ロフトで南部せんべいをどうぞ
この物語は
私のブログ
「ロフト付きはおもしろい」に連載したもので
一話は短く区切られています。
私の愛娘は
どういうわけか
南部せんべいが好きです。
インターネットで
色々な種類を
注文して
食べています。
私が
「そんなに好きだったら
岩手に行って
南部せんべいを買ってみたら」
と言いました。
愛娘は
「それは良いよね」
と答えました。
その時私は
この物語を思いつきました。
構想2分の
ショートショートですが
読んでみて下さい。
このお話は
もちろんフィックションです。
また南部せんべいについての
知識がありませんから
間違っている記述がありましたらお許し下さい。
この話は
波瀾万丈ではありません。
またどんでん返しのような
劇的なものはありません。
夕子は
大阪に近い街の
川沿いにあるアパートに住んでいます。
大阪まで
20分ほどしかからないのに
窓からの景色は
故郷の岡山でみた
夕日が見えるのです。
夕子は何故か子供の頃から
夕焼けを見るのが好きでした。
岡山の山沿いで育った
夕子には
毎日の夕日が
彼女の元気の素だったのです。
そんな夕子が
大好きな岡山を離れて
大阪に来たのは
大学の進学の時です。
両親と
アパートを探しに来たとき
案内されて
すぐに気に入ったのは、
西向きの
この部屋だったのです。
窓からは
川の向こうに
六甲が見えて
アパートの家主の話で
六甲の山に太陽が沈むことを聞いて
夕子を喜びました。
それから
4年が経ち
大阪の百貨店に勤めはじめました。
この部屋が快適なので
部屋から通える
職場を選んだと言っても良いでしょう。
夕子は
その部屋の
ロフトの天窓から
良い天気の日は
顔を出して
南部せんべいを食べるのが
大好きだったんです。
夕子の住んでいるロフトは
4畳ぐらいの広さがあって
夕子は
何でもかんでもロフトに持って上がって
楽しんでいたのです。
パソコンや本はもちろん
夕食やお化粧品・鏡・櫛等ももって上がって
楽しんでいました。
特に夕子は
南部せんべいが大好きでした。
あのパリッした感じや
ごまやのりなどが入って
香り高いところなど
彼女は大好きだったのです。
夕子は
夕日とロフトそれと南部せんべいがあれば
至福の時間を過ごせると思っていました。
もちろん職場でも
南部せんべいを
持っていて
食べていて
同僚や先輩に勧めていました。
そんなことが続くと
ある先輩が
「そんなに好きだったら
岩手に行って
買ってきたら」
と冗談半分に
言ったのです。
夕子は
「南部って
岩手にあるんだ。
知らなかった。
もっと知られていない
美味しい南部せんべいが
あるかも知れないよね。
行ってみようかな」
と答えて
みんなを驚かしました。
夕子は
その日から
岩手→南部→南部せんべい→行ってみたい
という風に
なってしまいました。
やっぱり行こうと考えた
夕子は
うまく連休がとれたので
その日に行くことにしました。
ちょうど
卒業旅行で
海外に行ったときの
マイルがたまっていて
それで
岩手花巻空港まで
の航空券が
ただだったのも
夕子が行く理由のひとつだったのです。
夕子は
5月の平日に
岩手花巻空港に降り立ちました。
前もって
南部せんべいのことを調べていました。
南部は
空港の北の方で
「南部なのに北部とはこれ如何に」
などと親父ギャグを言って
自分で受けていました。
飛行機の中でも
南部せんべいのことを
聞いたくらいです。
一泊二日のの予定ですので
色んな所を回らなければならないので
レンタカーを借りました。
空港の中の
レンタカーのカウンターで
お金を払って
説明を聞きました。
それから空港前に置いてある
レンタカーに案内され
車の説明を聞きました。
特にナビについて
夕子は詳しく尋ねました。
夕子はまず盛岡にナビを合わせて向かいました。
南部の中心地は盛岡です。
観光案内所に行って
南部せんべいの詳しい情報を聞きました。
それから
盛岡の商店街のなかにある
「南部せんべい屋」に向かいました。
店に着くと
店の人に大阪から来たことを
言いました。
