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2-4 運命の前夜

 ウィオンモールランドでのテロ事件を受けて、自警団は大破した407号のパーツを回収していた。

「しかし、未知の機械だな。 どれほどの技術で作られているんだ?」

 団員がこんな事を呟く。

 無理もない。

 あれだけ派手に暴れた407号は、今となってはただの残骸だ。


「回収が終わったら連邦軍に送り届けてくれ。 そうでもしなかったら敵のことが分からないからな」

 団員たちがそんな会話をしている中、はるかはまなみとエリスと合流した。

「はるかちゃん!」

「2人とも、無事だった?」


 はるかは2人が無事である事実に、少しほっとした。

「あの騒ぎは何だったの?」

「自警団の人たちは、早くこの場から離れるよう指示を受けていたの」

 エリスの言葉通り、自警団員の誘導に従う人々があちこちに見えた。


 折角の楽しい時間が突然惨劇に変わってしまったと言う事実は、人々の心を深く抉っていた。

 はるかたちも、急いで寮へ戻ることにした。

 帰りのチャーター宇宙バスで、はるかはまたあの幻視を見た。

 何時にもなく、はっきりとした映像で、生徒を惨殺する機械兵器。


『有機知性体は、虐滅する。 我らの存在意義を達成するために』

 そんな中、自分は応戦している。

 何とか撃退できたところで、映像は途切れた。

 すると今度は、何かの声が聞こえた。


『かわいそうな407号。 不可解なエネルギーを持った人間に破壊されてしまうとは』

『やはり人間は、存在してはいけない種族と断定するべきだろうか?』

 それは、敵の会話のようだった。

 はるかは、何が起きているのかさっぱりわからなかったが、

「はるかちゃん?」


 まなみの一言で我に返った。

「だ、大丈夫。 ちょっと疲れただけだから」

「いつにも増して変だよ?」


 エリスははるかを心配していた。

 無理もない。

 高校生活最後の休日が恐ろしい悪夢になり果てたのだから。


 それはそれで、最悪ともいえる事態だ。

 一行を乗せた宇宙バスは、ジュピトリス女学院コロニーに停泊した。

 バスを降りて、大急ぎで寮に戻る。

 しかし、この事件は宇宙を揺るがす大きな戦いの、ほんの小さな前触れだった。


 その頃、連邦本部では快速便で届けられた407号の解析に追われていた。

「やはり、この機体は、流体金属で作られているのですね」

 連邦宇宙技術研究所に出頭していた昇がこんな事を言う。


 敵の正体を掴む、またとない機会だと志願したのだ。

「それだけではありません、川島少将」

 主任研究員が、解析中間結果報告書を端末に転送する。

「これは?」

「今現在の時点で分かったことをいくつか資料にまとめました。 敵は上位決定者と言う存在によって生み出された機械端末と言う事くらいしか、手掛かりは得られていません」


 主任が報告するが、

「いや、それだけでも十分だ。 ところで識別名称は?」

 昇がこんな事を尋ねた。

 敵の名前を付ければ、今後の戦いで分かりやすくなると言う。


「そうですね、謎の単位機械ですから、《エグニマ》、と言うのは?」

 その言葉に、

「わかった。 今後はその名称で呼ぶことにする」

 昇も納得した。

 この日、単位機械生命体はエグニマと呼ばれるようになった。


 宇宙技研をでて、車に乗り込もうとした時、

「川島少将!」

 レオナが駆け寄って来た。

「レオナか、どうした?」

「参謀本部より電文を預かってきました」

 レオナはそう言うと電文メッセージを昇の端末に送信する。


 電文の内容はこうだ。

《第1迎撃艦隊はこの後12時間後に出撃せよ。 ジュピトリスの光成知事が自警団では不安要素が多すぎると言う。 貴殿らは直ちに艦に戻り、発進に備えよ》

