第10話 俺的ラスボス
4回戦を勝ち抜いた次の日。いくら戦闘後に神官に回復されているとはいえ、連戦続きで心が少しずつ疲れてきていた。戦いも楽じゃねえな……いや、楽な訳ないか……
そういやもう1人俺と一緒の階級で勝ち上がってきている魔法使いがいるらしいな…しかも派閥も同じ。
2でそんな強力なヤツ、いたっけ……?俺は学習塾に通ってからまもなく個人レッスン行きだったからよくわからない。まあ勝ってればいずれか当たるだろう。
リセに勝利したからには、負ける気がほとんどしなかった。いけるとこまで突っ走ってやる……そう思っている。
型破りな魔法使いファイター………よく言うぜ。
5回戦は我らが教師メイドのメル先生であった。彼女の強力な魔法は鋼鉄化によって無効化され、もはや相手ではなかった。はぐれメ◯ルの気持ちが少しずつわかってくる。しかし俺には経験値を与える能力は携えていない。だから逃げない。
「なるべく女性は傷つけたくない……」
という心が盛り、決定打を上手く出せなかった。鋼鉄化を解けば彼女にも攻撃出来るスキが与えられてしまう。しかし、この鋼鉄化で殴り殺すなど、いくら復活出来るとは言えそんな残虐なことはしたくない。
俺が導いた答えは……
「うおおおりゃぁっ!!」
「きゃあっ!?!?」
魔法をかけ終えた僅かな隙を狙い、メル先生を高く持ち上げる。そして俺はベンチのあるステージの端っこまで走り、そのままベンチに座らせる。
彼女は『場外』に出た。この勝負、場外に出れば『逃げた」という扱いになり負けとなるのである。
俺はそれを使い、メル先生を傷つけることなく勝利した。
「あなたらしいですね」
「褒め言葉として受け取っておきますよ、先生」
相変わらず無機質な、感情のなさそうな声質のメル先生。着てる服だけはフリッフリのメイド服なものだから、ギャップが激しすぎるよ。
何はともあれ、俺は5回戦を勝ち抜く。ん?省略してんじゃねえぞクソジャガイモ?え?何も聞こえないなぁ………
大事なのは次だぜ?
今日は5回戦と6回戦が行われる日であった。ので、勝ち抜いた人にとっては今大会初の連戦を経験することとなる。今までは1回勝ち抜けば次の日というローテーションで回っていたが、ついにそれが崩れる。
これによってどんなことが生まれるか?
単純に実力勝負になりやすくなる。試合までの時間が短くなったので、対策を非常に練りにくくなる。相性が悪い相手とは、相性が悪いまま対戦することとなるのだ。
つまり、俺が勝てるかは相手次第ってこと………
よし、試合始まるぜ。
「今日は引き続き6回戦を行いまぁす!!早速最初の対戦カードに移りましょう!!」
「13番、誰もが認める超新星型破り魔法使いファイター、リリヤ選手!!!!!」
司会に紹介された後、俺はステージ内に入ろうとする。
その前に、ベンチに入っているリセが口を開いた。
「今回はあんたと同じ階級よ。こんなところで負けたらマミらせるからねっ」
「ちょい前に流行った表現を使うな。そして今君はとてつもなくエグいことを言ったな」
リセの笑顔は時々怖い。こんなセリフを満面の笑みで言ってくるのだ。
交わした約束、忘れたい。目を閉じたら殺される。
いいよもう最近アプリ化された某魔法少女アニメの件は……
あのオープニングがぐるぐる脳内再生されるまま、ステージへと足を踏み入れていった。
しかしその脳内再生は相手の入場になってより一層強くなったのである。
「さあ!!次の選手の入場に参りましょう!!54番、こちらも超新星!!基礎を固めたら強いという証拠を見せる魔法少女、カナエル選手!!!」
あー。
魔法少女って言っちゃったよ。
魔法使いって言えよ。そこは。
でも容姿を見たら否定出来るものは何もなかった。
ピンクがかった髪、平均的な身長、しかし華奢であり崖のような胸……服装はもう『ザ・魔法少女』という感じである。胸につけているクラブ2を表すバッジが不自然な程、全体色はピンクだ。短めのスカート、薄そうな服、極め付けは装備品。いかにも喋り出しそうな杖である。先端に星型が付いており、ガチャガチャとその周りに色々付いている。
流石に、私服じゃないよな……?
