第12話 無敵なんて存在しねえ
俺の魔法は鋼鉄化、吹雪化の2つのみ。魔法を飛ばすのではなく、自らが魔法となるアグレッシブな魔法使いだ。自分でもそれを深く理解している。普通に放つ魔法はどうやら手先が不器用過ぎて使えないらしい。でも神は見捨てなかったんだろうね、俺に拳の破壊力をくれたんだよ。だから、鋼鉄化と俺の拳は凄く相性が良く、他人の攻撃も並大抵のものは受け付けないから、ほぼ無敵状態。無双できてしまう。
しかし、過去の対戦者はそうヤワではなかった。
この魔法化が解けてしまう相手や、対策を練られたりと、色々弱点もあった。今回のお話でも当然ピンチを迎える。そうしないと、このお話がつまらなくなるからね…
戦人。
それは騎士と格闘家を上手く極めた者だけがなれる職種。
ドラ◯エで言うならバトルマス◯ーだが、あえて戦人と言わせてもらおう。そうしないとこの話がドラ◯エ外伝になっちまう。
ただの魔法使いが、ここまで熟練した職種の人間に立ち向かう。
ただの魔法使いとは言えど、俺はただの魔法使いじゃない。そんなことは俺自身が1番知っている。じゃあ、何をするのか?答えは一つ。
勝つだけである。勝つには相手を超える、それしかないのだ。それ以上でもそれ以下でもない。
「行くぞオラァ!!!!」
先陣を切ったのはこの俺であった。早速鋼鉄化、サリスに向かって拳を定める。
サリスは無言のまま、微動だにしない。何故だ?わざと負けようとしているのだろうか?
それは俺の大きな読み違いであった。俺が至近距離に入ると、右手で剣を抜き、そのまま一振り。
俺の鋼鉄と化した身体は、音を立て崩れていた。
初めて、力のみで壊れてしまった。壊されること自体はリセ戦であったが、あれは技術。パワーで壊されるなんて、予想すらしていなかった。
「このままだと、君はただの鉄クズにしかならんぞ」
「なら、こっちならどうだ!!」
吹雪化。形のない吹雪そのものになる。いつも通り敵を中心に渦を巻く方法で相手を絞めようと試みる。
しかし、そこでもサリスは微動だにしない。
嫌な予感がする。その予感は見事に的中してしまう。
「はっ!!!」
サリスはこの一言だけ発し、右拳を下から上に、思いっきり振り上げる。すると、彼自身が竜巻の渦を作り出し、無念にも俺はその渦のパワーに飲み込まれてしまう。
「う…………ぐ……………うあああっ!!!」
儚くも元の身体に戻り、上空から落ちる。
一体、何したら勝てるんだよ。こんなの無理じゃねえか………
「君の攻撃は何も効かない。さあ、諦めるんだ」
「なら………拳だけで来い…ッ、俺も……拳だけでお前に向かってやる…」
「よかろう。拳だけでも君を圧倒する力はあるだろう」
俺は立ち上がり、積極果敢にサリスに立ち向かう。スピードを限界まで引き出し、彼に飛びつく。
しかし、俺の右拳はサリスの左の掌で完全に止められてしまう。
「ぐ…っ……!」
「どうした。その程度か…?確かに君の派閥の姫よりは力はあるだろう……しかし技術が無い。上手く力を発揮できる技術が欠如しているぞ。君は魔法に頼り、その技自身を磨いてこなかった。そうだろう?」
これまでかと言うほど図星を突かれ、不意に力も抜けてしまう。
「君はまだそれ程の人間だと言うことだ。諦めなさい、無理は言わない」
「お前は……まだ俺の最後を知らない」
「どういうことだ?」
「……タイムアウト」
たまらず俺はタイムアウトを要求。そそくさとベンチに戻り、リセと作戦を練り始める。
「さすがに、力量差が……」
「お前までそんなこと言うのか?お前だけは俺を最後まで信じてくれると思ったんだけどな。悲しい限りだよ」
「そ、そうじゃなくて…」
シュンとうつむき始めるリセだが、それに構わず俺は口を開き続ける。
「俺は最後まで諦めなかったから今まで試合を勝てたんだよ。お前と戦った時もそうだった。でもお前のその一言で俺は完全に勝てる気を失った。1番信用している人間に裏切られたらそりゃ、そう思うだろう?……残念だよ、もう負けてく」
「違う!!!あたしが言いたいことはまだあるの!!!」
目に涙を浮かべながらリセが大声を出し始める。しかし、後の声はか細く、不安になるような声だった。
「力量差があるかもしれないけど、あんたにはまだ勝てるポテンシャルがあるじゃない……って言いたかったの……あんたの実力は拳と魔法だけじゃない。最後にもう一つ、あるでしょ?」
「「奇跡ってものがな(ね)」」
考えることは2人同じ。そう、勝つなんてありえないとこから今まで勝利してきた。奇跡を起こして勝利を遂げてきた。そんな俺は……
