3-3 虐滅のハーモニー ~第2番 惨状とそれぞれの戦い~
その惨状は、他のコロニーでも同様だった。
現在復興中のウィオンモールランドは、店を壊され、品物すべてを焼き尽くされたりで凄惨だった。
『公共娯楽施設内の店舗、すべての消滅を確認。 施設内のコンテンツは完全消去を完了』
死体の山に立つ無人兵器たち。
何とか生き延び、シャトルに乗り込んだ人々は、恐怖におびえていた。
あれだけの惨劇が起きれば、恐怖に陥るのも当然だ。
しかし、脱出用シャトルを敵艦隊は見逃すはずもなく、
『生存圏への逃亡を阻止せよ』
無人兵器たちがシャトルに襲い掛かる。
「行かせるか!」
わずかになった哨戒攻撃艇部隊が必死に守る。
『忌まわしき擁護者は、排除する』
無人兵器は、哨戒攻撃艇部隊を忌み嫌うかのように攻撃する。
プラズマ爆弾を飛ばして残っている哨戒攻撃艇部隊全てを焼き払う。
その後、シャトルは無事に逃げ切れたらしく、無人機たちは残念そうな信号で会話していた。
その一方で、居住コロニーでは住民の避難が完了しているのか、ほぼ野良猫や野鳥しかいなかった。
居住コロニーには、避難用のシェルターがあり、有事の際は短距離重力ジャンプが出来る脱出艇にもなる優れものだ。
シェルターは熱源探知されない遮断機能もあり、隠れるのに適した避難場所だ。
しかし、そんなシェルターも無人兵器たちはいともたやすく見つけることが出来る。
彼らには、施設機能を破壊するハッキング装置が搭載されている。
その装置でシェルターの位置を割り出し、人々は虐滅されてしまった。
辛うじて脱出艇としてパージされ、最寄りの連邦軍基地へジャンプしようとする。
しかし、全てがジャンプできるはずもなく、逃げ遅れた脱出艇は瞬く間に敵のレーザー砲の犠牲となった。
『逃亡を阻止する。 有機知性体に生存する権利はない』
生産コロニー群は、侵入した無人兵器たちに蹂躙されていた。
「逃げろ!」
畜産農家たちは家畜と共に避難シャトルへ逃げ込もうとする。
『有機物生産の罪は重い。 生産物諸共、死の処罰を与える』
逃走ルートをふさいだ無人兵器たちが、一斉にレーザーを乱射する。
畜産農家たちは、家畜諸共に焼き殺された。
『生産物の廃滅を確認』
焼き殺された家畜たちの死体に立つ無人兵器。
水産コロニーに関しては、敵艦隊のレーザー砲で破壊された。
穿つ穴から漏れ出た空気と水が氷の結晶となる。
真空との圧力差でつぶれるように崩壊するコロニー。
その惨状は、余りにもひどく、凄まじいものだった。
「伝令ドローンからより入電! 《我が領域、敵の侵攻を受けたり。 なお、このメッセージが届いたときは我が領域は壊滅されたと思う》、艦長、どうしますか?」
ムラクモで回収した伝令ドローンに記録されたメッセージを受けて、
「全艦第1級戦闘配置! これが我々の初陣だ! 必ず勝利し、生きて帰るぞ!」
昇は提督として、初の命令を出す。
乗員たちは了解と叫んで持ち場に着く。
格納庫内では、パイロットたちがそれぞれの搭乗機に乗り込んだ。
「お前ら! 機体を汚したら承知しないぞ!」
ムラクモ整備班班長・岡田遊子彦は機嫌が悪そうに叫ぶ。
彼は口は悪いが、メカニックとして信頼できる人徳の持ち主だ。
昇からも信頼を置いていることから、整備指導の腕は一流と言える。
「おやっさん! 燃料の補給完了です!」
「こっちはミサイルの積み込み完了しました!」
整備員たちが掛け声を出す。
「よし! 艦長か? いつでも発進るぜ!!」
「わかった」
遊子彦からの艦内通信で、昇は気を引き締める。
「間も無くジュピトリスへ到着します!」
