第2.5話 red side……もう1人のリリヤ 〜ハートのエース誕生〜
ここは、どこ?
私は……飛行機でいつの間にか寝てしまって………そこから何があったか覚えていない。
気付いたら、病院にいるみたい…
「やっと目が覚めたかい?」
白衣を着た女の人が私に話しかけてくる。
年齢は30弱くらいかな。でも顔立ちは整っていて、美しい。身長は……私が横たわっているからよくわからない。
「あ、あの…ここは……」
「心配しないで。普通の病院だから」
やっぱり病院なんだ……私、病気になっちゃったのかな……
私の心に不安が少しずつ生まれてくる。
「あなた……何も覚えていないの?」
「はい……飛行機の中で寝てしまって、今の今まで記憶がありません……」
「ここは、どこなんですか?」
私は上半身を起こし、女の人に聞く。
しかし、女の人は答えてくれない。
「わからないのですか?」
いや、そんなことはない……ここで働いているんだもの。
「いや…」
「なら、教えてほしいです……お願いします…」
りっくんが居たら、もう少し強い言い方してくれたのかな……1人になってりっくんに頼り過ぎな面が出ていると、わかってきちゃったな……
「……くに」
「もう少し、大きな声で……」
「赤の国、よ」
……この前読んでいたスクープ雑誌に載っていたところだ…
世界に隠れている国?というコラムで載っていたのをよく覚えている。この国には多くの日本人がいて、色々物騒なことがあるけど、赤の国は美しい所だと書いてあったかな…。黒の国というのもあるみたいだけど…
「あなたの乗っていた飛行機はハイジャックされたの。でも、1人の高校生と機長がハイジャック要員を上手く眠らせて、機長のおかげもあって……誰1人と怪我、死亡者は出なかったの」
りっくん、なのかな……
勇敢で喧嘩っ早いし、そういうことになったら真っ先に首を突っ込みそうだし………
「でも皆、眠ったら気絶していたみたい。いくらゆすっても起きないから乗客全員が病院に搬送されたの。女性は赤の国へ、男性は黒の国へと……」
りっくんは…黒の国にいるんだ。
会いたい……不安だよ…
「…彼氏が飛行機にいたんです。どうか合わせてくれませんか…?」
「ダメだね……階級を持たない人間は王の許可がない限り他国へは出れないから……」
「そ、そんな………」
もう…会えないのかな……そんなの、嫌だよ…
「でも100%無理ってわけじゃないわ。あなたは王にお声がかかっているもの」
「えっ……?王様、に…?」
私は展開が読めなくなってきた。
この国の1番偉い人にお声がかかるなんて、何故いきなりそんなことに……
「あなた、動ける?」
「はい……どこも怪我してないみたいなので」
ベッドから立ち上がり、看護師のような人についていく。
病院の廊下を歩き、端っこについたところで、細い連絡通路のような道を歩いた。そして……
抜け出すと、そこは広々とした城のような場所に到着した。
「じゃあ、私はここまで、王はとても美しいよ〜」
と言い、連絡通路通路を逆戻りする看護師。
「あっ、ちょっ……」
私が何もいう間も無く、去っていった。
でも…ここ……
昔話とかにあるような、大きなお城。
……凄く、綺麗………
「ようこそ、我ら派閥ハートの城へ!」
城の兵のような人が話しかけてくる。
女の兵士さん……かっこいいなぁ…
「王様から話は聞いています。さぁ!こちらへ!」
「え……ちょっとまっ……」
スタスタと歩く女兵士に私は早足でついていった。
広い道を歩き、階段を登り、もう一つの階段のところで、女兵士は足を止めた。
「王様はこの上です。失礼な言動、行動のないようお願い致します。」
「は、はい……」
私は不安になりつつも、階段を一段一段、登っていった。
20段ほどある階段を登りきる。また広い場所みたい……
「やぁお嬢ちゃん。あんたが新しくこの国へ来た子な?」
「へぇやぁっ!!!ど、どこから……っ!!」
いきなり現れる女の人に私は奇声を出し驚いてしまう。
その女の人は、踊り子のような、露出度の高い服を着て(付けて?)いた。身長はりっくんと同じくらいで、胸は……私と同じくらいかな。
でも、胸元の守備範囲が小さい……大丈夫なのかなこの人……
「驚かせちゃった?ごめんねぇ」
「いきなり声かけられたら誰だってびっくりしますっ!!!」
私は少しムキになって答えてしまう。
「まあまあ、そんな怒らないで〜。アタシはキングのレイカ。よろしくねん」
「お、王様……!?失礼しましたっ…!!」
「いや、王様なんていう硬いもんじゃないよ。それにまだあなたはこの国の何でもないから、敬語なんて使わなくて構わないよ」
「ま、まだ…?」
「まあ………あなたには並々ならぬセンスのようなものを感じてねぇ」
「……はい?」
本当に、何も読めない……
頭が破裂しそうな程予測不能な展開に、私はついていけない。
「まあまあ、そんな困った顔しないで。あなたには……はぁはぁ……この国で働いてもらいたいの」
何でこの人、息を漏らしたんだろう…
そして、働く?私、高校生だよ?
