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ハートのエースがやってきた!  作者: 3ri
第2章 リリヤとして、陸也として。
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第15話 昇任

「リリヤ君、カナエルさん、おはよう」


「「おはようございます!!」」


 昨日言われた通り、俺とカナエルは一緒にリュウのいる王座の目の前に立っていた。一体何を言われるのやら…

 リュウは玉座の前に立ち、やんわりとした表情で俺たちに話し続ける。


「おめでとう、君達」


「「何が!?!?」」


 ツッコミがついハモってしまう。それほどリュウの言葉が伝わっていなかった。


「うちは必ず無差別戦の後、昇任宴会を行うんだ。そして、君達はそれに……祝われる側だよ。おめでとう」


「それって…」

「ということは……」




「君達は7に昇格する。ただの7じゃない。君達はレッドセブン、ブルーセブンという特殊位置について貰うよ」


 レッドの所で俺を、ブルーの所でカナエルを指していた。


「レッド…セブン…?」

「ブルー…セブン…?」


「どういうものかはじっくり説明したいけど……ざっくり言うと、『エースよりも強い』かな」


「「はぁ!?!?」」


 なんということでしょう。今までの2という嫌気しか帯びない数字から、ぶっ飛んだ階級まで飛びやがった。


 こんなシステムで大丈夫なのかな…


「レッドブルーセブンは実力のみで昇任される特殊階級のひとつなんだ。その分、使命感がずっしりと重くなるけどね」


 丁寧に教えてくれるリュウ。落ち着いた表情のどこかに、明るい心がこもっている気がする。ちなみにカナエルは瞳がハートマークになりそうなのを必死に抑えているような表情をしている。こいつ、すぐ顔に出るんだな……


「一応これ、たまにいる側近にうるさく聞かれる時があるから覚えておいて。『影のエースとしての自覚、王に認められし存在』……君ら2人の使命なんだけど、そんな堅苦しいのは抜きにしていいよ。言葉だけ覚えておいてくれ…」


 影のエース、なんだかカッコいい言葉だな。そこらへんのエースより強いってことを考えると、少しだけ優越感に浸ることができる。


「そして、リリヤ君には……はい、これ」


 玉座の後ろからゴソゴソと、何かを取り出す。

 出てきたのは、自衛隊員が使うような、89式小銃と思われるものだった。わからない時はググろう。


「昇任祝いとして、これをプレゼントするよ。ちょつと、持ってみて」

「あ、ああ…」


 ずしっと銃の重みが伝わってくる。俺は『(ひか)(つつ)』の持ち方をしながら、リュウの話を更に聞いていた。


「これは、陸自の89式小銃を改造して作られたものなんだ。立ち撃ちの姿勢ってわかるかな?それであの壁を狙ってみて」

「こ、こうか…?」


 リュウがやっていた姿勢と同じ姿勢を取ろうとするが…なんだか肩の位置やふらつきがぎこちなくなってしまう。


「手先に魔法力を込めてごらん。調整なんかしなくていいから、とりあえず魔法力を伝えるんだ。その後に引き(がね)を引いてみて」

「わ、わかった……こうかな…」


 魔法力を伝えると、銃にエネルギーが伝わるような、そんな感触に包まれた。この状態で引き(がね)……



 引いた瞬間、細い火柱のようなものがブワッ!と銃口から放たれる。



「な、なんじゃこりゃあ…!?」

「魔法小銃って言うんだ。魔法が使えないけど、魔法力がある人向けに作られたこの国お手製の武器だよ」


 ……超絶俺向けの武器じゃねえか。そういやこれって、短剣が付いていないか?小銃には銃剣っていう装備品があるんだけど……


「あと、これね。これも手先に魔法力を込めて使う剣だよ」


 やはりあったか。しかし、これも魔法力を使う……?どうやって使うんだ…?


