3-2 虐滅のハーモニー ~第1番 始まりは突然に~
迎撃艦隊は補給を終えて、再びジュピトリスへ向かっていた。
航海は順調だ。
万が一の戦闘に備えて、パイロットたちには格納庫で待機するよう命令してある。
昇は、艦長席に座ってコーヒーを飲む。
「このまま行けば、到着が早くなるな」
「補給したのが幸いしました。 長距離重力ジャンプは、結構燃料を食いますからね」
こんな会話をするが、実は結構真面目な話である。
重力ジャンプは距離に応じた量の水素燃料を消耗する。
地球から一気に木星圏まで行くとなると、満タンにしても1度で空になってしまうのがオチだ。
そこで、航行ルートに補給できる第7宇宙基地があったのが功を奏したわけだ。
「しかし、敵さんは本当に来ますかね? 自分は、このまま何も起きないことを願うばかりです」
「そう言うな。 敵はどんな戦法で我々の意表を突くのかわからない。 だからこそ我々がいるのだ」
昇はコーヒーを飲み干し、給仕ロボットにカップを返却する。
「艦長、ジュピトリス到着まで推定2時間と見込みます」
女性オペレーターが指示を仰ぐ。
間も無く到着する。
万が一敵が襲っているとしたら、すぐに対応しなければならない。
「了解した。 ムラクモより各艦へ、格納庫内のパイロットに食事を摂らせろ。 最悪2時間後には戦闘が始まるかもしれない。 パイロットになるべく休養を与えるよう配慮せよ。 ムラクモより以上」
昇はそう通信で各艦に伝えると、自分も食堂へと向かった。
これから始まる戦いに備えて、第1迎撃艦隊は、英気を養うことにした。
そして、人類は知る。
敵の存在の恐ろしさに。
お昼休み、はるかたちは午後の試験に備えて昼食をとっていた。
「はい、はるかちゃん」
まなみは、デリバリーアプリで頼んだ宇宙タピオカドリンクを渡す。
「あ! 待ってました!! ここのスイートバンブー、気になってたの!」
はるかが気になっていたお店は《タピオカの山本》。
宇宙タピオカブームで最も人気のあるお店で、女子からの受けも抜群だ。
特に、人気なのがタケノコエキスをふんだんに使った《スイートバンブー》。
味は賛否が分かれるほどだが、若い女性から指示を受けている。
「でも、ブームが終わりそうじゃない? で、次に来るのが宇宙長芋を使った《コスモ・イモージー》じゃない?」
エリスは、別の店で頼んだドリンクで喉を潤す。
コスモ・イモージーとは、宇宙で大流行し始めている地球発祥のドリンク。
宇宙長芋をすりおろし、牛乳と様々なフルーツソースなどと混ぜて作るため、宇宙タピオカの後釜として注目されている。
「でも、まだ宇宙タピオカは人気だよ!?」
はるかが、必死に反論する。
実は、コスモ・イモージーが飲みたいと言う気持ちがあったからだ。
「そう来ると思って、みんなの分も頼んでおいたの!」
エリスはそれを見越して、既にまなみとはるかの分を注文していた。
しかも、エリスが飲んでいる定番の味で。
「エリスちゃん、有難う!」
「私もこれ、飲みたかったの!」
3人は仲良くおしゃべりを始めた。
何だか和気あいあいな雰囲気の中、敵はすぐそこまで来ていた。
ジュピトリス自警団・星域周辺哨戒艦隊は今日も敵の襲撃が無いか常に目を光らせていた。
保有する船は亀山級高速巡航艦。
亀山級は、出雲級に比べて旧式だが、巡航速度に優れ、先手を打ちやすいのが特徴だ。
また、哨戒攻撃艇との連携も重視され、通信能力もトップクラス。
現在連邦軍の主力は天津級探査監視艦と出雲級戦闘艦に取って代わっているが、亀山級の機動性を考えれば、戦力としては残したいと言うう考えがある。
その為、一部民生用に改修を施したものが、各星域自警団に配備されている。
「アサマより、各艦へ。 敵はいつ襲撃を仕掛けて来るかわからない。 今日は卒業シーズンだ。 油断するなよ」
1番艦アサマが各艦に伝える。
哨戒攻撃艇部隊も、一層に気を引き締める。
無理もない。
