8-2 激戦!!
その瞬間から、戦いが始まった。
自由電子レーザーが飛び交い、ミサイルの雨が降り注ぐ。
攻撃が飛べば、必ずどちらかの船が沈む。
戦場は残酷でシンプルな世界。
強いものが生き残り、弱いものは消える。
弱肉強食の答えの1つが示されている。
「カサマ、ハシバ、共に沈黙!」
「第2攻撃艇中隊、多数大破! 以前敵の攻撃は続く模様!!」
連邦軍は必死になって状況に対応していく。
人類の存在意義のために戦っている。
それは、人類が安心して暮らせるために戦う意志だ。
『我らが神のために』
『愚かな有機知性体に、鉄槌を』
エグニマは、自分たちの存在意義を示すために、全ての生命を根絶やしにする。
自分たちを生み出した、上位決定者の指示のもとに、彼らは戦っている。
エグニマ艦隊は、6連装レーザー砲を放つ。
これに対して、
「シールドドローン、フォーメーションD4!」
昇の号令でシールドドローンたちが前衛に飛び出し、スクラムを組む。
前面にレーザーシールドを展開して敵からの攻撃を防いだ。
『敵ドローンの排除を優先する』
エグニマも、ドローンの存在を邪魔に思ったのか、排除に乗り出した。
「全艦、主砲斉射!!」
その隙をついて連邦攻撃艦隊第1陣が主砲を一斉に放つ。
電磁加速した光分子が、エグニマ艦隊を貫いた。
そんな中、はるかはムラクモの甲板に居座っていた。
赤星の手には、大型のレーザーランチャーが握られていた。
「中尉、こいつはムラクモからエネルギーを引いてあるが、無駄撃ちは禁物だ!」
遊子彦ははるかに注意を促す。
と言うのも、八重樫重工が開発した試作型自由電子レーザー砲は、並の強化服の出力では扱えないほどの電力を消費する。
その為、ムラクモから電力供給を行う事で、エネルギーは確保されているが、チャージに時間がかかる。
だからこそ、無駄撃ちができない。
「了解です! こいつを使いこなして見せます!」
はるかもそれに了解を示した。
『エネルギー、充填開始』
ペイの声と共にランチャーにエネルギーが充填されていく。
ムラクモのプラズマ反応炉から送られる光分子がランチャーの機関部で収束される。
砲身に電磁付加が加わる。
「ペイ、照準補正!」
はるかは照準モニターで狙いを定める。
目標はエグニマ艦隊。
充填の度合いを示すモニターが、充填完了を知らせる。
「いっけーーっ!!」
引き金を引く。
砲口から大出力のレーザーが飛び出す。
それが、直線上に並んだエグニマ艦を3隻貫いた。
次の発射まで、およそ30秒。
それまでは、他の部隊が時間を稼いでくれる。
はるかは、それまで敵艦隊に照準を向けた。
(魔法も使わないと!)
はるかは詠唱を始めた。
適当な言葉で綴った意味が分からない詠唱だが、本人はお構いなしだった。
エグニマの艦載機たちが襲い掛かる。
「ランペイジ・ソード!」
魔法を発動させる。
すると、剣の形をした魔力の塊が無数に現れるや否や、エグニマ艦載機を斬り刻んだ。
広範囲かつ複数の敵を攻撃できる魔法は、使いどころを見る必要がある分、パフォーマンスは申し分ない。
なすすべもなく、斬り刻まれるエグニマ艦載機。
『緊急事態発生! 特異個体001号より攻撃! 支給対処策を……!』
艦載機たちが伝令する間も無く撃墜されていく。
その時、ランチャーの充填が完了した。
「もう一発!!」
はるかが再び引き金を引く。
大出力レーザーが、艦載機や艦艇を呑み込んでいく。
一方で、エグニマ艦隊は次の手を模索していた。
『戦術プラン1084を提案、全艦に通信』
人間に対する戦術が、次の段階に入り始めた。
「提督、敵の通信を傍受! 敵艦隊は新たな戦術で迎撃する模様!」
「全機聞こえたな? 警戒しつつ殲滅せよ!!」
昇が全機に命令を下す。
エグニマは、並列陣形に並び始めた。
その戦術は、昇は知っていた。
「我々のまねごとをするつもりか? だがそれはもう気付いている!」
その言葉を合図に、エグニマ艦隊の背後から無数のレーザーが飛んで来た。
突然の事態に、なすすべもなく轟沈していく。
「第3陣、ただいま到着しました!」
エグニマ攻略艦隊・第3陣が、たった今になって到着したのだ。
『敵艦隊、増援を確認! 戦略プランに支障発生!!』
エグニマ艦隊は、たたみかけるような人類の戦略に、混乱を起こし始めた。
「第3陣は強化服部隊を火星の地表に降ろしてくれ! 地表の生産施設を叩き潰せ!」
『了解です! 川島提督!!』
第3陣が強化服部隊を降下カプセルに載せて降ろし始める。
させないと言わんばかりに、エグニマの艦載機たちが襲い掛かる。
しかし、甲板にいた狙撃班が電磁狙撃砲で撃ち落とす。
哨戒攻撃艇も近づけさせるかと言わんばかりの勢いで叩き落とす。
エグニマ艦もボディ下側のレーザー砲を第3陣に向ける。
それも見越した第3陣はSSMを放つ。
弾頭に使うのは炸裂プラズマ反応弾。
プラズマ爆弾の技術を転用したSFSW、戦略先制攻撃兵器にカテゴリーされる強力なものだ。
連邦にとっての切札的な兵器を用いることは、この戦いが総力戦であることが理解できる。
レーザー砲の充填が間に合わず、エグニマ艦はSFSWの犠牲となった。
炸裂性プラズマの炎がエグニマ艦のボディを焼き尽くす。