「ジュピトリス到着と同時に全機発進! 艦隊も全砲門を開くように!」
昇は指示を出しながらモニターを見る。
まだ、戦闘空間モードにはしていない。
ジャンプ終了のカウントダウンが迫る。
背中にこれまでにない緊張感が走る。
そして、
「ジュピトリス宙域に入りました!」
「全機発進! 全砲門、開け!」
昇たち第1迎撃艦隊は、ジュピトリスに到着すると同時に、ありったけの艦載機を展開した。
『敵襲を確認、迎撃を敢行する』
敵艦隊も気づいたのか、艦載機を使って応戦を始める。
「敵艦隊、応戦を開始!」
「こちらも迎え撃とう! 全艦取舵90度会頭、直後に主砲発射と対空迎撃準備!」
ムラクモを始めとした第1迎撃艦隊は90度周り、主砲を敵に向ける。
敵の艦載機が襲ってくる。
その瞬間、
「てーっ!」
レーザー砲と対空迎撃システムが火を噴く。
敵の艦載機たちは瞬く間に全滅とはいかなかったが、かなりのダメージを被った。
残った艦載機たちが襲い掛かるが、強化服の1機が、高周波ブレードで切り裂いた。
振動熱が凄まじく、断面が熱せられ、すぐに冷えて固まった。
哨戒攻撃艇部隊も獅子奮迅の活躍を見せている。
自警団艦隊を全滅させた別同艦隊にも臆することはなく、巡航光子ミサイルを撃ちこむ。
光子力炸裂反応が起こり、別同艦隊が瞬く間に壊滅した。
『奇襲艦隊全滅を確認。 人間はどこで知性的戦略を身に着けているのだ?』
1番艦が戸惑いを表す電気信号を発した途端、
「アストロ・シュート!!」
一回り大きな光の矢が、1番艦を貫いた。
『緊急事態発生! 1番艦轟沈、指令系統に支障発生……!』
1番艦の轟沈を受けて、敵艦隊は混乱し始めた。
「もしかしたら!」
昇はレーダーモニターを確認する。
3時方向にアンノウンを示す灰色の点があった。
そう、はるかが無事にジュピトリスを脱出したのだ。
しかも、見慣れない強化服に乗り込んで。
その時は、はるかが敵をあらかた片付け、避難経路をたどっていた事だ。
「まなみちゃんたち、無事だといいんだけど……!」
不安が募る。
焦りもある。
はるかの心はその2つでいっぱいだった。
とにかく急がないと、はるかは駆け足で脱出用シャトルのある格納庫へと向かう。
刹那、格納庫の方角から響く悲鳴。
「まさか!?」
嫌な予感がする。
はるかは足取りを速める。
そして、その予感は的中した。
「……!」
目の前に広がるのは、およそ4機の無人兵器たち。
その下には血の海が広がっていた。
その傍らには、みじめに殺された2人の親友がいた。
「お前ら……!」
はるかは、激しい怒りに掻き立てられる。
「何でこんな事を!!」
荒々しく問う。
『質問の入力を確認。 回答の健闘を開始』
無人兵器の1機が回答を検討し始めた。
「みんな、幸せに生きたいだけなのに、どうしてこんなひどいことが出来るの!?」
『回答を拒否』
はるかの問いに、無人兵器は拒否した。
それでは答えになっていない。
はるかは、苛立ちを激しくする。
『検討終了、回答を出力。 我々は全ての有機知性体を虐滅することで、その存在意義を達成させる。 これは上位決定者からの確定事項である』
無人兵器はもっともらしい答えを示す。
「じゃぁ、他の幸せを壊してでも、自分たちを示したいの!?」
『幸せ、それは、宇宙で最も不要なプログラムデータであり、不快な感情。 我々は感情こそが有機知性体が害悪かつ矮小な種族と決定づける理由』
そう言い終えようとした瞬間、
「この野郎!!」
はるかは一発矢を放ち、無人兵器1機を撃破した。
「許さない……、私から大切なものを奪ったお前たちを、私は許さない!!」
