第14話 決勝
2で準決勝まで来たのは史上初。
そして、2で決勝まで来たのは史上初。
もはや2という階級が嫌になってきた。勝つだけで2だ2だと言いまくる人々、そんな奴らに嫌気しか帯びていなかった。
もう、階級変えてほしいよ、うん。ちゃんとした魔法も習得するからさぁ〜、頼むよリュウちゃ〜ん……
って今回の相手がリュウだけどね。ちょっとだけ怖いかな。そりゃあ王様をボコボコにするために戦うのだから、リセの準決勝終わった後の件をいくら思い出しても、少しだけ躊躇を隠しきれない。
……決勝、始まるぜ。どうぞ堪能してくれや。
「皆さん、お待たせ致しました。2週間にかけて行われた、半年に一度の黒の国無差別戦……今回もラスト、決勝を迎えます………1人ずつ、入場に参りましょう」
「あんた、ちょっとでも躊躇うような行動見せたら前歯全部折るからね、いーい?」
ベンチのリセさん。一言目からかなり飛ばしてきやがる。こえぇーよ、この姫さん。
「怖いこと言われたからもうやる気でないかなーー」
スッと、リセは構えの姿勢に入る。いや、待てよ本気でやるつもりなのこの子。ちょっと怖いよあなた。
「……あんたって、ほんとバカ…」
「そんなことくらい自覚してらぁ」
そう言って、彼女は両腕の力を抜き、俺の方へと寄ってくる。そして、彼女の頭が俺の胸あたりへと、優しく触れていた。
「……これ、頑張れば彼女のこと教えて貰えるかもよ…?」
「……リュウが何か知っている他でも言うのか?」
「そりゃあね。王同士の赤のキングと仲良いもん、あいつ……」
ハートとダイヤのキング……まだ情報すら何も聞いていない。赤黒の国への移動は県をまたぐように自由だと言われてはいるが、俺は1度も行っていなかったな…赤の国に。赤の国無しでもリアルを充実させ……てしまっていたのか……
そして理衣に対する感情は時が経過するに連れて薄れてゆくばかり。日本製のスマホはここじゃ使えないし、何も連絡などない。
何やっているんだろう、そうとしか思えなかった。
初期のように会いてえ、どこにいるんだ!!というガツガツした気持ちがもう、俺には無い。今更理衣の情報を教えてもらったって……
「あたしは、2番目でもいいから」
「……はい?」
「聞こえなかったの?あたしは2番目でもいい。今の彼女を最優先して、考えてあげて…?」
それって、遠回しに好きって言っているじゃねえか。下を向きながら言っていたリセの表情はわからなかったが、おそらく泣きそうな感情を押し殺しているだろう。声で少しだけ、わかってしまった。
今は理衣を、という事か。後は知らねえ……そういう事になるのか…?
リセは顔を上げ、いつも通り笑顔でこう言ってくれる。
「さっ、行ってきなさいっ、そろそろ呼ばれるよっ」
「…わかった、頑張ってくるよ、リセ」
リセに手を振り、ベンチ席のギリギリで待機する。
「13番、予想外尽くし!!超新星はここまで来た!掟破りの魔法使いファイター、リリヤ選手ーーーー!!!」
ゆっくりとステージの真ん中へと歩いてゆく。歓声がいつものワーキャーではなく、盛大な拍手となっていた。
「2048番、優勝経験は数知れず!!黒の国最強の騎士キング、リュウ様!!!!」
ゆっくりとリュウがこちらへやってくる。お互いが揃い、司会がその真ん中に割って入っている。
「さて、最終決戦……熱い戦い期待しています…レディ、ゴォ!!」
「リリヤ君……君がここまで来るとは正直思っていなかったよ」
「それは俺のセリフかもな……自分で言うものでも無いと思うけど、俺も驚いているんだよ」
「リセを撃破した時が1番驚いたよ。あんなちんちくりんだけど、頭のキレと馬鹿力だけは」
「ちんちくりんって何よ!!!!ベッドぶち壊すわよ!!!!」
リセがベンチ席から割って入ってくる。相当お怒りのようです彼女。リュウさん、刺激するのはそこまでにしてあげてくれ。
「君がそう言うなら…」
まだ何も言ってねえよ!!!心の中で言っただけだぞ!!!エスパーなのかな!!
「さあ……前置きはこれまでにして試合を始めようか…」
「望むところだ……いくぞっ!!」
「鋼鉄化!!!」
いつも通り、鋼鉄化からのワンパンを狙う。俺はリュウに向かっていつも以上の速度で拳をぶちかまそうとする。
直撃。ここまで華麗な程に決まったワンパンは今まで無いだろうという程、上手く決まる。リュウはステージの端まで吹き飛び、壁に埋もれる。が………
全く傷ついていない。何故だ……?