火星の悪夢で、各星域が襲撃に怯えている。
その為にも、自分たちで守らなければならない。
それが自警団の役割だ。
途端、哨戒攻撃艇部隊から通信が入る。
『1時方向に、敵のジャンプ反応を確認!!』
「来たか!」
直後、敵艦隊は姿を現した。
その数はおよそ9隻。
対して、自警団艦隊は総数20隻。
哨戒攻撃艇部隊を含めれば、50はくだらない感じだ。
「アサマより全部隊へ、数で勝っていると油断するな! 気を抜かず戦おう!」
その途端、敵は意外な行動に出る。
何と、艦載機を大量展開したのだ。
その数、およそ70機。
『人間の生存領域を虐滅する』
1番艦が呟く。
「全軍戦闘開始! 何としてもジュピトリスに足を入れさせるな!」
アサマからの通信を合図に、艦隊は主砲を放つ。
砲塔基部内で収束された光分子が電磁加速して発射される。
亀山級は、主砲に200mm連装レーザー砲が3門、対空迎撃システムが10基、ミサイル発射管などが装備されている。
レーザーが敵艦隊に飛んでいく。
すると、先程展開した艦載機の1部が円環陣形を組む。
次の瞬間、円環の内側にバリアが張られ、レーザー砲撃を凌ぎ切った。
『抵抗者は、排除する。 一体も残らず、部品も残さず』
敵艦隊は艦載機を差し向ける。
哨戒攻撃艇部隊もこれに応戦する。
機首のレーザー速射砲で撃ち落とす。
一部は、ウェポンベイに搭載された巡航光子ミサイルで、敵艦を沈める。
『4番艦轟沈。 報復を開始する』
敵艦隊は、すぐさま6連レーザー砲の準備を始める。
「全艦、シールドドローン展開!」
アサマからの通信を合図に艦尾から防御用ドローンが展開される。
ドローンたちが艦隊の前に来ると各々が電磁シールドを展開する。
「哨戒攻撃艇、下がれ!」
それを合図に、哨戒攻撃艇部隊はドローンの後ろに隠れた。
次の瞬間、敵艦隊はレーザー砲を撃って来た。
しかし、ドローンたちが展開した電磁シールドで、それは凌げた。
ドローンたちのおかげだ。
だが、それは束の間だった。
突然背後から、自警団艦隊3番艦ハヅキがレーザーで撃たれた。
「何だと!?」
アサマが驚く暇もなく、他の艦艇諸共レーザーで撃ち抜かれてしまう。
別同艦隊がいたのだ。
哨戒攻撃艇部隊も、何とか応戦する。
『抵抗戦力は、撃滅する』
敵の艦載機は、哨戒攻撃艇にとりつく。
モーターブレードを内蔵した脚をコックピットに突き立てる。
血飛沫が飛び散り、哨戒攻撃艇は沈黙した。 その直後に爆散した。
また、別の無人機は哨戒攻撃艇にプラズマ爆弾を発射する。
哨戒攻撃艇は回避するが、避けきれずに直撃を受けて破壊された。
モニター越しにその光景を目の当たりにした光成知事は、決断した。
「ジュピトリス全域に、第1級非常事態宣言! 住民を緊急避難シャトルに乗せて最寄りの連邦軍基地まで避難させろ!」
そして、瞬く間に響く警報。
それは、ジュピトリス女学院にも届いた。
「な、何!?」
はるかたちは何が起こったのか、わからなかった。
《非常事態宣言が発令されました。 住民の皆さんは、最寄りの非情経路を通り、シャトルまで避難してください。 繰り返します……》
アナウンスが流れる中、
「皆さん、指示に従って非難を……!」
教員がそう言い終えないうちに、レーザーで焼かれてしまった。
敵の艦載機が侵入してきた。
パニックになって逃げ惑う生徒たち。
「これって、あの時の!」
はるかは、幻視の通りの未来が来たと言う事実に驚きを隠せなかった。
生徒たちが無慈悲に惨殺される。
モーターブレードで切り刻まれ、レーザーで撃ち抜かれて焼け死ぬ。
「やるしかない!」
はるかはすかさず、魔法少女に変身して応戦する。
弓を構え、矢を引き絞る。
「アストロ・シュート!」
放たれた1発が無人機を撃ち抜く。
『高エネルギー反応保有者を確認。 排除する』
無人機たちがはるかに襲い掛かる。
はるかは弓で応戦するが、きりがない。
(このままじゃダメだ! 接近戦で、最も威力を発揮するのは!)