俺は私服だけどな。Tシャツ短パン。ブレない。
「あなたって確か、学習塾で魔法が全く使えなかったあのリリヤくん……?」
「いきなりの挨拶がそれかよ。失礼な奴だな」
透き通ったロリっぽい声をしており、天然っ気かありそうなほんわかな雰囲気で、この失礼極まりない発言が第一声である。
「どうやって勝ち上がってきたの…?」
「さあな。俺にもよくわかんねえよ」
「お二方、よろしいですかー?試合始めますよー?」
「「始めてくれ(ください)!!」」
「いきまぁす!………レディー……ゴォ!!」
カァーンというゴングのようなものが鳴り響き、試合が始まる。
「リリヤくんっ、あっさりやられないでよねっ!」
「誰がてめえなんかに負けるかっ!!」
最初っから相性が合わなさそうな雰囲気を醸し出している。
始めに動いたのはカナエル。ステッキなのか杖なのかよくわからないものを取り出し、星型の先端を俺に向ける。
「雷魔法!!!」
一瞬のことである。俺に向かってその杖の先端から稲妻が飛んできた。その魔法が直撃し、全身の力が抜けてしまう。
「う……ぐ……」
俺はひざまずき、見上げるようにカナエルを見てしまう。初っ端からこんな負けムード全開の展開になるとは……
「次行くよ……氷魔法!!」
「鋼鉄化っ!!!!」
集中力を一瞬だけ振り絞り、間一髪鋼鉄化に成功。氷魔法は俺に当たるものの、鋼鉄となった身体には一切効かなかった。
「やはりあなたは雷魔法しか効かない…?」
「…そう、かもな……それ以外の魔法は弾ける…かも…な…」
思ったよりも雷魔法のダメージが大きく、軽く痺れが残る。呂律も少し回らず、おぼつかない喋り方をしてしまう。
「……じゃあ、雷魔法で攻めるしかない…よねっ!!」
すかさず杖を俺に向けるカナエル。再び来るのだろうか……
どうしよう。対策がない。
雷を防ぐ方法がわからない。俺の鋼鉄は、雷だけは防げない。
これが連戦の……恐ろしさ……
「雷魔法っ!!!!」
ズバァッ!と杖から閃光が放たれる。が、間一髪交わすことが出来る。
こいつ、もしかして……?
「くっ……もう一回……!!」
「残念ながらあんたの雷魔法は2度と俺には当たらない」
「……どういうこと…?」
眉間にシワを寄せ、少しだけたじろぐような様子を見せるカナエル。
「もうあんたの雷魔法は見切った……」
「そう言うなら交わしてみなさい!!雷魔法!!」
すかさず杖を振りかざし、稲妻が飛んでくる。しかし、俺には当たらない。何故なら?
「お前はまだ雷魔法を完全にコントロールできる程の魔力が無い。だから、その雷魔法は杖の向いている方向にしか飛ばせないんだよ」
「……っ!!」
どうやら図星のようだ。
「もう俺には当たらない……そういう理由があるから言ったんだよ。根拠のないことなんて、俺は言わねえ……」
「……んたなんて」
「ん?どうした?」
「あんたみたいな型破りみたいなタイプ……私、1番大っ嫌いなの………ッ!!」
急に怒りを露わにするカナエル。一体何が起こったというのか。
「私はねぇ……この国に来てから半年間教育を受ける前に魔法科のことは全て独学で学んだのよ……教材に書いてあるような……基礎的なものが全てだと思っているの……だから私は……ッ!!」
「あんたみたいな型破り魔法使いは認めない!!!!!だから、この試合絶対に負けないっ!!!!」
基礎と努力しか認めないのか……
なんだか哀れな考えのような気もするが、俺は何も言わなかった。
「あたしの最強の魔法を見なさい……これは……相手がなんだろうと…確実に消し飛ばせる…出来れば使いたくない魔法だけど、あんたになら使える……ッ!」
そう言うと彼女は杖をしまい、地面に両手を叩きつける
すると、ガタガタとそのステージ内だけがうなりをあげ、揺れていた。揺れは次第に強くなり、遂には地割れが起きる。バリバリッ!!と激しい音を立て、ステージが崩れてゆく。
……飲み込む気、か。
……それなら、対策はあるな。既に使える魔法で、な。
「吹雪化!!!」
宙に浮けばいい。答えはこれであった。
「残念だな!!お前の魔法は自分を飲み込むだけにあるようなものだぞ!!!」
「なん……に……!?」
驚きを隠せず、言葉にならない言葉を放つカナエル。どこから声がするの?と言わんばかりに顔をぐるぐると色々な方向に向ける。
が、どこにも俺はいない。
「じゃあな、これでおしまいだ!!!」
