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ハートのエースがやってきた!  作者: 3ri
1章 発展途上人間リリヤ
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第9話 絶対女王

 俺は初戦で負けるだろうと皆に思われていただろう。なんせ、2という1番下の階級で、更に魔法もロクに使えない落ちこぼれ魔法使いだったから。

 しかしフタを開けるとどうなった?今や4回戦まで出場し、更に魔法を使えるようにもなっていた。

 誰がこんなことを予想したのだろう。

 誰がこんな相手と当たると思っていたのだろう。


 前回優勝者……その貫禄を俺は目の当たりにすることとなった。

















「り、リリヤ……さまっ………あっ……あっ……んんんっ〜〜〜〜!!!!」


 試合前にトイレに行くと、女性トイレの入り口からこんな声が聞こえていた。

 あいつ発情期かよ。大丈夫かよ本当に。次会ったらえっち姫って呼んでやろうかな。

 トイレするってこと自体緊張感があまり感じられないのに、これじゃあ緊張感の『き』の字も無いじゃねえか……













「さぁ!!赤黒混同に出られるメンバー256名の、最初の1組目の試合を見てみましょう!!!1番!!我らが誇る絶対女王、クラブクイーン、リセ!!!」


 リセの人気は高い。笛のようなものを吹かれて歓声をあげられたりと、他人には無いものが数多く聞こえていた。

 ……地位って奴か。

 俺はそれを見ながらそう捉えていた。リセがゆっくりとステージ中央に歩いて、やがて止まる。



「続いて13番!!!!数多の強豪を倒し続ける型破り魔法使いファイター!!クラブ2、リリヤ!!!」


 俺も、初戦よりは歓声が増えたかな。いつしかスペード側からも少しずつ声が聞こえるようになってきている。少しでも面白い試合が出来るよう、頑張ってやるか………





「さぁ一発目の試合は前回優勝者と今回の超新生ですね〜、楽しみな試合です!さぁ!コメントを戴きましょう!!まずはリセ様っ!!お願いします!!」



「勢いと実力、どっちが上か見せてあげる!!!」



 ワァーーという歓声。その後すぐ、リセ様!リセ様!というリセ様コールに発展する。これ、アウェーって奴かな…



「続いて、リリヤ選手!お願いします!!!」



「死ぬまで這いつくばってやらぁ!!!」




 リセ様コールをしていた軍団からはブーイングを食らう。なるほどな。俺は敗者であってほしいのか……


 そうはいかねえけどな。




「さぁ!試合開始!!お願い致します!!!」




 司会の一言で試合が始まる……




「さぁいくぞ!!!!えっち姫!!!!」

「え…え、え、えっち…姫って何よ!!!!殴り殺すわよ!!!!!!」


 顔を真っ赤にさせることはさながら、首元まで赤くなっている。


「赤くなるってことは……心当たりがあるってことなのかなぁ…?」

「あるわけないでしょ!!!!!粉々に砕いてやるわ!!!!」


 こえぇー。

 このえっち姫怖いよぉ〜……

 しかし全速力で俺に向かい、蹴りを入れようとする。


「させねぇよーだ!!!」


 すかさず俺は鋼鉄化。これさえ使えば……


「うぐっ!!!!………な、な……」


 痛え……何故だ……体は傷ついていねえのに…響くような痛さが…

 そのまま吹き飛ばされ、倒れこむ。


「鋼鉄化はあたしには効かないわ。あたしが軽く振ろうが、あんたの身体だけは痛むのよ」

「そ、そんな話聞いてねえ…っ」

「そりゃそうよ。あたしが練った、あんた向けの対策だもの」


