すごいお客さんを捕まえたかも知れない。
私はさっまでものすごく機嫌が悪かった。今はご機嫌だけど。
何故なら、私が欲しいって思ってたブランド物のバッグが、お店のショーウインドウから消えていたから。店員さんに聞いたら先程売れました。って言われた。
あからさまにショックを受けていた私に店員さんが、新作のバッグを1つ見せてくれて私に勧めて来た。
【こちらの新作の方がお客様のような若い方が持つには、お似合いですよ】
私は店員さんに断って、そのバッグを手に持ってみた。
実際に姿見に写してみたりもした。
確かに……私が狙ってたバッグよりは、若い人向けのデザインをしているバッグだと思った。
そんな事を暫くしていたら、私はこっちのバッグが欲しくなってきた。店員さんに値段を聞いてみたら、30万円程だって言われた。
買うつもりだったバッグよりも、新しくて若者向けのデザインで10万円高いだけ。
私はこのバッグを買う為にアルバイトを頑張ろう。
もっとたくさん指名して貰い、もっとたくさんドリンクなんかもオネダリしようって思った。
もちろん、りこさんと堀田さんに注意された誰かの本指名のお客さんに指名乗り替えなんて事をしないように注意しながら。
新しい目標の出来た私は、もっと頑張ろうって気分で今日もアルバイト先である、キャバクラに出勤してきた。
何時もと何も変わらないお店。お店の中に足を踏み入れると、開店の準備をしている、男の店員さん達が挨拶をしてきてくれる。
私もそんな人達に挨拶を返しながら、何時ものように、借りたドレスを持って更衣室に向かう。
更衣室の中には私と同じように開店時間に合わせて出勤してきた他のキャストの人達も居た。私は何時もと同じように、挨拶をしながら更衣室に入る。
何時もは誰もが挨拶を返してくれるのだが、この日は、数人が挨拶を返してくれなかった。
「何か忙しいのかな? 聞こえなかったかな?」
特にその事は気にも留めずに、着替えを始めた。
着替えが終わり、何時ものように待機席へと向かったら、待機席には既に、りこさんが来ていた。
「あっりこさん、おはようございます」
『おはよう……うららちゃん』
りこさんは、何か少し何時もとテンションが違っていた。
そして、私の事を手招きで呼び寄せると、私の耳元で囁くように言った。
『うららちゃん、ちょっとマズイ事になってるかも知れないけど、直ぐにみんなも忘れて元通りになると思うから』
私は、この時にりこさんが言ってる事を全く理解してなかった。
そして、何も理解してないままに、お店が開店時間を迎えた。
その日も何時もと同じ……ううん、それ以上に頑張ってた。
だって私には欲しい物があるから。
そうして頑張ってたんだけど、少し何時もと違っていた。
他のキャストの人のヘルプに着いた時、何時もならドリンクぐらいはオネダリしたら頼んでくれるのに、何故か今日は思うようにドリンクでの売り上げを伸ばせなかった。そう言う日もあるのかな? 私はまだそんな風に思ってた。
その後もドリンクを頼んでキャシュバックを狙っていったけど、フリーのお客さんとその他には少しのドリンクしか頼めなかった。
そして今日はあんまり稼げないなぁ……なんて思いながら、待機席に戻るとりこさんが、コッソリと教えてくれた。
『うららちゃん、あのね……』
私は一昨日にやってしまった本指名の乗り替えを誘う行為によって、キララさんがリーダーになっている、このお店の最大派閥に属しているキャストの女の子達。
その次に大きな派閥のアカリさんがリーダーをしている派閥のキャストの女の子達に一斉に嫌われてしまった。と言う事を聞かされた。その女の子達の根回しでヘルプに着いた時にお客さんに私にはドリンクも飲ませないように。って頼んでるって聞かされた。
だから、今日は全然ドリンクが頼めなかったんだ……
このままじゃ、欲しいブランド物のバッグが買えるまでに、凄く時間が掛かっちゃう。どうしよう? 今直ぐにでもあのバッグが欲しいのに……
