2-1 工作員407号、暗躍す
『工作員407号より、1番艦へ通信』
夜、工作員407号は定期通信で艦隊1番艦へ連絡する。
『定期通信の受信を確認。 報告を求む』
1番艦は直ぐに返答の信号を送った。
これまでの活動内容を定期的に報告するのは、人間と同じか。
『人間は、独立した知性を保有し、独自のコミュニケート文化と生体繁殖能力に優れた種族と決定。 しかし、未だに未知数の能力が多い。 調査を継続し、最終的な判断を提出するまでは、しばらくの時間がかかる』
『1番艦、了解。 上位決定者に指示を出すのは保留にするよう伝達する。 調査を継続されたし』
1番艦と定期報告を終えると407号は任務に集中した。
すると、
「俺の~、酒場は~……」
いかにも飲みつぶれてフラフラの30代独身の男性が407号を横切った。
彼は407号に見向きもせず、自宅へ帰る途中だった。
『臭気成分、分析開始』
407号は男性の呼気からアルコール臭いを検知したのか、分析を開始した。
『成分分析完了。 これはアルコールと呼ばれる物質であり、特定の飲料に含まれる快楽効果を持つ物質。 有害度B。 定期報告』
407号の報告に
『報告の受領を確認。 有害物質を摂取するのはやはり害悪な種族である。 しかし、情報が不足している。 継続されたし』
1番艦が命令を下す。
407号は直ぐに任務を再開した。
背後からシャーと言う威嚇の鳴き声が聞こえる。
407号が振り向くと、民家の塀に野良猫3匹の群れが威嚇していた。
動物の勘が407号を人間ではないと感じ取っていた。
『敵意を確認、排除する』
407号は、左腕を対生物マイクロウェーブ照射装置に変形させ、3匹に向けて照射した。
近距離の範囲では防ぐ術もないマイクロウェーブを浴びた野良猫たちは、断末魔を上げながら破裂した。
『407号、どうした?』
1番艦から通信が入る。
『敵性生物の存在を確認したので、排除しました』
『了解した。 あまり無謀な行動は控えよ。 稼働に支障が出る』
『了解』
この夜、また一つ事件が起きた。
翌日、ジュピトリス女学院3年E組は野良猫の変死体が発見されたと言うニュースでもちきりだった。
「ねぇねぇ、今朝のニュース、見た?」
「見た見た! ネコちゃんたちがひどい死に方をしたって奴!」
野良猫が謎の死を遂げた怪事件はTVやネットニュースなどでも大々的に取り上げられた。
それだけに、ここ数日で怪事件が2つも起きるのは明らかにおかしい。
はるかたちも、卒業論文にこの怪事件をテーマにしようとまなみたちと議論していた。
「やっぱり、怪事件はテーマにするの、やめた方がいいかも?」
「でも、これを論文にしたら受けはいいと思っているけど?」
熱い議論を交わしていく中、HRを知らせるベルが鳴った。
「皆さん、お静かになさって?」
担任教師が生徒を鎮める。
「皆さん、間も無く卒業試験が行われます。 それに伴い、試験期間は一切の外出を制限、及び私的な購買やエンターテインメント関連の閲覧などは、原則として1日3回、1回につき30分までとします」
この厳しい制限こそ、卒業試験に集中してほしいと言う狙いがある。
宇宙一のお嬢様学校と呼ばれる理由の一つがこれだ。
「ゴシップ関連も同様とします。 皆さん、宇宙で最高のレディになるためには、憶測やデマに捉われない断固たる信念を持つこと。 それが本学院の鉄則です」
担任教師が熱弁する。
それだけに、卒業試験は既に始まっている。
ジュピトリス女学院卒業試験は筆記科目で2日、作法で1日、空間機動作業服の実技試験で3日、休養日は1日と言う。
これほど長い日数をかけて行う試験を導入する学校は、太陽系すべてを見てもジュピトリス女学院が一番長い。