「あ、あの…働くって…」
「金出るよ。飯出るよ。家あるよ。休みあるよ。ホワイトだよ」
「やりますっ!!!わーたーしー、やりますっ!!」
お金という誘惑に負けました。
私はお金に目がないんです。
「でも、何の仕事をやるんですか…?」
「簡単だ…ああぁ……もう我慢ならぁんっ!!」
レイカ様は私の胸元に飛び込んでくる。
そして、腕で順番に、腰とお尻に手を当ててくる。
な、何この人……怖い…
「…な、なにやってるんですか……?」
「身長148センチ、3サイズは89-65-82ね。これくらいぽっちゃりな子……久々に見るし素晴らしいわぁ〜〜〜〜〜」
胸と腹、交互に顔をうずくめるレイカ様。
「アタシ、レズなの」
「ここに来ていきなり性癖暴露!?」
驚くわけにはいかないし、なおさら怖く感じてきた。
でも…………女の人同士って悪くないかも……っ
「女の子の肌ってさ〜、もちもちしててすべすべで最高なんだよ〜………………はっ!!アタシとしたことが!!!」
正気に戻るレイカ様。
「ごめんねぇ。でも、3サイズわかっちゃったから、職種に応じて特注で服、作ってあげる」
「ほんとですか…!!と言いたいんですけど、一つ気になります……職種ってなんですか?」
「ああ〜。ごめんねぇ、大事なこと説明し忘れちゃってたねぇ。この国では、様々職種というものにつくことで『働く』ということになるのよ」
「その……職種はどんなものがあるんですか?」
と言うと、レイカ様は背中に左手を伸ばし、巻物のようなものを取り出す。
騎士
格闘家
魔法使い
神官
銃手
ダンサー
遊び人
女優
迷彩者
天候士
エスパー
等、様々なものが書いてあった。
って、魔法使い!?
魔法使えるの!?!?
と思った瞬間、ビュオオオオッ!!という音を立て冷気が私の顔を横切った。
「使えるのか疑問を感じていたようなので、出せることを証明しました」
えっ。心が読めるのこのメイドのような人……本当に大丈夫…?
レイカ様の付き人なのかな……
「あ、あと戦闘職種に就いて死んでも生き返るから安心してね。その代わり金は半分になるけど」
「ドラク◯だ!!!」
もはや声に出て叫んでしまう。
「あはは、確かに言われてみればそれっぽいねぇ。んで、どうするの?」
そう言われ、少し悩んでから、私は答えを告げる。
「神官…で、お願いします。人々の役に立てたりしてみたいし……それに、戦ってみたい気持ちもあります……っ」
「んじゃあ……」
レイカ様がまた左手を背中に伸ばし、十字架の形をした石を掌に乗せていた。
「この国と黒の国の間に、聖奇石と呼ばれる不思議な大きな石があるの。それと契約することによって……あなたは神官になれるわ」
「この石を持てば……契約されるのですか?」
「いや、違うわ…飲み込むことよ。嫌かい?」
「いいえ、私……やります!!!」
いつもにはない力強い声を出し、私は十字架石を受け取る。
そして………
唾を飲み、覚悟を決めて…一気に飲み込んだ。
「あっ……!!」
気付くのも束の間。私は水色の砂のような光の集まりに飲み込まれていた。
そして、何事もなかったかのように、今さっき見ていた世界に戻った。
「おめでとう、晴れて神官になれたよ………って、あなたの名前を聞くのを忘れていたわ、名前教えて?」
「播磨理衣って言います…」
「じゃあ、あなたは今日から『リリヤ』ね」
「なんで勝手に名前決めるんですか!?」
やっぱりこの国おかしい……でも、悪い名前じゃないかも……
「個人情報保護の為よ。この国………色々ワケありな人とかいるから。その人達が新しく生まれ変われるような国でもあるのよ」
そうして私はリリヤとなった。
……と言っても初日だから新鮮すぎて慣れないんだけど、ね…
「あとは〜……これ、胸らへんにつけておいて」
「は、はい…」
レイカ様が渡してきたのは、ハートマークをした、中にAと刻まれているバッジだった。
「この国には派閥と階級があるわ。派閥はハートとダイヤ。ここは派閥ハートだからバッジもハートマーク。そしてあなたの階級は……ジャックの一つ下、兵士長ポジションよ。普通よりも9個高いとこから始めてもらうわ」
「え……………えええええええ!?!?!?」
いきなりの大躍進に驚きを隠せない。
「普通こういうのって1番下から始まるものなんじゃないんですかっ!?!?なんで私はそんな上から……!!!」
階級のことはよくわからないが、かなり上にいることはわかっていた。
「かわいいから。あとセンスがありそう。以上ッ!!」
「そんなんでいいのぉぉぉぉぉおっ!?!?」
「明日から、アタシ達の部下とワンツーマン教育ねっ、アタシはダンサーだけど神官もやったことあるから、たまに見に行ったりするよん、頑張ってな!!」
こうして、派閥ハートにリリヤという階級エースが誕生しましたと、さ…………
りっくん、今頃何してるのかな………
次回、男リリヤ、姫様に会います。