第24話 ジョーカー
「うおあああああああああ!!!!!」
謎の空間に飲み込まれ、しばらくすると淡い光に包まれる。神秘という言葉が似合う、不思議かつ、綺麗な……
「あんた、ちょっと話があるんだけど」
淡い光の中に1人、ツンとした態度の小柄な女の子が立っていた。見覚えしかない、彼女の姿。紛うことなく、クラブの"クイーン"である、リセであった。
しかし、何故こんな場所にリセがいるのだろう。一緒にリセもいたのか?それとも、夢なのだろうか。夢だったら、もっとモヤモヤしているだろうけど……
「なによ、聞こえてないわけ?リリヤ、あんたに用があるって言ってんのよ」
どうやら本当にリセの声が聞こえているようだ。俺が声を出しても、反応するのかどうか…それはまだわからない。
今からやれば済む話だ。
「なんだよ、どうしてこんなところに居るんだ?」
「ここは、移動間の世界よ。私たちの国と日本をつなぐ……いわば、テレポートの狭間のようなもの。どうやら、あたし達は同じタイミングで黒の国に移動してるみたい。だから、たまたま一緒にここへ来れたんだと思う…」
……ここ、現実世界ですよね?
そんな『移動間の世界』なんて作ってたら、余計異世界モノだと勘違いされちゃうじゃねえかよ。
異世界だけは勘弁だぜ。俺、それだけは好きになれない。
「…俺の住んでるとこって異世界なのかな……」
「心配することないわ。れっきとした現実よ。現実じゃなかったら、ステータスとかパラメータとかなんやかんやつけられて、『チート』とかいう機能で無双し始めちゃうでしょ?」
それもそうだ。異世界なんてチートで無双する事くらいしかやっている事がないはずだ。そんな話は誰も好まない。
読む白紙なんて、言われたくもないから。
「ねえ、リリヤ……」
「何だ?」
「あたしのこと、好き?」
「ハァァ!?!?!?な、な、なんだよいきなり…」
いつものリセにはない、ストレートな質問に俺はたじろぐ。そんなこと、聞かれたことも言われたこともないのだから…
「好き?って書いてるの。ねぇ、どうなの?」
「……好きだよ」
「……ありがとう。あたし、あんた無しじゃ………」
そこで会話が途切れてしまう。淡い光がいっそう眩しくなり、姿も声も聞こえなくなってしまう。
そのまま、光に飲み込まれていった…そんな気がした。
あれは夢だったのだろうか。いや、休暇そのものが夢だったのだろうか。眼が覚めると俺はベッドルームの…自分のベッドの上に横になっていた。まるで、寝ていたかのように…
「お兄ちゃん、やっと起きたの?」
聞き覚えのある、やや甘ったるいと言われるよう声が……聞こえるわけがない場所で聞こえている。
「ここは夢か…」
「違うよお兄ちゃん、くおんもここへきたの!」
…くおん?
聞いたことのない名前だ。しかも、空音に似たような声で夢が再生されているなんて、俺の脳内もイタズラが好きなもんなんだな…
「夢なら、なんでも出来るか…」
そろりと布団から起き上がり、目の前にいる空音に似た人物を抱きしめ、同じ布団の中に引き込んでいく。
空音のような優しい吐息が、心拍数を高まらせていく。
「お、お兄ちゃん……」
「妹でもないくせに、お兄ちゃんだなんて言うなよ…あいつは日本に置いてきて……」
「ち、ちがうのっ、話を」
「聞かない。俺はこのままお前を…」
多少強引過ぎる気もしたが、夢なら何をしても許される。ならば、その欲求のまま動いてやろうじゃねえか。
彼女を強く抱きしめ、顔を近づけていく。暖かい彼女の吐息、ツヤツヤの肌、妹に似た幼くも可愛さ溢れる顔付き……何もかも、夢の世界で俺の隠れていた欲がさらけ出されていく。
「おにい……ちゃん…」
まんざらでもないといった表情を、彼女は見せてくれていた。顔をほてらせ、何かを待っているような…そんな気もしていた。
そんな彼女に、優しく唇を重ね合わせる。柔らかくも暖かい感触と、俺の中に湧き上がる興奮が…より一層、と何かを求めている。
が、この後…とんでもないことを俺はしていたのだと気づく。
「どぉおおおおおおおおりゃああああああ!!!」
突然、どこからか気合の入った叫び声が聞こえる。これも、どこかで聞いたことのあるような……低くも幼く、俺の後輩…でも女王様のような声が…
「せいやぁぁぁああああっ!!!」
と言った瞬間、バギィ!!!!という激しい打撃音を立て、俺のベッドに激しい蹴りを浴びせる彼女。その瞬間、俺のベッドは粉々に砕け、上にいた2人は、その塵の上にドン!!と落ちていく。
「あんた、堂々と浮気だなんて、たいした根性してるわね。しかも、相手が妹さんだなんて……信じられない……」
怒りが混じっており、かつゴミを見るような蔑みの目で……この国の"クイーン"であるリセが見下していた。おー怖い怖い。
「……死んだら?」
「ちょっとまて、妹は黒の国にはいないはずだぞ?何がどうなってるんだ…?」
「好きな年齢が13歳のお兄ちゃん!」
「まさか……お前本当に空音なのか?」
俺の最も好きな年齢を当てられる…もしくは知っている人間なんて、この世に1人しかいない。
我が妹、空音。俺の秘密を彼女より知る女……である。知られたくないようなことも全て知っている、敵に回したらプライドやら何やら全て剥がされそうになるヤツ。
でも、なぜここにいる??