戦略先制攻撃兵器は文字通り、敵の機先を取るために開発された戦略兵器の総称だ。
はるかの赤星が使うレーザー砲も準戦略先制攻撃兵器として運用され、連邦軍のとっておきともいえる。
「敵もいずれSFSWを使ってくる! だが、恐れることはない! それを知った上で、我々は迎え撃つまでだ!!」
昇も腹を括った。
戦争で自分たちが優位に立てば、敵もそれに追いついて痛いしっぺ返しを受けることになる。
互いを知り尽し、ぶつかり合う。
戦争とは、破壊と再生の頂点かもしれない。
強化服部隊が地表へ降下したことを知らせるサインが表示される。
「第3陣より入電! 強化服部隊、地表へ降下成功!!」
「このまま一気にと行きたいが、敵も死力を出している! こちらも死力を尽くして戦うぞ!!」
昇は知っていた。
戦争とは、言葉のない対話の一つであると。
力と力がぶつかり合い、知恵が張り巡らされた戦場に於いて、攻撃と言う声なき言葉が交わされる。
それが、相手の命を奪ったとしても、次に生かせばいい。
残酷な戦場で唯一の対話手段が武力と言うのは悲しいことである。
異星種族の中には、戦う事でしか自らを見いだせずにもがく者たちもいる。
争いを好まず、平和的な暮らしを求める者たちもいる。
しかし、エグニマはそんな彼らを滅ぼし、自分たちだけが唯一の存在になろうとしている。
生存意義を賭けた戦いは、これからも続くだろうと、誰もが分かっていた。
だからこそ、この戦いに勝って反撃に繋げる。
そう決めていた。
エグニマも、それを理解し始めていた。
『プラズマ収束レーザー砲、起動。 敵艦隊を排除する』
エグニマもSFSWを持っていた。
すると、火星の地表に設置されていた大口径のレーザー砲が起動した。
「火星地表に高エネルギー反応! 敵のSFSWと推定!!」
オペレーターが叫ぶ。
敵の狙いは、地表へ降下中の部隊。
降下を急がせるが、
『掃射』
間に合わなかった。
青白い極太のレーザーが地表から放たれ、強化服部隊諸共第3陣は跡形もなく焼き尽くされた。
「第3陣全滅!」
「ひるむな!! まだ負けたわけじゃない! 今こそ反撃の時だ!!」
昇は発破をかけた。
まだ負けたわけではない。
そう来ると予想していたのか、はるかはそのレーザー砲に向けてランチャーを構えていた。
「あんなもの、ぶっ潰してやる!!」
エネルギーに魔力を付与させた特別な一撃を与えるつもりだ。
「吹っ飛べええええええぇぇぇっ!!」
引き金を引く。
魔力が混ざった極太のレーザーが地表まで飛んでレーザー砲に吸い込まれていく。
砲身の内側を損傷させ、発射不能に追い込ませた。
『レーザー砲、使用不能。 修復まで3時間を要する』
エグニマ艦隊はとにかく拠点を守ろうと必死になり始めた。
「第3陣全滅に伴い、本艦隊機動部隊が地表制圧を行う!!」
昇ははるかを含めた、機動部隊に降下命令を出した。
「丁度良かった! これも使い物にならなくなったから、有り難い!」
既に無茶な出力で撃ったためか、レーザー砲が焼けてしまった。
『無茶するからだ! 後で修理代を請求するぞ!!』
「ごめんなさーーい!」
遊子彦に叱られ、はるかは降下カプセルに乗り込んだ。
「機動部隊、全機降下カプセルに搭乗完了。 降下シーケンスに入ります!」
フェリーチェは直ぐざま降下シーケンスに取り掛かる。
「火星か……」
赤星のコックピットではるかは降下に備えた。
幼いころ、宇宙春節の時期になると両親とよく行っていた。
あの時食べた火星中華料理の味が忘れなかった。
この戦いが終わって、火星が元の姿に戻ったら、また食べたいと思った。
今はこの戦いに集中しておくことにした。
「降下カプセル、降下開始!」
フェリーチェの掛け声を合図に、降下カプセルは火星の地表に降り立った。
大気圏との摩擦で外殻が焦げる。
はるかたちは、地表戦に備えて装備を確認する。
偵察隊からの情報によれば、強化服対策用の大型アンドロイド兵がいると聞く。
『間も無く地表に到着します。 各部隊の判断で敵を撃破してください!!』
フェリーチェの声が、通信スピーカーから響く。
「聞こえたな。 第1小隊は市街地跡の敵を排除し、その後、建設中の敵の生産施設を叩く!!」
守は市街戦になることを想定し、こんな命令を出す。
「敵も馬鹿ではないが、見せつけてやれ! 人類の底力って奴を!!」
「「了解!!」」
全員が異口同音で了解の意を示した。
途端、ゴツンと言う衝撃が走る。
地表に到着した。
「着いたぞ! さぁ、お掃除開始だ!!」
守の言葉を合図に、強化服部隊は一斉に飛び出した。
アンドロイド兵たちも応戦するが、強化服のレーザー突撃銃に撃ち抜かれてしまう。
「油断するな! ここの連中は大型もいるはずだ! 警戒しろ!」
そう言い終えた途端、地響きが襲う。
強化服部隊は、一層警戒を強める。
その地響きの主が姿を現す。
「こ、こいつは!?」
はるかを含む全員が驚いた。
それは、アンドロイド兵に間違いなかった。
しかし、それは恐竜型異星生物を改造した、拠点防衛用兵器だった。
『拠点防衛兵器3000XV-R、これより、迎撃・排除フェイズに移行する!』
敵も本気になってきましたね!
今後についてですが、この第8話で第1部が終わり、第9話からが新たな展開を予定しています。




