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4-4 焼肉とAI

「なるほど、エグニマの乱入があったか」

 報告書を読み終えた光利はふぅ、とため息を吐く。

 あれから12時間が過ぎており、昇は今後について打ち合わせていた。

「救助者の中には、君と同じ力を持った少女がいると言うのは、本当かね?」

「はい」


 昇は追加の報告書を転送する。

 それによれば、その少女は幻視を見ることが出来るがゆえに、黒猫に利用されていたと言う。

 現在は連邦病院で療養しており、退院のめどは未だたっていない。

上層部うえは何と?」

「現在でも今後の方針を議論している。 エグニマが攻めてくるか、わからない不安があるから、私も頭が痛い」


 光利は上層部が未だ戦うべきかどうかの議論が続いていることに、頭を悩ませていた。

 未だに共産党と民主党の軋轢が埋まりきっていないのが事実だ。

「未だに反戦主義を貫いていますからね」

「まったく共産党と言う物は」

 光利は、頭を掻きながらコーヒーを飲む。


 そんな様子を他所に、

「レオナさん、今日は何食べますか?」

「そうねぇ、今日は黒毛地球牛の焼肉なんてどう? いい店予約したの!」


 はるかとレオナは今宵の店について話し合っていた。

「おい、今日の店は決まったのか?」

「勿論! 『焼き肉の八兵エ』よ!」

 話し終えた昇の質問に答えるレオナ。


 焼肉の八兵エは、全宇宙に展開する会員制高級焼肉チェーンだ。

 こだわりぬいた黒毛地球牛を会員にのみ提供するため、政界人からアイドルも御用達の店ナンバー1だ。

 東アジア諸国にある本店は正に総本山とも言える店だ。


「八兵エか。 悪くない。 参謀長官もよろしければご同席を願えませんか?」

「いい案だ。 ここ最近食事がとれていないからな。 ご同席をさせていただこう」

 光利は席を立つ。


「参謀長官、ご老体に動物性脂肪の過剰摂取は禁物です。 適度な摂取をお願いします」

 担当秘書が注意を促すと、光利はわかったと言いながら昇たちに同行した。

 車を走らせながら昇はお気に入りの曲をかけた。

 古い時代に流行った声優の歌が車内に響く。


「これ、生の人間が歌っているのですか? 今でも声優さんの歌は人気ですけど」

 はるかはその曲を聞いて率直な感想を言う。

 今も昔も、アニメの声優は人気がある。

 ただ、声優の声を巡ってフェミニストたちが声を荒げている。


「気持ち悪い声を出している」

「化け物声」

 そう言った差別的発言を出している中、オタクたちとの融和姿勢を見せる活動家も少なからずいる。

 しかし、そう言う思想を持つ者たちは反逆者と言う扱いを受けてしまっている。

 話を戻そう。

 一行を乗せた車は、八兵エ本店へとたどり着いた。


 流石は高級店と言ったところか、店名が書かれた看板が3Dネオンで彩られている。

「いらっしゃいませ。 ご予約であれば会員証をお見せください」

 入り口前にいた案内係が尋ねてきた。

 レオナは端末に記録してあるデジタル会員証を見せる。

「確認しました。 どうぞ、お入りくださいませ」

 案内係に通され、はるかたちはその店内へ足を踏み入れる。


「うわぁ……!」

 はるかは目を輝かせた。

 何故なら、高級店に相応しい雰囲気のあるレイアウトであふれていた。

 店内は個室制のため、人目を気にせず思い切り味わえると言うのが特徴だ。

 レオナが予約したのは、格式が高い松107号室だ。


 部屋の中に入ると、其処は掘りこたつ式のお座敷スタイル。

 テーブル中央には、プラズマ加熱式無煙ロースターが存在感を放っている。

 星歴では、焼肉と言えばプラズマ加熱式ロースターを導入する店が多く、環境や健康面にも配慮している。

 ガスよりも安全で油も適度に落とすのが、プラズマ加熱式のメリットだ。


 八兵エはこれに加えて、食べ放題プランも導入している。

