第16話 バディ行動
次の日、俺とカナエルは大クレームをリュウにぶちかまそうとしていた。内容としては、バディ行動なんてやってられるか!!クソが!!みたいなものの予定だが、それを言いに行こうと王の間へと2人で向かった。
すると、顔面が原型を留めていないほどボコボコになっていた悲しきキング、リュウが玉座に座っていた。
「「何で!?!?」」
あのさわやか系イケメンのキングの顔が、次の日いきなり顔面ボコボコ星人になっているのだから、俺らのツッコミは相当正しいものだと思う。
「ひょうほあはへ、いえにああへあほ(今日の朝ね、リセにやられたの)」
「「いや、わかんねえ(ない)よ!!!」」
その唇は全く動いていなかった。そりゃこんな聞こえ方にもなるよな…
隣には、珍しくリセが玉座に座っていた。リセはこの玉座が『偉そうだから』好きではないらしいのだが、今日は何故か、足を組みながら眉を異常な程歪め、目を閉じながら座っている。
相当ご立腹だなありゃ。というより犯人が大体わかった気がするよ。
「り、リセ……さん?」
「何よ。あんまりしつこいと焼肉プレートの上にあんたを乗せるわよ」
「……失礼しました…」
めっちゃ怒ってますねあれは。いやはや何故なんだろう。大体わかるけど。
「どうやら……クレームを入れるまでもなさそうね…」
「ほほのふあひ!」
「そこの2人!」
「ゼルナ様っ!?」
突然どこからか現れるゼルナに、カナエルは驚く。
「いいはひふはひひあ、あふあふえーほをいへほあふ!」
「君たち2人には、ラブラブでーとをしてもらう!」
「「……はい??」
ゼルナの通訳をもとにリュウの言葉を聞き取るのだが……ラブラブでーとぉ?しかも何故、カナエルと?
「えっほえふんとふふーえふんのあいはいは、いどぅなはひふほーあんはよ」
「レッドセブンとブルーセブンの間には、絆が必要なんだよ」
ゼルナは至って冷静な表情と声をしているのだが……いかんせんリュウの顔が顔なので、そこに気がかなり行ってしまう。
リセさんは地団駄を踏んでいます。気付かれてないと思っているのか?バレバレです。
「絆、ねぇ……」
「2013年のダー◯ー優勝馬?」
「そっちじゃねえよ!!!」
カナエルさんは無駄な知識が豊富なようですね。はい。でも、会話内容が全くないよりは余程マシな気がする。
「じゃあ、バジ◯スク?」
「……パチスロでもねえよ……」
「絆ってのは、深い仲の良さみたいなもんだ」
本気でわかってなさそうだったので、一応大雑把に説明する。
「知ってるよ」
「じゃあなんでダー◯ーとかバジ◯スクとか言ってたの!?!?」
「掴みのギャグじゃないですか…」
ほんと、掴めない性格してるなこいつって…やたらとキレたり、恥ずかしがったり、ボケたり…俺はどういう扱いをすればいいかわからんよ…
「ほひあへふ、へーほしはああああああああああああ!!!!!」
隣にいたご立腹のリセが更にリュウの『顔だけ』を殴り始める。
しかし、黙っていない人がいた。
「……わたしのリュウ様に…」
「何すんのよこのクソロリ使えないクイーンがぁぁぁぁぁぁぁああ!!!!」
キレた人はカナエルでした。カナエルvsリセの無差別戦特別賞が今、幕を開けました。
「あたしはねぇ、あんたとリリヤがくっつくのが最ッ高に気に食わないの。だから、あんたも片付ければ、万々歳ってことね!!」
「だからって、リュウ様をこんなことにする必要はないでしょう……永遠に地獄に堕ちればいいわ…!」
……完全に無差別戦だなこりゃ。
口を開けポカーンとしながら見ているゼルナと、もはやこびとのような埋め込み顔になっているリュウ。
いや、俺だってゼルナと同じ気持ちだよ、おそらく。
リセの激しい拳と、カナエルの分散されていく魔法……当の本人にどちらも全く当たっていない。じゃあ何が壊れていくのか……そう、城である。
王の間が激しい音を立て崩壊していく。しかし、誰求められるものがいない。
「動いてんじゃねえ!!!カニのすり身にしてやる!!!!」
「あんたこそ猿の丸焼きになりなさいっ!!!!!」
…止まる気配が無い。どっちかがわざと攻撃を受けない限り城は滅ぶ限りだな…
らぶらぶでーととか言ってる場合じゃねえな。バキバキ戦闘だなこりゃ。
この後、1時間に渡る死闘が続いたという……俺が無差別戦に出てた時でも、そんな長い時間試合しなかったぞ……
結局カナエルと俺は2人きりで街に出て、『でーと』という形になってしまったのであった。ゼルナさんの剣での通行止めは効かず、完全回復したリュウの剣で通行止めが図られ、そこでエンド。最初からこうしろよとジャガイモに言いたくなるが、そんなこといちいち言ってたらキリがないので気にしてはいけない。
そういえば、今日のカナエルは珍しくメガネをしている。いつもはしていない。ダテ、なのか…?
