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シャンパン頼んでみた。

 中学校時代の同級生の木下将士こと結城零士に出会ってからの私のアルバイト生活には少しだけ変化が訪れた。


 ストレスを発散させられる場所が出来た事によって、キャバクラでのアフター営業も更に意欲的に行えるようになった。

フリーで来ているお客さんの中で、リッチそうな私の売り上げに貢献してくれそうなお客さんを見付けては、自分からアフターにも誘うようになっていた。


 それだけじゃなく、キャバクラでのランキングの順位が上がった事により、他のキャストのお客さんも何人かは、私に指名の乗り変えをするようになった。私は、過去の事が気になったが今回の指名乗り変えは、お客さんの方から自主的に行われた事により、他のキャストも私に文句を付けられなかったのか、何も言われる事も無かった。そんな指名を乗り変えてくれたお客さんに【変えてみたが、うららはつまらない】なんて思われてまた他のキャストを指名しないように、特に注意してアフターや同伴なんかも積極的に行うようにしていた。


 もちろん、私がアフターや同伴をするに値するお客さんに対してだけだけど。


 後は、アルバイトに行く日は、そのまま変わらず週に4日だけど、時間をお店が閉店する時間までアルバイトをするように変えた。

お客さんとアフターに行く事が増えた私には、終電に間に合うようにアルバイトの終わり時間を気にする必要が無くなっていたからだ。


 月・水・金・土とキャバクラのアルバイトに出て、土曜日のアルバイト終わりに零士の働いてるお店に行って、ストレス発散を兼ねて楽しむ。こんな感じのアルバイト生活を今は続けている。


 今日は土曜日。これからまた零士に会いに行く。

お店で、お客さんからアフターに誘われたけど、土曜日の夜は私が私の為に使う時間って決めたから、断った。


 お店で私服に着替えてから零士の働いてるホストクラブ【NIGHT】に行く。私は土曜日の夜だけは、私服にも気を遣う。

普段は、ノーブランドのどこのショップでも売ってそうな服を着る事が多いけど、土曜日だけは目一杯オシャレをしている。


 前に1度普段の服のままで行って、周りの他のお客さんとの違いに私自身も少し恥ずかしい思いがした事があった。そして何よりそんな事よりも、もっと恥ずかしいと感じたのは、零士にそんな私の接客をさせた事が恥ずかしかった。


 だから土曜日は目一杯オシャレをする日。


 零士の働くNIGHTの前に着くと決まって、お店の前に立っている数人の指名してくれるお客さんが未だ見つかってないホスト達が必ず何人か居る。街に繰り出してお客さんを探しに行くって事を、零士に聞いていた。私が零士と久し振りに再会した日も、零士は街に繰り出してお客さんを探していたらしい。

そんなホスト達の中で零士に呼ばれて私のヘルプに着いた事のある若いホストの何人かが、私の姿を見付けて近づいてくる。


 『あっうららさん、いらっしゃいませ、今日はちょっと零士さん他のお客さんも来てます』


 そう声を掛けてくれる。私は、その言葉で今日これから零士に会える事を実感して喜ぶと共に少しだけ寂しさも感じた。

私は零士から【うららは、無理する必要は無い】って言われているけど、他の零士目当てのお客さんが、居る時に来ると私が零士を独占する時間がどうしても減ってしまう。

お店で零士の売り上げに高く貢献してない私は、どうしても零士も長く一緒に居て貰えなく、ヘルプのホストと一緒に居る時間の方が長くなってしまう。

もっと零士の売り上げに貢献出来るなら、零士の事も独占出来るのに…… 


 そんな寂しさを少し感じながら、ヘルプに着いた事のあるホストのエスコートで今日も店内に足を踏み入れる。

沢山のホスト達から歓迎の言葉を掛けられながら、席に座ると直ぐに零士に連絡が行ったのか、零士が私の隣に座る。


 『いらっしゃい、うらら今週も来てくれてありがとう、ゆっくりしていけよ』


 零士は、とっても優しい。私がキャバクラでの仕事に疲れて癒されに来ている事をしっかりと把握してくれていて、私が楽しむ事を何より優先しろよ。その為に俺や他のホストは居るんだから。

