2-3 誕生! 魔法少女!!
卒業試験休養日、はるかたちはこの日を待ち望んでいた。
「ついに、来ました! ウィオンモールランド!」
宇宙タクシーを降りて、統合型リゾートコロニー、ウィオンモールランドの入り口ではしゃいでいた。
「もう、はるかちゃんったら、はしたない」
「まぁ、学院生活最後の休みだからね」
まなみとエリスは、クスクスと微笑んだ。
無理もない。
この日をどれだけ楽しみにしていたから、はるかがはしゃぐのも当然だ。
しかし、門限時間だけは、守らなければならない。
その事は、彼女たちは知っていた。
だからこそ、思い切り遊びたい。
そんなこんなで、施設内を散策し始めた。
標準規格の円筒型コロニー全体が娯楽に特化したウィオンモールランドは、年間500万人が来訪するジュピトリス自治領最大の公共娯楽コロニーだ。
映画館から動物園、商店エリアに飲食街、ホテルやカジノ等が揃い、訪れる人々を魅了して止まないのだ。
「いま、地球で大人気の《悪魔な悪魔な金崎くん・映画でもやっぱり悪魔的》が、公開中だって!」
はるかが事前に購入した映画の前売りチケットを見せる。
「あ、それは、ドラマでも大人気で、初の映画になったってニュースで取り上げられていたわ!!」
「しかも、大胆な表現で、話題なんですって!」
まなみとエリスは前から見たかったのか、はるかが見せたチケットに興奮した。それもそのはず、《悪魔な悪魔な金崎くん》は、宇宙で大人気のラブコメドラマ。
イケメンだが、性格は悪魔的な金崎くんと彼が起こす騒動に振り回される5人の女性が織り成すドタバタ劇が男女を問わず高い視聴率を獲得している。
今回が初めての映画は、ますますドタバタ劇がパワーアップしていると、制作スタッフが自信満々に豪語するから、面白いかも知れない。
「金崎くん、あの名シーンが最高だったね!」
「ラストに無事にかなたちゃんと結ばれたから、映画はどうなっているのかな?」
はるかたちは、期待しながら映画館エリアへと向かった。
『金崎! 君の悪魔的な性格を更生しに来た!』
『断る! 僕の天才的な頭脳を変えてみるものなら、やってみるがよい!!』
スクリーンでは、銀髪灼眼の青年。金崎くんがその性格を更生する為に健全労働省から送り込まれた刺客と戦うシーンが流れていた。
金崎くんは、今や絶体絶命の危機にさらされていた。
そんな時こそ、彼の頭脳が冴えわたる。
まさに、この映画のクライマックスだ。
「金崎くん、すてき!」
はるかはこれからのシーンに期待を膨らませる。
そして、いざクライマックスが始まる。
『あ、貴方の足元にゴキブリ!』
突然金崎くんが大袈裟なな発言をする。
『んな!? どこどこ!!!!』
刺客が驚いたすきに、金崎くんはテーザーガンを撃つ。
相手を痺れさせることを目的としたワイヤーが銃口から飛び出し、刺客を電流で痺れさせた。
『金崎くん!』
その瞬間に、ヒロインのかなたが飛びついた。
『終わったよ。 君を救うための旅が』
『もう離さないで。 私は、ずっと金崎くんと一緒だから!』
金崎くんはかなたを抱きしめた。
このシーンを最後に、映画の上映は終わった。
「やっぱラストは、感動だったよ!!」
よほど感動したのか、はるかは涙と鼻水で顔を崩していた。
「はるかちゃん、はい」
まなみが、ハンカチを渡す。
「うぅ、ありがとう」
「でも、あのラストシーンは、ご都合主義な感じだけど、なかなか良かったわ」
なんて、会話をしながら3人は施設内を歩き回る。
だが、この日を最後に、はるかの日常は終わりを告げる。
運命の渦が、大きくなり始めた。
同じ頃、407号はウィオンモールランドに潜入していた。
『407号より通信、人間の娯楽施設内に潜入。 娯楽の無用性の判定する』
『1番艦、了解。 娯楽は強制終了しなければならない。 調査が完了次第直ちに帰投せよ』
『407号了解』
407号は通信を切る。
施設内を散策する。
商店エリアは、どの店も活気づいている。
「いらっしゃい、いらっしゃい! 今日は第2水産コロニーからあがったコズミックサーモンがお買得だよ!」
「さあさあ、今日の目玉商品のご紹介だよ!」
それぞれの店が自慢の品を売り込む。
407号は、その様子を自分越しに1番艦へ送信する。
『1番艦より407号へ、人間の行動パターンの調査、ご苦労だった。しかしまだ結論に至らず。人間の文化を調査し、その結果を上位決定者に報告する、以上』
1番艦は更なる調査を命じた。
407号は了解と通信を切り、人間の文化を調査し始めた。
エンタメから食文化を全て調べる。
結論にたどり着くまで、徹底的に調べあげた。
そんな中、小さな女の子とぶつかった。
直後、母親が駆けつけ、すみませんと謝った。
407号は軽くお辞儀して、この場を去る。
人気のないエリアで通信を繋ぐ。
『407号より1番艦へ』『こちら1番艦、報告を待つ』
407号は一通りの調査結果を報告する。
その報告を聞いた1番艦は、
『報告、ご苦労。 これらの結果を上位決定者に報告する。 貴官は、直ちに帰投せよ。 場合によっては、攻撃を許可する』
1番艦は407号に帰投と攻撃を許可する旨を伝える。
407号は、了解と言って通信を切る。
すぐに母艦へ戻る準備を始めた。
