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ハートのエースがやってきた!  作者: 3ri
第2章 リリヤとして、陸也として。
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第23話 リフレッシュ休暇Ⅴ

 休暇、最終日。

 七条陸也として暮らす日々も、明日以降はしばらくお預けである。いきなりよくわからない浜辺に倒れてたり、妹が俺の部屋に仏壇セットを置いていたり、理衣と共に夜明けの星空を見ながら話したり、莉花の家に行って父さんと色々話したり、莉花と一緒に風呂に入ったり、そのまま泊まったり………色々と充実していた日々だった。


 今言ったこと、全て始まって2日で行ったことだけどな。残りの12日はどうしたかって?


 テキトーに家で過ごしていた、とでも言おうかな。はっきり言って莉花の家から帰ってきてから、謎の倦怠感に追われていた。そのままダラダラと、横隅に置いてある仏壇セットが存在感を表す自分の部屋で、ベッドに横たわりながら飯の時間になったら摂取して…を繰り返していた。妹の空音(そらね)が作る飯は美味い。


 そう思いながら、ふと俺は日が過ぎるに連れて、ある問題を一つ、考えていた。









 どうやって帰るんだろう………















 俺はとある人の家のインターホンを連打していた。他人からすればムチャクチャ迷惑だろうが、あえてこの方法である。


 それが、俺だというサインなのだから。


「んんっ……なぁに、りっくん……」


 眠そうに目をこする理衣がドアから顔を出す。ピンクのパジャマをまとい、かなりボタンの間隔が空いている。胸が見えそう。


「お、おはよう。ちょっと聞きたいことがあってな……」

「ふぇ?なぁに?……立ち話もあれだから中に入っておいで?」

「そうさせてもらうわ。おじゃましま〜〜すっ」


 俺はドアを引っ張り、そのまま理衣の家へと入っていく。


 玄関から左側に、靴用タンスの上にあった一つの写真立てに目が引かれ、入っている写真を俺はじっと覗く。


 それは、俺と理衣と空音の小さい頃の写真だった。そして、その後ろには保護者と思われるであろう親の写真が写り込んでいた。


「なぁ、この写真……いつのだっけ?」

「これ?確か、初めて会った時の…」


 初めてってことは、小学生1年生の頃か。空音は幼稚園に通っていた時……つまり、10年前の写真である。


「こんな写真撮った覚えないな…」

「10年前だもん、仕方ないよ」


 そもそも、俺は親のことすらロクに覚えていない。父親は夜逃げし、残された母親は俺らを守る為に仕事にその身を任せていた。そんな母も小さい頃に過労で他界、残された祖母と共に生活をしていた。


 一方理衣も両親はもう死別してしまっている。母親なんて生まれたと同時に死んでしまったらしい。



 しかし、この写真に写るのはどう見ても大人の女性。該当する人間など、親族で誰もいないのである。


「俺、こんな大人の人と一緒だったの、知らねえ……」

「私もよくわからないや……それで、話ってどうしたの?」

「ああ、ちょっと靴脱いでから話そうぜ」


 俺はそっと靴を脱ぎ、玄関から見て右にある居間の部屋に、理衣と共に入っていく。そこで俺は『いつも通り』テレビの前にあぐらをかいて座り、理衣も俺の隣に、体育座りをし始める。


 これが、俺らの日常でもあった。理衣が寂しいとか、来てほしいとか言う度に、朝からこの家にやってきていた。


 クラブの"7"がやってきていた……ごめん、言いたくなっただけ。


「なぁ、早速だが……どうやって帰るんだろう?わかるか、理衣?」

「ごめん、わからない……」


 オーマイガッ。アウト。バッターチェンジ。俺ら2人には解決の出来ない問題であったようだ。


「どうしたらいいのか、私も考えてたけど……わからなかった…」

「仕方ねえ、クラブの"クイーン"に電話かけてみるか」

「また女の子…」

「仕方ねえじゃねえかよ…繋がる相手がこれしかないんだから、さ…」


 早速俺はスマホを取り出し、連絡先をサラサラと探し当て、電話をかけ始める。


 プルプルプル…プルプルプル…プルプルプル…


 3回程コールが鳴った後、相手側に繋がり始める。


「もしもし?」

「莉花?ちょっと聞きたいことがあってな」

「なによ、くだらないことだったら通信制限食らわせるわよ」

「出来もしねえことを言うな。今日、帰る日やん?でも、帰り方がわからなくてさ。それで莉花に電話かけたってわけよ」

「やっぱりわからなかったのね……家に仏壇とか、遺影の小さな写真とかない?そこに行けば、不思議な力でかきけされた……じゃなくて、不思議な力に引き寄せられるの。そこから、あっちに帰れるわ」


