第3話 爆速王女 リセ
「いいかい。魔法は身体の中に眠っている魔法力を外に出して使えるから、まずはその…」
俺は『騎士』のリュウからワンツーマンで『魔法』の使い方を学んでいた。
教師であるメル先生が示したとこにきたら、そこはこの城であった。何でも、王様が教えたいからという理由で出来ても出来なくてもこの場所に連れてくるつもりだったらしい。
俺の貴重な休みを2日も奪いやがって……。
でも実際出来ないモンは出来ないんだ。聞いて覚えるしかないんだ。
「ってことなんだ。リリヤ君、一緒にやってみよう」
「や、やってみようって言われても……リュウ、あんたは出来るのかよ」
俺がそう思うのも不思議ではない。むしろ当たり前というべきだ。
騎士が魔法を使える?そんな便利なことは聞いたことがない。職種としては正反対の立ち位置にあるモンだぞ、これ。
最初に聞くべきだろ、この質問。
「出来るよ。昔は魔法使いだったからね」
「衝撃の事実ッ!!!」
想像してみてくれ。今まで剣をブンブン振り回すキャラが、いきなり魔法を使い始める展開を。おかしいだろう?
今、俺はその状況下に会っている。
「さぁ……いくよ。火魔法ッ!!!」
リュウが火魔法を叫ぶと、右手からたちまち大きな炎が出て、真っ直ぐ飛んでいく。
てか、城内でやって大丈夫なの?
そんな心配はいらなかった。
何故なら、壁スレスレで氷魔法が壁となり、リュウの火魔法が消えたからだ。
「火魔法は放つ腕をあっためるイメージを持つと放ちやすいわ。覚えておくようにね」
聞き覚えのある声だ。しかも、強く。
「あんたはだれ………って、メル先生じゃないですか!!!やはり、あなたはここのメイドだったんですね…」
「そうなんです。バレないようにしていたんですが、バレてしまいましたね」
「服装が全く一緒なんですよ!!!!!そりゃわかるでしょう!?!?」
メル先生……この人、天然なのか…?
はやくもツッコミの嵐で僕は息を切らし始める。
「さあ、次はあなたの番です。王と私の面目を潰さないよう、とっとと火魔法ぐらい覚えてください」
ちょっと口の悪くなったメル先生に苛立ちを覚える。
「これぐらい………やってやらあ!!!!」
俺は全力で叫ぶ。
「火魔法ッ!!!!!!!!!!!」
しかし、目の前にあったのは空気。無。城の風景。
今回も不発であった。
「あなたは力み過ぎだと、何度言ったらわかるのですか」
「力を抜くことから始めてみようか……でも、もう今日は遅いし休もう……次の日もあるからね、明日は頑張ろう、リリヤ君」
メル先生の柔らかな叱責と、リュウの励ましは俺の耳には聞こえていなかった。
「なんっでっ、できないんだぁぁぁぁぁァァァァァア!!!!!!」
俺はつい、城の中で、悲痛な叫びを上げてしまった。
俺は身支度を済ませ、寝る準備をしていた。すると、家事係であろう"8"のおばさんが、ベッドルームに入ってきた。
「あんた、王様に随分と気に入られているねぇ」
「……何で俺なのか、わからないくらいですよ」
魔法使いとして、何も出来ない俺。どうしてリュウにワンツーマンで魔法を教えられる程気に入られているんだろう。
不思議で不思議で、たまらなかった。
「……もしかしたら、あんたと境遇が似ているからなのかもねぇ」
「…え?それはどういうことですか??」
リュウが俺と同じ境遇…?