 このメッセージを読み終えた昇は、

「いかがなさいますか?」

「これから昼食を摂る。 その後ムラクモへ戻り、発進準備にかかる!」

 意を決した。


 いよいよ、第1迎撃艦隊の初陣が近い。

 その為には、万全の準備をする必要がある。

 昇たちは車に乗り込み、連邦首都内をひた走る。


 これからの戦いに向けて、大きく歴史が動き始めていた。

 その夜、はるかたちは人気アイドルグループ、《レッドチャリオッツ》の公演配信を楽しみにしていた。

「レッチャリ、楽しみだね!!」

「うん!」


 はるかたちもやはり乙女なのか、イケメンが出てくる瞬間を、今か今かと待ちわびていた。

 レッドチャリオッツはジュピトリス出身の人気男性アイドルグループだ。

 イケメンルックスな容姿と、甘いヴォイスの歌で世の女性を魅了している人気グループ。

 火星軌道で会場シップコンサートを行うのは、慰霊と哀悼の意を表した彼らなりに理由がある。


 それは、大好きなファンが火星で無惨に殺されたことを受けて、ここでライブをして追悼することが出来たらと、彼らの強い思いが込められていた。

 開演のカウントダウンが始まる。

 画面越しにはるかたちは興奮し始めた。

 次の瞬間、また幻視がはるかを襲った。


 しかも、幻聴までついてきた。

『人間の祝辞行動の発声を確認。 7番艦より1番艦へ、攻撃の許可を求む』

『攻撃を許可』

『7番艦、了解』

 幻聴と並行して流れる幻視の映像は、レッドチャリオッツが閃光に焼かれる様子だった。


 はるかは叫ぼうとした瞬間、そこで幻視と幻聴は途切れた。

「はるかちゃん、もう始まってるよ」

 エリスに言われて、はるかはハッとする。

 直後レッドチャリオッツが舞台に現れた。

『みなさん、こんばんは!』

 リーダーのYOUが挨拶すると、会場内は黄色い声に包まれた。

『今日は、悲しい出来事が沢山あったけど、今夜と明日、その悲しみを吹き飛ばしていこうぜ!』

 メンバーのKAIが元気よく叫ぶ。


 会場内は最高に盛り上がった。

 はるかたちも、つられて盛り上がる。

『それじゃ、1曲目を始めるよ!!』

 YOUの合図でコンサートが始まった。

 甘い歌声が会場内に響く。

 会場内は黄色い声であふれかえった。

「YOU様ぁーーっ!!」


 はるかは胸をときめかせた。

 先ほどの幻視と幻聴を忘れて、この時を目いっぱい楽しむことにした。

 だが、次の瞬間、会場の音楽が突然途切れる。

『人間に告ぐ、この祝辞行動は強制終了とする』


 不意に聞こえる機械的な声。

『我々は、貴官らを虐滅し、存在意義を達成させる。 抵抗は無意味である。 我らの存在意義の生贄になれ』

 その声が響き終わった次の瞬間、アリーナ席からステージに向かって極光が迸る。

 レッドチャリオッツは跡形もなく焼き尽くされる。


 そして、ライブ会場シップはその閃光があけた穴から崩壊した。

 映像が途切れるまでその惨状を見てしまった3人は言葉を失った。

「うそ、だよね……!」

 まなみとエリスは余りの惨状に気絶してしまった。

「これって、あの幻視の通り? もしかしたら、私が今まで見たのって!?」


 はるかはこれで確信した。

 あれは、未来から送られたメッセージであることを。

「ねぇ! 誰だか知らないけど、私に幻視を送ってるんでしょ! 私はこれからどうすればいいの!?」

 その問いは空しく響いた。


「未来は変えられないの?」

『いいえ、変えられますが、それなりの代償はあります』

 突然、はるかの脳に声が響く。

「だ、誰?」


『あまり名乗る必要はありませんが、選ばれし者たちにメッセージを送っています』

 謎の声はどうやらシャイな様子だ。

 でも、幻視のメッセージを送ってくると言うのは、有り難いことだ。

