶暴なハイオーガに無理やり抑えられている、そんな感覚だ。


「くそっ! 発動しろ、隷属紋! リリーを止めるんだっ!」


 服の下、僕の胸元にある紋様が熱くなる感覚がする……が、熱くなっただけだった。

 リリーの下腹部にある紋様は反応せず、彼女は止まらない。


「魔力が無い者の隷属紋など、チョコの無いチョコバナナと同じじゃよ」

「ここで卑猥な例えはやめてくれる!?」


 な、なんとかして脱出しないと!

 ぐぬぬ……! 駄目だ、びくともしない!


「そう暴れるでない。それともなにか? わらわの容姿に不満でもあるのか?」

「い、いや、そういう訳じゃないけど! 可愛いとは思うけど!」

「なら、良いではないか。なーに、殺しはせんよ」

「殺さないのは当然じゃない!?」

「まぁまぁ、ちょこっと搾り取るだけじゃよ♥ 終わったら、お主の望み通り、職を斡旋してやるからの」


 するすると尻尾が伸び、僕の上着の隙間に入り込んだ。絡みつく蛇のように、身体を艶めかしく這う。


「んっ……! ま、待って!」

「いやじゃよ~♥」


 生意気に笑み続けるリリーは、両肩紐を外し、するっと衣服を脱いだ。

 続けざまに、素早く、されど丁寧に僕のベルトを抜き取り、ズボンのウエストに指を挿し込む。


「いただきま~す♥」

「だっ、ダメっ! 本当に、ダメ──ッ!」

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