4-3 暁の黒猫討伐作戦
暁の黒猫アジト周辺宙域、そこでは連邦との小規模な戦いが繰り返されている。
黒猫仕様の哨戒攻撃艇が、連邦軍を何とか追い払っている。
「クソッ、連邦の狗どもめ! 力こそが全てだと言うのをまだわからぬのか?」
「そう言うな。 いずれ我らが連邦を討ち滅ぼし、平和こそが無意味であることを愚民どもにわからせてやるんだ」
黒猫の団員たちは、仕事を終えてアジトへ向かう。
しかし、それを遠くの物陰から見る不審な機体。
エグニマの偵察機だ。
『偵察機329号より。 強盗団と呼ばれる野蛮な種族の偵察を完了。 これより母艦へ帰投する』
『虐滅艦隊・1番艦、了解。 帰投が完了次第、直ちに攻撃を敢行する』
その不審な電波に、
「ん?」
「どうした?」
黒猫の団員たちは不穏に思う。
「今誰かが、見ていたような?」
「気のせいだろ? この宇宙で誰も見てないって!」
「そうだぜ。 早く帰って酒が飲みたいぜ!」
団員たちは今日の一杯を飲みたいがために足早に戻った。
それが、彼らの不運の始まりを告げていることを知らず。
アジトに戻り、団員たちは奪った食料などで酒盛りをしていた。
「見ろよ、この金の首飾り。 お金持ちさまからいただいたんだぜ!」
「俺なんてこれだ! 宇宙で絶世の美女と言われた女優の婚約指輪だぜ! 売れば1億クレッジトはくだらないぜ!」
団員たちはそれぞれの稼ぎを自慢しあいながらビールを飲み干す。
「あぁー、幸せ! やっぱ一仕事を終えた後の一杯は格別だぜ!」
「で、その女優はどうしたんだ?」
「土星に売り飛ばしたよ! 500万の大金が出たから、お前のビールは、俺が奢るぜ!」
海賊らしい酒盛りが続く中、独房地区に収監された少女は一人で泣いていた。
「助けて……!」
それを聞いた担当の団員は、
「無駄、無駄。 どうせ助けなんて来ねえし、そうはさせないからな」
酒に酔っているのか、上機嫌だった。
しかし、この時暁の黒猫は知らなかった。
自分たちと連邦、そしてエグニマとの三つ巴戦になることを。
連邦軍は、旭級高等練習艦5隻と迎撃艦隊の混成艦隊が現場に向かっていた。
「暁の黒猫、新聞でやっと覚えたばかりなんです」
はるかは、端末にダウンロードした新聞を読んだ感想を昇にぶつける。
昇はそれを聞くと、そうかと言ってブリッジへ向かう。
ムラクモの格納庫では、赤星がいつでも発進できるよう整備されていた。
「お嬢ちゃん、何時でも行けるぜ! 頑張りな!!」
「ありがとう、ユズ爺!」
はるかと遊子彦は、とても仲が良くなっていた。
そのきっかけは、はるかがまだ地球に向かっていた時にさかのぼる。
自分の機体についてまだ知らなかったはるかは、昇の勧めでベテランメカニックに聞けと言われた。
その時の相手が遊子彦だった。
「いいか、自分の機体はな。 こうやって、俺たちがばっちり整備しなきゃならない。 お前さんも、これから俺たちの仲間になるんだろ?」
「はい。 その為には、自分の機体について知りたいんです!」
はるかは、遊子彦からたくさんのことを学んだ。
操縦基礎から、整備の仕方、はたまた整備の際の注意点などもきっちり学び、現在に至っている。
とたん、緊急の情報が飛び込んできた。
『艦長、川島昇より全艦に通達。 偵察隊がエグニマらしき機影を確認した。 状況によっては、暁の黒猫と三つ巴になることも予想される。 各艦のパイロットは状況を冷静に分析し、対応されたし。 川島より以上』
「エグニマって、あのジュピトリスを襲ったやつらのことですか?」
