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さよなら幸田さん。

 あれから、1ヶ月程が経つ。私はアルバイトのキャバクラでも、お金遣いの良いお客さん【幸田さん】を捕まえた事により、良い事がたくさん起こった。


 先ずは純粋にアルバイトで貰えるお金が増えた。

時給も2,000円から3,000円に上がった。幸田さんのおかげで、キャシュバックの金額も増えた。そして……幸田さんのおかげで売り上げの上がった私は、キャストの中での順位にTOP10にまでなった。


 お店の入り口横には、まだまだ小さいけれど私の写真も飾られるようになった。

りこさんも堀田さんも自分の事のように喜んでくれた。

もっと頑張ったらNo.4のりこさんにも追い付けるかも?


 後は、キララさんとアカリさんの2人にも、それぞれの派閥に入ってるキャストの前でちゃんと謝る事も出来た。

関係ない人の居る前で謝るのには少しだけ抵抗があったけど、ヘルプに着いた時にドリンクすら頼めないのは、キャシュバック的にキツすぎるから、我慢して謝った。

謝った事がちゃんと他のキャストにも伝わったのか、謝って以来は前の様にドリンクも頼めるようになった。


 今日もアルバイトを始めて直ぐに幸田さんがお店に来てくれた。

もちろん、私の事を本指名してくれる。私は喜んで幸田さんの元に行き横に座る。

今日は幸田さんに少しだけオネダリをしなきゃいけない。だって、大好きなブランドの、学校に教科書なんかを入れて持っていくのに便利そうなサイズのカバンの新デザインが出たんだから。

あのカバンを持って学校に行ったら、絶対にみんなに羨ましがられる。たくさん幸田さんにオネダリして、1日でも早く手に入れなきゃね。


 私はいつものように、幸田さんが飲むお酒を作った後に、いつものように私の飲むドリンクを頼んだ。最近ではいちいちオネダリしなくても、私の飲むドリンクは頼んでもいい事になってる。そう言う約束を交わしてある。


 幸田さんが1回目の延長をして、引き続き私の事を指名してくれた後で私は、オネダリ大作戦を始めた。


 「幸田さん、お願いがあるんです、今日シャンパン入れてくれませんか?」


 そう言って、私は幸田さんの太ももに手を置いて、自分の体を幸田さんの体にもたれ掛からせるようにして耳元で囁いた。

幸田さんは、私の方を見て。


 『シャンパンは週に1本だけって約束したよね? もう一昨日入れたはずだけど?』


 そう既に今週の分のシャンパンは入れて貰った後だった。

でも仕方ないんだ。だってその分のキャシュバックは、大学の友達と遊びに行った時に、色々と奢ってあげて使っちゃったんだから。

私が、新しいデザインのカバンを手に入れるには、幸田さんがシャンパンを後2本は入れてくれないと買えないんだから。


 「そうだけど……どうしても欲しいカバンがあって……1番最初に手に入れたいから……お願いします、この後のアフターでもサービスしますから」


 私は、幸田さんにオネダリを続けた。そうしたら、突然幸田さんが男性のスタッフを呼び、チェックをして帰ってしまった……


 私は物凄く慌てて動揺してしまった。幸田さんを怒らせた事に。

幸田さんを怒らせたままじゃ、この先本指名もしてくれなくなるかも知れない。高いシャンパンも入れてくれなくなるかも知れない。


 私は慌てて、更衣室に行ってそこで幸田さんの携帯に電話を掛けてみた。


 「もしもし、幸田さん? 怒ってます?」


 『いや、怒ってはいないね、怒る価値のあるような事では無いから』


 「それならどうして帰っちゃったりしたんですか?」


 『俺はね、約束を破るのが大嫌いなんだ、前にちゃんと話した事があると思うんだけど?』


 そう言われた私は、これまでに幸田さんから聞いた話を思い出していた。確かに何時だったか忘れたけれど、ホテルの中で、そんなような話を聞いた覚えがある。

親友を信じて、借金の保証人になった事があって、その親友は約束を破って逃げちゃったって言ってた。

借金の額自体は、幸田さんにとっては、大した金額では無かったから、直ぐに全部払ったらしいけど、それ以来約束を破る事。約束を破られる事を極端に嫌悪するようになった。って……


 『だから、うららちゃんも俺との約束は破らないでくれよ、俺も必ず約束は守るから』


 その時そう言っていた事を思い出した。


 「ごめんなさい、どうしても欲しいカバンがあって、つい……」


 『とにかく、俺と君との間で交わした約束は、君が自分から破ったと言う事で、何もかも無しになったから、俺はもう君の働いてる店に、君が働いてる間は行くことは無いから』


 その言葉を最後に、電話が切れてしまった……

その後何度掛け直しても、幸田さんが電話に出る事は無く、何度目かの電話の時には、常に【話し中】を知らせる音しか聞こえなくなった。幸田さんに私は【着信拒否】されてしまった……


 どうしよう……幸田さんが居なきゃ私は、あのカバンを買えない

。いや……時間を掛けたら買えるけど、その間に誰か他の人が先に手に入れちゃうかも知れない……


 明らかに落ち込んでショックを受けていたけど、まだアルバイトをしてなきゃいけない時間。私は、もう帰りたかったけど、仕方なく時間までアルバイトを続けた。


 そして、何人かのお客さんに着いた後、フリーで1人で来ていたお客さんに着いた。幸田さんとの事でほとんど上の空だった私の事を見て、そのお客さんがどうしたのか聞いてきた。

私は、他のお客さんと少しトラブルになって怒らせてしまった事を、そのお客さんに話した。どうしても欲しい物があったから、約束を破ってオネダリをしちゃった。って事も。


 そのお客さんは、私の話をじっくりと聞いてくれて、相談に乗ってくれる為に、わざわざ私の事を場内指名してくれてまで、話を聞いてくれた。優しいお客さんだと思った。だから、色々とお客さんに話して相談に乗って貰ってた。


 『そうなんだ、解るようららちゃんの気持ち、新しいカバンを1番最初に手にしたかったって事もね、そこでうららちゃんに俺から提案だ、俺は悪いが、そのうららちゃんがモメた人なんかと比べたらお金は持ってないけど、うららちゃんがカバンを買う為に協力出来る事はある、どうかな? うららちゃんが良かったら、この後に俺とアフターをするって事で俺に協力させてくれないかな?』


 私はこの時に、このお客さんとアフターに行ったら、カバンを買う為に必要なお金が手に入る。そう思った。


 そして私は、その日のアルバイトの終わりに、このお客さんとお店の外で会った。アフターに応じて。


 普通のアフターと変わらず、普通にご飯を食べながら話をしただけだったけど、帰り際にタクシー代だよ。って15,000円貰った。


 別れ際。


 『うららちゃん、今度の月曜日、俺給料日なんだ、またお店に遊びに行って、うららちゃんの事指名したら、アフターしてくれるかな? その時はもう少し多く協力が出来ると思うから、どうかな?』


 私は、もちろん、とびっきりの笑顔を作って、是非遊びに来て指名してください。アフターももちろんOKですよ。そう答えた。

 


 

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