第1話 リリヤ誕生
「次のフライトは……12時、15分です」
空港の音声アナウンスが流れている。
時は12時。そろそろ乗客が乗車案内される時間である。
「まず、後部座席のお客様からご案内いたします」
「お、やっときたな……理衣、いこうぜ」
「楽しみだね……りっくんっ♪」
やたらと上機嫌な理衣を横に、俺らは後部座席の右端、2つしかない席を選んでおり、他人に覗かれることがない席を選んでいた。
覗かれるの、嫌じゃん?
「えーとえーと………あったあった、ここだな」
「荷物……とどく?…あたし、届かない…」
背伸びしたりぴょんぴょんする理衣。
上の収納ケースが届かないらしい。
「はいよおちびちゃん。俺が全部乗っけてやるよ…」
「うれしいけど……なんかむかつく…」
むーっと頬を理衣は膨らませる。
ちょっと子供ぽくて可愛いな……
「よっと。これで終わりだな………お隣失礼します、理衣ちゃん」
「子供扱いしないでっ」
子供扱いされるとすぐぷんぷんと可愛い表情で怒りをあらわにする。
これ、ほんとに高校二年生なんだろうか?
彼氏である俺ですら、時々疑問に感じてくる。
ぐぉーん……ぐぉーん…と、飛行機がゆっくりと動き出す。
ここでキャビンアテンダントが、救急道具の説明を始める。
「こちらの救急道具は……かぶるだけで…」
「おわんねーかなー……早くとばねーかなぁ……」
「ちゃんと聞かないとダメでしょっ、ばかっ」
ここらへんは理衣の方がまともだ。
こいつはちゃんとした常識人だからな。
「以上で救命胴衣及び、救急道具の説明を終わります…」
「そろそろ飛ぶかなぁ」
と思っていると……
ゴォォォォオッ!!!と飛行機が速度を上げていった。
早くね!?!?!?キャビンアテンダントさんたじろいでるよ!?!?
俺ですら不安を少し感じてきたよ……どうなってやがるんだ。
なのにも関わらず、俺は不意にも眠りについてしまった。
俺は目を覚ました。
周りを少し見回すと、客全員が寝ている。
更に、キャビンアテンダントまで、購買物品を撒き散らし、眠っているではないか。
どうなってやがるんだ……?
ふと、時計を見てみる。
2時…半…?
俺らは北海道から関西に飛ぶはずだったはずだ。もう着いていてもおかしくはないぞ?
シートベルトマークは消えており、立てる状態であった為、椅子から立ち上がり、そろりと運転席側、前方を見る。
機長席の扉はガバッと開いており、不審さを一層漂わせていた。
何がどうなってやがる?
半分の勇気と半分の好奇心を胸に、更に前へ前へと進んでいった。
すると、機長席側から、
「誰だっ!!!!」
低く恐ろしい怒鳴り声が響いた。
間一髪、寝たふりでどうにかなった………
真っ黒ずくめの、某名探偵漫画に出てくるような服装をしていた。
しばらく寝たふりをしていると、機長席側から声が聞こえてくる。
「ったくよぉ、俺は自由を求める為だけに黒の国までこの飛行機でいくことになるとはなぁ」
黒の国……?
何の話だ……!?
「副機長は楽勝だったのに、機長だけやたら手こずらせやがって。おかげでもう麻酔銃は空っぽだぁ」
麻酔銃……?
そんなものをどうやって持ち込んだんだ……?
そんなことはどうだっていい。今の現状をどうにかせねば………何か策はあるか…?
俺の横に誰のかわからないがカバンがある。
すまねえ、開けさせてもらうぜ………
ガサゴソとカバンを漁り、手探りながらも何か使えるものがないかと探してみる。
……ふふ、開けて正解だったようだ。
その中にあったものは、ハイジャック要員が使うだろうものだった麻酔銃であった。
そう、このカバンはもう1人のハイジャック要員の物のようだ。
麻酔銃と同時に取り出した紙に、「自由を求め黒の国へ」というメモ紙があったから、すぐグルなんだとわかった。
このグル要員も眠らせてしまったハイジャック要員が、今まさに飛行機を運転している。
バカはバカなままだ……ザマァみやがれ!!!
