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ハートのエースがやってきた!  作者: 3ri
第2章 リリヤとして、陸也として。
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第22話 リフレッシュ休暇Ⅳ

「ゴウセさん…?は何故、黒の国の"キング"を勇退したのですか?」


 どうしても気になっていた事なので、一番最初にこの話題を俺は持ってくる。大体、ホワイト企業過ぎるあの国から去るというのは、住み慣れた人間からすれば到底考えがたい事だ。一体、何があったというのだろう。


「……治らない程のケガをしてしまったんだよ」

「ケガ……?」

「ああ。もう、骨の隅々がヒビだらけで、手も足も動かせば痛む。更に、50だというのにこの容姿と来たもんだ。自然と老化も……早まっていったんだよ」


 ……身体が悲鳴をあげているってことか。心ではなく、身体が…早く死にたいと思っているのだ。


「幸い、私はメンタルだけは自信があった。どんなことにも屈さず、ケガを乗り越えようとして最後まで銃を握った、しかし、身体がついてこなかった……あまりにも哀れな自分を見て思ったんだよ。『若い人間に将来を託すのが、私の生き方なんじゃないか』とね」

「銃…ってことは、銃手だったってことですか?」

「そうさ。私は力も魔法力も高いわけではなかった。だから、精神力と集中力で生きることのできる銃手を選んだ。……話す順が逆だったかな?ははは…」


 低くも、ややかすれたような声でゴウセ様は笑う。



 俺なら、心が折れていたかもしれない。治らない程のケガをしたら、医師の一言でもう心が折られきってしまっているだろう。でも、この人は違う。


 最後まで、自分でありたかったんだ。


 "キング"という使命を最後まで……果たそうとしていたのだ。たとえ身が朽ち果てようとも……


「りくやの使っている小銃と同じものを使っていたわ。あの魔法小銃、うちに3丁しかないの。1つはぱぱの、もう一つがりくやの、最後のは保管されているの」

「へ、へぇ……」

「なによ、興味なさそうね。この空気じゃあたしは邪魔ってワケ?」

「そんなことはねえよ。ただ、俺……だいぶ重い信頼を与えられているんだなって、ふと思っちまっただけさ」

「カラッポ頭のくせに?」

「うるせえ!!!!!」


 こいつだって危機に面したら泣き出す癖に。いや、泣かない方がおかしいか。


 人間なのだから…




「そういえば……ゴウセさん、一人暮らしなんですか?」

「ああ。今はな…」

「……莉花の、お母さんは…?」

「あんた、知ってるじゃない。最初の方に世話になったでしょ?」

「最初……?」


 俺がこの国で最初にあった人……メル先生。でもあの人は21。違うだろう。


 だとしたら……


「あの、世話係の…?」

「あら、記憶力だけはあるのね」

「お前……俺のことバカにし過ぎだ」


 少しイラっとする。が、相手は女の子なので、流石に手は出さない。ましては父親のいる前だしな。


「セマ、元気にしてるかねぇ」

「ままは元気よ。あたしがボコボコにしたけどねっ☆」



 そうだった。

 こいつ、3回戦で俺と当たる前にセマさんと当たっていたんだ。あれって親子対決だったのかよ…


 少しだけ肝を抜かれたような感じがするぜ…


「はっはっは、お前は強いもんなぁ…」

「えへへ……っ」


 ゴウセさんは莉花の頭を優しく撫でる。


 家族らしく暖かい光景だな…と、ふと俺は思う。俺は…こんなことされたこと、ねえな。本当の家族って…こんなものなのかな。


「ゴウセさんと、莉花って…仲、良いんだな」

「そりゃそうじゃない。家族だもの」

「家族……」


 父親も母親も、うちはよく留守にしていた。仕事で忙しかったり、仕事で溜まったストレスを癒す為に2人で出かけていたり。ほとんど家にはいなかった。俺は、そんな中、妹の空音(そらね)が心配だったから遊ぶことはなく、ずっと家に居た。


 妹との絆は深くても、親との絆は深くない。だから、親に対する暖かさがよくわからないのだ。


「家族、か…」

「なによ、あんた家族いないの?」

「いや、いるけど…さ」

「……無理してまで、喋らなくてもいいよ?」

「お言葉に甘えてそうしますわ…」


 親がもしも、暖かい人達なら。俺はどんな人間になっていたのだろう。空音を守るために、俺はケンカっ早くて荒々しい性格になっちまったけど、もしも、親に守られていたら……


