最終話
元働いていたヘルスの店長と2人で落ち着いた雰囲気の静かな個人経営の居酒屋の座敷席に向かい合う形で座る。
『静かで落ち着いた雰囲気の店でしょ? ここなら人に話を聞かれる事も無いと思うから、何があったのか話してごらんよ』
私はそんな店長の気遣いを嬉しく感じながらも、直ぐに自分の気持ちを話し出す事が出来ず、暫くの間沈黙を続けていた。
黙ったままの私に特に急かすような事も言わずに、店長は頼んだ冷酒を手酌で飲みながら、私が話をするのをじっと待ってくれている。
やがて気分の落ち着いて来た私は、店長に何があったかをポツリポツリと話し始めた。
店長は途中で話を遮る事もせず、何も口を挟まずに私の話をただ黙って最後まで聞いてくれた。
『うららちゃん、うららちゃんはどうしたい? このままずっと我慢して普通に実家で暮らして行きたい? それとも前のように風俗の仕事をして、欲しい物を買いホストクラブに遊びにも行ける暮らしがしたい?』
私の話を最後まで聞いてくれた店長が、そう私に聞いてきた。
私は、出来るなら元の生活に戻りたい。ブランド物を欲しいと思った時に買えて、ホストクラブに行き零士と一緒に楽しく騒いでいた、あの頃に。
「戻りたい……戻りたいけど、その方法が分からない……」
『うららちゃんは、風俗嬢として働く事が嫌になった訳じゃ無いんだよね?』
その店長の言葉に私は頷いて答えた。
『それじゃ、方法はいくらでもあるよ、うららちゃんが本当に望むのなら、俺が助けてあげる事も出来るけど?』
私は店長のその言葉にすがる思いで、その方法を聞きたい。そう思った。そして店長にどんな方法なのかを聞いてみた。
今すぐに返事が出来るような方法では無かった……
店長は、今日は家に帰り、ゆっくりと考えて、決めたならまた連絡しておいで。そう最後に私に言ってくれて、別れた。
そして……店長と2人で話し合いをした日から、今日で丁度1週間。私は、その間に自分なりにちゃんと考え、そしてその為に必要な準備をしてきた。
私は、店長に連絡を取る。きっと誰に話してもきっと理解はしてくれないであろうけれども……
私は現在、ほぼ家出同然の状態で実家を飛び出した。
そして、店長の紹介で知り合いの人が経営している風俗店。
デリバリーヘルスの寮に住んでいる。小さいけれど、ちゃんとワンルームのマンションに部屋を借りて貰い、そこで暮らしている。
もちろん、そのお店で私は【デリヘル嬢】として、お客さんを相手に性的なサービスを行う仕事をしている。
家出同然に飛び出して来た為に、見付からないよう雑誌等に顔を出す事も出来ない為に、ヘルス嬢として働いていた頃に比べたら、多少はお給料も減ったが、それでも普通に仕事をしていては、味わう事が出来なかったブランド物を買い漁ったりなんて生活が出来ている。
デリヘル嬢として働いてから、少し経った頃に1度、零士に会いに行った。零士は、私が両親にバレてお店に行くに行けなくなっていた頃の冷たさすら、最初から無かったかのように、私に微笑み優しくしてくれたが、私はそんな零士の態度を見てすっかりと醒めてしまった。そしてあの日、どうしようも無くなって、ホストクラブに半分無意識に向かって行った時、お店の前で私を気遣うように、声を掛けてくれたホストの事を指名した。それなりに楽しかった。
私は、新たに指名したホストに、こう言った。
「たまにしか来ないから、ちゃんと他にもお客さんを捕まえるんだよ、でも私が遊びに来た時は指名してあげるね」
あれから2年程の月日が流れた……
私は他人から見られた時に【風俗嬢】と呼ばれる仕事をしている。自分にどこまでも甘く我慢の出来ない私は、1度は風俗嬢から足を洗うチャンスがあったのに、自分からそれを投げ出し楽な道に逃げてしまったダメな女の子だ。
それでも、私は風俗と言う仕事を続けていかないと自分で自分の事を保てない。
ホストクラブには今でも通っている。でも、前の時とは違い特定のホストに入れ込むような事はしていない。たまに遊びに行き、騒いで飲んで、ストレスを純粋に解消するだけ。
私は【風俗嬢】今日もお客さんの前で裸になり、お客さんを沢山楽しませる。
私はいつまでこの仕事を続けるんだろう? それは分からない……
それでも当分は私は人から【風俗嬢】と呼ばれて生きて行こうと思う……
これにて【完結】でございます。
長らくの、御愛読ありがとうございました。
次回作の構想は既に出来ておりますので、少しの間だけお休みを頂いたのち、新作の執筆に移ろうかと思います。
それでは、次回作にて叉お会い出来る事を心よりお待ちしております。