慎重に狙いを目の前の黒ずくめに定め、俺は麻酔銃を連射していた。
スパバパパッと乾いた音が鳴り響き、黒ずくめの男はその場に倒れこんだ。
こんだけ打っときゃ大丈夫……だよな…。
飛行機は自動操縦モードになっている。
しかし、FUELと書いている車のガソリンのような、燃料を表すメーターがEのアルファベットに触れかかっていた。
おそらく、まずい。
とっさに黒ずくめの男を機長席から客席の方へとぶん投げ、空いていた機長席の硬そうなドアをバン!と閉め、ガチャガチャと鍵をかける。
そして、俺は大きく息を吸い、これでもかという大声を上げる。
「おきろぉぉぉぉぉぉおっ!!!!!!!!」
すると、ハッ!と機長と思われる人物は目を覚ました。
「大丈夫か?話は後だ、とりあえず…燃料がやばそうなんだ」
「俺は黒ずくめの男に……な、燃料がもう尽きるではないか!!!いかん!!!」
機長は頭が回る人なのだろうか。
とっさに危機的状況を読み取り、素早い手さばきで飛行機の舵を握る。
「緊急着陸だ………最も近い陸地は………すぐ、そこかっ……!!!」
機長がそう言うと、いきなり飛行機が真下に落ちるような感覚に陥る。現に立てなくなるような程、足場が横に向いていたのだ。
「おおおおお!?!?大丈夫かほんとに!?!?」
「任せろ、俺はパイロットなんだ。これくらいの事でくたばるわけにはいかねえんだ……!!!
高度が凄まじい速さで下がっていく。
墜落するんじゃないか?というレベルを凌駕している。
俺、死ぬのかな…………
「うおおおおおおおおっ!!!!!」
機長の叫び声と飛行機のエンジン音が俺の耳に響く。
しばらくすると、飛行機は、ふわっと方向が変わり、いつもと変わらない平面を味わえるようになった。しかし、機長席から見える景色は、地面スレスレを這いつくばっているようなものにしか見えなかった。
「これだけ速度を落としてりゃ……もう安心だろう」
「機長………」
「そうでもないようだ」
「はぁ!?」
燃料のメーターがEの左側を振り切っていた。
飛行機内の電灯がおぼつかない光り方を見せ、機長席では警告音も鳴っている。
おしまいか………
ありがとう、母さん、父さん、妹よ………
そして、理衣。
いつかの地で……
「まだだぁっ!!!!」
いきなりキリッとした表情を見せて叫ぶ機長。
なんと、その瞬間地に着きそうだった飛行機がふわっと一瞬だけ浮いた。
そこから、飛行機は勢いよくドン!!と地面に着地した。
事故にはならなかったみたいだが、俺と機長はそのまま気を失ってしまったようだ…………
「ん、んん…………っ」
目を覚ますと、病院のような天井が視界に映っていた。
「ここは……?」
「やっとお目覚めかい、ボウズ君」
「あ、あなたは……?」
白衣を着た男性が横に立っていた。
隣には椅子もあり、どうやら俺が目覚めるまでずっとここにいてくれたようだ。
「俺は君の主治医。様子を見てくれと頼まれていてね」
「あ、ありがとうございます………」
って、俺が言いたいのはこんなんじゃなかった。
「こ、ここはどこなんだ………?」
俺はベッドから起き上がり、そのベッドから足を外し立ち上がる。
「見ての通り、病院だよ」
「そうじゃねえ。どこ都道府県のどこ市町村か聞いているんだ、答えてくれ」
「…………」
主治医の沈黙に、俺は段々と苛立ちを覚え始め、我慢しきれなくなり手を出しそうになっていく。
「なんで黙るんだよ。言えねえのか?わかんねえのか?わかんねえならわかんねえって言ってくれよ!!」
主治医の口は開こうとすらもしない。
「なぁ………答えろよ!!!!!!てめえ!!!」
俺は、遂に主治医の胸ぐらを掴んだ。
そのまま10センチほど、15センチ程俺よりも身長の高い主治医を持ち上げる。
怒りのボルテージは最高級にまで達した。
「なんだよ!!!!答えられねえ理由があるのかよ!!!じゃあそれを言えよてめえ!!!!」
「…………に」
「でかい声で喋りやがれ!!!聞こえねえんだよ!!」
「黒の………国」
「……!!」
主治医から聞こえたのは、あの黒ずくめの人間が持っていた紙に書いてあった……自由を求める為に…向かっていたという国名であった。
そして、主治医は俺が拾ったはずの小さな紙切れをひらひらとなびかせながら、口を開き続けた。
「君らを捜索していた時に見つかったんだよ。自由を求める為に黒の国に行こうとした男達が、飛行機をハイジャックし、手作りの地図をもとにここに向かっていた」
更に主治医は口を開く。
「その地図は正解だった。しかし、少し座標がずれていたのと、機長が最も近い陸地に着陸するというのが理由で山奥に着いてしまった。着陸の勢いで乗客全員は気絶していた。そして……」
「乗客の女性は赤の国、男性は黒の国に送られ、病院で手当てしてもらっている」
理衣…………理衣ッ!!!!