「そんなに考える必要はない、陸也君。どこも親なんて、同じものではないのさ」

「…ですよね。そう思っておきます…」


 今はそうとだけ思っておこう。親の話は忘れたい。








「話が変わるが……私ももう一度黒の国に戻りたいねぇ」


「「ええっ!?!?」」


 いきなりすぎるゴウセさんの発言に、俺と莉花はつい、立ち上がりながら驚いてしまう。


「そんな変なことかい?」

「いや……もし戻れても、ぱぱのケガはなおら」



「そんなことはねえかもな。たった1人だけ、治すことが出来るかもしれねえぞ」



 俺はふと、思いついていた。心までズタボロだった俺を、一瞬で全ての傷を癒す人間がいたことを。


 その人間をそっと指差し、暖かい声でこう答える。


「莉花。お前……『だけ』出来るかもしれねえ」

「えっ…?あたし、魔法なんて」


「やっぱ気付いてなかったんだな。自分自身が"闘侶"に変化したことを、な」


「闘侶だと……!?陸也君、詳しく教えてくれないか」

「もちろん。俺がスペードの"クイーン"と試合した時の出来事なんですよ。俺はあっという間にボコボコにされて、莉花……いや、リセがタイムアウトを取ってくれたんですよ」


「ちょっと待って!?!?あたしが話についていけな…」


 莉花だけは会話についていくことが全く出来ていなかった。そりゃそうだろう。魔法をいきなり使えてるんだなんて言われたら、不思議で頭がいっぱいになるだろう。


 俺は更に話を続ける。


「その時、俺に対して触れていてくれたんだ。ウィザードの魔法を受け、全てがボロボロになっていた俺を……傷一つなく復活させてくれた。そのウィザードは言っていたのさ。『闘侶に目覚めたのね』と……」


「なんと……こんなちんちくりんで力を使うことしか考えられぐぼっ!!」


 莉花はゴウセさんの顔を殴り、ゴウセさんの口が止まってしまう。


「誰がちんちくりんよ。それよりもあたしが、とうりょ?に目覚めたってどういうこと?」

「準決勝を思い出せ。俺がお前の目の前で完全回復した時を、な」

「あ、あれ……?何故かりくやが死にかけてた時に、あたしがタイムアウト取ってたやつ?」

「そう。てか、その件説明したやん……」


 頼む莉花さんよ、人の話を聞いてくれ…


「あの時に、あたしが魔法を使っていたとでもいうの?」

「その通り。大体、人は新しいものを習得する時は自分で理解していないケースがほとんどなのさ。俺だってそうだろ?新しい技を沢山土壇場で生み出しているんだ、それと同じことを、お前はやってのけたのさ」


「闘侶は、格闘家、神官のどちらかの極みまで達する事が出来た人間のみなることが出来るのだ。つまり、お前は…」


「格闘家をマスターした、ってことだな」


「えっ…?」


 莉花はまだ、話を読み込みきれていなかったようだ。こりゃ、その力自身を身につけるのは難しい事かも、な……


「まあ、莉花は魔法も使えることになったってことさ。やってみりゃいずれかわかるよ」

「ほへぇ……」


 莉花の口はポカーンと開いたままである。どうやら何もわかっていないようだ。


「俺が頭カラッポなら、お前は頭お花畑かもな」

「うるさい!!あっちに行ったらひき肉にしてやる!!」

「はいはい。お好きなように御料理してくだいな」


 俺は軽く莉花をあしらう。そして、こんな会話をしていたらいつの間にか夕方になっていたようだ。


 時計は6の針を刺している。18時、か……


「陸也君、今日は泊まっていくかい?」

「えっ、それは申し訳」

「むーーーーーーっ」


 莉花が凄まじい目線を送ってくる。眉をひそめ、こちらをじーーっとひたすら見てきている。



「と、泊まります……」

「わかった、何にもないとこだがゆっくりしていってな」

「は、はい……」


 リセの凄まじい誘惑 (威圧)に負け、俺は一之瀬家に泊まる事にした。全く、他人の気も知らねえで…まあ莉花と居られるって考えれば、良いものか……


 自分でもわかる、女たらし臭えな、と…











 莉花の作った夕食を3人で済ませ、ゆったりした後に俺は風呂に入る事にした。着替えも何も持ってきていなかったが、そんなことは気にしなかった。入りたかったのだから。



 というより、莉花が料理できる事に関して、俺は凄まじい驚きを隠せなかった。

 あのリセだぜ?あの格闘家で他人をボコボコにすることしか考えてなさそうなガサツなリセだぜ?しかも見た目幼女だぜ?考えてみてくれよ、こんなスペックの人間が華を添えたような綺麗な料理を作るところを。


 想像出来ねえだろ?



