爆発。
風俗で風俗嬢としてアルバイトしていたのが、大学にも両親にもバレて、楽しかった大学生活も大好きな零士に会いに行く事も出来なくなってから、3ヶ月程が経った。
今の私は、実家に住み近所の中華料理屋でアルバイトをして暮らしている。風俗嬢だった頃なら1日~2日で稼げる程度のアルバイト代にしかならない程しかお給料も貰えてない。
しかもアルバイト中はほぼ立ちっぱなしでヘルスなんかより体力的にも辛い。
こんなアルバイトは今すぐにでも辞めたい。毎日そんな事を考えながらアルバイトをしていた。
中華料理屋のアルバイト代ぐらいじゃ当然、大好きだったブランド物なんかも買おうと思えば何ヵ月も少しずつお金を貯めてからじゃなきゃ買えない。
実家に戻って来てから、ブランド物はもちろん服だって買えて無かった。
色々なストレスが毎日、私の身に振り掛かってくる……
唯一の私のストレス解消法でもあった、零士とのメールのやり取りもどんどんとその回数を減らしていってる。
最初の頃は、私の事をとても心配してくれている事が、読むだけでも解るような内容のメールばかりが送られ来ていたが、徐々にその内容も変わってきていて、少し前までは。
【うららがお店に遊びに来ないから寂しい】
そんな感じのメールが送られて来るようになった。
私も零士のお店に遊びに行きたいけど、行けない。そんな返信しか出来ない。そして……今では、メールを送っても簡単な挨拶だけだったり、返信自体が無かったりする……
私の心の支えは零士だけなのに、零士に冷たくされたら私はどうしたらいいの?
そして、そんな日々を送っていたある日。私はとうとうストレスに耐えられ無くなって爆発してしまった……
アルバイトが終わったら何処にも寄り道をしないで、家に帰る事を両親と約束していたのにもかかわらず、アルバイト終わりにそのまま地下鉄に乗って、少し前までは通い慣れた繁華街へと足が向いていた。
久し振りに見る繁華街は、私が風俗嬢として働いていた時と、何も変わらずに沢山の人とネオンに溢れ、きらびやかな夜の街を作り出していた。
歩き慣れた繁華街の道を、零士が働くホストクラブに向け歩く。
今すぐに零士に会って優しい言葉を掛けて貰わないと私の心はパンクしちゃう。
零士の働くホストクラブの見慣れたネオンの看板が見えて来た。
あそこに行けば零士に会える。零士会って慰めて貰えれば私はまた少しだけ頑張れる。
そして……お店の近くまで行き、私が通っていた頃と同じように、担当のお客さんがまだ居ない若手のホストが数人、お店の外に立っているのを見た瞬間に私は、自分が今、ホストクラブに行けるようなお金を持っていない事を、思い出した。
このままでは、零士に会う事すら出来ない。
そんな思いに駆られながらも、引き返すに引き返せずに、少し離れた場所から零士の働くホストクラブを、ただ眺めていた。
どのぐらいそうしていたのかは、分からないが暫く経った時に、1台のタクシーがお店の前に停まった。
そのタクシーからは、私が会いたくて会いたくて仕方がなかった、大好きな零士が降りて来た。私は零士の姿を見付けて何も考えずに、零士の元へと駆け寄ろうとしていたその時。
零士に続いてタクシーから降りて来た、1人の女性を目撃してしまう。零士は恭しく、タクシーのドアを手で抑え女性の手を取りタクシーから降りるのをエスコートしていた。
タクシーから降りた女性は、そのまま零士の腕に自分の腕を絡ませ、体を密着させて零士にしなだれ掛かるように寄り添う。
そのまま2人とも笑顔で楽しそうに何か話をしながら、お店の中へと消えていった……
私は、その一部始終をただ眺めている事しか出来なかった……
零士に会う為に。零士に優しくして貰う為に。零士の腕に腕を絡ませる為に。必要な物が何一つとして持ってない今の私には……
私は涙を流しながら、零士と女性が消えて行ったお店の入り口を暫く眺めていた時に、不意に声を掛けられてしまう。
『あれ? うららさん? お久し振りです』
私がその声に反応して声を掛けて来た人物の方に顔を向けると、私が零士に会いにホストクラブによく通っていた頃、何度も私のテーブルにヘルプとして着いた事のある、若手のホストの1人だった。
私は、そのホストに声を掛けられ、返事も返せないままに、見付かってしまった! と言う思いが強くなり、逃げ出すように走ってお店から離れてしまった。
その後、色々と失意のドン底な気分のまま、繁華街の中をあても無くフラフラとさ迷っていた私は、気が付くと一軒のお店の前に立っていた。
私が、ほんの少し前まで、働いていた風俗店のファッションヘルスのお店の前に。お店の前には、たまたま何かの用事でもあったのか、お店から外に出ていた、私や他の風俗嬢のみんなに人一倍気を遣い、いつも優しかった店長の姿があった。
店長は、目敏く私の事を見付けると、私の元に駆け寄って来た。
『うららちゃん、どうした? こんな所に来てまた誰かに見られて、両親にバレたら何もしてないのに、怒られちゃうだろ?』
店長は、突然お店を辞める事になってしまい迷惑を掛けたはずの私にも変わらず優しい言葉を掛けてくれた。
私は店長の変わらない優しさ触れて、我慢していた色んな物が止められ無くなって、店長の胸に飛び込んで嗚咽を上げながら、泣いてしまった……
暫くそのまま泣き続けていた私の体をそっと腕を体に回して、受け止めてくれていた店長は、少し落ち着いて来た私に向けて。
『取り合えず俺で良かったら話ぐらいは聞いてあげるから、ちょっと落ち着いて話せる場所に移動しようか?』
「うん……店長……ありがとう……」