第8話 無差別戦 挑戦
2回戦はあっさり勝利してしまった。
2回戦で会おうとか皆に言っていたのに、あまりにもあっさり過ぎてジャガイモに省略されちゃったよ。一応内容としては俺が鋼鉄化してやる気のなさそうな神官を一撃でぶっ飛ばしてノックアウト。初戦があんな激戦だったのに次の試合は2分くらいで終わってしまったよ。
ベンチに入っていたリセもあっけらかんとしていた。
ちなみにこの大会、4回戦まで行くと赤黒混同無差別戦への出場権があるんだそう。名前の通り、赤の国の人間と黒の国の人間で最強を決める、実質「世界最強戦」みたいなものだ。
何故、世界最強かと言い切れるかって?
他196個の国にこんな馬鹿力を持った人間がいるか?
他196個の国に魔法をぶっ放したり出来る人間がいるか?
せめているとすれば騎士ぐらいだろう。でも、斬られたら一撃じゃないか。ここには守ってくれる装具などもある。だから、世界最強と言い切れる。
まあ俺は戦いの時もTシャツ短パンだけどな!!
言い忘れていたよ自分の容姿を。年がら年中ずっとTシャツ短パン。冬場でも家に帰ればずっとこれ。北海道の家は暖かいんだよ。
てなわけで、2回戦も1日かけて行われていた。だから俺は寝る。ばいば〜い♪
「んぁっ………おにい……ちゃぁんつ………り……せのっ………あそこっ…………いれ……ぁぁああああっ♡♡♡♡♡♡」
だから全部聞こえてるんだって毎日毎日……でも悪いもんとは思わねえけどな。
今日は兄妹ムードなのね。リセって凶暴なクセにドMなんだよ。だから公開させようとすればとんでもない弱みになるよね。
まあ、あいつのこと嫌いじゃないから言う気もさらさらないけど。
そういや理衣もドMによくなるよなぁ……元気してんのかな、あいつ。
「さあ、今日の無差別戦!!!3回戦が行われますよ!!!!!早速今日の初戦から行きましょう!!!1番、我らが誇る黒の国圧倒的クイーン!!リセ!!!」
ちなみに今俺はリセのベンチについてます。理由?リセに『来なさいっ!!来なかったら試合前にサンドバッグにしてやる!!』といういつもの荒いリセクイーンになっていた。
ちなみに、3回戦勝ったら当たる相手コイツ。まあそろそろ俺も負けていい頃だろ……
「6番!!!王家が誇るダンサー熟女!!セマ!!」
って、あの家事係の8のおばさんじゃねえか。あの人ダンサーだったのか………人は見かけによらねえな。
え?試合結果?リセが最初からエンジン全開で相手動く暇なかったね。うん。
てなわけでリセさん4回戦出場。
ちなみに次、俺の試合です。
「リセ様、相変わらず強いですね〜。さあ!次の試合も目玉試合!!!12番、守備力0は999の裏返り!!!!スペードのジャック、マカオ選手!!!」
ウオオオオオオという歓声と共にマカオと呼ばれる人物がステージ中央にやっていく。
…なんかオカマクセェ歩き方だな。
「13番、今回期待の超新星!!!リセ様にも引けを取らない馬鹿力魔法使い!!!クラブ2、リリヤ選手!!!お入りください!!!」
入れ替わりでベンチに入るリセが口を開く。
「あいつ、魔法も打撃も効かないのよ」
「…ハァ?どうやって勝てってんだ……」
試合中のような真剣な表情でリセは言う。
「確かに、あいつは魔法も打撃も効かない。だけど、裏をかくような弱点は多いと言われているわ。奴は魔法は完全に効かないけど、打撃はゼリー化という魔法で無効化しているの。過去にあいつに勝った相手は……自然火を起こして燃やしたり、ゼリー状の中に氷魔法をかけていたり……様々だわ。でも、あいつ過去に負けた方法は必ず対策してくるの。だから、あんたも新しく方法を見つけないと…勝てないわ。必ずどこかに盲点はあるから……」
いつも通り、右拳を前に突き出し……
「頑張りなさいよっ!」
「ああ、任せろ。力任せよりも頭脳戦になりそうだな。頭使うのはあまり得意じゃないが……頑張るよ」
「あたし、あんたとの試合を楽しみにしてるからっ!!だから必ず勝ちなさいよ!!!」
今日はリリヤ君やリリヤ様とは呼ばないのね。
それでも、リセの純粋な笑顔は輝きに欠けはなかった。
こうして、俺もステージの中央へと一歩一歩、足を踏み入れていった。
オカマくせぇのは歩き方だけじゃなかった。
おかっぱ頭で過度な化粧、全体的にピンクを基調とした装備……武器は杖だから魔法使いか。しかし右腰あたりに短剣のようなものもつけている。ピンチ時とかに使ってくるのか?まあいい、リセの言う通り弱点を探し始めるとこから始めなきゃな……
「両者揃いました!!!さあ、試合開始!!お願い致します!!!」
「アタシは無敵ナノヨォ!!!さっさとかかってきなさぁい!!!」
試合が始まるなりオカマ口調で俺に叫ぶマカオ。
過去に負けているクセによく言えるぜ。そういうのは勝ち切ってからいうセリフじゃねえのかぁ?