館内放送を聞いて、はるかは遊子彦に訊ねた。
「まぁ、木星で育ったのお前さんが知らないのも当然か。 連邦がこいつらにつけた名前だ」
「エグニマ……!」
はるかは、改めて敵の名を覚えて出撃に備えた。
「おいおい、操縦用服に着替えておけよ! でないと、息苦しくなるからな!」
着替えずに乗り込もうとするはるかを、遊子彦は止めた。
「すいません!」
慌てて、はるかは更衣室へと向かった。
女子更衣室では、すでに女性士官たちが着替え終えていたのか、空いていた。
はるかは、自分の名前が書かれたロッカーを開く。
そこには、既に仕立てているのか、赤を基調としたノーマルスーツがハンガーにかけられていた。
はるかはジュピトリス女学院の制服を脱ぎ、ノーマルスーツに着替える。
このノーマルスーツは、体のラインに合わせてフィットする最新衝撃緩和素材でできており、育ちがいい体をより引き立たせている。
それがはるかの体が引き締められる感覚があった。
「このノーマルスーツ、私の胸が強調されてる。 まぁ、いいか」
格納庫に戻り、赤星に乗り込む。
「お嬢ちゃん、艦長から聞いた通りだが、エグニマと三つ巴になる可能性があるからな! お前さんは奴らと戦ったから、新入りを守ってくれよ!」
「了解!」
はるかは、ハッチを閉めて発進に備えた。
モニター類が起動して、準備は完了した。
『作戦宙域に到達! 各機、発進してください!』
オペレーターから通信が届く。
赤星は、昇降機で格納庫の下にあるカタパルトへと運ばれる。
『リニアカタパルト、ボルテージ上昇。 射出タイミングを譲渡します、どうぞ!』
リニアカタパルト内の電磁加速帯が唸りを上げる。
発進シグナルが全て青に変わる。
「光成はるか、赤星、発進します!!」
赤星が電磁加速帯の中を勢いよく駆け抜ける。
そして、カタパルトから宇宙空間へ飛び出す。
「実践は2度目か。 今回は操縦基礎をしっかり叩き込んだし、紅龍の使い方を物に出来つつある! 今の私なら!」
紅龍を呼び出し、
「出来る気がする!!」
襲ってくる黒猫の哨戒攻撃艇を撃墜する。
「な、何だあれ!?」
「連邦の新型!?」
団員たちが驚きを隠せない中、
「光成は先陣を切れ! 我らも後に続く!」
「了解です!」
旭級高等練習艦「サザナミ」艦長が叫ぶと、はるかは先陣を切った。
旭級高等練習艦は、連邦軍士官学校の訓練生たちが乗り込む船である。
武装も120mm2連装レーザー砲や対空迎撃システム、ミサイル発射管などを装備した高性能艦だ。
「この新型が!!」
怒り狂った団員の攻撃艇が突っ込んでくる。
はるかはすかさず、紅龍を剣に変化させる。
「何!? 銃が剣になった!?」
赤星がスラスターを吹かして突っ込む。
団員が驚く間も無く、攻撃艇を切り裂いた。
「何だこいつは!?」
「聞いてないぞ!?」
黒猫の団員たちは戦慄した。
「お前、お頭に報告しろ!! 連邦が新型を投入してきたと!!」
伝令役に命令した途端、11時方向から無数のレーザーが飛んできて哨戒攻撃艇部隊を薙ぎ払った。
「まさか!」
赤星がレーザーの飛んで来た方角を見る。
そこには、エグニマの艦隊、およそ10隻が航行していた。
「な、何だこいつらは!?」
黒猫の団員たちがその異様さに畏怖した。
『強盗団ならびに、抵抗者を虐滅する』
エグニマ艦隊が艦載機を差し向ける。
『拙いぞ! 川島提督! 虜囚たちの救助は我々練習艦隊が引き受けます! 奴らの足止めはお任せします!!』