 高級店の食べ放題に憧れて会員登録を目指す家族も多いが、それを避けるために八兵エでは入会しなくても気軽に入れるランチ食べ放題プランも導入されている。

 ちなみに、レオナは予約の際、食べ放題プラン『松』にしていた。


「さぁ、今日は私のおごりだからね。 参謀長官も遠慮なさらずに」

「松吉中佐、私は適度に頂くから気を遣わずに」

 そんな会話を他所に、はるかは注文用端末を操作する。

「特上カルビに、ハラミステーキ。 どれも美味しそう!」


 目移りするのも無理はない。

 黒毛地球牛が好きなだけ食べられるのだから。

 取り敢えず、極上タン塩とアクアソーダを注文した。

 レオナは特上ロース、昇は上ハラミステーキ、光利は海鮮メニューの特上クルマエビを注文した。


「ここに来るのは初めて?」

「はい。 以前ウィオンモールランドで見かけただけなので、何時かは訪れてみたいと思っていました!」

 興奮するのも、無理はなかった。

 幼いころ、憧れていた高級店に入れただけでもうれしかった。


「お待たせいたしました。 ご注文の品でございます」

 ギャルソンが注文した品々を持ってきた。

 流石は高級店だけあって、肉や素材の質にこだわっている。

 ハラミに関しては早く焼いてくれと言わんばかりに輝いている。


「では、ロースターを起動させます。 ごゆっくりどうぞ」

 ギャルソンがロースターを起動させる。

 液体水素とプラズマが反応を起こして火力が最大になる。

 これは、水素プラズマ燃料電池技術を応用した調理家電技術の一つである。


 業務用もあれば、家庭でもできる卓上タイプなどが多くある。

 はるかは、早速注文した極上タン塩を焼き始めた。

 加熱プレートに載せられた厚切りの牛タンがジューと言う音色を奏でる。

 同時に香ばしい匂いが漂い始めた。


 続けざまに、レオナが特上ロースを焼き始める。

 肉の焼ける匂いが、食欲をそそる。

 八兵エの売りは、肉だけではない。

 厳選した産地直送の野菜から新鮮な魚介類、〆に食べる逸品や専属パティシエが作る極上デザートなどが豊富に取り揃えてある。


 これだけの食べ放題プランだが、値段が高いのがネックと言える。

 通常の高級バイキングだって、平均で最大4980クレジットが相場だ。

 八兵エでは、富裕層向けの店だけにレオナが選んだ松プランは最高額の2万クレジットだ。

 最安値の梅プランでも6980クレジットと、無理をすれば可能な額だ。


 そうこうしている内に、最初に置いた分が焼き上がった。

「いただきます!」

 はるかは、焼き上がったタン塩をお皿に運ぶ。

 焼き上がり上々で、肉汁が輝いている。

 それをすかさず、何もつけずに口に運ぶ。


 アツアツの肉の感触がいっぱいに広がる。

「やっぱり、地球牛は美味しいですね! 何もつけないで食べるのが最高です! 特にタン塩は!」

「そう? 私はニンニクソースに漬けて食べるのが通なのよ」

 はるかの感想に対して、レオナは焼き上がった特上ロースを特製ニンニクソースに漬けながら口に運ぶ。


 余談だが、八兵エに通う客の中には、特製ニンニクソースにスプレッドバターを混ぜて食べると言う裏技を持っている客もいる。

 その食べ方は公式サイトでも認められているため、通な食べ方の更なる深淵アビスと言ったところだ。

 高級店がこんなジャンキーな食べ方を把握していることは、創業者の懐の広さゆえである。


 光利は、焼き上がった特上クルマエビを頬張り、すかさず清酒で流し込む。

「妻には止められてはいるが、酒を飲む機会はなかなかにないのでな」

「お察しします。 自分もアルコール系には弱いので」


 昇は発泡性ノンアルコールドリンクで喉を潤し、カットしてもらった上ハラミステーキを更なる深淵の食べ方で堪能した。

 やはり通な食べ方はおつな物である。


 はるかは、レオナが焼いてくれたであろう特上ロースを塩レモンだれに漬けて頬張る。