 俺は何も考えていなかった。いつも通り鋼鉄化を使い、えっち姫をぶん回せば勝てるかと思っていた。

 しかし、そんな甘いものではなかった。

 えっち姫はきっちりと対策を練ってきていたのだ。それもまるで俺だけに通じるような……


 どうすりゃいいんだ…?このままだと、押されちまう……


「あたしだって……プライドがあるから負けられないのよっ!!!」


 すかさず飛び込んでくるえっち姫。

 こんどは拳か………


「拳なら拳でっ…!!!」


 しかし、えっち姫は一度立ち止まる。まるで手を抜くかのような思いっきり振らない。だがその振ってきた時のスイングスピードだけは異様に速くそこに違和感を覚える。


 再び、えっち姫の拳が近づく。俺はとっさに左拳を振り反撃に出るが、拳同士が当たった途端、また響くような痛みが走る。


「ぐぅっ……なん……で…」

「スキありっ!!」


 再びもだえている俺に拳を振るってくる。その拳を直に受けてしまい、今度は身体で痛みを受け取っていた。


 響くような痛みはない、いつものパンチだった。


 さぁ、どうする。俺はこのままでは後がない。鋼鉄化をしていても謎の一撃でダメージを受け、かついつも通り攻めるとあの響くような痛みと直接的な痛みをうまく使い俺はやられる………氷でも使えりゃ鈍らせることが出来るんだが………




 ん?氷…?




 まあ、出来るわけねえか。鋼鉄化しかできない俺には縁のない話だ……



「さあ、どうするの?下りるの?ねぇ!!」


 完全に試合モードのえっち姫。

 それに押され、俺は後ろめたい気持ちになってくる。


「もう、負け……なのかな…」

「降参するのね??」

「いや、それはしない……っ」

「どっちなのよ!!!はやく立ちなさい!!」


 あいつの言う通り、俺は横たわった状態から立ち上がる。後ろめたい気持ちになりつつも、闘志はまだ消えていなかった。


「……まだ負けってわけじゃねえ…」

「あんた、まだ何かあるって言うの??あんたは負けるの。あたしは勝つの。それが実力なの、わかる?……わからないかぁ……来たばかりだか」


「トイレでお前は何をしていたか俺は知っている」


 そういうと威勢のいいえっち姫の表情が真顔の如く冷たくなった。


「言ってほしいか?夜お前がベッドでしていたこと、俺のベッドに潜ってしていたこと、ついさっきのトイレで試合前にも関わらず緊張感のない行為をしていたこと………ォ……」

「言ったところで何になるの?」

「お前という名の株が落ちる」


 俺は気づく。強気は完全なる演技であると。

 そして彼女の顔が少しずつ青ざめていっていると。


「………ふぅん。あたしは腕で生きるの。何を言われようともうろたえることなどな」

「じゃあ今ここでお前がやっていた事の男バージョンを見せてやろうか?」


 青い表情は一転、真っ赤な表情に早変わり。


「見てやろうじゃない、あんたがここで裸になれ」


 はだか(ボロン


「きぃぃぃぃぃぃぃやぁぁぁぁぁぁぁああああああ!!!!!!!!」


 観客席には見えていません。ご安心ください。え?どうやって見せてないかって?それは想像に任せる。ジャガイモにはそれを書く能力などありゃせんわ。


「握り潰してやる!!!!!」


 えっち姫はさっきの倍くらいの速度で襲いかかる。何かを握るような手つきをしており、きっと……



 俺はせん馬ならぬ、せん男になるのだろう。



「あはははははははっ、じゃあな〜!!!」


 と言った時である。

 俺はえっち姫の前から姿を消した。


「えっ……どこ!?あいつはどこ!?」



「ここだっ!!!」

 