「もしかしたら、やれるかもという気持ちが今、俺に1番重要だな……ごめんなリセ、俺も焦り過ぎて話を最後まで書くことを忘れていた。大事なのは最後。お前を見て尚更そう思えたよ。ありがとう」
涙を浮かべたリセの瞳はまたすぐ輝きを取り戻す。
「あたしは、最後までお兄ちゃんを信じているよ」
「…ここでお兄ちゃん呼びはやめてくれよ……ハハッ」
「ううん、信じている証として、ちょうどいいかなぁって、えへへっ」
2人とも笑顔を浮かべる。そして、俺はタイムアウトの時間が迫っていたので、再びステージに足を運ぶ。
試合が再び始まってもサリスの『強者の余裕』と言った雰囲気は絶えなかった。むしろ、立ち向かいづらい雰囲気が強くなっている気がする。しかしここで怯んでは試合にはならない。
「だぁぁぁりゃああああ!!!」
右、左、右、左と、交互に拳を振るう。しかしサリスには全くダメージを与えられない。
「何も変わっていないな」
冷静にこうぼそりと呟く。
「もう、おしまいにしよう」
そうサリスが言うと、右腕を物凄い速さで俺に向かわせ、そのまま拳を俺の腹にヒットさせる。
リリヤは終わった。誰もがそう思うはずだ。だって……自分でもそう思ったもの。
観客の悲鳴と………リセの悲しみしか帯びていない悲鳴が、俺の脳内に木霊していた。
「リリヤさまぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!!!」
何も無い闇に、放り出されていた。現実世界ではない、灯すらない闇。俺だけが光となって存在し、大の字になってぷかぷかと、浮いていた。
「あなたはセンスはないけどポテンシャルがあるわ」
これは……メル先生の無機質で、冷静な声……
「リリヤ君。君には大きなる可能性が秘められているんだ、だから負けてはいけない」
これは……リュウの落ち着きがあって、威厳のある声……
「あんたは絶望からの這い上がりがよく似合うわ。立ち上がりなさいっ!!」
これは……ハツラツとしたあどけなさの残る、リセの声……
「リリヤ君。君にはもっと、大きな人になってもらいたい」
これは……非常に紳士的なゼルナの声……
「同じ階級として、勝ち上がった人として、応援してるよっ、諦めちゃダメっ、立ち上がって、リリヤ君っ」
これは……記憶に新しく、幼くも大人びたカナエルの声……
ふと、目の前の世界が現実世界に戻る。リリヤリリヤと、猛烈なリリヤコールが朦朧とした意識の中、聞こえたくる。
これは後に聞いた話だが、俺は立ち上がったらしい。生まれたての馬のように、よろよろとした立ち上がりを見せたようだ。
一歩一歩、ふらふらとした歩き方でサリスに向かってゆく。もう戦う意思も残っていないのか、と言われるほど、気の抜けたものだったらしい。しかし拳を振るうと気力……というよりも力が一変したらしい。
サリスに拳を振るうのだが、その拳の一撃を、サリスに直撃したのである。
彼は来ないと思っていたのか、それとも、相当な不意打ちだったのか……真相はわからない。が、次の攻撃は防ぎつつも、サリスの拳を軽く弾き返したという。
頭のネジが外れていたのだ。
人間は普通の状態だと、力のほんの一部しか出せていないらしい。しかし、頭のネジが外れてしまえば、その人の持っている、100%の力を相手に与えることとなるらしい。
だから俺は、サリスに傷を負わすことに成功したのだ。
3発目の拳で、サリスはステージの端まで軽々と飛んでしまった。そのまま彼は意識を失い、立てる状態ではなくなる。
俺も意識はなかったんだけどね。
「おおっと、これはサリス選手、起き上がれない!!……………………………リリヤ選手の…………勝利です!!!サリス選手は気を失いました!!!」
ここでふと俺の意思が戻る。
気付くと、大歓声を浴びていた。歓喜に包まれ、派閥スペード側の応援席からも、驚きの表情が飛んでいた。
勝った……んだ、な。
俺は記憶がすっ飛んでいたが、そういうことなのだろう。
また奇跡を起こし、勝利した俺。このまま優勝してしまうのではないか、というちょっとした浮かれ気分もなかったわけではない。しかし、それはもう片方の準決勝を見ることで、その浮かれ気分は一度雲の上のものとなったのであった。
準決勝の話は次以降になるけどな………
もう夜も遅くなっていた。だから俺は寝る。お休みなさい。
その日、俺は夢を見た。
理衣が俺と同じ名前で、赤の国で活躍している夢を。そして、いつしか彼女と会い、不思議な気分に陥り、後、手から去る…………いわゆる悪夢というものであった。
「さようなら。私とあなたはもう、違う世界にいるの」
正夢なんて奇跡のそのまた奇跡、なんですよね。
次回、準決勝。魔法使いではない魔法使いと戦います。




