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ハートのエースがやってきた!  作者: 3ri
第2章 リリヤとして、陸也として。
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第18話 赤黒混同無差別戦に向けて…

 あの『喧嘩とドラゴンで城をぶっ壊す騒動』から10日が過ぎた。城はもう殆どが改修され、すっかり元通りと言っても差し支えない程となっていた。


 今日は8月1日。ここは異世界ではないので、どの世界も7月31と8月1日となっているだろう。


 しかし、肝心の『地図だとどこらへんなのか』は、まださっぱりわからない。ハイジャック要員が地図らしきものを持っていたのは覚えているが、危機にだけ精神が捉われ、全くその地図を気にしていなかった。



 ……8月といえば、休暇。夏休み。

 この国には自衛隊のように休暇制度があるらしい。期間も2週間程と、そこそこ長い。

 まあ、学生だった俺からしたら短くしか感じないけどな。


 その休暇になった時、理衣は家にいるのかな。答えはおそらくYES。何故なら、この休暇は赤黒どちらも同タイミングで始まるらしいから……













「おはよう。リリヤ君。カナエルさん」


「「おはようございます!!」」


 今日も朝からリュウに呼ばれ、いつも通り王の間で目を向き合わせる。

 …なんだかこのシチュエーション、多くね……?


「さて、今日お話したいのは……赤黒混同無差別戦の話だ」


 ……出たよ。

 またあのクソなげえ無差別戦やるんだよな。今度は赤の国交えてよ。


「実は、赤黒混同にはペア戦ってのが」

「わかった、出るよ」

「まだ何も言ってないのに、お察しがいいみたいだね…」


 若干引きつりつつも、笑顔を見せるリュウ。カナエルは何も動きを見せない。


「……てなわけで、カナエルとレッドブルーセブンで出てほし」

「そんな話、あたしが受け入れるとでも思ってるの?」


 いきなり話に横槍刺したのは、誰かとは言うまでもないだろう。

 王の玉座の後方から、急に出てくる背の小さな少女。これがこの国の"クイーン"である。


「ちょっとリリヤ。あんた今あたしのことバカにしなかった?」


 時々思う。この国の奴らは皆、エスパーなんじゃないかと。

 だって、俺の思考が外に漏れ過ぎなんだもん。


「い、いやいや、そんなことないって。このリセさんLOVEの俺さんが俺様がぐぼお!?!?」


 俺はリセに頬を殴られ、王の間の逆端まで吹き飛んでいった。



「お前は少し彼女を愛しろ!!!バカ!!」



 ご、ごもっともでごぜーやす……が、リセはそれでもいいのかな…?


「全く……女の子が好きなのは良いけど浮気症は絶対許さないんだから!!!」


 …嫉妬している、のか……?あと俺は浮気症なんかでは断じてないぞ、ハーレムラノベの主人公じゃあるまいし。


「んで、話を戻すけど、あんたと組むのはこのあたしなんだからね!!」

「おいおい、冗談はよしてくれ、レッドブルーセブンは共同じゃないと使命が」

「使命使命うっさいわね!!!"キング"なんだからそんなくだらない使命くらいぶっ壊してみなさいよ!!!」


 お堅いのと、単純にカナエルが嫌いなリセは腕を垂直に下ろし、怒りを表していた。




「私……出ます。リリヤくんと……ペア戦、出ます!!!」



 突如として大きな声で叫ぶカナエル。それにリセはともかく、俺とリュウもかなり驚いていた。


「リリヤくんには……恩返しがしたいから……それじゃダメでしょうか…?」


 と、リュウの目をまじまじと見ている…と思われるカナエルが言う。

 後ろからだとよくわかんねえんだよ。しかし、恩返しって……この前の話、か?分散ロッド借りたり、踏み潰されそうになったりした所を助けてくれたりと、むしろ恩返しをするべきなのは俺の方だと思うんだけどな…


「ダメよ。あたしが"クイーン"として言い切って見せるわ。あんたにリリヤは」

「そんな私情ばかりで権威を振るのは、王家としてあるまじき行為だと思うぞ」


 俺の真後ろから聞いたことのある低めのイケメンボイスが聞こえてくる。


 …ゼルナ。この派閥の"ジャック"だ。


「お前は何一つ、リュウの思考を理解していない。リリヤ君とカナエルさんがペアでいることは……もはやこの派閥を背負っているものとなっているんだ。だから、リセ。諦めなさい」