店員は大変驚いて
工場も案内してくれました。
できたての南部せんべいも
食べました。
いつも食べる
南部せんべいとは
全く違いました。
少し柔らかい感じがしました。
でもこの柔らかさが
夕子には美味しく感じたのです。
たくさんの南部せんべいを買って
車に乗せました。
次の店でも同じように
見て回りました。
そうすると
日も暮れていました。
予約しておいた
レディースホテルに
チェックインしました。
夕食を
近くのレストランに食べて
ホテルに帰りました。
車の
南部せんべいの一部を
ホテルの部屋に持ってきて
テレビを見ながら
食べました。
「明日は
南部の北部に行ってみることにしよう。」
と独りごとを言って
自分ひとりでよろこんでいました。
翌朝早くモーニングセットを食べ
今日は七戸から八戸を回る予定で
早く出立しました。
国道を走って
北に向かいました。
八戸は青森県で
盛岡からは遠かったけれど
国道が良かったので
2時間弱で到着しました。
昨日と同じように
南部せんべい屋に寄って
いろんな事を聞いて
それからいろんなせんべいを
多量に買いました。
もちろん南部せんべいを作るときに出来る
耳も買いました。
店の人は
遠い所から来たというと
サービスしてくれました。
あちこち回って
車の中で
コンビニ弁当を食べて
七戸に向かいました。
ここでも同じよう
南部せんべいを買って
車に積み込みました。
車の中は
せんべい屋さんでも出来るくらいの
せんべいが山積みになりました。
機内に持って入れる量ではないので
途中で宅配便で
アパートに送りました。
帰りの飛行機は
6時ですので
ちょっと早いですが
安全のために
空港に帰ることにしました。
ガソリンを満タンにして
レンタカーを返して
空港に向かいました。
4時ちょっと過ぎに
空港に着いてしまいました。
空港のカウンターで搭乗手続きをして
二階の待合室で待ちました。
機内に持って入れる量は
もちろん
持っていました。
それを食べながら
飛行機を待ちました。
5時を過ぎて
南部せんべいばかり食べていたので
満腹になってしまいました。
それでボーと
夕子が
外を見ながらいすに座っていると
突然「たこちゃんじゃないの?
おれ徹だよ。
あっ ごめん!
夕子だよね」と呼ぶ声に
振り返りました。
夕子が声のする方を
向くと
男性が立っていました。
夕子はその男性が
すぐに
徹だと分かりました。
岡山の家の隣の
徹です。
隣と言っても
100m離れていましたが
おさななじみで
高校まで同じクラスでした。
「たこちゃん」と言われていたのは
夕子のニックネームです。
夕子は
小学3年生の頃
夕の字がカタカナの
タと似ているので
クラスの誰かが
たこ
と呼んだのがはじまりです。
クラスのみんなは
夕子がクラスの人気者だったので
親しみを込めて
「たこちゃん」と呼んでいたのです。
夕子はそれはいやでした。
「夕子の夕は
夕日の夕で
たこなんかじゃない」
と思っていたのですが
そのことは言えませんでした。
ズーといやだと思って
高校3年生になったとき
その日は少し歯が痛い上
飼っていた犬が
寿命で死んでしまったので
クラスのひとりが
「たこちゃん」と呼んだので
夕子はついに堪忍袋の緒が切れてしまいました。
クラスのみんながいる前で
夕子は
「私はたこちゃんじゃない。
みんなは私がそう呼ばれたとき
どんな思いか分からないの!」と言って
その日は
早引きして帰りました。
その日以来
夕子は
クラスのみんなと話しもしませんでした。
隣の徹とも話しはしませんでした。
夕子は
そんな理由もあって
地元から離れるために
大阪の大学に進学したのです。
岡山に帰ることはあっても
クラス会に出たり
成人式にも出ませんでした。
だから徹とは4年ぶりの再会でした。
その徹が
目の前で
声を掛けてきたのです。
目の前に現れた徹は
すぐに分かりましたが
昔の徹とは
全く違いました。
すっかりサラリーマンというか
ビジネスマンになっていました。
昔に
あんな風に別れたけど
本当は別れたくなかったのです。
夕子は
「徹?
