プロローグ
「2100年、世界中で技術革新が進み競争が行われた。
技術革新が進むのに合わせ世界各国は軍事技術を磨き上げ、抑止力の名の下で武装を強化し対立を深めた。小国は大国に吸収され、大国同士は軍事同盟を結んだことで、アメリカを中心とするNOA、ロシアを中心とするRIC、イギリスを中心とするEFD、そして残る小国からなるTEOの4つに分断された。
その中で日本は超人的な人間を数々育成し、中立を保っている。そして…」
「ああ、そこまででいいわ。滝島くんありがとう。
今日の授業はここまでよ。」
ここは国家超人育成機関直属の高校、通称X高校。
超人的頭脳又は超人的身体能力を持つ子供を育成するために孤島に建てられた高校だ。
この孤島は国家最高機密であり、最新の技術で外からは確認できないようになっている。
「やっと終わったぁ…」
昨日もまともに寝れなかったし、しばらく寝てから帰るか…
今日はあったかいし、絶好の睡眠日和だ。
「ねぇねぇ!怜!今暇?」
この声は…翠か…
海山翠は俺の幼馴染で何かと俺に構ってくる。
成績優秀、容姿端麗、おまけに誰にでも笑顔で話しかけるときた。
そんな完璧な翠は男子人気が異常に高い、というか高すぎる。
翠が俺に構うたびに、男子から呪詛を浴びせられている…気がする。
軽くあしらうのが一番だ。
「全くもって暇じゃないから帰れ」
「はぁ?そんな言い方しなくてもいいじゃん!なんで最近全然付き合ってくれないの!今日は政府の呼び出しで、研究を手伝わなきゃいけないんだけど一人じゃつまんないからついてきて」
「そんな自分勝手な…」
そのまま、うつ伏せのまま寝ようとしていたら翠に腕を掴まれた。
「ほら行くよ」
翠の勢いに押されて結局ついて行くことになるのがいつものパターンなのはもうわかってる。
しょうがないか…
「わかったわかった。行くから離せ」
ずっと腕を掴まれていると男子の目が痛い。
「初めからそうしなさいよ」
俺たちは教室を出た。
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「今日はどこの研究室だ」
「今日は高次元兵器開発研究室よ」
この高校はただの教育機関ではなく、国家の最高機密を扱う研究所ともなっている。
それは、この高校が超人的頭脳を持つ子供を育成する機関であるからだ。
つまり、研究者は自分の研究に究極の頭脳を利用できるのだ。
また、実験室では超人的身体能力を持つ学生により様々な実験がなされている。
「怜は本当に研究とか実験に非協力的よね。母国が中立を保って安全を確保するためなのに…怜は自分がどれほどの人材なのかわかってるの?」
「………わかってるさ」
通常では育成プログラムの理論上、超人的頭脳と身体能力の発現は択一的であるとされる。
しかし俺はどちらの能力も発現し、さらにどちらも最高ランク、通称Sランク(測定不可)に位置するレベルである。
ランクとは生徒および軍人に与えられる格付けだ。
表向きは頭脳・身体能力共にAランクからEランクまで存在し、国内に頭脳最高位のAランクは3人いる。その一人は翠だ。
そのため、政府から研究や実験への協力要請が度々くる。
Sランクは測定器で測りきれない人間に与えられる非公式のランクであり、ただ一人俺だけが持つ。
Sランクは国家機密であり、首相及びAランクの人間のみ認知している。
「俺にも色々あるんだよ」
俺は翠の付き添いをすることはあっても絶対に研究や実験に参加することはない。
その理由を翠に言う必要もない。
沈黙…
やばい、少し強く言いすぎたかもしれない。
翠の機嫌を悪くすることは百害あって一利なし、これはまずいぞ…話題を変えよう
「そ、そういえば今日の研究内容はなんて言ってた?」
「人工ブラックホールの生成だってさ」
そっぽを向いたまま返事をしてくる。
素直に謝ったほうがいいな
「ごめ…」
言い終わる前に凄まじい爆発音がした。
「え?なんの音?」
翠が驚いて、自分で開発したデバイスで異常を発見した。
「高次元兵器開発研究室…」
デバイスの動画凄まじい爆炎が上がり、凄まじいエネルギーが放出されていた。
見た瞬間全てを悟った。
『時空が改変されると』
おそらくそんなことは他には誰も気がつかない。
ブラックホールの生成に失敗し高エネルギーが暴走したことにさえ気がつかないだろう…いや翠は気づいている
このままでは、世界が破滅する。
どうすればいい。考えろ、考えるんだ
「翠、お前はここにいろ。俺は研究室に向かう」
「馬鹿じゃないの!今あそこに行ったらどうなるかわからないわよ!」
翠が大声で怒鳴りつけてくる。
「俺にはこの先どうなるかわかる、そしてそれを止めれるのも俺だけだ…このセリフかっこいいな」
「ふざけてる場合じゃない!怜が行くなら私も行く!」
こうなった翠は俺のいうことなんて聞かない。だけど今回ばかりは譲れない。
「お前が来てもただの足手まといだ、邪魔だ。」
出来るだけ冷徹に感情を込めずに言った。
ただ事実を述べているだけのように。
「え…………」
翠は言葉を失った。
それはそうだ、今までこんな風に突き放したことなんてなかったんだから。
「そんな…そこまで言わなくても……ただ怜ひとりなんて心配で…」
翠は泣き出しそうな声で言った。
ここで翠に構っていては取り返しのつかないことになる。
「お前が来ても邪魔だからここにいろ、わかったな」
とどめを刺した。
翠は心根は脆い、いままで人に嫌われたことなんてなかっただろう。だからこそ翠に冷徹な言葉はよく効くのだろう。
「ごめん…」
小さく呟いて、俺は研究室の方へ向かった。