 …また訳の分からない新能力が出てきたもんだな。もはや何でもアリじゃねえか。


「おっけーわかった、ありがとう、莉花」

「あっち行ったらチョコシェイク奢りなさいよね!!マクド◯ルドの!!」

「あっちにマクド◯ルドあるのかよ……知らなかったわ…」

「じゃあ、今度一緒に行こうねっ、ばいばいっ」


 プーッ、プーッ……電話が切れる。そのままスマホをしまい、理衣に話しかけようとすると…


 まるで(さげす)むような目で、理衣がこちらを見てきていた。


「浮気浮気浮気浮気浮気浮気浮気浮気浮気浮気浮気」

「怖い!!!怖いから!!!落ち着いてくれ!!な!?」

「マッ◯なんて、典型的デートスポットじゃない……あなたの"クイーン"も、なかなかわかる人ね…」

「い、いつもの理衣じゃねえ……」


 冷や汗タラタラ。心はヒヤヒヤ。そんなムードを、理衣は作り出している。


「……でも、私とはなかなか会えないもんね。私、神官職の手伝いもあるからなかなか遊ぶこともできないし……」

「いいんだよ。遊べる時にゆっくり遊ぼうぜ。俺はお前と遊べる時間が楽しいから、な」

「ばぁーーか……」


 どうにかいつものやんわりとした雰囲気に戻る。彼女の表情も照れを隠していない表情に戻り、やっと話しやすい空気が出来る。


「……お前、仏壇か遺影が家にないか?」

「ない……から、かすかに聞こえてた時、どうしようもないんじゃないかなって思っちゃった」


「俺の家に仏壇がある。そこから帰ればいいんじゃないか?」

「あっ、そうか……それがいいねっ」


 そう言い、理衣は体育座りから、その場に立ち上がる。


「じゃあ、あっち帰るための準備するから、準備出来たらりっくんの家いくから…待っててくれる?」

「いいぜ。別に急いでるワケでもないし、ゆっくり準備しててくれ」

「うんっ、じゃあこれで一旦お開きだねっ、りっくんっ」


 そう言われ、俺は理衣の家を後にし、自分の家に戻る。そして、自分の部屋の仏壇をまじまじと見つめる。


「こいつにそんな能力があったとはなぁ……」


 閉められた仏壇を目の前に、そんな言葉をふと漏らしていた。


「ちょっと開けてみようかな……」


 ちょっとした好奇心で、俺はその仏壇をそろりと開いてみる。



 その瞬間、不思議な強い力に、ゴゴゴと仏壇がきしむ音を立てながら引き込まれそうになる。が、間一髪仏壇を閉め、俺は過呼吸かと思わしきレベルで息継ぎをする羽目となっていた。


「はぁ、はぁ、はぁ……ちょっと開けただけでこんなんかよ……やばかったぞ、今……」


 もう俺は理衣が来るまで仏壇を開かないと心の中で誓う。もう無駄な労力を使うのはごめんだ。



 しばらく黙っていると、部屋のドアがガチャリと開き出した。


「お、理衣か……空音?どうしたんだ?」

「お兄ちゃんの部屋から凄い音がしたから、気になって……」

「ああ、ただちょっと暴れちまっただけさ。気にしないでくれ」

「…違う」

「えっ?」

「違う……お兄ちゃん、その仏壇を開けたんでしょ?そしたら、すごい力に引っ張られて勢いよく閉めたんでしょ?……そらねもさっき、やったもん」


 もう既にバレていた、か。こんな段階で理衣なんてきたら…


「ごめんくださーーいっ」


 下からかすかに理衣の声が聞こえてくる。


 何か、面倒くさいことが起こる気がした。何故かはよくわからない。が、これは確実に当たる気がする。


「りえちゃん?はーーいっ!」

「ちょっ、まてよ!!」


 部屋を出て階段を勢いよく降りていく空音。それについていく俺。ガタタタっ!!という音を立て途中転びそうになりながらも俺は空音を追いかける。


「りっくん、そらねちゃん!」

「りえちゃんっ!久しぶりっ!!」


 玄関で彼氏の俺を置いて抱き合う2人。ちくしょう、羨ましいっちゃありゃしねえ。


「りえちゃん、どうしたの?」

「あ、ああ……えーーと……」


 そこは遊びに来たとかなんだとか言えるだろ!?!?なんでそこで立ち止まるの!?


「お兄ちゃんと遊ぶの?」

「そうそうそう!!りっくんと遊ぶ!!」


 と、とりあえずなんとかなりそうな気がしたのでそのまま俺は何も言わず、二階の自分の部屋にスタスタと駆け上がって行く。


「りっくんっ、まって〜〜」


 玄関から上がってきた理衣が俺の後を追ってくる。


「まって〜そらねもいく〜」


 空音も俺の後を追ってくる。こりゃまずい。とっとと帰りたかったのにね。


 そうして、広い家の狭い部屋に3人、集まっていた。


 うーむ、どうやって空音を避けようか。それだけが心にやたら引っかかる……


 しかし、空音の驚くべき行動に、俺は不意を打たれてしまうのである。


「りえちゃんっ、この仏壇なんかおかしいんだよね〜」


 ガチャリ。あのブラックホール…もとい、赤黒の国に帰る窓口となっている仏壇のドアを全開に開く空音。




 その表情には、かすかな闇がこもっているような気もした。えへっ、と。微かに笑っていたかのような……





「もう1人で居たくないの。お兄ちゃん、ずっと一緒に……」





 その、ただ一つ吸引力の変わらない仏壇に、俺ら3人は荷物、人間…丸ごと飲み込まれてしまった。



 悲しくも、俺の叫び声は声にならない悲鳴となっていた。






「そらねええええええええええええ!!!!!!」

ごめんなさい、更新が遅れました。


次回、また戻っちゃいました、あの国に。

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