「カナエルさん、リリヤ君と少し距離を取って、何の魔法でもいいからリリヤ君にぶちまけてみて」

「は、はいっ、わかりました!!」


 突然声をかけられ驚くカナエル。しかしリュウはいたって冷静。


「魔法力を込めて、カナエルの魔法に当ててみてくれ。不思議なことが起こるから…」


 そう言った後、カナエルは火魔法を俺に向けて放つ。ってちょっと待て、こいつ全力でぶっ放してないか!?!?おいおい城が焼け焦げても……


 その心配は無用だった。何故なら、俺がその剣に魔法を当てると、その剣がまるで吸収したかのように炎を帯びていたからである。


「この銃剣は自分が魔法力を込めると、その魔法力が磁石のようになって相手の魔法をくっつけることが出来るんだ。小銃との併用ももちろんできる」


 ……何だかすげえもんを手にしちまったな。とりあえず、こいつは今度いじってみるか……


「んで、カナエルさんにはこれ。分散ロッドという、魔法を数方向に分けて放つことができる杖だ」

「ほ、ほえ…?」


 短剣のように短く、先っぽが球体の少しかっこよさに欠ける杖をリュウは取り出し、カナエルに手渡した。


「使ってみないと実感がわかないだろう。杖の先端は回るようになっているから、とりあえず1番に合わせて魔法を打ってみるといいよ。もちろん標的はリリヤ君ね」


 もちろんってなんだよ!!!俺は魔法用サンドバッグじゃねえぞ!!!


 …で、その杖をよく見ると1番から12番まで球体の下に数字が振られている。そこに合わせることができるのだろうか。


「リリヤ君、いくよっ……?」

「えっ、ちょっ心の準備がぁぁぁぁぁぁぁあっっ!!!!!」


 時既にお寿司。カナエルが『全力で放った』雷魔法はまるで試合の時のように真っ直ぐ飛び、俺に直撃していた。

 しかも超絶至近距離。数方向もクソもないただのサンドバッグ的実験となったのであった……















 夕方を迎え、城下町と呼ばれる城から近い町では祭り……いや、宴の準備が行われていた。城下町は大賑わいで、周りの人々が無差別戦のことに関してや、今年は誰が昇任するんだろうなどと語り合っている。俺はその中でポツリ、1人でふらつき歩いていた。


 胸元を見ると、スペードのバッジを付けた人間や赤いハートやダイヤのバッジを付けた人間まで見かける。無差別戦の時も赤の国の人間、いたよなぁ……


 …理衣がいてもおかしくないんじゃないかと、ふと思い始めていた。どこかに理衣っぽいの理衣っぽいの……いるわけ…ねえか………




『あたしは2番目でもいいから』




 ふと、この言葉が俺の脳裏をよぎった。これはリセが放った、遠回しに俺が好きだというメッセージ。初めて会った時にも好きになられてはいたが、こうやって遠回しに言われると緊張や本音を隠すと言った、リセの想いがより一層組み込まれている。


 ………どうして、俺はここまで好まれるのだろうか。そんな好かれるような要素など大してあるわけでもないのに…


「………あの…」


 人間に好かれることは悪いことではない。しかし、数人に好かれてくると、そこまでか?という疑問が俺の脳内をグルグルと目まぐるしく回転する。


「……あのぉ……」


 ……何かが聞こえたような気がする。が、気にしないでおこう。

 もっと、他にいい人がいるんじゃあああああああああっ!?!?


「あのっ、リリヤさんっ」


 おっぱい!!ぱいおつ!!大きな山の感触が俺のお腹あたりに急に伝わってきます!!何故でしょう!!怪奇現象かなァ!?!?


 しかしその問題は下を見ると解決。そこには、スペードのクイーン、リリカが居たのだ。リセが近寄る時よりも距離があるはずなのに、胸の感触は十分に伝わってくる。これがクイーンキング…ッ!!


「って、何でスペードの姫さんがこんなところに…?」

「…クラブの宴が好きなだけ。スペードは……かたいの」

「固い…?」

「ふんいきが、かたい」


 冷たい眼をしつつ、情がこもってなさそうな声で不満を語るリリカ。


「……あたし、おうじが、嫌い……」

「王子ってスペードの……あぁ、アイツかぁ……」


 オーッホッホッホという汚い男の高らかな声が脳内再生されてしまう。スペードのジャックとは……そう、魔法が『擬似的に効かない』マカオだ…


「しかしな、リリカちゃん。君は身体は小さくてもおっぱいは大きいんだからそんなに近づくと、当たるんだけど…」

「あててるの」

「へぁっ!?」


 驚きの回答。なんとおっぱいを当てられていました。ちなみに俺の中の男が大絶賛杭となっています。それ以上近づかァァァァァァア!?!?


