8-3 その勝利は反撃の礎
無機質なカメラアイが強化服部隊を睨む。
「ひるむなよ。 相手はデカいが、落ち着いて対応できれば問題ない!」
守が叫ぶと同時に散開した。
スラスターを吹かして、様子見と言わんばかりにレーザー突撃銃で牽制する。
恐竜型アンドロイド兵は、強固な装甲で防ぐ。
「やはり効かんか!」
守は舌打ちをする。
『電磁加速砲展開』
恐竜型が背中の砲門を強化服部隊に向ける。
砲身の電磁加速帯がバチバチと唸りを上げる。
「電磁加速砲か! 全機退避!!」
守が叫ぶと同時に、緊急退避する。
その刹那、砲弾が飛び出す。
初速が凄まじいのか、通り過ぎる際の風圧だけでも、建造物を吹き飛ばした。
強化服部隊は全員無事だが、その破壊力を戦慄さえも覚えた。
「あんな化け物、ほっといたら恐ろしいものだぜ!」
「まったくだ。 さっさと退治してしまおう!」
若い兵士2人が恐竜型に挑む。
電磁加速砲は次弾チャージに時間がかかる。
若い2人は油断しなかった。
なぜなら、接近された際の心得は持っていた。
恐竜型が右前脚で踏み潰そうとする。
若い2人は直ぐに回避する。
「片足をつぶせば、」
「動けなくなる!」
高周波ブレードで、右前脚関節にダメージを与える。
振動熱が凄まじく、ダメージを受けた個所が動かなくなった。
『右前脚駆動部損傷。 行動不能。 行動不能』
恐竜型が動けなくなった。
やけを起こして、わき腹にある対空迎撃システムを乱射する。
しかし、強化服部隊は物陰に隠れて様子を伺いつつ狙撃砲などで攻撃を加える。
徐々にダメージが蓄積されていく。
恐竜型は最後の力を振り絞って電磁加速砲を撃とうとした。
エグニマの誇りにかけて、せめてもの抵抗をするつもりだが、
「させない!」
赤星が飛び出し、ソードモードの紅龍で電磁加速砲を切り落とした。
次の瞬間、加速砲は大爆発を引き起こした。
「ナイスだ!」
「これで敵さんも何もできない!!」
強化服部隊はこれはチャンスと総攻撃をかけた。
恐竜型はただ攻撃を受け続けた。
はるかは、それがかわいそうに思ったのか、ソードモードの紅龍で首を斬り飛ばした。
「安らかに眠って……!」
せめてもの慈悲なのか、涙が流れた。
「中尉、わかってると思うが、これが戦争だ。 始まってしまえば、お互いが敵である限り、どちらかが滅びるまでは終わらないんだ」
「はい……!」
守の言葉にはるかは了解の意を示した。
自分は軍人だ、それは理解していた。
この手で敵の命を奪った。
その感触は今後の物語として語り継いでいこう。
はるかはそう決めた。
戦いは宇宙でも地表でも続いていることは明らかだ。
「さぁ! 敵さんのお出迎えだ! 今日は楽しいパーティーになりそうだ!」
守がそう叫んだ途端、おびただしい数のアンドロイド兵が襲い掛かる。
まさかとは思ったが、その数は数えるのが面倒だと思えるほどだった。
「こんなにうじゃうじゃ!?」
はるかは、素っ頓狂な声を上げながらハンドガンモードで迎撃する。
強化服部隊も応戦するが、これだけの数を相手にするのは面倒だった。
「しょうがないわ!」
はるかは魔法の詠唱を始めた。
他の隊員は気付いたのか、はるかを守るように迎撃を続けた。
「中尉、あの人形どもをまとめて吹っ飛ばしてください!」
「俺たちは、貴官に期待してるからな!」
隊員たちは、はるかを信頼していた。
たとえ異質な力を持っていても、自分を受け入れてくれたムラクモの乗員たちや他の強化服部隊に感謝したい。
「詠唱完了! みなさん、下がってください!!」
はるかは魔法の発動準備を済ませた。
「聞こえたな? 総員退避!!」
守の掛け声で、全員が攻撃範囲から退避する。
「吹っ飛べ! 神の鉄拳、喰らっとけ!」
上空に巨大な拳骨の形をした魔力の塊が現れた。
「神乃拳骨!!」
叫ぶと同時に、巨大な拳がアンドロイド兵の頭上に真っ直ぐ落ちてきた。
そして、アンドロイド兵たちに当たると同時に大爆発を引き起こして吹き飛ばした。
まさに、神の怒りが具現化したような一撃だった。
その規模は、まさしく天災ともいえる範囲だった。
着弾点から直径3㎞ともいえる。
「光成中尉を、怒らせるのはやめにしよう」
「そうですね。 まさに悪魔ですもんね」
守たちは今後はるかを怒らせないよう、ねぎらいなどを計ることにした。
余談ではあるが、連邦軍に「光成中尉を怒らせたらただじゃすまされない」と言う暗黙の条約が成立したのは、本作戦から数か月後になる。
とにかく話を現在の戦場に戻す。
先ほど無数にいたアンドロイド兵は跡形もなく吹き飛んでいた。
あまりの凄まじい破壊力に、隊員たちは呆気にとられた。
「進路確保! これより敵の生産施設をつぶす! これが我ら人類の反撃の狼煙であることを!!」
守の掛け声に、全員が続いた。
敵の生産施設では、防衛用の虐滅兵器やアンドロイド兵たちが迎撃に出るが、
「アストロ・スコール!!」
はるかの拡散攻撃魔法で、蹴散らされる。
「突入口、確保!」
「遠慮はいらん! 思いっきり暴れるぞ!!」
その言葉を合図に、強化服部隊は生産施設に突入した。
生産施設内は壮絶な白兵戦にもつれ込んでいた。
レーザー突撃銃が火を噴く。
アンドロイド兵たちが次々倒れて行く。
