第11話 図書委員
「うぅうぅ……悲しいよぉ……」
授業が終わったのち、僕は図書館で自習していた。
「エイドスってなんだよぉ、ヒューレーってなんだよぉ……」
正直、授業の内容にまったく付いていけてなかった。
あまりにも難解過ぎる。
尋常じゃないほど理屈っぽい。
巷では、『サルでも分かる魔法入門』みたいな本が出回っているけど、あれは嘘だ。サルには絶対分からない。
これでも、魔法の心得は多少あったつもりだったんだけどね……。
僕が知らない間に、どうやら、理論だった魔法研究が非常に進められていたようだ。
はぁ……。
魔法が使えれば給与が倍になるのも、単に『魔法が便利だから』の一言では片づけられなさそうだ。
なんて、わかりやすく落ち込んでいると、
「まぁまぁ、そう落ち込まないでよ、シロ」
隣の席のリタに、慰めてもらえた。
これから、図書委員の集会らしい。
リタのみならず、他クラス・他学年の図書委員が一堂に会している。
総勢は60名、と言ったところか。かなりの数がいる。
そろそろ集会も始まりそうだし、僕は教科書を閉じた。
「いやー、こんな調子で本当に初級魔法の資格が取れるかな……?」
「大丈夫だよ。百年戦争の頃の魔法使い達は、理屈をほとんど知らないのに、あれだけの魔法を用いてたらしいよ?」
いや、伝説に尾ひれ羽ひれが付いただけだよ……。と、訂正しそうになったのを飲み込み、愛想笑いを浮かべた。
「そ、そうなんだっ。それなら、僕にも希望があるね」
「ふふっ。あるよ、絶対」
と、話し合っていると、
「フフフ、既にお集りのようだな、皆様方」
図書委員長とおぼしき並人の女性がやってきた。
見た目は、黒い髪と黒い瞳のよくいそうな容姿だ。
しかし、右手には包帯を巻いており、傷が疼くのか、そこを時折撫でる。
元々戦争に従事していたのか、それとも封印が施されているのか。
僕には分からないけど、並々ならない過去を背負っていると見える。
「では、始めようか。我ら守護者の崇高な使命──闇の閣議を」
「や、闇の閣議っ!?」
な、なんて空恐ろしい名称の集会なんだ……っ!?
「フフフ。良い反応だ、そこの一年」
僕を見て不敵に笑うと、図書委員長は席に座り、数枚の紙を取り出す。
「まず手始めに、これから、図書委員のなんたるかをお教えしよう。……理を識る覚悟はいいな?」
「ごくり……っ」
「いやー、シロ? そんな真剣に受け取らなくても……。あの方は多分……」
その後、リタに"中二病"? なる概念を説明されたが、まったく理解できなかった。
僕の中で図書委員長は、強大で強力な存在として認知された。
それから、図書委員のなんたるかを学んだ。
決まった曜日に図書館の受付・整理を行う……らしい。
というのも、どこか回りくどい言い方だったので、完全に意図を読み取れているとは言い難い。
これも、僕の浅学非才さゆえだ……。
もっと精進しなくちゃいけない。
それと、"とある部屋"についての説明を受けた。
受付の裏にある、魔法錠で施錠された扉。その奥にある部屋だそうだ。
そこには、許可された者以外、入ることは固く禁じられ、入室しようとした者がいた場合、それを教師・講師に伝えるのも図書委員の仕事であるという。
開かずの扉、封印の部屋、そんな類の場所だろう。
はっ! も、もしやっ!
図書委員長の右腕とも、なにか関係が……!?
「シロって、世間知らずっていうか……どこか、ピュアなところがあるよね?」
「そ、そうかなぁ? えへへ」
「いや、あんまり褒めていないんだけどね……」
◇◇◇
先輩に絡まれ、授業を受け、図書委員長に会い……その翌日。
今日も今日とて、先輩達に絡まれた。
登校中、校舎の階段を上っている際に、
「おぉっと、手が滑ったー」
箱に入った何十匹もの虫を、上から投げつけられた。
アーギンの一件の意趣返しとも言うべきか、どうやら僕を虫まみれにしたいらしい。
だけど、
「あっ、こんなところに落し物がー」
落とし物を拾に行く"ふり"をして、横に動く。
ぱらぱらぱら、と虫は元々僕がいた場所に降ってきた。
難なくかわせたようだ。
普通に避けて、その後、文句を言っても良かったけど、あちらは意図的に落とした様子ではなかった。
『誤って、心底嫌いな僕に虫を落としてしまった』……らしい。
なら、僕に怒れる道理はない。
ま、別にそんなに怒ってる訳でもないし、人目を惹いてまで怒りたい訳じゃない。
僕も大人だ。
適当にやりすごそう。
「もしかして、触媒に使う虫を、落としちゃったんですか? 管理が杜撰ですねー」
「クソがッ!」
「拾うの、手伝いましょうか? また落とすと、他の生徒も困っちゃいますし」
「お前の助けなんかいらねいね。僕達だけでやるよ」
確かに。僕の手なんか借りたくないだろう。
僕は黙って階段を上り、教室に向かおうとしたが、先輩たちとのすれ違いざま、
「リミットは今日中だ、それまでに図書委員の座を降りることだな。覚えておけよ」
なんか、脅迫された。
と、朝から面倒くさくて、陰湿な嫌がらせに遭った。
しかし教室に入ると、
「よ、シロっち!」
「おはよ、シロ」
ランドルフとリタが、学生らしい爽やかな挨拶をしてくれる。
さっきの先輩たちと比べて、ものすごい差だ。
はぁ……。
もし、このまま先輩達の嫌がらせがエスカレートしけていけば、二人に迷惑がかかってしまうかも知れない。
この日常を維持するためにも、図書委員、辞めちゃいたいなぁ……。
正直、リリーに言われてなければ、図書委員の座なんて、二秒で譲り渡しただろう。
というか、美化委員に立候補したかったし、それが無理なら、委員会になんて入りたくなかった。
目立たず、そこそこ幸せな学生生活を送って、それで初級魔法の資格が取れれば良かっただけなのに……。
「シロっち? なんか、今日も疲れた顔してね? 朝方激弱タイプ?」
「僕、一番弱いのは昼だよ。嫌な事があっただけ」
と愚痴をこぼすと、リタが僕に顔を近づけ、声をひそめる。
「え? やっぱり、アーギン君の一件?」
「うん、そんなところかな」
「百年戦争の英雄達とは、真逆の性格だね……」
「そういってあげないでよ。アーギンだって、何かしらも理由があるんだろうし」
それが、生理的に嫌いだから、とかじゃないといいけど……。
「まぁ、当のシロが気にしてないんだったらいいけど……。でも、何かあったら言ってね、絶対助けになるからっ!」
ファイティングポーズを取るリタ。
頼もしい。
「俺っちも忘れないでくれよ~」
と、ランドルフが肩を組んできたとき、
「はぁーい、ホームルーム始めるよぉー」
メレトス先生が入室してきた。




