表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
21/39

5-4 闇のデパートを叩け! (後編)

「連邦が、弊社に攻めてきただと!?」

 光聖商会の会長、光聖誠みつよしまことが突然の知らせに驚愕した。

「市長は何をやっている! 彼が居なければ、弊社の利益が損なわれるぞ!!」

「それが、市長は既に連邦の手にかかっていまして……」


 秘書が焦りながらも報告する。

 誠はバカなと言う表情で絶句した。

 光聖家は、代々裏社会で財を成し遂げてきたマフィアの家系だ。

 表社会で善良な高級デパートを装って密造食品や偽ブランド品などを売りさばき、裏社会委では武器を密売したりして巨万の富を貪っていた。


 さらに、グループ系列の冷凍食品会社で、「成功を呼ぶお惣菜」シリーズを売り出しているが、実際は加工肉などにCADA、宇宙アンチドーピング機構が定めた指定禁止薬物を添加していると言う不正競争防止法違反に入る行為を行って販売していた。


 しかし、その成功を呼ぶお惣菜シリーズで不正薬物を使っていることが最近になって発覚。

 製品は発売禁止処分となり、光聖商会にとって大きな打撃を受けたばかりだった。

 その状態で追い打ちをかけるかのごとく、連邦軍が摘発に乗り出したと言うわけだ。


「何とかしろ! 連邦軍を追い出して経営の立て直しを考案してくれ!!」

 誠はそう言いながら現在いる会長室にある非常用通路を開こうとするが、何故か開かない。

 これは、既に連邦所属の電子戦部隊が光聖商会の商業店舗兼本社ビルのメインシステムにハッキングをかけたからである。


『こちら電子部隊、光聖会長の退路の封鎖に成功! その他、進路を確保した。 思いっきり暴れてくれ!!』

 電子部隊隊長は通信で突入部隊にハッキングの成功を呼びかけた。

「了解した。 聞こえたな? 各員、これより地下工場へ突入する! 正規従業員は排除しろ!!」

 地下工場攻略部隊隊長の掛け声と同時に、部隊は地下工場へと突入した。


 突然の突入に戸惑う光聖商会の正規従業員たち。

 非正規従業員たちが喜びの声を上げる。

 自分たちは開放される。

 それをどれほど待ち望んでいたか。


 正規従業員は、非正規従業員を人質にしようとするが、それよりも先に連邦軍が人質救助に向かわせた別動隊が駆け付け、見事に救助した。

「この正義ヅラした狗どもが!!」

 激高する地下工場の工場長。


 しかし次の瞬間、彼の額をレーザーが貫いた。

 それを合図に、正規従業員たちは降伏の意を示した。

 これ以上戦っても、自分たちは負けるだろうとわかっていた。

 そして、部隊は地下工場を撮影し始めた。

 摘発の際の証拠となる写真は、1枚たりとも逃さなかった。


 そのころ、上層階へ向かうはるかたちは、正規従業員たちの足止めを受けていた。

「会長の下へは行かせん!」

「お前たちはここでくたばってしまえ!!」


 凄まじい弾幕に、隠れている階段の位置から1歩も動けない。

(こうなったら、あいつらを騙せる魔法ってあったらいいけど!)

 はるかは思考をフル回転させた。

(魔力で出来た分身に、物質効果を待たせて、そんでもって、熱源探知もされやすい……!)