ビュオオオ!!という風を切るような音を立て俺はカナエルに体当りするかのごとく、彼女に向かってゆく。
しかし、ギリギリで吹雪だということに気付かれ、カナエルは氷魔法を放つ。
それは彼女にとって刃としかならなかった。
同じ吹雪である。俺は受け身になれば、回復どころかパワーが増幅される。彼女はあまりの焦りに、氷魔法を放ってしまった。
もしも、これが火魔法だったら、俺は完全に負けていた。
増幅した吹雪化魔法で、俺は襲い掛かる。
彼女になす術はなかっただろう。
「いやあああああああああっ!!!!!!!」
カナエルの悲鳴が響く。
………もう、このくらいにしておこう。
彼女はその場に倒れ、戦意喪失を表していた。この戦い、10秒以上経って喋ることすら出来ず倒れていたら、負けということになる。
「カナエル選手は起き上がれません!!!よって、この勝負、リリヤ選手の勝利!!!!」
ステージ外から大歓声が鳴り響く。……初戦ではこんな歓声なかったよな……
「おい、おいカナエル、大丈夫か?」
「…………ぐ………」
こりゃダメだ、運んでやらねえと……
しかし、カナエルの魔法でガタガタと化したステージの右半分には、もはやロクに立てそうな場所などなかった。仕方ない。逆から出るか……
俺は彼女をお姫様抱っこで持ち上げ、そのままベンチから外に出た。
「ん………んんっ………私は…」
「おう、やっと起きたか。大丈夫か?」
カナエルは傷こそ神官の力で回復したものの、意識は取り戻さなかった。そこで、城直結の病院に運ばれていたのである。
「……リリヤ…くんがここへ…?」
「ん?そうだよ。お前は試合後に意識が戻らなかったからな。なんか申し訳ないことをしたな」
「戦った相手に病院に運ばれるなんて、なんだか情けないや……」
「戦った相手ではあるけど、同じ派閥で、しかも同期だろ?これくらいの事は当然さ」
「そっか……ありがとう」
試合とは裏腹に落ち着いた表情で、彼女は感謝の言葉を述べていた。
「そういや、髪色がピンクから黒になってるじゃねえか。何故だ……?」
俺がそう言うと、ベッドの上で何かを探し出すカナエル。一体何を探しているのだ?
「あっ、あったあった。これのこと?」
「ウィッグなの!?!?」
あの某魔法少女を思い浮かべるようなピンクのウィッグを彼女は持っていた。
「だって……少しでも魔法少女感を出したくて…」
「いや、むしろコスプレっぽい感じだということを知って安心したよ」
あれが素の衣装だったら俺でもドン引きである。
本当の彼女は、黒く長いさらさらの髪をなびかせるような、おとなしそうという言葉がマッチする人であった。
「リリヤくん……強かったね」
「カナエル…でいいのか?お前こそ、雷魔法はどうしようかと本当に悩んだよ」
互いにささやかながらも謙遜し合う。
「私ね、小さな頃からいつか魔法使いになりたい、と思っていたの。そうしたらこの国にやってきて、魔法使いって単語を見た瞬間、喜びを隠せなかったの」
「そうなんだ……俺が魔法使いになった理由……聞くか?」
「うんっ、聞かせて!」
「違う自分を見つけたかったんだ。俺は元々ガツガツ系のようなパワータイプでさ。そんな俺が魔法使いになったらどうなるのかなーって、思ってたらいつの間にかこんな変な魔法使いになってたのさ、ハハハッ」
こんな会話をするとは思っていなかった。でも、彼女が思っていたより興味津々だったので、話さざるを得なかった。
その後、俺とカナエルはこういった自分に関することの会話をし、互いを知り合っていた。
「もう、遅いだろうし、城に帰って寝たらどう…?」
「…そうするよ。あんたとの会話、すげー楽しかったぜ。じゃあな、おやすみ」
彼女のベッドルームから俺は身を引き、自分の城内のベッドルームに向かう。
もう城内は暗く、既に皆寝ているのであろう。そんな中コツコツと足音を立て俺は歩き、ベッドルームへ到着する。
俺のベッドに、リセが寝ていた。
「……………………えぇーーーーーーー…」
彼女はもうすやすやと眠っていた。布団からはみ出す肩が生身であり、全裸なんじゃないか?と疑ったが、もう眠い。そんな事はどうでもよくなっていた。
「仕方ない。床で寝るか……」
俺は静かに床に横になり、そのままゆっくりと、眠りについた。
カナエル登場しましたねぇ。この子はリセと並んでお気に入りのキャラなんで、いずれか濃く書きたいなぁ、と思っています。
次回、下っ端の下剋上というタイトルでお送りします。