接点でもあるのかよ、そんな話聞いたこともねえぞ。まだこの国に来たばかりだから当然でもあるけど。
そして、おばさんは重く低い声で話してくれた。
「…リュウ様もあなたと同じ、飛行機の緊急着陸でこの国へやってきたのよ。あの人の場合は、緊急着陸というより、墜落だけどね。まだ幼かったわ。4歳か、5歳くらいだったから、今から24、5年前のことね。先代の王に気に入られて、ずっと王家と一緒に暮らしていたのよ」
リュウにそんな過去が…
「微かな生き残りとして、リュウ本人がやったんじゃないかと疑う人間が多数いたというさ。まあ、あの事故の生存数は2名だったから、思うのも無理はないけどね……しかし、先代王は新しい名前を与えリュウ様は新しい人生を歩むことになったのよ。王家の兵士として、ね。その成長は素晴らしいものだったわ。剣術はみるみるうちに覚え、更には自分だけの技も磨いて作ったのよ。これには王様も感無量で、リュウ様が15歳の頃にジャックの立場に付けられたのよ。実力だけで這い上がれた類い稀なるケースだった。元々、先代ジャックが死んでしまったから、枠が余っていたというラッキーな考え方もあるんだけどね」
「で、先代王は病で勇退し、男の子も生まれていなかったから、晴れてキングになれたのよ。………つい、話し過ぎちゃったわね。もう時間も遅いわ、寝たらどうかしら?」
同じ境遇……同族は好かれるということをどこかで聞いた事がある。
それがまさに、今なのか。
「おばさん……ありがとうございました。お言葉通り、今日は寝ます。おやすみなさい」
「明日も元気に、頑張ってね」
俺は深い深い眠りについていった………
俺は目を覚ます。時を表す時計はお互い12の針を刺している。
寝すぎた。
いくら訓練が3時からだと言って、こんな時間の使い方は無いだろう……まあいい、着替えて身支度を済ませるか。
そうして俺は着替えを済ませ、朝飯兼昼飯を食べにベッドルームから下の食堂に移動しようとする。
階段は俺のベッドルームから3つ先の部屋よりも奥にあるのだが、その逆の方向から視線のようなものを感じた。
視線を送っていたのは、13.4歳くらいのあどけなさのよく残る少女だった。
「誰だ?あのチビ……」
と言った瞬間。
物凄い足の速さで俺に向かって突進し始め、右拳を後ろに振りかぶっていた。
やばい。
俺は危機感を感じ、階段の方向に猛ダッシュ。
俺が階段に差し掛かったところで、振りかぶっていた拳を振り下ろす彼女。
そうすると、階段の1番上の段が木っ端微塵に完全破壊された。
「チビって…………言うなあっ!!!」
「本当のことを言って何が悪っ………やべえっ!!!
階段を降り切った直後に、彼女はまたジャンプし拳を振り下ろす。
今度は階段にさしかかる所の近くにある食堂の大きなテーブルが粉々に砕け、更には床にクレーターのようなくぼみが出来ていた。
何が起こっていやがる。
あんな怪力、ラノベのヒロインぐらいでしか見たことねえ。
俺は全力で逃げる。しかし、彼女の方がほんのわずかながら速く、距離は少しずつ縮まる。
俺、100m走で10秒切れる奴だったぞ!?それよりも速いってこのチビどうなってやがるんだ!?
「うげやぁぁぁぁあっ!!!」
王の間を全力疾走する。
全力疾走した後の道に、ギャラリーが湧き上がる。
しかし、そんなギャラリーは俺らの爆速具合についてはいけない。
ついには1番広い通路に出る。追いつかれそうになる度に、少女は拳を振り下ろしまくる。その度に壁や床は粉々に砕け散り、穴ができた床もあった。
そして、俺はついにその通路を走り切ってしまう。
壁に着いてしまった。
もう、逃げ場はない。
なら……
拳で戦うしか……ねえッ!!!