「あいにく僕の守備力は鋼鉄以上なんだ……それ以上のパワーか何かで潰さないと、僕には傷一つ与えられない」
スッとすぐ俺の方へと戻ってくる。リュウはまだ剣すら抜いていない。そこまで余裕があるとでも言うのか。
「随分と余裕みたいだな…」
「いいや、僕は過去最高レベルに集中しているよ、スキを探さないと……負ける」
あんな守備力をどうやって貫き通せというんだ。俺にはかなり難易度の高い話だ。どうやったらあいつにダメージを……
と、考えていた瞬間を狙われてしまった。リュウは準決勝同様、一瞬で俺の背後へと回っていた。おそらく剣を抜いているあたり、一瞬で剣を抜き、移動し、相手を切っている……そういうことになるだろう…
予想通り、俺の鋼鉄はボロボロと音を立て破壊されてしまう。このままじゃまずい……っ!!
鋼鉄化は解けてしまう。身体にもかなり傷が付き、集中がかなり乱れてしまう。
「……ぐぅっ…」
俺はよろめきながらも、リュウに対し構えの姿勢を取る。まだまだ気力は充実。
………まだやれる。
「まだ、いけるみたいだね……今度はこっちでいこうか…」
すると、持っていた剣を後ろでタメを作る。そして、その剣を一気になぎ払う。
俺のTシャツが払った形に沿って破けてしまう。今度は俺がステージの端へと思いっきり吹き飛んでしまった。
今までなら身体もボロボロ過ぎてもう戦えないような状態であったが、今回は違った。いくら傷付いても、やれる、まだやれる…と言った前向きな気持ちが心の底から湧いてくる。闘侶は近くにいるだけでその力を発揮するのだろうか…?すぐ立ち上がり、リセの方向を見てみる。
リセは真面目な顔をして、試合をじっと見つめていた。今までとは違い、悲鳴なども全く無い。どこか不思議だ……
「これくらいでオネンネしてるようじゃ……決勝なんかに1ミリもふさわしくねえよな……!」
「その通りだよ、いくら傷付いても向かっていくのが男だ…!」
リュウは全く威嚇行為を行ってこない。今までが異常だったのだろうか?
まあでも戦いにくいが、それも作戦なのだろう。
「……ぐ、ぐぐ……っ!!!」
俺は歯を食いしばり、変化したいものを想像し魔法力を身体から放つ。しばらくすると身体が光に包まれる。じわりじわりと目線が高くなり、リュウがちっこく見え始める。
竜化。俺は前回と同じくドラゴンとなっていた。
前回とは違い、しっかりと意識がある。ドラゴンの能力を、100%自由自在に操ることができる。
「リュウ……これでカタをつけよう」
「……僕が何故『リュウ』かを、君は知らないようだね…」
「知ったこっちゃねえ!!いくぞ!!!」
俺は手始めに口から炎を吐き出してみる。そりゃ凄まじい。ちょっと息を吐く程度で人を軽く包めるであろう炎を吐き出せるのだ。
しかし、リュウは動じない。炎がギリギリまで近づくと、鞘から剣を抜き出し、軽く剣を振っていた。
すると、炎はたちまち消えてしまう。というより、炎が割れてしまっていた。
切られた、のか……?
「…僕は何でも切れる。それが、見えないものであっても、果てしなく遠いものでも…」
「じゃあこれならどうだ?」
俺は口に炎を溜め込み、両手で氷の結晶を作り出す。
竜化したら魔法が普通に使えるのか、と少し疑問に思っていたが、戦いの最中に気にすることではないだろう。キラキラとしたその氷の固まった結晶を、炎のある口の中に含む。口の中は丸い光を帯びていた。
その光を、リュウに向かって俺は放つ。しかし、リュウは一瞬で俺の背後に回っていた。
無残にも消し飛んでしまう前方のステージ。それを見て、俺はこの魔法の威力に少しだけ怖気を感じ取っていた。
傷がついた身体は竜化した俺の身体だった。補足だが、ドラゴンの皮膚は鋼鉄以上に硬いとされている。つまり、リュウはそれを細長い剣で切ることに成功しているのだ。恐ろしい力と技術を持った騎士王、流石だ……
傷を受け、俺の竜化は解けてしまう。また光を浴び、視線の高さがいつも通りに戻ってしまう。更には足に深刻な傷を負っていた。立ち上がることができない。自立不可能となっていた。そこまで、俺の足、スネのあたりが深く傷つけられていた。
「もう、ダメかな……」
「立ち上がれないようだね……」
…悔しい。全く良いところなしで終わるのは……悔しすぎる…ッ!!!