「了解しました!」
練習艦隊に虜囚たちの救助を任せて、昇たちはエグニマの迎撃に出た。
「クソ野郎が!!」
団員たちが必死にアジトを守る。
エグニマの艦載機たちは、黒猫を襲う。
その時、
「俺の縄張りを汚すな! 異星人共が!!」
怒号と共にレーザーの雨がエグニマ艦隊を襲う。
何隻か撃沈し、艦隊は何が起きたのか理解できなかった。
そこには暁の黒猫が誇る艦隊が出陣していた。
茂人も提督として、ブリッジにいる。
「我らは力こそすべての世界を作る! それを邪魔するものは、打ち倒す! 例え非道な異星人であったとしても!!」
亀山級の艦隊がエグニマ艦隊を迎え撃つ。
レーザー砲が火を噴く。
哨戒攻撃艇部隊も息を吹き返し、エグニマ艦隊を迎撃する。
艦載機に目掛けてミサイルを撃つ。
艦載機は瞬く間に撃ち落とされる。
強盗団の誇りがエグニマに示された、はずだった。
『強盗団の攻撃手段を遮断し、虐滅する』
エグニマ艦隊が超音波を放つ。
すると、暁の黒猫に異変が起きた。
「なんだ!?」
茂人が驚く。
耳をふさぎたくなるほどの高周波音波だ。
「お頭! 全兵装、使用不能!」
「何だと!?」
エグニマ艦隊が放ったのは、火器を封じるための超音波だ。
これは、艦艇の火器管制システムを混乱させて攻撃を不能にしてしまう、正に虐滅するには持って来いの装備だ。
装備が使えなくなってしまっては、ただの的になってしまった。
「砲が使えぬのならば、全艦、特攻!!」
茂人は叫ぶ。
「お頭!?」
「最後まで見せつけるのだ。 異星人共に、我らの誇りを!」
その言葉に、団員たちは一致団結した。
たとえ屍の壁になろうとも、最期までその誇りを貫こうと。
「お頭と共に!」
「最後までお付き合いしますぜ!!」
哨戒攻撃艇と亀山級たちはエグニマ艦隊に特攻を仕掛けていく。
エグニマ艦隊がレーザー砲で迎撃する。
散開して回避する暁の黒猫。
『行動パターン分析開始! この行動は、一体!?』
エグニマ艦隊は知らなかった。
いや、機械が故に無知だったのかもしれない。
人間の持つ、感情を。
「教えてやるぜ異星人共!」
茂人は誇らしげに笑う。
「機械だから、わからねぇだろうなぁ!」
さらに加速する亀山級。
哨戒攻撃艇は搭載されたプラズマ爆弾の信管を作動させる。
「これが、人間様の!」
エグニマ艦隊に突っ込んでいく。
「誇りだ!!」
エグニマ艦隊は訳も分からず、特攻の餌食になった。
これだけの加速と質量に加え、プラズマ反応炉をオーバーロードさせれば、立派な特攻兵器になる。
プラズマ爆弾を積んだ哨戒攻撃艇の体当たりに、
『理解、不能! 理解、不能!?』
混乱しながら沈んでいく。
その様子を見た艦隊は、
『緊急撤退! 人間の行動には不可解なデータが存在している!!』
緊急重力ジャンプで、撤退した。
「暁の黒猫、全滅しました」
オペレーターが呆気にとられた。
無理もない。
最期まで人間の誇りを貫いた強盗団は、この宇宙を探してもいないだろう。
「あ、練習艦隊から入電! 虜囚たちは無事解放、残存兵力はリーダーを失ったことを知って自決した模様」
「そうか。 強盗とは言え、人間としての誇りを貫いた彼らには敬服しなくては」
昇は一呼吸置き、
「総員、暁の黒猫に敬礼!」
その一言で、乗員全員が敬礼した。
最期まで人間としての信念を貫いた暁の黒猫は、歴史に残るだろう。
悪人と言えどどこか人間臭くて憎めない。
暁の黒猫は、最期まで人間の信念と誇りを貫いたいい人たちだったかもしれないですね。