その怒りが、彼女を更なる力に目覚めさせる。
それまで、光だった弓が形を変えて機械的な大型ハンドガンになった。
真紅のボディに、縦二股に分かれた銃口。
自動式拳銃のようなフォルムは、彼女の怒りを表すかのようだった。
「あらら、銃になっちゃった。 でも、何だか行ける気がする!!」
引き金を引く。
拳と同じ大きさの光が無人兵器を撃ち抜く。
残った無人兵器たちが襲い掛かってくる。
はるかはすかさず、銃をある武器に変化させた。
それは、切先が高周波ブレード、腹の刃がレーザーと言う複合ブレードだった。
体を右に1回転させ、その衝撃波で無人兵器たちを破壊した。
そして、一通り敵を片付けたところで、はるかはみじめな姿になった友達に手を合わせた。
「ごめんね、まなみちゃん、エリスちゃん……!」
はるかは大きく泣いた。
守れなかった。
それが悔しかった。
なぜ自分は、こんな運命をたどるのか。
はるかは、握りしめた武器を見る。
「そうだね。 ここで立ち止まったら、みんなに顔を向けられないよね」
その武器は、自分自身。
守れなかった悔しさと怒りを敵にぶつけていこう、はるかはそう誓った。
「折角だから、この子に名前を付けなきゃ」
基本のハンドガン形態の武器に名前を付けようと考えた。
「この子の名前は、紅龍。 赤いからそれしかないね」
これが、はるかがともに戦場を駆け抜ける相棒・紅龍との出会いになった。
シャトルは壊され、はるかは脱出手段を探していた。
「たしか、ここには自警団でまだ使われていない13式があったはず……!」
はるかは以前、小学校の社会見学に自警団の緊急予備戦力格納庫の扉を見た記憶があった。
おぼろげな幼少時の記憶を頼りに、格納庫へと急ぐはるか。
時折、コロニー内が揺れる。
敵が攻撃したのだろう。
「早く見つけないと!!」
急ぎ足で探す。
女学院もいつ崩壊するかわからない。
そしてついに、
「あった、これだ!」
その扉を見つけ、安堵するはるか。
「ここは、お父さんからから言われて、何かある時までは絶対にあけるなって言われたからな」
父との会話の記憶に、はるかは苦笑した。
扉の前のタッチパネルに手を置く。
どうせ、何も反応しないだろうと、ため息をついた途端、
『指紋認証を確認。 ロック解除』
ロックが解除され、扉が開いた。
「え、えぇーーっ!?」
驚いたはるかの目の前には、これまでとは見たことがない強化服が現れた。
赤いボディに、鋭角なフォルム。
手足にスラスターがついている。
「これって、強化服?」
はるかが、呆気にとられた途端、
『可愛いはるかへ』
突然父の音声メッセージが流れた。
『この赤星を見ていることは、私はもうこの世にはいない。 赤星はお前に眠るある力を最大限に引き出すために開発した、試作強化服だ』
はるかは昔、自分の父が知事になる前は研究者だったと言う事を思い出す。
『お前は不思議な夢とかを見始めたら、それはお前がこれに乗って戦う事を意味しているのかもしれない。 私はお前を戦場へ行かせるのは反対だが、私がいなくなったことを考えてこれを残した』
父の言葉に、
「お父さん……!」
涙があふれた。
自分は、これで戦うんだと言う決意を後押ししてくれた感じが旨の中にあった。
『はるか、これから先、厳しい戦いが待ち受けているだろう。 でも、赤星とお前ならできる! 私とお母さんは信じてる、頼んだぞはるか!』
「はい!!」
はるかは泣きながら笑った。
その決意の涙は、少女を戦士へと昇華させた。
遂に登場します主役機!
はるかは、戦場へとデビューします!!