 俺はえっち姫の真上から声を出していた。

 また、新しい技を土壇場で作り出してしまった。


「声は聞こえるけどどこにいるかわからないじゃない!!出てこい!!潰してやる!!!」

「悪いがそりゃ無理だな!!!俺は今結晶となっているぞ!!」


 結晶になっているとは。

 俺は吹雪化という魔法を習得した。吹雪を放つものではない。吹雪になるものである。ドラク◯で言うとマ◯ャドと言ったら放たれる吹雪、あれである。あれになったのである。



「いいから…………出てこおおおおおおい!!!!」


 こええよこええよえっち姫こええよ。出ようと思ってもこれじゃ出られねえよ。はぁーこえぇ。


「わかんねえうちにこっちから行くぜ!!!!」


 びゅぅぅ、と冷たい風がステージを駆け巡る。それは俺なんです。吹雪化なのだから。

 風で円を作り、次第にえっち姫を囲うように小さくなっていく円。なにも理解していないえっち姫。


「な、なに……さ、さむっ……!!」

「ふとんがぁぁぁぁぁぁ…………」




「吹っ飛んだ!!!!!」





 強烈に寒いギャグを放つとともに、ビュオオォ!!!と冷たい嵐が吹く。それは一つの場所に収束され、えっち姫に触れ、吹き飛ばす。


 まるで台風の目に巻き込まれ飛ぶかのように。



 舞い上がったえっち姫は下に落下し、やがてステージの地面に落ちる。


「か、身体が………う、うごかっ……」


 動かないのだろう。それもそうである。今、彼女の身体は全身が凍りついている。と言っても、アニメのように氷で包まれるような凍ったではなく、現実のような、雪でまとわれ、指の先端が赤くなるような、『凍りつき』である。


 そして俺はえっち姫の目の前に立つ。もちろん服は着ています。


「そりゃそうさ。凍ってんだからな………負けを認めるか?どうするんだ?」

「ま…………まだ………っ」


 ひざまずいていたえっち姫は立ち上がろうとする。が、上手く力が入らないせいか、おぼつかない動きを続ける。


「負けを認めたら暖めてやろう。さぁ、どうする?」

「……そもそも、あんた暖めるような魔法を使えるの?」

「使えなくても、暖めることはできる」


 えっち姫は首をかしげ、何言ってんだ…?といった表情で見つめてくる。


「……やってみなさいよ。勝ち負け関係なしに…暖まってからすぐ反撃なんかしないわ。方法が気になるの」

「大勢の前で、恥ずかしい気分になっても知らねえぞ?それでもいいのか?」

「かまわ…ない……やって頂戴」


 そう言った瞬間、俺はえっち姫を立ち上がらせ、すかさず厚く抱きしめる。

 俺が考えていたのは…抱擁、人と人との暖かさで暖める方法であった。人によっては恥ずかしいと思う人もいるがな。


 えっち姫はその恥ずかしいと思う人の部類だろう。耳元が痛々しい赤から恥ずかしさで染まるような赤へと変わっていく。見た目じゃなくて、感覚でわかるようになっていた。


「………………ばか…」

「…な?暖かいだろう?」


 観客一斉どよめきの嵐。ブーイングもあれば、黄色い声もある謎の空気が漂っている。


 肌の冷たさを強く感じる。戦いだとわかっていても、こんなこと……させるんじゃなかったかな……


「…………どうして、こんなところで…」

「危ない味方の命を助ける、それも戦い方の一つだろう?」

「でも、今は……」

「お前という存在は、決して敵じゃない。俺はリセを殺すことが目的じゃない。倒して勝つことが目的なんだ。だから、こうやって勝ったあとは助けるんだ」


 リセは少し怒りながら、


「まだ負けってわけじゃ」

「そんなこと言えるのか?リセは俺の吹雪化対策を練ったか?鋼鉄化は確かに練っていたな。衝撃波のようなもので振動を与え、相手にダメージを与える……素晴らしい考えだと思うよ」

「っ……!!」


 図星を突かれたのだろう、少しだけ唇を噛むような仕草をするリセ。


「でも俺はそれの効かないものに変身した。つまり、いくらリセが今の俺と戦っても勝てない……そういうことにしてくれ、俺はもうお前を傷つけたくはない」



「………私の……負けです……」



 ぼそっと、彼女は呟いた。


「本当に負けで、いいんですね?」


 次回の声が鳴り響く。


「はい……」



「またしてもリリヤ選手が強豪を破りました!!!!前回優勝者を破ってしまうとは、恐れ入りました!!!」


 微妙な雰囲気になりつつある観客席も、司会の一言で徐々にではあるが拍手を迎えてくれる。


「……肩、貸してやるよ」

「……お言葉に甘えて…」



 もう、彼女は敵ではない。俺の大事な大事な王家の味方だ。……戦いたくはなかった…こいつとは、な。







「スレスレの勝利だった、俺はお前と共に強くなりたい。そう思えた試合だったよ。ありがとう」

「……ばかっ」



 リセの恥ずかしがる表情は、誰よりも可愛い気がしてならなかった。

次回、ジャガイモが推す新キャラ登場。

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