俺は両手の拳をギュッと握りしめ、壁を利用し、大きく飛び跳ねた。
彼女は叫ぶ。
「これで終わりだぁぁぁぁぁっ!!!!」
俺は叫ぶ。
「そうはさせねえええええ!!!」
ドスン!!と豪快な音を立て互いの拳がぶつかり合った。
ギリギリと触れ合う音。しかし、俺は後ろに吹き飛ばされ、彼女も壁に向かって思いっきり衝突しようとしていく。
「くっ……!!」
俺は壁に触れた所で間一髪、首を横に曲げ彼女のパンチをかわし切る。
だが、女の子はそのパンチで壁に非常に大きな穴を開け、その穴に飛び込んでしまう。
「きゃあああああ!!」
女の子の高い悲鳴が響く。
ここは2階だ!!!落ちたら命があるかどうかわかんねえ!!!
俺は城の中に、女の子は城の外真下に落ちていく。
しかし、伸ばせば腕が届くッ……!!
彼女の右足を俺は右腕で掴み、壁の境目で切り離れそうになるところを、左手で境目を掴み、間一髪をしのぐ。
「うぉぉぉぉぉ……りゃあっ!!!!」
城の外にぶら下がっている右腕を思いっきり城の中に輪を描くように振り投げる。同時に女の子も投げてしまう。
「やべえっ!!」
空中に舞う女の子。俺は彼女の落下予想地点までダッシュで追い、そこから思いっきりジャンプで女の子をキャッチ。すかさず着地。
女の子は、傷一つないまま無事に助かった。
すると、後ろから追いかけてきていた兵士やメイドなどのギャラリーが大きな拍手を送ってくれた。
「うわああああああんっ!!!!怖かったよぉ……!!」
いきなり俺の胸の中で泣き出す女の子。
クッソみたいな怪力してる癖に、こんなとこはやたら女らしいんだな………
ギャラリーの中から、背の小さな王家の服を着た5のオッサンがやってくる。
「リセ様ッ!!!!お怪我はありませんかっ……?」
「う、うんっ………ぐすっ、あたしは大丈夫…っ」
すると、そのオッサンは俺の方を見てきた。
「あなたが……リセ様を助けてくださったのですね?」
「あ、ああ。元は追いかけられてたんだけどな」
「心から感謝申し上げます。本当にありがとう、ございます」
深々と頭を下げるオッサン。
てか、この女の子…リセって言うんだな。
「リセ……って言うのか?本当にケガはないな?」
「大丈夫………って、何あたしを呼び捨てで呼んでいるのよっ!!!!!2の分際で!!!」
そう言って、リセと呼ばれる女の子は右手で胸元を指す。
クローバー柄に、Qと彫られた文字……
この派閥の"クイーン"かよ!!!!!
あまりの驚きに、俺は目を物凄く開いてしまった。
「だから、あんたが呼び捨てできる身分じゃないのよ。ちゃんと、礼儀くらいは身につけなさいっ」
「は……はぁ」
「なによ、納得いってないわけ!?もう一度ぶっ飛ばしてほしいの!?」
「今度はもう助けねえぞ」
「いいわよっ!!!あんたなんかに助けてもらわなくても、自分でなんとかしてやるんだからっ!!」
あれ?こういう時って、大抵の姫様なら『他に助けてくれる人がいるんだから』って言うようなもんじゃねえのか?
この子、結構独立心旺盛なんだな……
「で、でも…………今回は………………」
やたらと顔を赤くし、モジモジしてから、この言葉をリセという少女は放った。
「あ、あ、あ、あ、あああ……………ありが……とう……」
破壊力抜群であった。ロリコンなら間違いなく鼻血ブシャーしているところだったであろう。俺でも可愛いと感じた程だ。
しっかし、典型的すぎるツンデレだよなぁ……
そうなると、俺に好意持っていることになるがな…そんなことはないか…
「これは感謝の言葉だからねっ!!!全然っ、す、す、す、す、す、すき、すk、好きなんかじゃ…………な、な、ないん、だからっ………!!!」
顔真っ赤+超照れてる+緊張してる=前言撤回。
こいつ間違いなく俺に惚れてやがる。
そんなリセと呼ばれる女の子に、俺は好意を抱かれましたとさ……………
次回はジャック…王子にリリヤが遭遇します。