「ぎもぢぃぃ……」


 そんな彼女が作った料理を思い出しながら、俺はゆったりと湯船に浸かる。ややぬるめのお湯は、肌を刺激せずやんわりと身体を温めてくれる。


 5分、10分……つい、長めに湯船に浸かってしまう。いつもシャワーばかり浴びていたからか、俺にとって湯船というものが新鮮なものとなっていた。



「ああ……莉花がこの風呂に入ってきて『お背中流しますか?』なんて言ってこねえかな……まあ、冗談だけど」


 なぜ俺は自分に嘘をついたのだろうか。全くわからなかったが……



「お背中を流すそんな優しい彼女はこの家にはどこにもいないわ」


 外からは押して開けるタイプのドア越しから、尖ったような幼い声が聞こえる。


「って、聞いてたのかよ!!!!!!」

「あたしがタオルくらい持ってきてあげようかなって思ってこっちにきたら、あんたはこれだもんね。浮気者〜」

「背中流すくらいで浮気にはならねえ!!!」

「……あんたって、根っからの浮気気質なのね」


 若干心当たりはある。しかし、自分でもなぜかよくわからないが、このまま押し通そうとする。


「…来い。俺と勝負だ」

「はぁ?あんたか弱い乙女をいじめるってわけ?」

「どこがか弱い乙女だクソゴリラ。はやくこないと縁切るぜ〜?」

「えっ……それはやだ…」

「じゃあ、とっととくるんだな…?」

「……いいじゃない、入ってあげるわよ」


 莉花ルートキターーー!!!なんて言ってる場合じゃねえ。

 俺は何故こんな事をしたのだろう。莉花と一緒に風呂に入りたかったのか?なら、素直に言えば良かったじゃねえか。浮気っぽいけど。


 少しすると、ガチャっとドアを開く音が聞こえ、そこには、いつものツインテールとは違い、髪を下ろし赤面している華奢な莉花が、タオルを身体に巻きつけこの風呂場に入ってきた。


「な、なによ……あまり…みないで…」

「見なくていいんだな?じゃあ目をつぶっておくね…」

「そのまま、目……つぶっててくれる…?」


 俺は完全に目をつぶる。そうした中、こんな返答が返ってくるとは思っていなかった。


「いーい?ぜったい、目を開けちゃダメだからね」

「わ、わかった………」


 何をされるのだろう。目潰し?熱湯クラッシュ?

 暗闇に侵された視界の中、俺はじっとそんな事を考える。



 足音が聞こえ、だんだんとその音が俺に近づいてくる。やがて足音が止まり、何かが近づくような感じがした。しかし、暗闇なのでよくわからない。が、吐息が聞こえ始めてくる。もしかして、これは……




「……んっ」



 彼女の吐息の漏れが、顔の感触と音で聞き取る。そのまま、待っていると…




 唇に、妙に柔らかい感触がする。俺はおそるおそる、ほんの少しだけ目を開く。



 そこには、目をつぶりながら顔を真っ赤にした莉花が、俺に口付けをしていた。


 …かわいい。素直に、それだけを思っていた。




 そのキスは長いものだった。30秒くらい経っていただろうか。莉花が俺から離れ、ぷはっと息を漏らす。


「お前って奴は……」

「だって………好きなんだもん」

「そういう素直な部分が、お前の好きな所だ…」


 そう、莉花(こいつ)は俺のことが好き。理衣という彼女がいるのを知っていながらも、俺のことが好きなのだ。



 俺は彼女に対して、今は応えきることが出来ない。今は。


「じゃあ、俺も少しだけ応えてあげますか…」


 神よ。こんな浮気気質のある俺をお許しくださいませ。

 だけど、今…だけは。こいつを愛する時間だ…!!



 俺は湯船から立ち上がり、莉花のそばに立ち…




 優しく彼女を抱きしめる。こんなビシャビシャの身体で。他人から見ればバカみたいだと思われそうだが、脳みそが空っぽの俺にはそんなことしかできなかった。




「莉花……」

「………ねぇ」

「何だ?」



「あんたの下半身から、やたらと硬いものが当たってるんだけど……いい雰囲気、ぶち壊しよ?」



 なんと。自分にまで嘘をつくウソツキの俺が、下半身だけは見事に素直な反応を見せていたではありませんか。鎮まれ、我がポコチンよッ……!!


「生理現象だよ……どうするにもぉおおっ!?!?」


 なんと、この私のポコチンを莉花さんは右手で強く握っていたではありませんか。流石に恥ずかしいからか、目は俺の顔に向けているようだけど。



「へし折ってやる!!!!こんな迷惑棒(ポコチン)なくなればいいのよ!!!」

「なくなったらお前との子孫がぁぁぁぁぁ!?!?」


「うるさいうるさい!!!腐れヤリチン!!!!」



「この危機的状況をどうにかしてくれえええええっ!!!!」







 俺の叫び虚しく。この後、風呂には入ったもののギスギスした空気になりました、とさ……

次回、休暇最後です。

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