「………彼女がいたんだ」
「ほう?」
「彼女に合わせてくれ!!!お願いだ!!!」
「悪いが、それは無理だ」
「何故だ!!!」
「見ず知らずの者を、他国に侵入させることは出来ないんだ。だからまずは………」
「王様に会うしかない」
ヘァ?王様ァ??
この国は王政なのかァ?
「なら、案内してくれよ」
「もちろんだ、君は王様直々にお声がかかるつもりだったから、丁度いい」
訳のわかんねえ展開になってきたぞ……?
とりあえずその王様とやらに会うとしますか…
俺は言われるがままの道を歩き、連絡通路のような場所に出た。
……ここから先が…城………
しっかし、連絡通路だけがやけにアウトレットモール臭くてシラけんなぁ。
そう思いながら歩いていると……
RPGで見るような、壮大な城に到着した。
「デカっ!!!!広っ!!!!!」
田舎モン丸出しのセリフである。
こんなテンプレのようなセリフ……俺自身が使うことになるとは……
「ようこそ、リュウ国王の城へ!」
「は、はぁ?誰だあんた?」
いきなり近づいてきた兵士のような人間に話しかけられ、ドラク◯の城に入ったすぐ近くにいるヤツのテンプレ的セリフを言い出す。
俺、死んだのかな……?
ほっぺをつねる。痛い。
理衣のおっぱいを想像する。ぽよんぽよん。
死んではいないんだな……
「王様から話は聞いています!さあ、こちらへ!」
「あ、ああ」
顔も知られてるのか。個人情報握られたんじゃねえのか?
おそるおそる兵士についていく。
「この上に王様はいらっしゃいます。誰にでもきさくに話しかけてくれる方ですが、くれぐれも粗相のないようお願い致します。」
「は…はぁ」
粗相って、どういう扱いすればいいかわかんねーよ。
しかし、王様のいる国に本当に来ることになるとは……しかもこんなドラク◯のような世界観の、さぁ……
ため息のようなものをつきながら、階段を登っていく。
「いらっしゃい、陸也君」
「うぉあぉえ!?!?ど、どこから!?」
俺が階段を登りきった後、後ろから迎えてくれたのは、身長が俺と同じくらいの、テイ◯ズのクレ◯のような服装した男だった。
俺より身長は少し高く、金髪の髪はあと少し切ってしまえばボウズと言われても差し支えないようなものなほど短かった。
それにしても…
王様ァ?若過ぎるし気さくだしそうは思えねえ。
俺の頭の中にはジジイのような頭の硬え男を想像していた。
想像は180度裏切られた。
「失礼申し上げますが……、王様、ですか……?」
「王様なんてそんなもんじゃない、ただの"キング"さ」
王様じゃねえか!!!
とっつきづらさに少し苛立ちを覚える。
「王……いや、キング。この自分に如何な用件で…?」
「そんな堅苦しい言い方しなくていいよ。タメ口でも構わないさ」
「じゃあ改めて聞こう、なんで俺をここに呼んだ?」
「君にポテンシャルを感じたんだ」
ハァ?