 リリカはむぎゅーっと、俺に抱きついてくる。ああ、ついに出る杭は打たれる。意味が違う。


「……かたい」

「不可抗力!!!」

「……知ってる、すごくぴくぴくしてる…」


 ここは外伝じゃねえんだぞ。えっちなのは基本的に控えめ……にっ…!!


「……出来るとこまで…」

「リリカちゃんっ!!そういうのは好きな人にっ……」

「リリヤにぃ……すき…」


 ちょっとマテ。好きって言ったか?こいつ。俺、こいつに何もした覚えは……


「わたしは……リリヤにぃに、ひとめぼれ……」


 承知致しました。この子、好きな人に尽くすタイプなのかな???


「にーにー……」


 ほぼ無表情といっても差し支えのない顔だが、瞳の奥がどこか悲しそうな景色を描いていた。何故か、悲しそう…


「…よしよし、リリカちゃん、ここ、街中だからもう、離れて、な…?」

「よしよしされた、わたし、はなれる」


 スッとゆっくり離れてくれたリリカ。その頭を撫でてあげると、ほんの少しだけ顔を赤くしてくれていた。


「にーに、今日は一緒に行動、したい」

「お、行動くらいならいいぞ?」


 てかいつのまにか『にーに』と呼ばれてるし。やたらと口数が少なくて冷静そうなのに、かなり甘えんぼだなこいつ……


 そう思いつつも、盛り上がった城下町で少しだけ出されていた屋台を巡ったり、飯を食べたりして……久々に平和な1日を過ごす。平和って…素晴らしいな…















 時は既に夜。電灯で照らされ、町自体は盛り上がりも消えていなかった。しかし、その数分後、スポットライトが城に向けられ、皆はそこを振り返っていた。


「皆さん、お楽しみでしょうか。今年も昇任式が行われます。是非、心してお待ちください」


 城下町内が、ゼルナのマイク越しの声で包まれる。

 ヒューヒュー!!と言った歓声。まるで学祭の様だ……




「皆さん、お待たせしました。まもなく、昇任式を開始致します。キング、入場お願いします。


 スポットライトの先……城の二階の見晴らしから顔を出すリュウ。そして、マイクがゼルナからリュウへと、手渡されていた。


「皆さん、いかがお過ごしでしょうか。今回はとても大事な、レッドセブンとブルーセブンの昇任祝いを、私から述べたいと思います」


 それって……


 俺とカナエルのことじゃねえか。でも、俺は式に出るなんてなにも……


 と思っていると、リュウの『リリヤ君』という一言と同時に、スポットライトの光を俺が浴びていた。


「うぉぁっ!?!?」


 これには流石に驚いてしまう。俺がいる場所など、一切あっちに教えていないのだから、ビビらない訳がない。




「今回の無差別戦、準優勝おめでとう。今回、私とも試合をした彼は非常に強く、非凡な才能を感じ取れたと思います。数々の強豪を破った事、これからの将来性、彼の人間性を評価に値し、レッドセブンへと昇任させます」


 リュウは暖かさのこもった声で、俺をこう紹介してくれていた。非凡な才能だなんて、褒めすぎな気もするが……


「次に、カナエルさん。彼女も今回の無差別戦で、数々の男性選手を倒し、6回戦まで進出しました。彼女はリリヤ君と違い、基礎を固めた強さを発揮してくれました。魔法使いとしての成果、優秀な成績、未来を見据え、ブルーセブンへと昇任させます」


 と、述べ終わると、再びスポットライトはリュウに向き、盛大な拍手が送られる。


 なんだか気持ちいい。



「最後に、私から一言申し上げます。リリヤ君、カナエルさん。レッドブルーセブンは………」


 リュウは、少しだけ口を閉じ、スッと息を吸った後に冷静な声で、こう言っていた。











「基本的に、バディ行動です」

次回、カナエルとリリヤさんデートします!

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