「お兄ちゃん、仏壇を開けたのは私だよ?」
「そうか……そういうことか、リリン…じゃなくてそら」
「くおん!!!」
「は……はぁ…?」
さっきから気になったんだけど、くおんってなんだよ。いや、99%の確率で察しはついてるけど。
「こっちでの名前!!くおん!!!」
何故『くおん』なのだろうか。俺はバカだから全く想像が出来ない。ってか、カタカナに直せば『クオン』だぜ?俺より何億倍も男っぽくないデス?気のせい?気のせい?
「とりあえず、あんたの妹もこっちにきたワケよ。職種は騎士だってさ。せいぜい精進しなさいよねっ」
と言いつつリセはやや不機嫌な顔をしながら、俺のベッドルームからつかつかと出て行く。まるで性格の悪い女上官って奴みてえじゃねえか。
「"クイーン"って……あんな性格の悪そうな人なの?」
「いや……言動はいつも通りだけどあれは通常ではない」
普段はキツくも優しい姫さんって感じなんだがなぁ……女に厳しくねえか?あいつ……
今日は休暇明け初日という事で、派閥一つまるごとの大規模な朝礼とも言えるイベントを行う。休暇前と同じく、人々が城の前に集まり、王家の人々が挨拶や言葉を述べる、といった内容。なんやら今日は重大発表があるとかどうとか前振りされていたが……そんなこと、一度もなかった気がするぜ……?
「皆、今日は僕達にとって嬉しい出来事を紹介する。心して聞いてほしい」
嬉しい出来事??さっき王の間にいた時は何も嬉しい事があったぜイェーイみたいな雰囲気はなかったけどな……
まあ住民と紛れ込んで城下にいる俺がわからねえことなんて山のようにあるんだろうけど。
俺は何を言われようと驚かないぜ。例え、この国が明日で滅びますとかリセが俺と結婚するとか言われてもな!!!!
「先代の"キング"であるゴウセ様が、この派閥にお戻りになられた!」
「ええええええええええええええええええ!?!?!?!?!?」
前言撤回。驚きに驚くリリヤ君デース!
あの親父さんが…戻ってきたって……!?
「新しく"ジョーカー"という階級で僕達を見守ってくださる。そして、後日行われる赤黒混同無差別戦にも、出られることとなった!」
あんだけ苦労して手に入れた出場権も先代"キング"となれば無条件で手に入れられるのか……と、俺は少し不条理さに違和感を感じてしまう。が、その一方で納得してしまう面もある。
そりゃあ、お上様のお上なんだもの。
「それでは、ゴウセ様。一言挨拶をお願い致します」
リュウがそう言うと、派閥内に大きく響き渡る音声マイクがゴウセ様の元へと渡される。
「お久しぶりです。ゴウセです。よろしくお願いします」
……いやいやいや。
……いやいやいやいや。
日本での生活が長かったせいか変にかしこまっちゃってるよね…?
ホントに大丈夫なのか、この人……?
「さて、我らクラブは無差別戦に向けて訓練を強化していこう!私も銃手として、また勘を取り戻さなければいけないからな!はっはっは!!!」
ゴウセ様の急変した態度と豪快な高笑いで、このイベントは幕を閉じた。
俺も勝ちあがらねえと、見せる目が無くなっちまうから頑張るとしますか……
やっつけ仕事みたいになっちまったな…ちょっと練り直さないと




