2-2 きしむ日常
卒業試験3日目、作法科目の実習試験が行われていた。
ジュピトリス女学院の卒業試験科目である作法実習は、文字通りの礼儀について問われる科目だ。
御点前から、お土産の渡し方までを審査員たちが常に目を光らせているから、生徒たちは真剣に取り組まなければいけない。
午前中の科目として、御点前の動作をチェック科目に挑んでいた。
使う抹茶は、地球から取り寄せた最高級品。
生徒たちは立て方を懸命に審査員たちに見せている。
「貴方の立て方は69点!」
教員たちから採点の言葉が飛び出す。
作法科目の平均点は8目合計600点で、作法の点が良ければ立派なレディと言う物だ。
午前の4科目が終わり、はるかたちは校庭でのんびり休んでいた。
「お土産の渡し方の科目、メッチャ緊張した!」
「仕方ないよ。 今回の科目はみんな苦労したんだから」
まなみとはるかがそんなことを言う。
3日目の時点で、はるかたちは平均点以上の成績を出している。
だが、卒業試験は続いている。
休養日を挟んで、機動作業服の実習試験が残されている。
そんな彼女たちも懸命に頑張っている。
まなみは、卒業したら連邦医師大学に進学し、木星宙域で流行っているジュピターグラヴ・シンドロームの治療薬研究をしたいと言う。
この病気は、木星の影響で体の動きが動きが遅くなる非情に厄介な病で、明確な治療法がまだ確立されていない。
その為、まなみは最高学歴を取得して、その上で医者を目指している。
エリスは、ジュピトリス初の女性知事を目指して勉強している。
それまでジュピトリス自治領は、男性が多かったが、女性としての権限を発揮してジュピトリスを変えたい。
そんな思いを抱いている理由は、幼少期にジュピトリス議会議員である父から、「お前はお前のやり方を貫きなさい」と言われたからだ。
故にエリスは政治関連の勉強をして、ジュピトリス大学に入学して政治関連知識を沢山学ぶ必要がある。
その為にはジュピトリス女学院で最高の知識を蓄える必要があった。
はるかは、お嬢様系アイドルを目指すべく、ジュピトリス女学院で自分を磨いていた。
最高のお嬢様学校で清楚でおしとやか、歌って踊れるアイドルになると言う野望を以て入学した。
動画チャンネルで「ダンスしてみた」を配信しようとしたが、「動画配信は原則として世俗関連は規則違反」と言う規則に引っかかってしまい断念したが、未だ諦めていない。
まなみとエリスの3人で「お嬢様トリオが食レポしてみた」と言う動画で何とか配信できたものの、トップを走る生徒がふざけた動画を出すのはと、教員から厳重注意を受けてしまう。
そんなこんなで、3人は夢に向かった走り続けているのだ。
「明日は休養日だから、のんびりできるね!」
はるかはそんなことを言うと、
「まぁ、動画配信は無理だけど」
エリスが釘をさす。
「にゅにゅにゅ……」
はるかは唇を尖らせる。
無理もない。
動画配信停止が敷かれてしまったのだ。
その為、写真を撮ってアップロードするしかない。
それでも、はるかの写真SNSのフォロワー数が500万人を達成している。
それはたゆまない努力が実った証だった。
そんな楽しい会話の中、平和な日々は徐々にきしみ始めていた。
新生活に向けて準備をする人々。
ジュピトリスを旅立って新天地での生活に胸を膨らませる若者。
定年を果たしてセカンドライフを楽しむ者。
ジュピトリスの春はそんな雰囲気に包まれていた。
しかし、潜入した407号が怪事件を起こしているためかこんな怪奇噺が流れ始めた。
「金髪の女が夜な夜な出てきては、誰かが犠牲になる」
こんな怪奇な噂がジュピトリス全域に流れ始めていた。
実質、407号は人間の生体サンプル採集や設備調査の後に隠滅処理をしているため、この噂が広がっている。
『407号より通信、1番艦、応答を願う』
この日407号はジュピトリスの第1水産コロニーに潜入していた。
『こちら1番艦、どうぞ』
『現在、人間が摂食する有機生産物のコロニーの1つに潜入。 人間がどの様に有機物を生育しているのか、調査を開始する』
『有機物の生育は宇宙で最も有害であることが判明できるかもしれない。 慎重に行動せよ』
通信を終え、407号は人工の海の中へ潜る。
下半身を水中用の推進ユニットに変化させ、優雅に泳ぐ。
すると、宇宙真鯛の群れと遭遇する。
岩礁海域を優雅に泳ぐその姿をしっかり納め、右腕を変形させてそのうちの1匹を採取する。
『水生有機物のサンプルを入手。 解析のため、1番艦へ転送する』
そう言って体内から1番館へ転送する。
407号の体内には4次元収納スペースが装備され、そこから所属艦へと転送をするのだ。
『転送を確認、解析を開始する。 引き続き調査を求む』
407号は、了解と信号を送って海の中を進む。
そんな中、470号は自身の上を通過する影を確認する。
すぐに体を変化させ砂地へと身を隠した。
その陰の正体は、漁船だった。
恐らく宇宙真鯛の漁獲するための船だ。
「今日の宇宙真鯛は大量だな!」
「あぁ、こんだけ獲れば俺たち家族も安泰だな!」
漁師たちはこんな陽気な話をしながら港へ帰る途中だった。
407号は、ここはじっとした方がいいと判断した。
そうこうしている内に不快な音波をキャッチした。
いわゆる超音波。
407号は砂地から顔を出す。
斜め上前方から宇宙イルカが群れを成して泳いでいた。