 地球産レモンのさわやかな味わいが、いっぱいに広がり、肉の脂っこさが中和されていく。

 そんな中、

「光成君、少しだけいいかな?」

「何でしょうか?」

 光利に呼ばれ、はるかは緊張した。


「君は我が軍の試験に於いて、攻撃艇を3機撃墜したではないか」

 そう、はるかは卒業試験として参加した暁の黒猫戦で哨戒攻撃艇を3機撃墜した。

 その戦績は、上層部も高い評価を得ていた。

「あ、確かに、3機は墜としました! もう何が何だか……」


 恥ずかしそうに頭を掻くと。

「いや、むしろ胸を張っていいことだ。 君の戦績は強化服を1機失っても採算がとれる。 その功績を踏まえて、君に上層部から辞令が届いた。 悪くない話だ。 確認したまえ」

 光利は、そう言って辞令ファイルをはるかの端末に転送する。


 すかさず、はるかはそれを開封する。

 そこには、こう書かれていた。

『光成はるか、貴君の戦果は見事であった。 我々地球連邦は、その戦果を大変喜ばしく思っている。 本件として、その戦果を踏まえた上、貴君をムラクモ所属、少尉に任ずることが決定された。 おめでとう。 これからの活躍と戦果を期待する』


「これって、私が、川島提督の所属に!?」

「君の技能を見込んでのことだ。 それと、私からのプレゼントだ」

 昇は、はるかにあるものを渡す。


 それは、少尉の階級を示す襟章だった。

 しかも、第1迎撃艦隊のエースに与えられるものか、豪華な装飾が施されていた。


「川島提督、ありがとうございます!」

 はるかは嬉しそうにはしゃいだ。

 昇も嬉しそうな表情を見せる。


「さて、宴もお開きにして川島少将、新しい任務があるんだ」

「良くない知らせですか?」

 光利の真剣な発言に、昇は耳を傾けた。

「土星で絶世の美女と呼ばれた女優、クリスティーナ・伊藤が拉致されたのだよ。 犯行に関わったグループの目星はついている」


「反女性社会進出主義を掲げる《常闇の蛇》、ですね?」

 常闇の蛇は、土星のスラム街を根城とする反社会主義集団だ。

 特に、女性の社会進出を毛嫌い、話題の女性を虐げてから殺害する動画を流し、それが宇宙社会でも問題に取り上げられている。

「そいつら知っています! 今、社会的な問題になっています!!」


 はるかは、その話に割り込む。

 ジュピトリスにいたころは、そのニュースをたびたび見ていたからだ。

「君も見たなら話は早い。 第1迎撃艦隊は直ちに土星に向かい、彼女を救出せよ!」

 光利の命令に、一同は了解と敬礼した。


「あぁ、光成君の制服は後日ムラクモに手配しておくから、しばらくは地球を散策するといいぞ」

 光利の言葉を締めくくりに、この日はお開きになった。


 数日後、はるかは月面宇宙港へ向かっていた。

 その手には、植物原料で作られた人工肉ソーセージのホットドッグが握られていた。

「赤星、ちゃんとメンテされてるかな?」


 ホットドッグをかじって、はるかは愛機の心配をしていた。

「心配ない。 ちゃんとメンテナンスしているから安心しろ。 それと、君に渡すものがある」

 そう言って、昇ははるかにあるものを渡す。

 それは、連邦軍の支給品のウェアラブル端末だった。

『はじめまして。 あなたが私のパートナーですか?』


 突然端末から音声が飛び出し、はるかをうわっと驚かせた。

「ははは。 支援啓発用パーソナルAIは初めてだったか?」

「支援啓発用?」

 聞きなれない言葉に、はるかは首をかしげる。


「そいつは、お前の相棒となる存在だ。 だから、会話くらいは最低限、しておけよ」

『そう言う事です。 よろしくお願いしますね、相棒マスター

 このAIとはるかのコンビが、誕生した瞬間だった。

遂にはるかも正式入隊します。

次回から公開される第5話では、想像を超える過酷な現実がはるかを待ち受けるかも?

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