このあと、宇宙を揺るがす戦いの前触れが起こる。
その頃、はるかたちは飲食街でコズミックビーフバーガーを食べていた。
「んーー、やっぱりこのスパイシーてりやきは最高!」
「私は、濃厚チーズ&グレイビーソースが最高だよ!」
はるかとまなみが食べたバーガーの好みで議論中だ。
「まったく、私は、バニラカスタードパイがお気に入りだから」
エリスは、そう言いながらスペースチキンケバフサンドを頬張る。
仲良しトリオの優雅なランチトークは、本題に入る。
「それでさ、人気アイドルの《レッドチャリオッツ》のライブ中継が今夜から2日間で放送されるって!!」
「それ、ライブシップが火星に着いて行うから、慰霊の意味も込められているのかな?」
人気アイドルのライブ中継が話題になる中、人々は何やら騒がしくなった。
「何かしら?」
はるかがただならない様子に、不安を募らせた。
中には、悲鳴の声が聞こえる。
はるかの運命が大きく動き始めた。
それは、407号が母艦へ戻る最中だった。
攻撃を許可する旨が降り、彼女は急ぎ足で出口を探していた。
そこへ、
「さぁ、今日のショーは、こちら!」
手品師が自慢の手品を披露していた。
407号は、それを不可解に判断した。
『不可思議な行動パターンを確認、不可解なため、強制終了させる』
そう言うと407号は、右腕をブレードに変化させて、手品師に襲い掛かる。
突然の出来事に、手品師は為す術もなく首と胴体を切り離された。
切り口から鮮血が噴き出す。
その惨状を見て、悲鳴を上げて逃げ惑う人々。
『虐滅を開始する』
407号は全身を武器に変化させた。
それを発砲する。
凶弾に倒れる人々。
無慈悲に破壊される店や品々。
逃げ惑う人々に巻き込まれ、はるかはまなみたちとはぐれてしまった。
「2人とも、何処なの!?」
はるかは、モバイル端末で2人の位置を確認する。
幸いまなみたちは、避難シェルターに逃げ込んでいた。
はるかは安堵した瞬間、
『人間を確認、虐滅する』
407号が目の前に飛び出した。
「あ、ああああ……!」
はるかは恐怖のあまり、動けない。
自分は殺される。
『有機知性体は虐滅する。 我らの存在意義のために』
407号は、その右腕を冷たく鋭い刃に変化させる。
その刃で自分は斬り殺される、はるかの脳裏はそれでいっぱいだ。
死にたくない。
非情の刃が迫る。
まだ生きたい。
無機質な瞳が獲物を見つめている。
誰も死なせたくない。
はるかの周りには、無残な死体があちこちに横たわっている。
プラズマ粒子レーザーで焼き殺されたカップル。
楽しいデートの最中に襲われて、無念だったことをはるかは汲み取った。
肉片と化した複数の死体は団体のツアー客だったのか、焼け焦げた案内フラッグを握りしめた手が赤い海に浮かんでいた。
はるかは、激しい怒りで恐怖を克服した。
「なんで、お前はこんな事を!!」
怒号を407号にぶつける。
『有機知性体は有害で矮小な種族である。 故に我々は生存意義を剥奪し、虐滅することで我らの存在意義は達成される』
機械的な声で応答する。
はるかは耳を貸さなかった。
「そんな事で、私たちを殺すの!? ふざけるな!」
その時、
『選ばれし者よ』
不意に頭に声が響く。
「だ、誰!?」
『時間はありません。 あなたに力を授けましょう』
そう終わるや否や、はるかの周りに光が包み込み、収束した。
その中から現れたのは、ピンク色を基調としたライダースジャケットに淡い薄紅色の光で構築された弓を握ったはるかが現れた。
「な、何が何だ分かりませんけど!!」
戸惑う中、407号が襲い掛かる。
『高エネルギー反応を確認、優先排除を実行する』
腹部からプラズマカノンを展開して発砲する。
「弓だから、こうね!」
はるかが弦を引くように弓の後ろを引っ張る。
すると、光の矢が形成されて、すぐに放つ。
放たれた矢は、プラズマ火球に命中し、相殺できた。
「なるほど、こういう使い方ね!」
感心する暇もなく、407号が襲い掛かる。
はるかはもう一度弓を引く。
(闇雲に撃ったら被害が出ちゃう! 設備へのダメージを抑えつつ、あいつに致命的なダメージを……!)
思考をフル回転させる。
敵が襲い掛かる。
(至近距離なら!!)
はるかが407号の攻撃をかわしつつ懐に飛び込んだ。
『何!?』
「喰らえ! ゼロレンジ・コンバット・ショット!!」
戸惑う暇もなく、407号は至近距離からはるかの矢を受けてしまった。
『緊急事態発生……、損傷甚大、帰投は不可能。 敵の生体高エネルギー攻撃により、機能停止する。 上位決定者に、速やかな排除を求めるよう伝達する』
そう言うと、407号は爆散した。
飛び散る銀色の液体。
恐らく彼ら単位機械生命体の血液に近い物だろう。
はるかはそれを浴びてしまった。
「もうやだ! 服が汚れちゃったじゃないの!!」
着ている服を脱ごうと思った瞬間、いつもの服装に戻っていた。
同時に、手足についていた銀色の液体も消えていた。
「何だったの? あれ……」
はるかは何事もなかったのように、エリスたちの下へ急ぐ。
しかし、はるかが単位機械生命体の返り血を浴びたことで、平和な日常が本当の終わりを迎えることになる。
遂に第2話の転の部分にして待望の魔法少女の誕生!!
はるかの運命はこれからが始まりです!!