私は非常に困ってオロオロしているのを見たりこさんが、1つアドバイスをしてくれた。
『一昨日と違って、キララさんアカリさんに他のキャストが居るところで、ちゃんと謝ればいいよ、2人とも根に持つような子じゃ無いから、ちゃんと筋を通して謝れば、他のキャストの子達にも、うららちゃんの事を許すようにって必ず言ってくれるから』
りこさんからのアドバイスを聞いた私は、今日のアルバイトが終わってから直ぐに帰らずに、キララさんとアカリさんに他のキャスト達の前でちゃんと謝ろうと思った。
だって……そうしないと、ブランド物のバッグが買えないんだから。
そんな事もあってアルバイトにも身が入らずに過ごしていた。
アルバイトが終わる1時間ぐらい前に、堀田さんに呼ばれて私は1人のフリーで来ているお客さんの席に案内された。
そのお客さんは、初めてこのお店に来たお客さんらしかったけど、フリーなのに、たくさんフードも頼み、飲んでいるお酒もお店が用意してる飲み放題のお酒じゃ無く、飲むのに余分にお金の掛かる高そうなお酒を飲んでいた。
私は、このお客さんならドリンクのオネダリも大丈夫だと思って、ドリンクをオネダリして頼んで貰った。
お客さんは、その後少ししてから急に私に。
『このお店ってシャンパンってあるよね? どんなシャンパンがあるのか知りたいからメニューを見せて』
そう言ってきた。私は横に置いていたメニューのシャンパンのページを開いた状態にしてお客さんに見せた。
お客さんはメニューを見ながら私にこう言った。
『このお店って、ボトルやシャンパン入れたら指名してる女の子の売り上げとかバックになるの?』
私が肯定の意味も込めて頷くと。
『それじゃ今は俺はフリーだから、シャンパン頼んでも誰にもバックは入らないのか~』
私はその言葉を聞いた時に、このお客さんに指名を入れて貰おうと思った。シャンパンは安くても5万はする。キャシュバッグが半分貰えるから、25,000円も私のところに入ってくる。
今日は全然ドリンクも頼めなくて稼げてない。このお客さんから指名を貰い、シャンパンのバックを私のところに来るようにしたら、欲しいバッグに一気に近付く。
「お客さん私の事指名して下さい」
私が思いきってそう頼むと、お客さんはアッサリと。
『いいよ、君……うららちゃんだっけ? を指名してから、シャンパンを頼んであげるよ、そうしたらうららちゃんにキャシュバック入るんでしょ?』
お客さんに抱き付きたいぐらいに嬉しくなった。
『その代わりに、今日この後でアフターに付き合ってよ』
お客さんから、そう言われた。
アフターか……このお客さんの指名は欲しい。ひょっとすると次に来た時には私の事を本指名してくれるかも知れない。
でも、地下鉄が無くなると帰る事が出来なくなっちゃうし……
私が返事に困っていると、お客さんはアフターは嫌なのかな? と聞いてきた。私は素直にアフターが嫌なんじゃ無くて、地下鉄が無くなると帰れなくなるって事を伝えた。
お客さんは、笑いながら【それなら、俺がタクシー代を出してあげるから、それで帰れば大丈夫だよね?】そう言った。
確かにタクシーで帰れるなら、アフターする事に支障は無くなる。
そして、アフターすればこのお客さんの指名とシャンパンのバックが入ってくる。私はお客さんにタクシー代を出してくれるなら。って伝えて、アフターする事を了承した。
お客さんは私の返事を聞いて、言った通りに私の事を指名してから、シャンパンを入れてくれた。しかも……1番安いシャンパンじゃなくて1本10万円もするシャンパンを。私へのキャシュバックだけで5万円にもなる。
ちょっとアルバイトが終わってから、付き合うだけで5万円にもなる。私はとっても嬉しかった。
その日アルバイト終わりに、キララさんとアカリさんに謝るのは、また今度でもいいやと、アフターの約束したお客さんとの待ち合わせ場所に急いだ。