防衛兵器が強化服部隊の行く手を阻みつつ武装を展開した。
恐らく大規模部隊迎撃用のガトリング砲だ。
強化服部隊の1機が閃光弾を投げる。
上空で炸裂して、眩い光が辺りを包み込む。
アンドロイド兵や防衛兵器たちは視覚センサーを故障させてしまった。
その隙に、はるかたちは先へと進む。
「あいつらはきっと、人類を理解し始めたのだと思うんです」
通信ではるかは守に話しかけた。
「エグニマが?」
「はい。 あのアンドロイド兵たちは、元は人間かそれに似た種族をベースにしているんです。 もしかしたら、あいつらは人間を知ろうと模索をしているのではないのかと」
その言葉は、信憑性があった。
エグニマが人間に近い兵器を生み出したことには、守にも疑問に思っていたところだった。
その理由が聞けたことに、
「たしかに、奴らもそれほど馬鹿な生命体ではなく、人類の事を知りたがっていた。 それが最近になってわかっていた、と言う事か」
守は納得した。
これなら、敵も人間を知れば、こちらも敵を知る必要があるということだ。
「で、親玉と対話したことがある中尉なら、その答えの1つが聞きだせると言う事ですな!」
昇からの秘密裏な報告を受けたのか、守はこんな事を言う。
「簡単に言わないで下さいよ。 私だって、あいつから答えを聞き出して、ぶっ倒してやりたいです!」
はるかは、顔を赤めながらそっけなく答える。
「そう言うなって。 お、この先は親玉との通信ができるエリアらしい」
守が指さしたその先は、どうやらこの施設の中枢部の様だ。
「これなら、敵の事を知ることが出来るかもしれない!」
はるかは強化服を降りて、施設のコントロールパネルを操作する。
「答えて、エグニマ。 あなたたちは何者なの? 何故生命を滅ぼそうとするの?」
すると、中枢部らしき大型のコアが光り輝いた。
『私は、エグニマ中枢30001号。 貴官の問いかけに回答する』
どうやら、上位決定者ではないが、かなりの発言力を持った存在だ。
『我々は、神によって生み出され、存在する者。 神は言った。「全ての生命を滅ぼし、我らだけの世界を造り出せ」、と』
それは、もっともらしい答えだ。
しかし、はるかは納得できなかった。
「あんたたちの言い分はわかってるけど、何故感情を無くし、子孫繁栄をできなくしようと考えているの?」
上位決定者との会話で聞いた答えが同じであることを伺うため、こんな質問をした。
『有機知性体の感情と生体繁殖能力についての質問の入力を確認。 回答の出力まで1分を要する』
検討を始めた。
「こいつもどうやら、考えると言う行為を学んでいたようだな」
守は呆れ顔だった。
「ま、私たちの事を学んでいれば、そうなりますね」
はるかは苦笑した。
『検討終了』
中枢ユニットが検討を終えたようだ。
「教えて。 私たち生命を滅ぼす理由を」
はるかは表情を険しくした。
返答次第では、攻撃できるよう紅龍を呼び出す。
『我々が生命を虐滅する理由は、まず、有機知性体の生体繁殖行為を、きわめて有害と判断した』
理由の1つを語りだした。
『有機知性体の生体繁殖によって、生命は惑星資源を食いつくし、他の惑星においても同じ行為をすると、神が判断した』
その言葉に、はるかは驚きを隠せなかった。
確かに、人類は増えすぎた人口を宇宙へ旅立たせた。
それが原因で、地球圏の主導権をかけた戦争が繰り返された。
現在は鎮静化しているが、未だにその種火はくすぶっていた。
はるかは、動揺を隠せなかったが気を取り直した。
「確かに、私たちは争いを続けているわ。 でも! 私たちのように平和を望んでいる種族だっている! 何故それが分からないの!?」
その言葉は悲痛の叫びに近かった。
しかし、中枢部は冷たく答える。
『感情も、抗争の要因の一つにカテゴリーされる。 我々は感情を知る必要があった。 それは、我々はそれが屈辱だった』
どうやら、エグニマにとって感情を知ることは苦痛の様だ。
「じゃぁ、あんたたちにとって、感情を知るのがそんなに嫌だったの?」
『無論だ』
「じゃぁ、あんたたちとは分かり合えないわね。 今だけはね!」
はるかは、紅龍で中枢部を破壊した。
施設はその瞬間から稼働を停止した。
惑星消滅システムも作動しなかった。
「これで終わったのね。 今だけは……」
はるかは、どこか悲しそうにつぶやいた。
この戦いは、人類の勝利に終わった。
衛星軌道上では、
「エグニマ艦隊が突然停止! これは一体?」
突然動きを止めたエグニマ艦隊に、フェリーチェは戸惑った。
「勝ったんだ。 だが、この勝利は始まりに過ぎない」
昇はブリッジに立つ。
「本作戦は終了だ! これは我が連邦軍の勝利だ!」
その言葉は、この宙域に入る艦隊を歓喜に満たすには十分だった。
「だが、これで終わったわけではない! これは始まりなのだ! 人類と敵性異星種族・エグニマとの長き戦いの!」
そう、この戦いは人類とエグニマの壮絶な戦い。
その幕開けであることを、この場にいるもの全員が理解していた。
今は、この勝利を噛み締めていた。
これが後に語られる「第1次人類生存意義防衛戦」と呼ばれる戦いであった。
遂に人類は一時的な勝利を手に入れましたね。
次のエピソードで第1部は幕を閉じます。