これだけ大掛かりに試験を行うのは、ジュピトリスだけである。
「では、筆記科目を開始します。 第1教科は国際語学・準1級問題、開始してください!」
担任教師が叫ぶと生徒たちは一斉に机の入力端末に表示された答案画面と向き合った。
はるかたちも、この試験に集中する。
絶対に合格するんだと。
一方、誰もいない第2居住コロニーの繁華街・路地裏スラムで407号は太陽エネルギーの充電を済ませていた。
『エネルギー、充電完了』
そこへ、
「おい、あそこに美女がいるぞ!」
このスラムを縄張りとする不良たちが絡んできた。
「姉ちゃん、1人? 俺たちと遊ばない?」
「やっちまおうぜ」
下衆な発言をする不良たちを、
『存在は認めない。 自衛戦闘を開始する』
407号は身を守るために戦闘を開始した。
右腕をビームガトリングガンに変形させ、太めの体格をした不良を蜂の巣にした。
そのあまりの惨状に、
「な、何だこいつ!?」
「ば、化け物だ!!」
残る2人は逃げ出す。
しかし、
『情報秘匿のため、抹殺する』
左腕を伸ばして、その2人を捕獲する。
「「ひいいいっ!!」」
2人は恐怖におびえる。
自分たちは殺される。
本能がそう告げていた。
『解析用サンプルとして捕食する。 その後、お前たちの肉体ならびに、精神情報はデータとして私のデータベースに記録される』
そう言うと407号は大きく口を開ける。
その大きさは人間2人を丸呑みするかのごとく大きく、生き残った2人を取り込んだ
『捕食対象生物解析開始。 完了次第、定期通信で結果を送信する』
『1番艦了解。 貴重なサンプルの採取は見事だった。 引き続き、生体繁殖能力保有者のサンプルの採取を願う』
1番艦は、女性のサンプル採取を407号にリクエストした。
『407号、了解』
定期通信を切り、407号は夜になるまで姿を隠した。
流体多結晶合金の体を溶かしてビルのすき間に潜む。
また一つ、ジュピトリスに怪事件が起きた。
午前の試験科目が終わり、はるかたちは学食でお昼を食べていた。
やはり試験期間なのか、外界からの情報は一切入ってこない。
試験に取り組んでもらうため、外界からの情報は限定的に学内図書室の情報端末からしか入手できない。
しかも、図書室への入室は教員の許可を取らなければならないと言う現実に、はるかは不安になっていた。
「みんな疑心暗鬼になり始めているよ。 試験中に怪事件が起きているのに……!」
「仕方ないよ、外界からの情報は取得制限かけるしか方法がないみたい」
まなみが、そんなはるかをなだめる。
先ほど入ったニュースで、スラム街の住人1人が変死体で発見され、残る2人は行方不明となっている。
そんなニュースを入れさせないのは、生徒の不安を煽らせないためだったが、それが裏目に出てしまった。
「でも、先生たちが精神ケアをやってくれてるから、大丈夫よ」
エリスがえへんと小さな乳房を震わせる。
やはり不安になっても仕方ない。
はるかは、午後の試験科目に向けて、昼食を食べ終えた。
すぐさま教室へと駆け出す。
しかし、平和な日常はもうすぐ終わりを告げると言う事を、はるかはまだ知る由もなかった。
コロニー内の疑似太陽は徐々に光を消し、辺りは夜の時間帯になった。
407号は蓄えておいた電力を使って活動を開始した。
人間の生体サンプルを集め、害悪な種族であることを確定させるために。
それは、人間と言う姿をして、恐ろしい化け物であることを、繁華街を歩く人々は知らない。
『居住施設の内部情勢はおおむね平常と言える。 転送した生物の生態データの解析は順調であることを確認したい』
