吊し上げされちゃった。
キララさんを本指名してるお客さんにアフターに誘われた私。
もちろん朝までしっかりとサービスして、次回からは私の事を本指名してくれるって約束を取り付けた。
アルバイトの日、何時ものように付け回しをしている店員さんに呼ばれるまで、待機席にジュースを持ってきてスマホでお客さんにメールを打ったりして待機していた。
入り口の方から男の店員さんの【いらっしゃいませ】と言うお客さんが来た事を知らせる挨拶が聞こえて来た。
お店の決まりごとでお客さんが入って来た時は、待機席に座ってても、ちゃんと顔を上げてスマホなんか弄らずにお客さんの事をお迎えしなきゃいけない。
私もルールに倣って、顔を上げてお客さんをお迎えした。
そのお客さんは、私がこの前アフターで朝までサービスしてあげた、元キララさんのお客さんだった。
【さっそく来てくれたんだ、ラッキー今日は売り上げたくさん伸ばせそう】
私は、直ぐに呼ばれてもいいように、メールを打っていたスマホをポーチの中にしまって、持ってきていたジュースの入ったグラスをキッチンの人に渡し準備をした。
周りのキャストが、そんな私の事を見て。
【キララさんのお客さんなのに、この子何してんだろ?】
そんな感じで見てくる。もう今のお客さんは、キララさんのお客さんじゃなくて、今日から私のお客さんなんだよ。しかも、お客さんの方から、私に指名を乗り替えるって言ってきたんだから。
私は、そんな何も知らないキャスト達の視線すら、心地よく優越感に浸りながら付け回しの人が私の名前を呼ぶのを待ってた。
やがて付け回しの人が待機席にやって来た。
『うらら、そして……キララ』
私は名前を呼ばれた。だけど何でキララさんの名前も呼ぶんだろ? 私は、訳が分からなかったけど取り合えず呼ばれたから、待機席から立ち上がり付け回しの人の後ろに付いて行く。
そして、お客さんの座る席に行く途中で付け回しの人が何時ものように教えてくれた。
『キララは本指名な、うららは場内だ』
え? 私は場内指名なの? 今来たお客さんの席に行くんじゃないの? それなら、約束通りに本指名じゃないの?
私は混乱しながらも、歩いて行く。すると、私がアフター営業で朝までサービスした、キララさんの事を本指名してたお客さんの席の前で、付け回しの人が止まる。
『御指名ありがとうございます、キララさんです』
そう言って、キララさんをお客さんの隣に座らせた。
本指名と場内指名。当然、先に紹介するのは本指名の方からだ。
私は更に混乱してきた。
『場内指名ありがとうございます、うららさんです』
そう言って、付け回しの人が私の事をお客さんを間に挟んでキララさんの反対側に座らせた。
私は、訳が分からずにただただ混乱した顔を浮かべて、キララさんとお客さんの顔を交互に見た。
キララさんは、普段と変わらない【ここに私が座るのは当然】って顔をしている。お客さんは、私の方を見てニヤニヤと何処かイヤらしい笑顔を浮かべていた。
『うららちゃんってさ、ウワサ通りに、ちょっと本指名をチラ付かせたら直ぐに体を許しちゃう【枕営業】してるのって本当だったんだね、キララから聞いた時は流石に疑ったけど』
そう言って、笑い出した……
『こんな子が同じキャバ嬢として働いてるなんて、プライド無いのかしら? 恥ずかしい』
キララさんにも、そう言われた……
私は騙されたの? 最初から私の事を本指名する気なんて無かった? 酷い!
私は、キララさんの顔を睨み付けながら。
「お客さんと一緒になって私の事を騙したんですね? 酷い! 絶対許さない! こんな事してお店が許す訳無いんだから!」
私がキララさんにそう言い返すと、キララさんはうっすらと私の事をバカにしてるような笑みを浮かべて言ってきた。
『うららちゃん、何てお店の人に言うつもりなの?』
『私はお店で敬遠されてる【枕営業】をして、キララのお客さんから本指名の乗り替え話に応じました、だけど体を許したのに、本指名してくれません、そう言うのかな?』
キララさんの言う通りだった……私は私の事を誤魔化す為に【アフター営業】なんて言葉を勝手に作ってたけど、やってる事は【枕営業】そんな事解ってた。
言える訳が無い。だって事情だって話さなきゃいけなくなるし……だけど……騙した事は許せない!
私は反射的に、お客さんの飲むお酒の入ったグラスを掴んで、キララさんの顔目掛けて、中身を掛けた。
その後、大騒ぎになって、店長を始め堀田マネージャーなんかが飛んで来た。私は、堀田マネージャーに更衣室に連れて行かれた。
そこで、何があったのか話せ。そう言われたが、私は本当の事も話せずに【キララさんと言い合いのケンカになった】それだけ話した。
堀田さんは、そんな私の顔を見ながら、深いため息を1つ吐いてから。
『なぁ……うらら、前にそれとなく【枕営業】なんかするなよ、そうお前に注意したの覚えてるか?』
私は、堀田さんの言った話に全然心当りが無かった。
『その顔じゃ覚えて無さそうだな、前からお前の【枕営業】の事はキャストはもちろんの事、男性スタッフにも知れ渡ってたんだよ、お前最近は、りこがお前と話をしないの不思議だと思わなかったのか?』
確かに最近は、りこさんも私にあまり話し掛けて来てくれない。前はあんなに【うららちゃん! うららちゃん!】って言ってくれてたのに。私はその事を、私がどんどん売り上げ伸ばしてるから、私に追い越されるのが嫌なんだと思ってた。
『取り合えず今後の事も含めて、店長と話し合うから、うららお前はもう今日はこのまま帰れ、ちょっとここで待ってろよ』
そう言って堀田さんは、更衣室から出て行った。
私は堀田さんに言われた【お前が枕営業してるのなんか、とっくにみんなにバレている】って言葉を頭の中で繰り返していた。
どれぐらいの時間が経ったのか分からないけど、気付いたら目の前に堀田さんが立ってた。
そして、私にいつもアルバイト代を入れて渡してくれる封筒を差し出して、こう言った。
『これ、今週のバイト代な、ちゃんと全額入ってるから、後、店長との話し合いが済んで俺から連絡するまで、バイトに来なくていいから、早く着替えて帰れよキララがやって来たら、また嫌な気分になるだろ?』
それだけを私に言ってお店に戻って行った。
私は急いで着替え、普段はロッカーに入れて帰る、レンタルしているドレスと靴を持って。誰の顔も見ないで済むように、1秒でも早くお店から出るように、下を向いて早足でお店から飛び出した。
涙を流しながら向かった先は、部屋に帰る為の地下鉄の駅じゃ無く、いつでも必ず私の味方をしてくれる、零士の働くお店だった。