何言ってんだこいつ。
展開についていけなさすぎて、もはや俺の頭は爆発しそうだった。
「君、この国で暮らしてみないかい?」
「バカいうんじゃねえ。俺は一刻も地元に帰りてえし彼女にも会いてえんだ」
「リア充……減点減点…っと…」
「ちょっと待て!!!何が減点対象になっとるんだ!?!?」
メモ帳のようなものにキングと名乗る男は書き込みをするが、俺にはもう何も突っ込む気力もなかった。
「改めて、この国で働いてみようよ」
「だーかーらー」
「金ちゃんと出るよ。飯でるよ。様々な職種就いて色んなことできるよ」
「そんなことで俺が誘惑されるか…っ!」
さっきから何を言ってるんだこいつは。
人の話も聞かねえで……
「あ、言うの遅れたね。君、ここの国で働かないと一生この国から出られないよ」
「働きます働きますとも!!!何なりとお申し付けくださいませ!!!」
くそっ、そんなシステムの国だとは思ってはいなかった…
さっさと辞めて帰ってやらぁ。
「じゃあ、ここに本名をフルネームで書いてね」
「あ、ああ…」
七条、陸也…っと。
「しちじょう…りくやって言うんだね…」
「そ、そうだが」
「よし、君のネームは『リリヤ』だ!」
「ハァ!?」
何言ってんの。なんで勝手に名前決められんの。
しかも割といい感じの名前だし。
「この国では個人情報保護の為に本名を隠してもらうんだ。代わりにこのネームを使うんだよ」
「なんでそんなこと……」
「訳あり国だから、で許してくれないか?」
「……まあいいよ。悪い名前じゃないし」
カタカナとかもうつくづくドラク◯だな。
「……自己紹介が遅れたね。僕はリュウ。この国のキングという役職に就いている。職種は騎士。よろしくね」
「よ、よろしく……んで、ひとつ気になったんだが、職種ってなんだ?」
「良いとこに気づいたね。ここでは赤の国とこの国の狭間にある聖奇石というもののおかげで、職種につくと様々な能力者になれるんだ。」
「あんたの場合は……騎士ってことか?」
「そういうことさ。どんな職種あるか、見るかい?」
「ああ。見させてくれ。気になってきたよ」
すると、巻物のようなものをリュウは見せてくれた。
そこには……
騎士
格闘家
魔法使い
神官
ダンサー
銃手
鷹匠
遊び人
詩人
雷者
スロプロ
などなど、様々な職種名が書いてあった。
ネタなようなものがある気もするが、そこには触れないでおこう。
俺が気になったのは………
「魔法使いなんて、良いかもしれねえなぁ」
「魔法使いかい?魔法使いは力の補正がないけど良いのかい?君は元々馬鹿力があるそうだけど……」
「そこは元々の能力だけで十分だろうから、俺、少し魔法使ってみたいかも……って魔法って本当に出んの?」
と言った途端、俺の真横に炎がゴォォッ!!と走った。
「えっ、な、な、な、なになになに!?」
「本当に出る事を確認させました」
リュウの付き人メイドのような人がひょっこり現れ、無機質な声で言っていた。
「…………魔法使い、やらせてくれ」
「それで、いいんだね?」
「ああ。馬鹿力だから格闘家…なんてのは面白くなさそうだしな」
そう言うと、リュウは右手のポケットから小石のようなものを取り出す。
「これ、飲み込んで」
「…石……?」
「これは聖魔石。あの聖奇石と魔法使いになることを契約する石なんだ」
「ふ、ふーん………」
「あと、飲み込むときは丸呑みね。キツかったら水、持ってきてるから」
「何かと用意がいいですねぇ!?!?!?」
リュウの用意周到さに驚く。
これぐらい、何もなしでもいける……っ!!!
少しだけ、喉に引っかかるような感触を感じ、吐き出しそうになったが、無理矢理聖魔石を飲み込んだ。
すると、俺の身体の周りに白いキラキラした光が沢山渦を巻いている。
「な、なんだこ………うわっ!!!」
気付いた頃には、キラキラと光るその光に飲み込まれていた。
次第に、俺を包んでいた光は消えていった。しかし、ほんの少しだけ身体が不思議な感覚に包まれていたが、違和感がなさ過ぎて何も変わったかはしなかった。
「……なんも変わった気がしねえ」
「そりゃそうさ……魔法使いになったからと言って、すぐ魔法が使えるわけじゃないのさ。ちゃんと訓練や知識を得ないと、使えるようにはならないんだよ」
「ってことは……」
「君は後日から、学習と訓練を始めるよ。」
日々努力ってことですか……
「あと、リリヤ君。このバッジを服に付けて」
「?……なんだこれ?」
クローバーの形をしたバッジで、中に"2"、という数字が彫られていた。
「君は今日から階級、"2"に任命するよ。一番下っ端の生活が始まるけど、頑張ってね」
下っ端か………どんな扱いされるんだろう。
胸に不安を抱きながら、後日を待つことにした。
俺、魔法使いになっちまったよ………理衣、今お前はどうしているんだ……?
次回、リリヤ君学びます!!