太客にアフターに誘われた。
少し短いですがキリが良かったので。
あの日、初めてシャンパンを頼んだ日。
最初は零士に叱られた。お前はそう言う事をする必要は無いって。
零士はその時に確かに私にこう言った……
『好きな女を客とは見てない』
零士は私の事が好きなの? 私が零士の事を好きなのと同じで。
たくさん叱られたけど、とっても嬉しかった。だって私の事を叱ってる間ずっと私の隣に居てくれたんだから。
1度途中で、他のお客さんが呼んでるってヘルプなんかに着くホストの人が零士の事を呼びに来たけど、その時も。
『今は大事な話をうららとしてるから、待たせておけ』
そう言ってくれてた。
そしてどうしてこんな事をしたのか聞かれた時に私は。
「だって零士の役に立ちたかったんだもん、もっと零士に側に居てほしかったから、だから……」
そう言って涙ぐむ私の頭に零士は優しく手を乗せて、ポン ポンと2回撫でるように叩きながら。
『そっか、ごめんな寂しい思いをさせて、後やっぱりうららが、そう思ってくれて、シャンパン頼んでくれたのは嬉しかったよ』
そう言ってくれた。私は零士の役に立てた事。零士が喜んでくれた事。物凄く嬉しかった。
零士と出会ってからの私には、良い事ばかりが続いている。
アルバイトのキャバクラでも、アフター営業が上手く行って、毎日必ず1人は私の事を本指名してくれるお客さんが来てくれる。
しかも、私の売り上げ貢献の為にシャンパンを頼んでくれたり、高価なフルーツの盛り合わせなんかも頼んでくれる。
おかげで、私のお店でのランキングは上がる一方。もうすぐ、りこさんすら追い抜いちゃいそう。
そんな風に気分良くアルバイトをしていた時に。No.1のキララさんのお客さんの席にヘルプで着いた。
何で私がヘルプになんか着かなきゃいけないのよ!
私このお店のNo.5だよ? どうせ着けるならリッチそうなフリーのお客さんに着けて欲しいよ。
「え? ヘルプなの? 何で?」
私は、付け回しをしている男の店員さんに文句を言った。
だっておかしいんだから。そうしたら、その店員さんは。
『もうヘルプも1順しちゃってさ、ごめんね、うららちゃん直ぐフリーのお客さんに着け直すから少しだけヘルプ頼むね』
そう言われた。私は渋々キララさんのヘルプに着いた。
そのお客さんはキララさんのお客さんだけあって、気前も良さそうなお客さんだった。今日もテーブルの上には、シャンパンの空ビンが3本も置いてある。その内の1本は、お店で1番高いシャンパンだった。
こんなお客さんが私の事を本指名してくれたらなぁ……
そんな思いが頭を過ったけど、暗黙のルールで私からお客さんにアプローチは出来ない。
そんな事を考えていた時に、お客さんから言われた。
『うららちゃんってアフターでお客さん捕まえてるんだよね? どうかな? 今日ヒマならお店終わった後に私とアフターをしないかい? うららちゃんとのアフターが楽しかったら、次に来た時にうららちゃんの事を本指名してあげるよ』
え? 今このお客さんの方から、私の事を本指名してもいい。って言ったよね? 私、何もアプローチしてないのに。こう言う時は、お客さんの方から言ってきたんだから、ルール違反にはならないよね?
私は、こんなリッチなお客さんに気に入られてる事に喜んで、直ぐにアフターに行く事を了承した。
今日は朝まで絶対に帰さないで、私のトリコにしてやるんだから!
私は、浮かれていた。このお客さんを自分のお客さんに出来たら、もっともっと零士の働くお店で、零士の為にシャンパンもボトルも頼めて、零士も私の事を誉めてくれるはず。って。
それがあんな事になる、キッカケとも知らないで……