その思考がはるかに新たな力を与えた。
弓が剣へと変化した。
「これなら!」
右回転で薙ぎ払う。
無人機たちは、足下を切り裂かれ、倒れ込んだ。
はるかが戦ったおかげで、何人かが避難帰路を通っているが、其処も敵に制圧されていたことを知る由もなかった。
その避難経路を通る際中、まなみとエリスは、
「エリスちゃん、はるかちゃん大丈夫かな?」
「平気よ。 あいつは逃げ足だけは早いから」
呑気な会話をしている。
もう少しで避難用シャトルのある格納庫へとたどり着く。
しかし、それは彼女たちにとって、悪夢への入り口だった。
格納庫にたどり着くと、シャトルは無事だった。
「みなさん、落ち着いてシャトルに乗り込んで!」
教員たちが生徒を誘導しようとする、その瞬間、
『生存は認めない。 全て虐滅する』
無人兵器が天井から飛び込んだ。
『脱出艇を破壊する』
無人兵器が立て続けに現れ、脱出用シャトルをプラズマ爆弾で破壊した。
その光景で生徒たちは絶望した。
もう、逃げられないと思ったのか、元来た道を戻ろうとする。
しかし、
『退路を封鎖する』
別の無人機が現れ、逃げ道を封鎖した。
これでもう逃げられなくなってしまった。
教員は、護身用のパルスレーザーピストルで応戦する。
高指向パルスレーザーが無人兵器を撃ち抜く。
1人でも多くの生徒を守るために。
他の教員たちも、非常用ボックスに収納していたアサルトライフルで応戦し始めた。
自警団が戻ってくると信じて疑わない。
だが、その自警団はもういない。
次第に、追い詰められていく。
無人兵器たちは、自己修復機能で持ち直す。
教員たちの武器は、エネルギーと弾が底をついた。
『抵抗は無意味である。 有機知性体は虐滅を受けるのが運命である』
意味の分からない言葉を放つ無人兵器。
教員たちは、鉄パイプで必死の抵抗をする。
しかし、無人兵器はその鉄パイプを高周波振動熱で溶す。
それでも、諦めなかった。
しかし、敵は容赦しなかった。
教員たちは、生徒たちを逃がそうと必死に突撃する。
しかし、それもむなしくレーザーで焼き殺された。
「い、いや……!」
エリスは、恐怖におびえる。
他の生徒たちも、レーザーで焼き殺されたり、モーターブレードでぶつ切りにされている。
『貴官は、最も苦しい方法で虐滅する』
エリスの前に現れた無人機がマイクロ波を照射する。
人体のおよそ6割が水分だ。
エリスはその蒸発する際の痛みに絶叫し、破裂した。
「エリスちゃん!」
まなみが叫ぶ。
彼女の目の前に無人機が近寄る。
脚のモーターブレードが唸りを上げる。
それが白い肌に食い込む。
まなみは、その痛みからくる断末魔と共にモーターブレードでぶつ切りにされた。
遂にここまで来ました。
はるかの運命は、ここで加速し始めますよ!!




