第4話 大剣豪 ゼルナ
「おはようございます、リュウ」
朝を迎え、ベッドルームの下の王の間に行き、リュウへ早速挨拶。
名前だけ呼び捨てなので本当に尊敬をしているのだろうかと、日本語としては聞き取れてしまう。
難しいよね、日本語。
「おはようリリヤ、今日は休んでいいよ」
「マジスカ!?!?」
俺は休みが好きだ。
誰にも邪魔されず、1人で好きなことができる……素晴らしくないか?
「今日は好きなように、街を歩いてくといいよ」
「やったぜ!!!!!!」
俺は街中に全力疾走していった。
バッジを外し、外に出る。
バッジをつけているということは、仕事をしているという意味合いを持っているらしい。更につけていると客なのにもかかわらず粗雑な対応が出来てしまうという無駄な差別を無くす為だそうだ。
「ここが街中、かぁ……」
この国に来て2週間近く経とうとしていたが、街中に来るのは始めてだった。
それにしても、雰囲気は日本と何も変わりゃしねえ。日本の……都会に近いかな。色々な街があって、人々は歩いて……狭く並んでいるところにバーがあったり店があったりと、何も日本と変わっていなかった。
まあ、公用語が日本語な時点でそうなるんだろうけど。
しかしそこで、日本ではなかなかお目にかかれないものを目の当たりにした。
「剣豪……ショー?」
俺らが剣豪と言って思い付くのは必殺◯事人の中村主◯や、7人◯侍と言ったところであろう。そういうのがいるのだろうか…?
完全無料!!!!と張り紙に書かれていたので、俺は剣豪ショーが行われていると思われる建物の中に入った。
そこはサーカスやバイクショーのような、高い所からステージを見下ろすような、丸く囲われていた場所であった。かなり人が来ており………女性が多いのかな。でも、この国ってそんな女性いないはずじゃ……
と思ったら、赤いハートの形やダイヤの形をしたバッジを付けている人々が散見された。
赤の国の人々、か。
「ゼルナ様って、超美しくて超イケメンなんだよねぇ〜」
「そうそう!!あんなかっこよさ、反則だわ〜」
近くにいる女性達が会話をしている。
……そんなにイケメンなのか。
制裁してやりてえな…と、少しだけこの世の顔面格差に苛立ちを覚え始めた。
黙って待つ事2.3分。ついに下のステージの垂れ幕から、剣を持つ人間が現れた。
その瞬間、キャーーーー!!!という甲高い黄色い声が鳴り響く。正直うるせえ。
下の男性を俺は身を乗り出して見てみる。
クラブのマークをつけているじゃねえか。
……うちの派閥の…人間か。
「今日は私の剣豪ショーへ足を運んでいただき、誠にありがとうございます。私の剣さばきを、心ゆくまでご堪能ください」
透き通る低い声………整った顔立ち……反則じゃねえか。そりゃ女にモテるよ。
少しだけ嫉妬心を持ちながらも、彼を見つめる。
「まずは、剣を精密に扱うという部分をご覧ください。」
イケメン男がそう言うと、無数の葉っぱが天井からひらひらと落下してくる。
イケメン男は左腰につけていた鞘から細い剣を抜き……
「…………………はぁっ!!!!」
一瞬だけ、熱くなるような声で叫ぶ。
すると、無数の葉っぱが…
全て綺麗に真っ二つに裂けていたのである。寸分の狂いもなく、半分に切れていたのである。
キャーキャーと湧き上がる黄色い声。
少しだけその気持ちもわかった気がした。
しかし、あの派閥にあんな凄すぎる腕の持ち主がいたのか……リュウはどれだけ人間兵器を持っているんだ……?