そう言ってくれる。


 ホストの中には高圧的な態度を、ワザと取るホストなんかも居るらしい。零士がそんなホストじゃ無くて本当に良かった。


 そんな優しい零士と楽しく過ごせる時間は、私がお店に入る時に感じた寂しさの通りに長くは続かなかった……


 『うららごめんな、ちょっと他のお客さんも来てるから、ずっとうららの側に今日は居てやれないんだ、また直ぐに戻ってくるから、少しの間だけ他のヘルプのホストと楽しんでてくれよ』


 そう言って零士は、私の席から離れていった。本当に挨拶をしに来てくれただけ。って感じだった。

それが仕方がない事は、私もよく理解している。

私は零士に甘えて、このお店では最低ランクの【時間制の飲み放題】しか選んだ事が無い。他のお客さんのように、ボトルキープをしたり、シャンパンを入れたり、ヘルプに着くホスト達にお酒を振る舞ったりしてる訳では無い。

だから、そんな遊び方をしてくれるお客さんの方を優先しなきゃダメな零士の立場も理解はしている。

私だってキャバクラで同じ事をしているからだ。


 だけど、やっぱり寂しい。零士にもっと側に居て欲しいと思ってしまう。

私はテーブル越しに座る1人のヘルプのホストに聞いてみた。


 「誠くんちょっといい?」


 『あっうららさん、俺の名前覚えてくれたんですね、ありがとう嬉しいなぁ、それで何でしたか? 何でもこの誠に聞いて下さいよ』


 「あのさ、このお店でボトルキープするのって1番安いボトルでいくらなの? 後、1番安いシャンパンは?」


 私は私に出来る限りの事をして零士の売り上げに貢献出来たら、きっと今よりも零士が私の横に来てくれる時間も増える。そう考えて聞いてみた。


 『あっうららさん、何かボトルキープとかシャンパン入れるつもりですか? いいのかな……』


 「うん? 私がそう言うの頼んじゃダメなの?」


 『あ~全然ダメって事は無いんですよ、ただ零士さんから言われてて、うららさんに無理させないようにって』


 私は誠くんの言った言葉に、感動して泣きそうなぐらいに嬉しくなった。零士はホストなのに、私には無理させるなと他のホストにも注意するように言ってくれている。


 【私は絶対に零士にとってはお客さんじゃなく特別な存在】


 なんだと強く感じた。だって、ただのお客さんの1人なら売り上げに貢献してくれた方が嬉しいに決まってるんだから。


 私はこの零士の私に対しての思いやりの言葉を聞いて、更に少しでも私が出来る範囲ででも零士に返さないとダメだ。って思った。


 「取り合えず教えてよ、ね」


 誠くんにそう言うと、誠くんは教えてくれた。


 『1番安いボトルはブランデーの1万円で、1番安いシャンパンは3万円のシャンパンですよ』


 私が今日キャバクラの終わりに貰った今週のアルバイト代の金額と、教えて貰った金額とを頭の中で比較した。


 うん、明日買うつもりだった服と靴を我慢したら大丈夫。別にどうしても欲しい服と靴でも無いし。


 私は笑顔で誠くんに告げた。


 「誠くん、シャンパンの1番安いやつ1つね」


 私はシャンパンを1本頼んだ。誠くんは私にお礼を言った後に席を立ち、シャンパンを取りに行った。

その時にきっと零士にも、私がシャンパンを頼んだ事が伝わるんだろうな。零士は喜んでくれるかな? 無理するな! って叱られちゃうかな?

どっちでもいいんだ。だって零士が私の為に来てくれるんだから。 


 

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