「終わるわけには……っ!!」
「その身体じゃあ、集中力も尽きて魔法すら放てないだろう……どうする?一度死んでみるか?それとも、このまま降参するかい…?」
「………殺してくれ。情けない姿を見せて敗北よりは、死んだ方が余程清々しい」
想像してみよう。立てない姿を見せたまま、リュウ選手の勝利です!と言われ、かつてない屈辱を得ながら負けを見てしまうのを。
そんなのは俺も客も望んではいない。死んでもどうせすぐ生き返る。なら、殺された方が何十倍もマシだ。
「リリヤ君……なかなか楽しかったよ。気の抜けない戦いを……ありがとう……」
そう言って、剣を上に掲げ、リュウはその剣を思いっきり下に振り下ろす。
俺はその一撃を受け、目の前が真っ暗となった。最後に覚えていたのは、倒れた時の頭の衝撃であった。
気がつくと俺は司会席の横にいた。死んだらここへ来る、そういうシステムだ。
「優勝はリュウ選手!!!!!8度目の優勝!!!!おめでとうございます!!!!!」
拍手喝采。その言葉が1番似合う雰囲気であった。
俺は、負けたのか。初出場で準優勝……ここまで来れたからまあ、いいのかな…
「リリヤ選手も本当にお疲れ様でした。数々の下剋上を見せてくれて、見ていた身としては本当に楽しかったですよ!」
「ありがとうございます……2週間に渡り試合に出ていた、あるいは見ていた皆さん、本当にお疲れ様でした、そして、応援してくれた人達に、とても感謝しています」
俺は司会のマイクを使いこう喋っていた。
「それでは、今回準優勝のリリヤ選手に少しインタビューをして見たいと思います。リリヤ選手、今回初出場で準優勝!そして階級が2!!素晴らしい結果を残してくれました」
「階級に関しは無差別なんだから関係ないと自分は思っています。次回は準優勝ではなく、もっと良い場面を作って強くなって、皆さん方の応援を受けていきたいです」
「2ヶ月後には、赤黒混同無差別戦が行われます。そちらへの意気込みをお願いします」
「赤の国が加わるということで、新しい戦い方なども身につけていきたいなと思います、女性の方が多いということで、なるべく傷つけないよう精進していきます」
「紳士的で素晴らしいですね〜。最後に、今回の戦いで1番辛かった試合はいつでしたか?」
「一つには絞れません。二つあります。リセ戦とサリス戦です。リセ戦ではまさか彼女自身が対策を練っていたとは思っていませんでした。サリス戦は……正直何故勝てたのかわからないです」
「ありがとうございます、リリヤ選手でした!!準優勝、おめでとうございます!!!」
会場内拍手で迎えられ、俺は司会席を去っていく。その後はリュウのインタビューが行われ、同じように拍手を浴びていた。
時は夜。城のベッドルームもなんだか久々な気がする。
ゆったりとしていると、リセとカナエルが俺の部屋に入ってきた。
「新しいものはなかったけど、凄まじい戦いだったね、お疲れ様、リリヤっ」
「リリヤくん…お疲れさまっ。リュウ様、すごく強かったね…」
「2人とも…ありがとな。でも、何故ここに来たんだ?」
リセはまだわかるとして、カナエルがただ『お疲れ様』と言うためだけに来たとは思えない。
「これだけ、どうしても言いたかったの。リリヤ、おやすみっ」
リセは俺の部屋から出ていく。カナエルはまだ去らない。何かあるのかな…
「明日、リュウ様から私と一緒に大切な話があるみたいだよ。もしかしたら、昇任するかもね」
「マジで!?!?よっしゃあ!!!」
ここでは明かしていなかったが、階級ごとに給料が異なっているのだ。2は月4万。しかも携帯代 (赤黒国用)が1万。寝床があるとはいえ、かなりカツカツの生活をしている。
「まだわからないよ?ただの作業かもしれないし……とりあえず、明日一緒にリュウ様のところに行こうねっ!」
「おっけーだぜ、ありがとう、カナエル」
俺は右手の親指を立て、ナイスサインを送る。パチスロのボタンを停止させる指とも言う……
カナエルも俺の部屋から去っていき、隣から聞こえるリセの自慰をBGMにしながら、ぼんやりと考え事をしていた。
『赤の国が絡むってことは理衣にも会える…いや、戦う可能性が出てくるってことか……そうなったら何か嫌だな……とりあえず、理衣がどうなっているかだけは気になるな……リセの自慰は相変わらず激しいな……』
理衣が殺されている、投獄されていると言った残酷な描写は全く思い浮かばなかった。何故なら、それは俺の待遇がこのようなものなのだから………
第1章完結!!! 第2章は戦い少なめです!!




