上手く誤魔化せた。でもムシャクシャする。
あれからも私のアルバイト生活は順調そのものだ。
アフターをして本指名を増やして行く。って言う作戦が上手く行っている。今では私は、お店のランキングで6位にまで上がっている。入り口に貼られた写真パネルもまた1サイズ大きな物に変わった。
おかげでフリーで来たお客さんが入り口の写真パネルを見て、私の事を指名してくれる回数も増えた。
私はそんなお客さん達の中から、私の売り上げに貢献してくれるお客さんを見付けては、自分からアフターに誘うようにしている。
だって、せっかく上がった時給も、せっかく上がった売り上げ順位も、なりより欲しい物を買う為に必要なお金をたくさん稼ぐ為に必要な事なんだから。
順調ではあるんだけど、少し変だと思う事も増えた。
私の考えすぎだと思うけど。
私の事を本指名してくれるお客さん。アフターに行った後しばらくは、お店にも良く顔を出してくれる。でも、暫くすると来る回数が一気に減る。そんなお客さんが何人か居た。
私は、ただの偶然かな? 今度、顔を出してくれた時に行くアフターでサービスしてあげたら大丈夫。そんな風に考えていた。
「あ~今日は、空振りばっかだなぁ~」
今日は、私のお眼鏡に叶うフリーのお客さんが1人も居なかった。
今も、さっきまでフリーのお客さんの横に着いていた。
そのお客さんは、何か勘違いしてる感じのお客さんで、私が何時ものようにお客さんの足に手を乗せ、色々とオネダリをしてるのを、私がお客さんの事を気に入ってる。そう思ったみたい。
そんな訳ないじゃん。私は、お客さんが私の売り上げに貢献してくれるお客さんかどうかを調べてただけなのに。
そのお客さんは、私の短いスカートの裾から伸びる足を触ってきた。
【ちょっとやめてよ、私の足触りたいなら、せめてボトルキープぐらいしてよ!】
もちろん、毎週来てくれて、シャンパンでも入れてくれるのなら、喜んでアフターに行ってあげるんだけど。
私は、お客さんにそれとなく聞いてみたけど、そのお客さんは、月に1度キャバクラに来るぐらいしか無理だけど、必ず私の事を指名するからって。
月に1度、普通に本指名してくれるだけのお客さんとアフターになんか行く訳ないじゃん。この人、自分が女の子にモテるとでも勘違いしてるの? バーコードハゲの40過ぎたオッサンなのに。
そんな勘違いしたお客さんの相手を何とか我慢して終わらせた。
早く交代のキャスト連れて来て。って思いながら。
「すいません、コーラ下さい」
私はキャストの待機席に戻る前に、キッチンの人に声を掛けて、飲み物を貰い待機席に座った。
「あ~疲れた……」
ボソリと呟いた私の言葉が聞こえたのか、待機席の横に立っていた堀田マネージャーが。
『どうした? うらら、何かあったか?』
そう聞いてきた。だから私は、さっきまで着いてたお客さんの事を話した。もちろん、正直に【私の売り上げに協力してください、アフターに付き合いますから】なんて事は一切話さずに、足を触ってきたり、胸元を覗いてきたりするお客さんだった。って事だけを話した。
その後も少し、鬱憤を晴らすように堀田マネージャー相手に愚痴を言ってた。そしたら、堀田マネージャーが。
『あ~そうだ、ちょっといいか? 話たい事があったんだった』
そう言って私の事を、待機席から連れ出した。そのまま、キッチンの中を通り抜け、事務室に私を連れて来た堀田マネージャーが、真面目な顔をして私に聞いてきた。
『ちょっと他のキャストが話してるのを、小耳に挟んだんだが……うらら、お前【枕営業】って言葉知ってるか?』
何それ? 私は初めて聞いた言葉に、素直に知らないと答えた。
堀田マネージャーは、枕営業と言う物の説明をしてくれた。
私はこの説明を聞く度に胸がドキドキと鼓動が激しくなるのを感じていた。
『キャストの営業方法に口を出す事は基本的に無い、だけどお店のイメージが悪くなってしまう恐れのある、枕営業はしないでくれよ』
「私は、そんな事してません! 確かにアフターには良く行きますけど、そんなの他のキャストの子も同じですよね! お客さんにお店に来てもらうのに、お店の後で食事したり、遊びに行ったり、普通のアフターしかしてません!」
私は、私のしている事がバレるのが嫌だったから、殊更そんな事する訳が無いと強く、堀田マネージャーに言った。
そんな風に私の事を思っていたのか? と言う思いも込めて。
『いや……もちろん、うららの事は信じてるから、そう言う変なウワサが出てるから注意しろよって事だよ、うららは営業頑張ってアフターも良くしてるからさ』
私は上手く誤魔化せた事に安堵した。
こんな効率の良い方法、やめる訳ないじゃん。
私は、もっともっとお客さんを捕まえて、このお店のNo.1になるんだから! そしてたくさんのお金を稼いでもっともっと色んなブランド物を買うんだから!
堀田マネージャーに変な事言われたせいで、この日のアルバイトは本当に最悪だった。イライラとムシャクシャがずっと私の事を蝕んでいた。
そんな最悪のアルバイトの帰り道だった……地下鉄の駅に向かう為に、ネオンが綺羅びやかに光る街を歩いている時、私は運命の出会いを果たした。