 そう言うと、下を向きワナワナとリセが震えていた。


「………もう、知らない」




「あんた達なんて、もう消えてしまえばいいのよ!!!!!!!」


 と言った瞬間、俺の方へ玉座を蹴り飛ばしてきたのである。バキッ!!と何かが折れたような音をして、かなりの速さで向かってきている。


「あ、あぶねえなてめぇ!!」


 俺は間一髪で立ち上がり、玉座を避ける。玉座は壁にぶつかった衝撃で、更に壊れてしまっていた。



「……おっかねえ女…」

「リリヤ君、本当に申し訳ないね。後で僕があいつにキツく言っておくから、気にしなくていいよ」

「いいや、ゼルナさん、今はあいつを放っておいてやりましょうぜ…」


 そう言うと、少しの間だけ沈黙が続いた。王の間にいた人間全てが、動作、喋りを停止させていた。


 その後、最初に動いたのはリュウだった。


「まあ……色々あったけど、君ら2人で無差別戦のペア戦に出てもらうよ。訓練などはこれから組んでいくから、しっかりとやるよう、僕からお願いするよ」


「は、はい…」


 俺は少し複雑な気分になりながらも、その件を受け止めていった。












 次の日。俺とカナエルは城の地下にある訓練場へと来ていた。そう、魔法力の訓練を行ったあの場所である。


 この派閥最強ペアと言われている"A"の兵士2人を、今日は相手にしていた。


「ちょっと、リリヤくん勝手に飛び出さないで!!」

「先手必勝だろ!!黙って見ていろよ!!」


 主にチームワークを壊しているのは俺であった。しかし、カナエルも自分が先手打ちたいと言わんばかりで、またお得意の強情さが出てしまっていたのだ。


「ならこっちからいくぞ!!」

「オーケイッ!!」


 喧嘩を続けているうちに、相手ペアが素早く襲いかかってくる。

 兵士と言うだけあって、職種は騎士だ。スキのない動き……これを見習わなきゃいけねえのに…


「ふざけんじゃねぇぞコラ!!!敵来てるじゃねえか鋼鉄化!!」


 カッチーン。相変わらず俺に対しては攻撃は効かない。どうやら俺狙いだったらしく、幸いカナエルにダメージを与えられることはなかった。


「…ちょっと訓練中断しようか」


 相手側の1人がそう言ってきた。何があったのか。


「……ガタガタ、だね……」


 片方の兵士がとても素直な感想を述べてくれている。ありがとうございます。


「いやぁ、こいつが先手を取りたいと譲らないけど、攻撃を仕掛けるのが遅くて」

「リリヤくんが勝手に手を出し始めるからでしょっ!!物事はなんでも思考なの!!」


 でも俺らはこうやって喧嘩中。最近喧嘩が多いね、俺とカナエル……



「ペア戦は、1人で戦ったら絶対に勝てないぞ。なんせ、2倍の勢力同士で戦うのだから、しっかりとその勢力を保つようにしなきゃいけない。勢力を保つ為には、息を合わせることが不可欠。1対2じゃ、絶対に勝てないものだから、ね……」


 もう1人の兵士が、ゆっくりと落ち着いた声で俺らにこう教えてくれていた。


「だから、今の君らと戦っていると…2対1+1、というように感じるよ。上手く1+1を2にしないと、君達がいくら強くても勝つことは出来ないんだよ」


 ……1+1は2じゃねえか…とは思いつつも兵士の話をまじまじと受け止める。


「そう、戦いでの1+1は上手く組み合わせないと2にならない。そうだろう?閃光魔法を使う時だって、炎と氷、どちらかが偏っていれば発射できないだろう?」


「な、なるほど…そういうことか」


 今の説明で、バカな俺でも完全に納得した。

 息を合わせることの重要性がこの人方のおかげでわかったような気がする。


「…カナエル、ごめん……俺、お前に合わせるよ」

「……ううん。私こそ意地張っちゃってごめんね…?だから、私はリリヤくんに」

「いや、俺はバカだから天才カナエルたんの下僕となります」

「……カナエルたん言わないで…まぁ、嫌な気はしないけど…」


 言わないでまでははっきり聞こえたが、それ以降はボソボソという感じで、俺の耳には上手く聞き取れていなかった。


「え?後半なんて言った?」

「な、なんでもないっ!!」


 少しだけ顔を赤くしつつ、その後俺から顔を背けてしまう。

 …相変わらず美しく長い黒髪だな……


「まあ、息を合わせられたらいいってものよ。俺はどうやったら息が合うか、俺なりに少しだけ考えてみるよ」

「君らは王から信頼されているからね。次の無差別戦も期待しているよ」


 こうして、俺とカナエルのペア戦に向けた訓練は幕を閉じた。動きはガタガタなままで終わったが、これから次第に良化させていけばいいだろう。




 俺も前回の件で、カナエルに恩返しがしたいからな。

次回、リリヤ君(その他沢山)日本に帰ります。

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