「ご歓声、ありがとうございます。では次に、細い剣であっても、この材質よりも硬いものを貫けるというのを、お見せします」
そりゃ簡単じゃねえか?力で押し切ればなんでも切れるじゃねえか。と思っていた俺。
そんな発想は一瞬で消え去った。
ステージに運ばれたのは、ダイヤモンドと言われる世界一硬い鉱石であった。
しかも、それが人間サイズでごろんと転がってやがる。どうやっても無理無理、技術があっても剣があれじゃあむr……
ビュン!!という細い風の音が聞こえた。
いつの間にかイケメン男はダイヤモンドの目の前から後ろに立っており、ダイヤモンドは真っ二つに割れていた。
「な、なんだよこれ……」
周りも黄色い声ではなく『おお〜』と言った感嘆を漏らしていた。
「剣は力技ではなく、材質でもなく、技術で全てカバーできます。あなた達も、剣技に触れてみてはいかがでしょうか?以上で、剣豪ショーを終わります。ありがとうございました!」
盛大な拍手が送られ、俺もそれにつられ拍手をする。
何者なんだろう、あいつ。
人が掃けたら、下に降りて見てみよう……
人はあっさりと掃けていった。俺はそれを見計らい、ステージの下へと身を投じ一気に降りた。そしてそのまま、垂れ幕の中へと潜り込んでいった。
楽屋のような場所にたどり着き、俺は声をかけてみる。
「あのー……先程の剣豪ショーの方、いませんか……?」
すぐ、あのイケメン男が現れた。
黒髪で髪の毛は長く、身長は180を越えているであろうと、かなり高かった。細くも鍛えられている手足と、硬さのない白っ気の多い装備をつけていた。
「ダメじゃないか、ステージから降りてくるなんて」
「す、すいません………ちょっと、気になってしまって…」
頭を下げつつ、戻った時に右の胸元を見つめた。
クラブのマークに、Jと掘られたバッジを身につけている。
「って、王子様かよ!!!!!!!」
驚きを全く隠せなくなった。
「そ、そうだけど……き、君は……?」
「俺は………」
そう言われ、右ポケットの中から2であるバッジを見せる。
「そのボウズ頭……そうか、君はリリヤ君だね?」
「な、なぜわかるんだ……?」
「リュウから色々聞いているんだよ、気になる新入りがいる、ってね」
リュウ…と呼び捨てにしているってことは、同級生か仲がいいかのどっちかだ。おそらく仲がいいのだろうけど。
「ちょっと……話してみないかい?僕も君のことを少し知ってみたくて…ね?」
「そ、そりゃあいいですけども……」
そう言われ、俺は王子に連れられ、人気のない裏道に出た。
そこにある小さなベンチに2人並んで座り、会話は始まった。
「君はどうしてここに来たんだい?」
「あ、えと……飛行機の緊急着陸で……そして病院に運ばれて…気づいたらここに…」
やべえ、話しづれえ。
ほんわかな空気をした人であっても、こんだけ階級が上で初対面だと話しづれえっ…!
「……そっか、僕と同じか……」
「え、えっ……!?」
「でも僕は墜落という形だったけどね。生存者は2人しかいなくて、その1人が僕。もう1人が……」
「リュウ、ですよね」
「なぜ、知っているんだい?」
「家事係のおばさんから聞いたんです。昔飛行機の墜落で生きていて、生存者が犯人だったんじゃないかと囁かれて。そして先代の王は違う名を与え、新しい人生を歩ませたと…」
「そっか。全部知っているのか………なら、話は早いな。僕はジャックのゼルナ。よろしくね」
ゼルナは右手を差し伸べてくる。
「よろしくお願いします…リリヤ、です」
「そう堅くならなくていいよ、リュウと同じくタメ口でもいいさ」
「そ、そうか……じゃあ、よろしく」
ゼルナの差し伸べていた右手に左手を添え、握手する。
そこから俺たちは、1時間、2時間と会話を続け、様々なことを話していた。
ここの国での暮らしのこと。
元いた場所のこと。
赤の国がどういうところかということ。
気がつくと夕日が差し込み始めていた。細道から左右を覗くと見える赤い光は、少し神秘的でもあった。
「君……宿は?」
「今は城のベッドルームです…」
ゼルナは微笑みながら、優しい声で言う。
「じゃあ、一緒に帰ろうか…」
「はい!!!」
ゼルナとの出会いは、とても暖かいものであった。
次回、特殊訓練しちゃいます。