「じゃぁ、私にどうして力を与えてくれたの?」

『貴方には、銀河を救う素質があるからです』


 即答だった。

 自分が銀河を救う力の持ち主に選ばれているのであれば、話は速い。

 しかし、消灯時間を迎えていた。

 はるかは取り敢えず寝ることにした。

 自分に宿る力、その制御方法を模索するために。


 一方、地球では第1迎撃艦隊の出陣式が盛大に執り行われた。

 連邦大統領を始めとした高官たち、参謀本部のメンバーや、地球の各地で名を挙げた名将校らが、月周回軌道基地に集まっていた。

「総員、参謀長官に敬礼!」


 参加した兵士の1人が叫ぶと同時に、他の兵士が一斉に敬礼した。

 連邦軍総司令官、大政大翔おおまさはるとは、大きく息を吸い込む。

「諸君! 先の火星の悪夢は2度起きてしまった! そのことは知っておろう!?」

「サー、イエス・サー!!」


 ライブ襲撃を知った兵士たちは、一層に気合を入れ直した。

 これから出撃するのだから、気を引き締めなければならない。

 迎撃艦隊のクルーたちは緊張感を持った。

「だが、異星人共は我らの存在意義を知らない! 今こそ、奴らに我らは決して滅びぬことを見せつけるのだ!」


「「おおーーっ!!」」

 この場にいる全員が、叫びを上げる。

「これより、諸君らはジュピトリスへ向かってもらう! 敵はジュピトリスを襲って我らに恐怖を植え付けるつもりだろう! しかし恐れることはない!」

 この場にいる兵士たちは、黙って大翔の言葉を聞く。


「諸君らはこの厳しい訓練の日々を潜り抜け、この日を迎えることが出来た! 胸を張れ! この迎撃艦隊に配属されたことを誇りにし、全力で任務にあたるように!」

 その言葉に、兵士たちは気合の声を上げた。

 そして、それぞれの艦へと向かう。


「川島君」

 昇の後ろから光利が声をかけた。

「参謀長官、どうかしましたか?」

「敵の解析結果に更なる報告があってね」

 どうやら、407号の解析で新たな進展があったと言う事だ。

「何か分かったのですか?」


「あの機体は、構造上人間に近い形から万物に変形する流体金属であることは、わかっているな? その金属の1部を分析したところ、それがまるで細胞のような構成になっていたのだ」

 それは、エグニマと言う存在が機械生命体であることを裏付けた証拠だ。

「それは確かな情報でしょうか?」

「しかも、これは1つ1つが機械としての機能を持っている。 これだけの情報が何よりの証拠だ」


 だが、これだけの証拠がそろっているのが逆に不気味に感じた。

「奴らは、我々を本気で滅ぼそうとしている。 だが、これだけ重要な情報は原則として隠滅してしまえば、楽な方では?」

 昇は疑問に思った。

 確かに敵の情報はやられる前に消すのがセオリーだからだ。


「それが不確かな情報だが、ある少女が単独でこの残骸となった機体を撃破したらしい。 軍も自警団と協力してその少女の特定を急いでいるが、未だ詳細が分からんのだよ」

 利光は頭を悩ませた。


 取り敢えず昇は、利光に敬礼して別れ、ムラクモへと急いだ。

 ブリッジでは、昇を待っていたクルーたちが出迎えた。

「総員、川島提督に敬礼!」

 レオナの掛け声で、ブリッジクルーたちは敬礼した。


 昇も返礼し、艦長席に座る。

「ムラクモから全艦に通達。 諸君、私がこの迎撃艦隊提督を務める川嶋昇だ」

 インカムを付け、友軍艦すべてに通信を繋げる。

 一層の緊張感が高まる。


 それだけに初出撃が迫っているのだ。

「私が下す命令は、ただ一つ。 それは、必ず生きて帰るぞ! 全艦、発進!!」

遂に第2話も完結!

第3話では怒涛の展開をお届けする予定です!!

お楽しみに!!

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