少し御機嫌斜めそうなカナエルに俺は質問してみる。
「なぁ、カナエ」
「うっせーよ!!ぶっ殺すぞ姫溺愛者!!!」
不機嫌な彼女の対応方法が思いつかない男子の気持ちがよくわかったきがする。
「いや、俺彼女いるし…」
「もっと悪い人!!!しね!!うんこ!!!」
…もっと女の子らしい表現は出来ないのでしょうか。清楚そうなイメージのカナエルさん、面目潰れますよ…?
しかも街中をやたらと早歩きで歩いていくカナエル。まるで俺を避けているかのように……
こいつって、本当に掴めない奴だな……
最初に向かっていったのは服屋である。非常に一般的な、いわゆる『俺みたいなガサツな奴には似合わない店』だ。少し緊張気味に店内に入り、カナエルさんの後をゆっくりついていく。
「すいません、店員さん。ここの、全部ください」
「ちょっとまていくらなんでも破綻するわボケ!!」
…そう。俺は喧嘩が止んでから、死ぬ程俺と出かけたがらないカナエルに対し、『物とか、奢ってやるから行こうぜ?な?』と言ってしまっていた。現状がこれである。いくら怒っているとはいえ、そりゃないっすよ……
「リリヤくんが奢ってくれるって」
「てめえ俺と同じ給料貰ってるよなぁ!?いくらなんでも無理があるだろ!!!」
「リリヤくんは金の使い道がなさそうだから、てっきり貯まってるかと」
「………あの金で貯まると思うか?」
月4万。いくらなんでも無理です。はい。まあ来月から上がるけど。
「つべこべ言わずに買え!!!」
「無理!!!無理無理!!!」
「こちら10点で2590円で〜す」
「ハァ!?!?」
喧嘩している俺らに割って入る店員の声に俺は驚きを隠せない。こんな高そうな服10点で2590円??それなら……
「買える……」
「だから最初から言ってたのに……」
俺としたことが、ちゃんとした服=異常な程高いという偏見を隠せずにいた。俺自身の服が常にTシャツ短パンなので、それ以外のものは皆高く見えてしまうのだ。
綺麗に畳まれた服を詰めた袋を手に持ち、カナエルは嬉しそうにこちらを見てくる。
……ちくしょう。そういう表情に俺、弱いんだよ…
仕方なく2600円をポンと出し、帰ってきた10円玉を握り締め、満面の笑みのカナエルの表情をチラチラ見ながら服屋を出る。
「リリヤくん、てっきり10万くらい行ってると思ったんでしょ〜」
「……正直な話、おっしゃる通りでございます…」
何も言えねえよ。俺は服に縁のない人間だから、尚更そう思っちまうよ。
「ここの世界って、物価が物凄く安いのよ。なのに、給料はそこそこまで行けば日本と変わらないから、凄くホワイトだよね〜、さすがリュウ様…!」
「…例えばだけどよ、りんごとかっていくらくらいするんだ?」
「15円」
「15円!?!?」
見てください。こちらが黒の国、ホワイトパラダイスであります。黒なのに白です。超絶ホワイト国です。
「この国に来て農業をやっている魔法使いのおかげよ。その人たちがいなかったら、食料はおしまいだからね…」
「……輸入出来る国も無いしな」
他の国との外交は一切絶たれているこの国では、外国産という言葉などまず無い。あるとするならば競馬くらいだろうか。そういう世界は闇が深い…のかもしれない。
「とりあえず、次、行きましょっ!」
「おう……」
いつのまにかカナエルの荷物持ちとなっている俺。これも修行だと思いつつ、次の場所へと向かった。
「もしかして◯けど〜」
「もしかし◯だけど〜」
「「それぇってオイラを誘ってるんじゃ◯いの〜」」
次に来たのは、カラオケボックス。いきなりもしかして◯けどを入れるのはカナエルさんの選曲。なかなかセンスがあると思います。
しかし、ただ単に入れたわけでは無い。替え歌にして日常的な気持ちを述べよう!という即興性激高の内容となっている。いくらなんでもムチャだと思うがな…
ちなみに今、カナエルさんのターンです。
「城で女の姫様が〜……何かに気に食わ〜ないと〜いぃって〜……王様殴って気を晴らしてい〜た〜んだ〜もしかして◯けど〜」
「もしかし◯だけど〜」
「もしかして◯けど〜」
「もしかし◯だけど赤い〜セブンとデートをしたくてたまらないんじゃないの〜!」
……さっきあったばかりの話じゃねえか。いや、俺もそう思ってはいたんだけどね…はぁリセたん…
カナエルのもしかして◯けどが終わり、次は俺の番。何故かカナエルがワクワクしながら待ち構えている。
ピピッと送信が終わった音を聞き、俺はマイクを持ち始める。俺が入れた曲とは……
『難◯船 中◯◯菜』
現在の彼女に合わせ、キーは1つ下げてある。ちなみにカナエルは目を星マークにしながら『お〜』という感嘆を漏らしている。こいつ、知ってんのか…?
