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第1話 クビ

 今は昔。世界を統べていた神は、ドラゴン達に倒された。


 龍の首領は自らを神龍シェンロンと名乗り、世界の新たな支配者として君臨したが、それを許さぬ者がいた。


 それが、人間であった──


 平人ヒューム森人エルフ地人ドワーフ矮人プーミリア獣人セリオン

 五族の人間は結束し、龍と、龍に連なる悪魔と戦った。


 剣技を研鑽し、オーガを斬り伏せた。

 魔法を編み出し、グリフォンを焼き払った。

 技術と知恵を駆使して、無数のゴブリンを打ち破った。

 だが当然、悪魔たちの抵抗も激しく、文字通り、血で血を拭う大戦と相成った。


 しかして、混沌を極めること百余年。

 終わらぬ戦争に終止符を打ったのは、人間でも、悪魔でも、神でも、龍でもなかった。


 第三の陣営である不死アンデットを率いた英傑──

 後の世に、不死王ノーライフキングと渾名される、吸血鬼ヴァンパイアの王であった。



 ──メーモニエス著『真の英雄』

 ※この本は現在、主教庁によって禁書目録に指定されています。許可なく持ち出した場合、死罪、または失明刑が課せられます。


 ◇◇◇


「すまないね。明日からこなくていいよ」

「えっ……!?」


 清掃員として一仕事終えた後、僕──シロは唐突にそんな事を言われた。


 早い話が"解雇"だ。

 クビを宣告されたのだ。

 だけど、僕だって働かなくちゃ食べていけないぃぃいい……っ!

 はいそうですか、と簡単に引き下がれない!


「ど、どうしてですか! 僕は真面目に働いてきましたよ! はっ、まさか休みの日に幼女を助けて職務質問されたのが……」

「いや、それは関係ないよ。それにね、シロ君の勤務態度はいいし、先輩からの評価も、後輩からの信頼も厚い」

「な、ならっ、なんでクビなんですか!?」

「君、魔法が使えないだろ」


 魔法──それは世界の法則を改変させる神秘の技術だ。

 魔法が使えるだけで、社会では一目も二目も置かれる。

 その魔法が、僕は一切使えない。でも、


「僕たち清掃員ですよ! あったら便利かもしれませんけど、魔法が絶対に必要な場面なんて、ないじゃないですか!」

「その通りだ。今までは、ね」


 僕の上司は重々しく、されど嬉しそうに続ける。


「実はね、この会社は来年度から、宮廷清掃会社に選ばれたんだ。だから、丁寧かつ迅速な清掃を行うためにも、魔法は必須なんだ」


 風魔術があれば、ゴミを一か所に集められる。

 水魔法があれば、モップをいちいち濡らさなくて済む。

 強化魔法があれば、重いものだって簡単に運べる。


 逆に、魔法が使えなければ、それらを全て、自身の肉体に頼らざるを得なくなる。

 しかし、僕の肉体はどうであろうか?


 背丈は平均より低いし、手足は細い。

 ついでに、髪や肌は不健康そうな白色。

 魔法以上の働きが出来るような見た目じゃないし、それに加えて、宮廷に仕える者としても、あまり良い体格とは言えない。

 だからこそ、僕はクビなのだ。


「わかって欲しいが、君の事が嫌いで解雇した訳じゃないんだ。初級魔法の資格さえあれば、クビにはしなくて済んだんだよ……」


 悔しい……。

 僕に魔法が使えない……いや、魔力が無いばっかりに……。


「くそっ! 魔力さえ、魔力さえあれば……!」

「シロ君。なんか魔法が使えない"だけ"のせいだと思ってるようだけど、後輩のエイミーちゃんに手を出したよね。アレも減点ポイントだから」

「んにゅ!? き、気づいてたんですか……!?」

「そりゃ、ロッカーが一つだけ、ガタガタうるさかったんだもん。耳を澄ませば喘ぎ声が聞こえてくるし」


 なん……だと……。

 で、でもアレには立派な理由が!


「ち、違うんですっ! あれは、不可抗力と言いますか、彼女を助けたら向こうから求められて……雰囲気です! そう、雰囲気のせいですっ!」

「はぁ……。押しに弱かったり、変に正義感があったりするけど、たぶん宮廷だとマイナスだからね、その性格」

「ぐ、ぐっ……!」


 そりゃそうだ。

 いち清掃員が宮廷の貴族・王族と関係を持ったら大問題だし、上流階級の悪事に首を突っ込んだら、会社ごと消されかねない。


 言い返せず、悔しそうに拳を握る僕。

 だけど上司は、優しかった。


「ま、君の仕事っぷりは素晴らしいから、初級魔法の資格さえ取れば、再就職も出来るさ。皆も文句ないだろうし、私が上に口添えしてあげるよ」

「あっ、ありがとうございます!」


 僕は感謝に、深々と頭を下げた。


 一度告げられたクビは、もう覆らないだろう。

 でも、魔法さえ覚えれば再就職の可能性は高いんだ。


 なら──魔法を覚えてやるだけだ!


 そう胸に誓い、僕は清掃会社を後にした。




 それから向かった先は当然、自宅だ。


 どこかで一杯やってやろうかとも思ったけど、場末の酒場には、疲れ果てて今にも泣きそうなおじさんや、困り果てて人肌が恋しいお姉さんが多々いる。

 また、押しの弱さが原因で問題に巻き込まれたら嫌だ。

 かと言って、低空飛行している今のメンタルで、繁華街の方に足を運ぶのも面倒だし、僕はとぼとぼと家に帰った。


 僕の家は一軒家。

 そこそこ大きく、結構豪華だ。

 それは別に僕の給料がいいからじゃない。

 僕と共に住んでる同居者が、大金を稼いでいるからだ。


「ただいまー」


 いかにも高級そうな玄関を開き、中に入ると、


「おかえりなのじゃ」


 可愛らしい少女が土下座していた。

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