その音波は会話で使ったエコーロケーションだった。
『水生有機知性体のコミュニケート音波を受信。 対処の指示を求む』
1番艦へ指示を仰いだ。
『2番艦が代行する。 やり過ごせ』
1番艦が解析で忙しかったのか、2番艦が指示を出した。
407号は素直に従い、何とかやり過ごした。
しかしまた一難、今度は宇宙鮫が407号に襲い掛かって来た。
『敵性生物を確認、自衛のため、排除する』
407号は右腕を鋭くかつ素早く伸ばして宇宙鮫を串刺しにする。
そしてそこから無数の棘を出して宇宙鮫を木っ端みじんにする。
また、ジュピトリスに怪事件が起きた。
しかも、この水産コロニーの怪事件は1つだけじゃなかった。
夜、407号は港に上がり、水産コロニー内部を調査し始めた。
水産コロニーは内部面積の60%が海で構成され、外壁の回転の影響を受けないために、2重構造になっている。
そのため、安定した水産事業が可能となり、各自治領につき、海水タイプ、淡水タイプの2つを保有している。
水は分子ろ過装置で清潔にしているため、いつも清潔で新鮮な水産物が提供できるわけだ。
また、飲み水などは地球からの定期船で賄っているため、水産コロニーから配給すると言う問題は出ない。
その為、現在では水産コロニーは生活に欠かせない設備となっている。
港近くの卸売市場は営業を終えているのか、人影はないに等しかった。
『施設内スキャン完了。 水生有機物の販売配給のための施設と断定、指示を』
407号は、もう終わったとみて改めて1番艦に指示を仰ぐ。
『解析が完了したため、上位決定者への報告を完了させた。 貴官周囲に超低温のエリアを確認。 注意されたし』
通信中に突然、
『不審人物を発見、警備隊に通報し捕獲する』
巡回中の警備ドローンに見つかった。
『敵に発見された。 排除し情報操作を行う!』
407号はすぐさま警備ドローンを破壊し、ネットワークへハッキングした。
筋書きは、『異常なし、単なる誤作動』としてこの場を去って行った。
その頃、ジュピトリス女学院学生寮では、休養日の計画を立てていた。
休養日は門限時間さえ守れば外出が許可され、買い物も自由にできると言う。
「ねぇ、今度ウィオンモールランドで思いっきり遊ばない?」
はるかがこんな提案をした。
ウィオンモールランドはジュピトリス自治領最大の統合型リゾートコロニーで、エンタメからショッピングまでも出来る夢の施設だ。
各星域からの観光客にも人気が高く、宇宙旅行サイトにも上位ランクに入るほどだ。
ジュピトリス女学院からも宇宙タクシーで10分足らずで行ける近さで、学生も多く訪れる。
この時期は、学生をターゲットにしたパッケージツアープランが人気で、カジノを除けば、大いに楽しめるのだ。
「いいね! 旅費はパパが送金してくれたわ!」
エリスが携帯端末に父から30万クレジットが送金されていることを告げる。
「いいね! じゃぁ、10万づつ分けて!」
「私も!」
2人は催促する。
「分かったからあわてない」
催促されたエリスは、はるかとまなみの端末に送金する。
これで準備が整ったわけだ。
少女たちは最後の休日に思いっきり楽しんでいこうと胸を高鳴らせた。
消灯の時間になり、はるかたちは寝ることにした。
「おやすみ、2人とも」
「おやすみ!」
「おやすみなさい」
3人はまどろみの中へと堕ちて行った。
一方、地球連邦では火星の悪夢の現場調査をしていた。
「隊長、やはり生存者はいませんね」
バンダナがトレードマークの男性少尉が現状を悲観した。
やはり、敵の攻撃が相当凄まじかったく、辺り一面が瓦礫の山と焼野原だ。
「いきなり敵が出ませんよね?」
気弱な女性少尉が辺りを見わたす。
この状況だ、何時敵が襲い掛かってもおかしくない。
「仕方ないさ。 これだけ敵の攻撃が凄まじかったんだ。 一人でも生存者がいたらラッキーだよ」
さわやかな顔立ちの隊長が呑気な発言をする。
この3人は天津級・「ホウライ」から降下船で降り立っている。
その為、現場調査は彼らが適任だと言うのもうなずける。
しかし、彼らは優秀故に地方星域への遠征が日課のできすぎ3人組だ。
「しかし、冥王星から帰って来たと思えば、今度は火星だってよ。 上層部の方々には呆れますね」
男性少尉が呆れる。
無理もない。
上層部の命令は絶対とは言え、こんな廃墟となった星の調査なんて知ったことじゃない。
むしろ、惑星開拓のための調査がしたい。
それが彼らの本音だ。
「ん?」
女性少尉の端末が反応を知らせる。
「どうした?」
「いま、反応があったけど、近い!」
女性少尉が叫んだ次の瞬間、3人の足元から囲むように銀色の液体が飛び出した。
「な、何だこいつは!?」
「これは……!」
状況が呑み込めない中、3人はその液体に取り込まれてしまった。
『観測員309号より遠征中の1番艦へ、生体サンプル3体を捕獲、転送する』
どうやら彼は、407号と同じ艦隊に所属している観測員だ。
『309号ご苦労。 在留中の6番艦が敵を撃破した。 すぐに6番艦へ戻り、合流されたし』
『了解』
観測員309号は、すぐに所属している6番艦に戻った。
この事は既に昇たちにも知らされており、迎撃艦隊は出撃に備えて準備を急ぎ始めた。
開戦の刻は、刻一刻と迫って行った。
怒涛の展開を見せる第2話の起承転結の承の部分!
設定を考えるのはやはり難しいもの。
もっと勉強しなくては!