「歌姫◯説、聴いてくださいっ」
ここの真似までバッチリである。わからない人はググ…っても出ないだろうね…多分だけど…
カナエルはそこを聴いておおおお〜!!と更に歓声を上げてくる。
…こいつ、クロです。明らかに知っています。
この契機を済ませ、俺は『たかが恋なんて〜』と熱唱していた。
歌い終えると、カナエルはポカーンと口を開きながら瞬きしている。一歩も動かぬまま。
「り、リリヤくん……歌、上手いんだね…」
「そうか?彼女の方がもっと上手いぞ?」
「そ、そうなんだ…」
彼女という単語を発すると、少しだけ下を向くカナエル。なんだろう。カナエルだと違和感が…
そしてカラオケで楽しく時間を潰し、時は夕方となっていた。
「リリヤくん、楽しかった?」
「もちろんさ。さて、そろそろ時間も時間だし帰り」
「まって!!まだ行きたいとこ…あるの…」
…こんな時間にか。一体どこにいくつもりなんだろうか。
しかしカナエルの眼は今までにない、真剣を表していた。ここまで彼女が行きたがっているのなら…否定するのは可哀想だ。
「あそこにいきたいの…」
カナエルはやや空の方向を指差し、俺はその方向を見る。
「…聖奇石?」
「うんっ、聖奇石は間近で見れるの、一回でもいいから行ってみたくて…だめ?」
上目遣いでこちらを見てくるカナエル。威力は抜群。まじまじと見ると、こいつ、可愛いな……
性格はよくわからんけどよ。
「行ってみるか…!」
「うんっ、いこっ!」
俺の右手を握り駆け足で向かっていくカナエル。そんなに行きたいのか……
思ったより走らず、聖奇石の下に着く。そこは展望台のようになっており、その頂上に聖奇石がビカビカと輝いている。
ちなみにここは赤と黒の国の国境線であり、お互いの国の人々が最も集まりやすい場所である。なので女性客もかなり多く見られる。
…なんだかんだで結構女を見ているような気もするがな。
展望台のエレベーターに乗り、最上階へと向かう。かなり人が乗っており、しかも距離がかなり長いと来たもんだ。それだけでかなり疲れが溜まったような気もするが、到着した途端、疲れが一気に発散された…気がする。
「綺麗だな……」
100メートルはあるであろう頂上からのぞいた、その夕日に沈むような街並みは、どこか美しさと寂しさを両方重ね合わせるような風景となっていた。
そして、エレベーターを降りて後ろを振り向くと、カナエルお目当ての聖奇石。白く輝くその石はまるで太陽のよう…
「これが…聖奇石……」
目をキラキラ輝かせながらじっと聖奇石を見つめるカナエル。そりゃお目当てのものが目の前にあったら誰もが嬉しいだろう…
カナエルはその聖奇石に手を近づけ、優しく触れる。
「冷たい……こんなに光っているのに冷たいなんて、なんだか不思議…っ」
「どれどれ、俺も触って…」
ジュワッ。
「どあぢゃあーーーー!!!クソ熱いじゃねえか!!!」
左の手のひらが少し赤くなっている。なんであんなにカナエルはじっと触れられたんだ…!?
「ここに立て札があるよ…?『聖奇石は、基本的に女の子が大好きです…?』だってっ」
「石の分際で女好きとは良い同居してんぁぁぁぁぁぁぁあ!?!?!?」
身体中に物凄い静電気が走る。しかも聖奇石から。
「リリヤくん、すごく嫌われてるね…ふふっ」
「笑ってんじゃねえ!!」
カナエルの満面の笑み。女の子の明るい笑顔……
笑顔っていいな。それだけで気持ちが和む。素晴らしいものだと思う。
「リリヤくんも、ちゃんと魔法練習しろ〜って聖ちゃん怒ってるよ?」
「勝手に妙なあだ名つけてんじゃねえ!!
こうして、名ばかりの『らぶらぶでーと』は幕を閉じた。
次回、いきなり大ゲンカ。




