第13.5話 もう一つの準決勝
試合を終えた俺は、リュウvsゼルナの試合を見ることにした。いつもなら試合が終わったらそそくさと帰るのだが、今回ばかりは試合内容、結果が知りたすぎて仕方がなかった。
いつも歓声などが送られる、ステージ外の観客席に席を取る。ステージ内外は全て黄土色の土で作られたようなドームだと思ってくれていい。つまり高い所から見下ろすこととなる。そして、隣にはカナエルがいる。元々この席の隣で試合を見ていたようだ。
「リリヤくんっ、決勝進出おめでとうっ」
「お、カナエル!ありがとうな!」
カナエルは『基本的に無垢』なので、笑顔に偽りなどは一切なかった。満面の笑み、可愛い。
「次、どっち勝つと思う?私はリュウ様だと思うんだけど……」
にへらぁ、というような『悪い笑顔』を必死に押し殺そうとしているのがうかがえる。ムッツリだなほんと……
「俺も……リュウだな…」
「だよね!そうだよねっ!」
身を乗り出すように顔を近づけられる。カナエルさん、顔近いです。賛同してくれるのはわかりますけど近いです。
対戦成績についてだが、この2人は過去にもう何度も試合しているらしく、リュウの勝率が7割を越えている。しかも当たるときは全て準々決勝〜決勝と、2人のレベルの高さがうかがえる。
「でも、ゼルナって確か完全自力で成り上がったジャックなんだよな……」
「リュウ様だって、元々は自力のジャックだったじゃない」
うちの派閥はかなり実力主義な所が多いらしい。そのせいか他の派閥に比べてエースが非常に少ない。しかも今回の試合で4回戦までで全員負けている。王家だけ、チートレベルの強さなのだ。
リセは先代王の娘だからそのまま来たらしいけど、やっぱりバカみたいに強い。
血って、関係あるのかな……
「あっ、試合始まるよ!」
俺の思考タイムはここまで。試合実況タイムといきますか………
「さあもう一組の試合を始めましょう……もう対戦相手は言うまでもありません最強同士のぶつかり合い……リュウ様、ゼルナ様、お入りください……」
「うおおおおおおお!!!!!」
「リュウ様ぁーー!!!」
「ゼルナ様ぁーーー!!!!」
2人とも、観客席に手を振りながらステージの真ん中へと歩く。歓声も今大会最高にうるさい。それだけ、ファンも部下も色々といるわけか……
「……試合、始めます……レディ、ゴー!!」
ドラのような音が鳴る。えっ、今までゴングだったじゃねえか……なんか気合い入りすぎじゃね?
「リュウ……僕はもう負けない……!!」
「楽しみつつも、真面目でやろうか……!」
しかし、そう言ってからは風の音が聞こえる程、静かな時間が少し続いた。何故だろうか、お互い全く動き始めない。
やがて、周りがガヤガヤし始め、ステージ外の方がうるさくなってくる。しかしリュウとゼルナは剣すら握ろうとしない。何があると言うんだ?
「前回と同じ……」
「前回??」
「うんっ、前回は準々決勝だったけどね。2人の試合はいつも『気を抜いた方の負け』らしいの。だから、常に集中しながら、スキを待っているのよ」
気を張っている、ということか。しかし、そんなものでいいのだろうか…今までの試合はどうだったのだろうか…気になって仕方がない。
「ガヤに負けた方の負け、ってことか…」
「そうかもね……」
そう思っていた時である。ゼルナがゆっくりと剣を抜き出した途端、リュウが瞬間移動するかのように、ゼルナの後方へと移動していた。
速すぎんだろ、さすがに。
しかし、何もしていないはずのゼルナは全くの無傷、対してリュウは装備品を破壊され、中に着ていた布切れ一つの状態になっていた。
だから速すぎんだろ、さすがに。
周りのガヤは驚きへと変化し、いつも通りのワァーキャーといった騒ぎへとさらに変化していく。
「くっ…!」
リュウが僅かな唸りをあげ、ゼルナが近づいていく。
「リュウ……久々に勝たせてもらおう…そのボロボロの状態では何も出来ないであろう……血を見るよりかはまだ良いがな…」
「………まだ、終わって……」
「…ほう?」
剣を杖にしながら立ち上がるリュウ。しかしゼルナは待ってはくれなかった。リュウの頭上目掛け、剣を一気に振り下ろす。
………中々非道的なヤローだな。戦いの時はそんなこと言ってられねえけど、な。
その中、そんなに黒の国に居たの?と言うほどの女性の青い悲鳴が観客席を包んでいた。
リュウの頭上に剣が触れたであろうその時である。ゼルナが、突然血を抜かれたかのように倒れ出す。
「間に合ったか……」
「おおっと、ここでゼルナ選手がダウン!!立ち上がれるか、ゼルナ選手!!」
司会も慌ててマイクを握って喋り出している。そりゃ気づかなかったのだろう。速過ぎるもん。何もかもが。
今度はゼルナファンだと思われる方々が大悲鳴。尽きずキャーキャーと言っており、猿かよ……と言いたくなってしまう。
「ゼルナ選手……立てません!!よって、リュウ様の勝利!!!決勝進出です!!!」
男のワァーとリュウファンであろうキャーいう盛り上がりの歓声、ゼルナファンだとであろう人間は静まり返っていた。
リュウはベンチ側に戻り、更にそこから少し経つと司会席の方に居た。司会の使っていたマイクを片手に一言、こう言った。
「楽しみにしているよ、リリヤ君」
次回決勝。一章終わります!