久しぶりね」と
とっさに答えました。
徹は「前はごめんね。
あの時は謝りに行ったんだよ。
クラス全員で
あの日の夕方に
でも家は誰もいなかった。
それから夜になって
雄志だけで
また行ったんだ。
でも夕子のお母さんに
夕子は今会えないと言われて
しまいました。
翌日は君が登校してこなかったし。
その明くる日は日曜日で休みだったんで
謝る機会を無くしてしまいました。
改めてごめんね。」
と気まずそうに言いました。
そういって
ゆうこの隣の椅子にすわりました。
夕子は
「そのことはもう良いの
あの時はムキになって
こちらこそごめんね」
と答えました。
徹は空港を眺めながら
「夕子は大阪に住んでるんでしょう。
夕子のお母さんがそういっていた。
岩手には何かビジネスで
平日だし、、、
僕は今は京都の会社に勤めていて
岩手の工場に
打ち合わせで
月に一度くらい来てるんだけど。」
と聞いてきました。
夕子は
南部せんべいを求めての旅とも言えず
「まあそんな所かな
徹はどこに住んでいるの?」と
ごまかして答えてしまいました。
徹:
今は下新庄にすんでいるの
大学もそこだったし
京都の勤め先にも便利だし
新幹線や飛行場も便利だし
ちょっと立ち詰まっているけど
ところで
夕子は今どこに住んでいるの
夕子:
園田よ
上新庄なら近くだったら
会ってたかもしれないね。
徹:
園田なの
駅名は知っているけど
降りたことない
園田ってどんな街なの
確か神崎川の次だよね
神崎川のゴルフ練習場にも行ったことあるよ
夕子:
園田は良いところよ
少なくとも大阪に一番近くて良いところね。
住めば都と言うけれど
今は岡山よりすみやすくていいわ。
それにロフトから見える
六甲の夕日がすばらしいの
徹:
園田のロフト
アレーちょっと待って
夜阪急電車に乗っていたら
川のそばに
『ロフト付』って
ネオンサインがあったけど
そこ?
そんなことないよね
夕子:
徹よく知っているわね。
そのアパートよ
あそこは良いところよ
また来て見てね
徹:
へーあそこなの
いつも
神戸の支店から遅く帰ってくるときに
何かなー
思っていた
あそこに住んでいたとはしらなかったなー。
行っても良い
君の言う夕日も見たいし。
岡山の夕日より美しいの?
夕子:
岡山より今はいいと思うわ。
でもやっぱり岡山にはまけるかな。
こんな話をしていると
アナウンスがあって
大阪行きの搭乗が始まりました。
ふたりは荷物を持って
立ち上がりました。
立ち上がったとき
夕子の荷物のひとつが
こぼれてしまいました。
そして床に
南部せんべいの袋が散らばってしまったのです。
床に落ちた
南部せんべいの袋を
夕子は慌てて拾いました。
徹も手伝いました。
徹:
職場にお土産ですか。
大変ですね。
南部せんべいはお土産に手頃ですね。
僕も今度買ってみましょう。
夕子:
あっ あー
そうですよね。
私も好きなんで
とおるもたべてみる?
と言いながら
飛行機に向かいます。
飛行機に乗ると
夕子は座席を探し始めました。
その時徹は
乗務員に
座席のことを話をしていました。
夕子の隣の席になるように
お願いしていたのです。
飛行機には空席があったので
少し乗務員は待つように
徹に行っていました。
すべての乗客が
飛行機に乗ったとき
乗務員が
夕子の所にやってきて
徹の隣の席が
空いているから
替わるように行ってきたのです。
夕子は乗務員の言うように
席を立って
徹の隣に座りました。
徹は
「すみません。
隣に来てもらって
すみません。」
と恐縮して
言いました。
夕子は
「いいえ。
大阪まで
ご一緒しましょ。
南部せんべい召し上がります?
この南部せんべい おいしいですよ」
と言って
徹に南部せんべいの袋をひとつ差し出しました。
徹:
ありがとう。
食べても良いの
数足りるの?
本当のことを言うと
南部せんべい
食べたことないんだよね
岩手に二度来ているけど
食べる機会がないもので
夕子:
そうなの
この南部せんべいは
地元では有名な店の逸品なんですよ。
パリとしていて
その上軟らかいです。
などと
夕子お得意の
南部せんべいのうんちくを
長々と
述べるのです。
長々と
徹と夕子は
南部せんべいのことについて話をします。
細かいところまで
せんべい屋さんに聞いてきた
知識を
すべて
徹に話したのです。
徹も
普通に考えると
南部せんべいのうんちくなど
聞いて面白いわけはないと思います。
しかしふたりは
本当に楽しそうに
話をしていました。
話が弾んでいたのです。
幼いときは隣同士で
よく遊び
小中高と
同じクラスで
一緒に通学した仲間です。
懐かしかったのでしょう。
最後に徹は
夕子に聞きました。
「夕子は
あの時
何度も君の家に行ったのに
会ってもくれなくて
あんな風に