 イメージは固まった。


 はるかはそれを実行に移した。

「行け!」

 魔法を発動させた。

 正規従業員は、

「愚か者め! 的になってきやがった!」


 飛び出してきたはるかをライフルで蜂の巣にする、かと思われた。

「なんだ!?」

 そのはるかに感情はなく、ただゆらりと正規従業員に近付いていく。

「こ、こいつ化け物か!!??」

 正規従業員たちが、恐怖のあまり銃を乱射する。


 これははるかが作り出した、「ある効果」を持った分身だった。

「皆さん、伏せてください!」

 はるか本人が叫ぶと同時に、レオナたちが伏せた。

 次の瞬間、はるかが本人が作った分身が大爆発を引き起こした。


 巻き込まれた正規従業員は木っ端みじんに吹き飛んだ。

「はるかちゃん、今のは?」

「名付けて、爆弾人形ボンバードール!爆発効果を持った分身で相手の目をだましつつ攻撃する魔法です!」

 はるかが自慢気に胸を揺らした。

 やはり戦闘服コンバットジャケットからもわかるくらいに育ちが良かった。


 男性隊員たちはひそかなSNSのやり取りで、

「あの子、天使だ!」

「そうだな、マジで俺たちの女神さまだ」

 などと、雑談していると、

「そこ! 無駄なお話は、作戦が終わってからにしなさい!!」


 レオナに咎められた。

 取り敢えず進路は確保された。

 はるかたちは恐れず前へと進む。

 上層階攻略部隊は、快進撃を続けていた。

 そんな中、はるかはある気がかりなことを言う。


「光聖商会で少し不吉な噂を聴いたんです」

「どんな噂?」

 レオナは興味を示した。

 無理もない。

 光聖商会は表向きは高級デパートと言うから、興味深いうわさ話は貴重な情報源でもある。


「光聖商会の遊園地で、子供連れが何組か行方不明になったって」

「それって、幼年兵育成のために誘拐するって話よ」

 レオナは率直に答えた。

 光聖商会は幼年兵を育成するため、地球にある「ワクワクランド」を運営している。


 そして、誠に目を付けられた親子連れは従業員から特別待遇と言う誘拐を行い、親は光聖商会の地下工場で強制労働、子供は徹底して戦いを教え込まれ、各宙域の紛争宙域へと送られる。

