分岐点。
零士と待ち合わせたドーナツ屋さんで、途方に暮れていた。
そして、1時間30分ぐらいはお店に居たかな? そのぐらい経ってから零士がドーナツ屋に現れた。
『どうした? うらら、呼び出したりして』
零士がそう私に声を掛けながら対面の椅子に腰を下ろした。
私は、そんな零士の顔をまともに見られなくて少し顔を俯けた間まで、ポツリ……ポツリと状況を説明していった。
お店でトラブルに会った事。お店の中で騒いでしまった事。
連絡があるまでお店に来るなと言われた事。それらを正直に全て零士に話した。さすがに【枕営業】をしていたのがバレて、モメた。なんて事は言えなかったけど……
「それでね……貯金も少しはあると思ってたんだけど……」
私が正直に売り掛けを直ぐに払えない事、払う為のアルバイトにも行けない事。それらを零士に話した。もちろん、零士から怒鳴られたり怒られる事を覚悟して。
だけど……零士はそんな私の事を怒る事は無かった。心底困ったと言う表情は浮かべていたけれど。
零士はテーブルにつく前にカウンターで頼んで持って来ていたコーヒーが入ったコップのストローを口に咥わえて、中身を一口だけ飲み干した後に、私に言った。
『うららの未収のお金な、結果だけを言うなら俺が立て替えて払ってやる事は出来る、これでも多少は売れてるホストだからな』
私は零士のその言葉に、嬉しくなった。零士が私の未収を立て替えてくれる。私は払わなくていいんだって。途端に笑顔を浮かべて零士の事を見ている私の顔を見た零士が……
『だからって、うららが払わなくて良くなった訳じゃないぞ、期限に間に合わないからって俺が先に払っておいてやるってだけの事で』
そうだよね……私が零士のお店でバカ騒ぎして楽しんだ結果なんだから、いくらなんでも払わなくてよくなる訳無かったよね……
『それじゃ、具体的な支払いの方法を一緒に考えようか、うららは、仕送りで払えるか?』
私は今も大学に籍を置いてる。だから、毎月両親から仕送りのお金は送られて来るけど、食費と学校で使うお金を差し引いたら、とてもじゃないけど15万円には届かない。そもそも、仕送りを全部回しても足らないぐらいしか貰ってない。
私は零士に黙って首を横に振って答える。
『それじゃ……両親に正直に話して出して貰うように頼めるか?』
「そ……そんな事言えない、言える訳ないじゃん」
親に何て言うの? ホストクラブで豪遊して、料金が払えなくなったから、払って下さい。って? そんな事言ったらアルバイトでキャバクラで働いてた事とか全てバレちゃうじゃん。
『言える訳ないって言っても、払わない訳にはいかないよな?』
零士は今も私の為に色々と方法を考えてくれてるのに、私は零士に任せっぱなしで、しかもアレは嫌コレは嫌と、この期に及んでもワガママを言っていた。
「今のお店を辞めて、直ぐに他のお店で新たに働いて返そうかな?」
私が自分に出来そうな事を零士に言ってみた。他の方法は全部ムリだから、これしか方法は残ってないと思った。だけど……
『働いて返すってのは良い方法だな、でも聞くけど、うららが15万をキャバクラで稼ぐのに、どのぐらいの日数が掛かる?』
零士にそう聞かれた……多分……お客さんも何も居ない状態で、ゼロから働いたら……数週間は掛かっちゃう。
働いて返すって言う方法もダメになっちゃった……やっぱり両親に正直に話して払って貰うしか方法は無いのかな?
「両親から借りるしか方法は無いのかな?」
『でもその方法は嫌なんだろ?』
「うん……だけど他に方法が……」
『無い訳では無いぞ、うららのヤル気次第だけどな、働いて返すって方法でちゃんと返せる』
そう私に言ってきた。働いて返せる方法があるんだ。どんな方法なんだろ? 私は零士の顔を見つめてその方法がどんな方法なのか、聞こうと思った。
『うらら、ヘルスとかで働けそうか? そう言うお店なら直ぐにでも返せるぞ』
零士がそう言ってきた。ヘルスってアレだよね? 裸になって男の人に性的なサービスするお店だよね。
私にも出来るのかな? でも、私がキャバクラでやってた枕営業と大した違いも無いのかな? それなら……
「働け無い事も無いけど、そう言うお店なら直ぐに返せるの?」
『あぁ、確実にキャバクラよりも早く返せるだろうな』
そうなんだ。このままじゃ零士に迷惑も掛けちゃうし、両親にバレちゃうかも知れないし、私がヘルスで働けば、今まで通りなのかな?
『それに、うららは、これからも俺に会いにお店に遊びに来てくれるつもりなんだろ?』
そんなのお店に行けるだけのお金があるなら、会いに行くに決まってるじゃん。
私は零士にそのつもりだと言う思いも込めて頷いた。
『うららが、ヘルスで働いて未収を払った後も、続けられそうなら続けてみたらどうだ? ヘルスならキャバクラより遥かに沢山のお金が貰えるぞ、もう今までみたいに、最低の料金で、飲み放題の飲み物だけ飲んで、たまに1番安いシャンパン入れて、そんな遊び方しないで、ボトルを入れて普通のシャンパンを入れて、ヘルプのホスト達にも、飲ませてやれて、そんな事も出来るのようになるぞ』
「零士の売り上げに貢献出来るって事?」
私の質問に零士は、大きく頷いた。そっかそうなんだ、私がヘルスで働いて沢山のお金を稼いできて、零士のお店で楽しんだら、零士の売り上げも上がるんだ。
【私なんかでも零士の役に立てるんだ】
「私、ヘルスで働くよ! だけど……お仕事が辛かったり大変だった時は、キャバクラの時みたいに零士は私の事を慰めてくれる? 私が零士以外の男の人にそう言う事してても、嫌いにならない?」
『ストレスが溜まったらお店で騒いでストレス発散したらいい、もちろん、その時は俺がうららの横に座ってるよ、そして、うららは、それを【仕事】にするんだろ? だったら俺が頑張って仕事をしている、うららの事を嫌いになる訳が無いだろ?』
そう言って私に優しく微笑んでくれた。
その後、零士の知り合いがヘルスのお店をやっているらしくて、話を聞いてみる。って、何のアテも無い私の為に、働くお店まで探してくれると零士は言ってくれた。