話さなくなって
卒業して
会えなくなって
それにクラス会や
成人式にも来なくて
ごめんね
今から謝っても
良いかな。」
夕子は
「あっ
私の方こそ
ごめんね
あの日は
前にも言ったように
歯が痛くて
その上
家の犬が死んでしまって
イライラしていたの。
早退した日は
歯医者さんに行っていたの
その後
歯が痛くて
鎮痛剤を飲んで
寝ていたの
翌日も痛くて
学校を休んじゃったの、、
徹も来ていたと
母から聞いていたけど
痛くて、、、
それから日曜日で学校が
休みだったでしょう。
月曜日に学校へ行くと
何だか話が出来なくて
みんなも避けているようにみえて
話せなかったの。
三年生もすぐに終わって
それっきりになったの。
話さなくてごめんね」
と答えました。
徹はそれを聞いて
「こちらこそごめんね。
これからは仲良くしようね。
ところで
南部せんべい大好きなんだね。
南部せんべいのことは
何でも分かるみたいだし。」
と言いました。
夕子は「本当はね。
岩手に来たのは
南部せんべいを
買いに来たんだよ。
隠しててごめんね。」
と言って笑ってしまいました。
徹も
咳き込むように
笑ってしまいました。
ふたりは止めどもなく
笑い続けました。
ふたりが笑っていると
周りの人は
変な目で見ていました。
それからシートベルトのサインが出て
大阪空港に到着しました。
もう外は真っ暗でした。
スポットに到着して
ドアが開いて
夕子は山ほどの南部せんべいを持って
飛行機を降りました。
徹はバスで
下新庄に帰ると言いました。
夕子は南部せんべいがあるので
タクシーで帰ることにしました。
ふたりはアドレス交換して
別れました。
お土産に
夕子は徹に南部せんべいを
二袋渡しました。
徹は
そのせんべいを
ありがたくもらって
別れました。
それから
ふたりは
時々
メールで
話し合う程度でした。
あれから
1ヶ月
買ってきた南部せんべいが
もうなくなって
夕子は
インターネットで買おうと
ロフトに置いてある
パソコンの前に座りました。
その時メールがやってきました。
夕子は「誰だろう。
あっ 徹だ
何かな?
えっ
徹が来ているって
どこに来てるの?」と独り言を言って
ロフトから降りてきて
入り口に向かいました。
ドアを開けて
階段を下りて
道まで出ると
徹がそこに立っていました。
徹は「岩手に行ってきたんだ。
南部せんべい買ってきたから
お土産持ってきたよ。
夕子のアパートは
聞いていたから分かっていたんだけど
表札がないもんで
メールしたんだ。
本当は驚かせようと
思っていたんだけど
残念
南部せんべいをどうぞ」
と夕子に言いました。
夕子は
大きな紙袋と荷物を持った
徹を見て
びっくりしました。
「徹 来たの
どうして?
すぐわかった?
お部屋へどうぞ」と
驚いて夕子は言いました。
徹:
3時に大阪に着いたんだ。
家に帰る前に来たんだ。
家に帰っていると
遅くなってしまって
夕日には間に合わなくなると思って。
明日からは会社で遅くなるし、、、
今日しかないので
夕子:
わざわざありがとう
まー こんな所ではなんだから
お部屋に上がって
徹:
いいかな。
夕子:
いいわよ
何もないけど
ふたりはそういって
徹は夕子のお部屋に入りました。
夕子のお部屋は
ベッドを見えにくいように
下に大きめの家具を置いていました。
リビングはロフトにあって
ちょっと大きめのソファと
テレビが置いてあります。
徹はロフトに上がるように言われました。
荷物は下に置いて
南部せんべいの袋だけを
持って上がりました。
夕子は、飲み物の用意をするために
下に下りていきました。
徹は手持ちぶさたに
ロフトの中を
見渡しました。
女性のお部屋は
初めてなので
胸が少しどきどきしました。
まもなくすると
夕子が
土瓶とお茶碗・おしぼりをお盆に載せて
上がってきました。
夕子:
どうぞ
疲れたでしょう。
入れ立てのお茶をどうぞ。
徹:
ありがとう
温かいお茶おいしいね。
これ南部せんべい
分からないから
違うものを3つ買ってきたよ。
夕子:
ありがとう
ホーこれは
私大好き−
ありがとう
徹:
そお
好きで良かった。
このロフト何となく落ち着くね
夕子:
そうでしょう
職場の同僚も来て
そう言ってたわ。
ここで
夕日を見ながら
南部せんべいを食べるのが
良いのよ。
この天窓を開けてね
そう言って
天窓を開けました。
ちょうど
六甲に夕日が映えてとても綺麗な瞬間でした。
夕子:
見てみて
夕日が綺麗よ
徹はゆっくり立って
天窓にから見てみました。
天窓は
幅70cmほどしかないので
ふたりで顔を出すのは
狭かったようです。
ふたりは自然と
寄り添って
夕日を見ていました。
真っ暗になるまで
見ていました。
(この話は終わります)