 そんな外道にも思える光聖商会を叩けば、月面都市の犯罪率は大幅に下がるだろう。

 しかし、そうは問屋が卸せなかった。


 なぜなら、

「教主様の仇!」

「みだらな女に、鉄槌を!!」

 常闇の蛇に触発されたシンジケートたちが、光聖商会を守ろうと襲い掛かって来た。


 アサルトライフルやハンドガンが勢いよく弾丸を吐き出す。

 はるかはレーザーシールドを張って味方を守った。

「もう! 常闇の蛇って、うっとおしいんですけど!!」

 はるかは不満を漏らす。


 無理もない。

 前にも話したが、常闇の蛇には多数のシンジケートが存在している。

 彼らが連邦の管轄内で活動できるのは、光聖商会があってこそである。

 光聖商会は、裏社会にとって大きなコネクションと潤沢な資金などが取り揃えており、犯罪組織への資金援助から、違法薬物の売買など、様々な犯罪幇助行為に手を染めている。


 加えて、月面都市市長が大物マフィアの首領であることも相まって、現在までの地位を築き上げてきた。

「でも、光聖商会をつぶせば!」

「私たちの平和は、守られるわ!!」

 はるかがシールドにありったけの魔力を込める。

 レオナは、グレネードランチャーを取り出し、催涙ガス弾を装填する。


「みんな、対ガス防御用意!」

 はるかを含め、全員が戦闘服のヘッドギアに内蔵された防ガスマスクを展開する。

 次の瞬間、レオナが催涙ガス弾を発射する。


 赤黒い煙幕が視界を包み、涙腺や喉の粘膜を刺激させる。

「クソッ!」

「これでは何もできん!!」

 シンジケートたちは余りの痛さに床に転げ落ちる。


 この隙にはるかたちは一気に事務区画へと登り詰めた。

 そこで待っていたのは、既に正社員に見捨てられた契約社員たちが、助けに来てくれたことに安どしている様子だった。

「もう大丈夫です! 光聖商会は本日をもって営業取り消しにします! 皆さんは今のうちに退避を!」


「そうはさせんぞ!!」

 レオナが言い終えた途端、誠が堂々と現れた。

「貴様ら連邦の狗はここで死ぬのだ。 我が社の営業を妨害した罪で!!」

 そう言いながら、ハンドレーザーガトリングガンを構える。


 自社製品なのか、光聖商会のロゴが機関部に刻まれている。

「喰らえ!!」

 誠がレーザーを乱射し始める。

 はるかはすかさずレーザーシールドを張って契約社員たちを守る。

「ふん、小娘が! その偽善、気に喰わない!!」

 誠がはるかに集中砲火を浴びせた次の瞬間、身体に鈍い衝撃が走る。

「な!?」

「残念でした。 あんたが攻撃したのは、そう見せるように作った幻だから。


 いつの間にソードモードの紅龍を手にしたはるかが誠にそう言った。

 はるかは、設置型の幻覚魔法で誠の注意を逸らし、ソードモードで誠に一撃を加えた。

「う、嘘だ……!」

 誠は騙された事実に絶望し、

「こんな、こんな……! こんな小娘ごときに!!」

 断末魔を上げて絶命した。


「はるかちゃん、お見事!」

 レオナはそう称賛すると、

「少尉、お疲れ!」

「やっぱ君は、女神さまだ!!」


 隊員たちも大いに労った。

「何だか恥ずかしいな……!」

 恥ずかしそうな表情を見せるはるか。

 こうして、常闇の蛇から始まった長い戦いは幕を閉じた。


 翌日、新聞の1面記事には、《闇のデパート・光聖商会、遂に陥落!》、《18歳の若き少尉、光聖誠容疑者を討伐》などと、はるかを称賛する記事などで埋め尽くされた。

 毎週日曜夕方の報道番組では、光聖商会の実態などが特集され、瞬間視聴率は50%以上をたたき出した。


 そんなはるかの功績をたたえて第1迎撃艦隊では、ムラクモの食堂を使って、記念パーティーが行われていた。

「今日は光成少尉のお手柄を祝って、乾杯!」

 昇の掛け声を合図に、パーティーは盛り上がった。


 主役のはるかは、少し恥ずかしそうに笑いながらも、仲間たちと絆を深めた。

 そんな中、1人の少女がはるかの下へ歩み寄った。

「み、光成少尉ですよね?」

「ん?」


 はるかは彼女に気づいた。

 すっかり回復しているのか、救助された時よりは少女らしい清楚な雰囲気を醸し出していた。

 流れるように長い黒髪、程よい丸みを帯びたスタイル。


「和泉フェリーチェ准尉、ただいまを以てムラクモに着任いたしました!」

 少女、和泉フェリーチェははるかに向かって敬礼した。

「SOSを送ったのは、貴方だったのね」


「はい! 光成少尉のお話は病院でもお聞きしました!」

 フェリーチェは凛々しい口調ではるかの質問に答える。

「凄く堅苦しいんだけど……」

「無理もないさ。 彼女は和泉総一郎准将のご息女だからな」


 戸惑うはるかに、昇は優しく説明する。

『和泉准将と言えば、柔軟な思考と確かな戦術眼が武器で軍の中でもトップクラスの戦略家でしたね? なぜ彼が暁の黒猫に捕まったのでしょうか?』

 ペイはこんな疑問を投げかけた。


 いくら優秀な将校が強盗に捕まると言う失態を犯したのか、その理由を知りたいと言う見解である。

「実はな、准将から聞いた話によると、観光船に暁の黒猫の構成員が潜伏していて、彼らによるハイジャックに巻き込まれてしまったと言うんだ」

 昇が総一郎から聞いた話によれば、妻とフェリーチェで家族旅行に観光船に乗った際にハイジャックに巻き込まれ、そのままとらわれてしまったと言う。


「フェリーチェ准尉も、大変だったね」

「いえ、父の救助に来てくれただけでも、感謝しています!」

 フェリーチェは誇らしい笑顔を見せる。


 これから共に戦う仲間が出来た。

 そんな中、昇のタブレットに利光から指令書が送られた。

『第107資源惑星にてエグニマの拠点らしき施設を偵察艦隊が発見した。 詳細は不明である。 第1迎撃艦隊はすぐさま偵察艦隊と合流し、これの調査に当たれ』

これで、第5話も完結!

いやはや、長かった。

第6話では、敵の正体などにも少し触れて行くつもりですよ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