『1番艦より407号へ、生体データの解析に成功。 生体サンプルは上位決定者に転送し、更なる指示を待つ。 引き続き、サンプル採取を継続せよ』
通信を終えると、407号は繁華街の路地に足を踏み入れる。
光学カメラの視線が捉えたのは、いかにも怪しい雰囲気が漂うエステ店だ。
『施設内スキャン完了。 どうやらこれは生体繁殖を娯楽として捉える施設であることと断定』
407号の報告に、
『施設内に潜入し、生体サンプル全てを採取せよ。 完了後、施設の破壊を許可する』
『407号、了解』
通信を終えると、407号は男性の姿へと変貌する。
整った銀髪に紫の瞳。
透き通るような皮膚が機械とは思えない滑らかさを演出している。
エステ店へ入る。
「いらっしゃいませ」
怪しげな雰囲気の男性店主が出迎える。
「本日は、素敵なキャストがより取り見取りですよ」
店主がなれなれしく407号に近寄る。
『害悪種を確認、消去する』
そう言いながら407号は、店主の体内に何かを打ち込む。
次の瞬間、凄まじい電流が迸り、店主は骨格が焦げた変死体となった。
「何々!?」
騒ぎを聞いたエステ嬢や、客がエステルームから飛び出す。
『これより、サンプル採取に入る』
407号は体を変化させる。
エステ嬢や客の悲鳴が店内にこだまする。
そして静まり返ったころには、
『サンプル採取完了』
407号を除いて誰もいなくなった。
『情報秘匿と隠滅のため、施設を破壊する』
小型プラズマ爆弾を掌から撃ち出し、407号はこの場を後にする。
数秒後、プラズマ爆弾は爆発し、エステ店は跡形もなく燃え尽きた。
また一つ、ジュピトリスに怪事件が起きた。
翌日、この事件は新聞やTVニュースなどで大々的に報じられ、人々はより一層の不安を抱えた。
ジュピトリス女学院も、生徒を不安にさせないと対策を打ち出し、試験期間中の精神ケアを重点的に行うようにしている。
この日は筆記科目2日目。
現在の教科は宇宙公民3級問題。
火星の悪夢などを受けて、一部試験内容を急遽変更して行われている。
「えっと、これは確か……」
はるかもいつにも増して真剣な表情だ。
キーボードで回答を打ち込み、次の問題ページへと進む。
こうして午前の試験が終わり、残りは臨時休養として早く寮に戻ることになった。
校内放送などの娯楽関連も一部制限を解除し、生徒たちが安心できるように配慮されていた。
「はぁ、やっぱ冥王星で生まれたアイドルの《P9Z》、マジでかっこいいんだけど」
お気に入りの音楽がダウンロードできる喜びに、はるかは心をほぐした。
「ホントだね。 でも学院が試験を切り上げるなんて何か珍しいね?」
「頻発に起きる怪事件に、みんなが怯えているのよ。 先生たちも何とか安心させようとしているのよ」
まなみとエリスはのんきなことを言った途端、はるかの視界がブラックアウトした。
その幻視は何時にもなくはっきりとしたものだった。
『有機知性体を虐滅し、我らの存在意義を達成させる』
学院内を暴れ回る機械兵器。
「この野郎!!」
なぜか響く自分の声。
その手には、光で形作られた大きな弓が握られ、それを放つ自分がいた。
光の矢が敵に当たった瞬間、幻視はそこで途絶え、いつもの部屋に戻った。
「はるかちゃん?」
まなみが心配する。
「あ、大丈夫よまなみちゃん! ちょっと試験で疲れちゃったかも?」
はるかは笑ってごまかすしかなかった。
だが、平和な日常の終焉が、すぐそこまで来ていた。
2月に入り、第2話の起承転結の起の部分が投稿されました。
工作員407号はあのキャラをモチーフにしてみたのですが、僕もあのキャラは凄く良い強敵感が出てそれをモチーフにしてみたのですが、何かありましたらご連絡ください。