とりあえず、向かうとしますか。
「その口塞げクソオカマがぁぁぁぁぁあ!!!」
俺は左脚で地面を強く蹴り、地面から少し浮上した所で右脚を思いっきりマカオにぶちまけようとする。
しかし、ぶにゅりとした感触に掴まれ、更には貫通してしまう。……これがゼリー化って奴か。打撃が通じないのは柔らかすぎるから。じゃあ……
「こっちならどうだ!!!」
俺は全身から魔法力を纏う。そして左手と右手を重ね合わせ、鋼鉄化することを確認する。
よし、いける…
もう一度マカオに向かい右脚で思いっきり蹴りを入れようとする。
触れた所で、異変は起きる。
マカオの身体から紫色の霧が出始め、俺の足を包み出す。鉄をぶつけたかのような勢いは消え、1発目と同じような感触に包まれた。また、ゼリー化でかわされる。
「どうなってやがんだ!!!」
「言ったじゃない。アタシは無敵なのぉ。魔法は無効化という魔法で完全シャットアウト〜。打撃はゼリー化によって、シャットアウト〜。だからアタシは無敵ぃ。わかった?何度でもかかって来なさい!!オホホホホ!!!」
他人をあざ笑うような高笑いに俺は怒りを隠せなかった。
「てめぇ、無敵なのはわかった。ケド、どうやって俺に勝つんだろうなぁ?」
「そんなの簡単ヨォ。隙を突いてどこのタイミングで攻撃すりゃいいじゃな〜い。頭を使えば誰でも出来ることじゃぁ〜ん」
「そんなこと、出来るかな?この俺に」
俺は気づいてしまった。
こいつは俺の攻撃を受け付けないが、同時にコイツも俺に攻撃を与えられない。
泥沼だ。相当な策を練らない限り、この試合は終わらねえ。どっちかと言えば、攻撃力のある俺の方が若干優勢かな。
まずは、こいつが攻撃出来なくなるようにしてやるか。
「この試合、勝てるかどうかはわからんけど、てめぇの勝ちは……絶対に無えぞ!!!!!」
「打撃も魔法も出来ないクセに何をほざくのヨォ!!!」
「やってやるよ。今からな」
俺はゆっくりとマカオに向かってゆらりと歩く。
マカオは何もしてこない。やはりそうか。
こいつは自分を守る魔法以外出来ないんだ。
だから、右腰に短剣を装着している。
コイツの戦いの勝ち方は、ゼリー化や無効化で相手がうろたえている時に、その短剣を振って傷をつける。人間なら刺してしまえば勝利だ。魔法使いならどこか深刻な傷を負えば集中出来ず魔法など使えねえ。
しかし俺ならどうだろうか。
魔法は鋼鉄化を使えば大抵は効かない。打撃も余程のものでない限り通じない。そして………
「アンタなんかに負けてられるアタシじゃないのよおおおおおおお!!!!!」
…来たな。
俺がゆっくり近付いたのはコイツに攻撃出来る隙を与える為。そして予想通りにギリギリまで近付いた時に短剣を鞘から抜き、上から振り下ろしてきた。
ここで、鋼鉄化を俺は使う。
パキィンと音を立て、短剣の刃は折れてしまい、使い物にならなくなってしまう。
「お前は持っているものには魔法をかける事は出来ねえ。つまり俺がお前に触れていない状態であれば、魔法を使えるんだよ。だから俺は鋼鉄化を使い、剣を折った。これで攻撃する手段がお前には無えんだ。要するに、俺は負けなくなったんだよ、これでな」
しかし、マカオにうろたえる様子などなかった。
「だからって、アンタだって攻撃出来ないじゃなぁい?アンタもアタシに勝てないって事じゃな〜い?」
「……そこは、今から考えるよ……俺には考える時間があるからな」
「つくづく腹の立つヤツねぇ……ま、アタシに与えられる攻撃なんかありゃしないわ。アタシもアンタに勝てる方法をゆっくり考えるわ」
お互い、ステージの真ん中で沈黙を迎える。
時間が経つ度に観客のどよめきが上がり、さらに時を経る度に、大きくなっていく。戦っている途中に互いに突っ立って何もしていないわけだから、無理もないだろう。
俺は考える。ゼリー化、無効化を手にしている相手にどうやってダメージを与えるのか。
今まで俺がやっていたことを思い出せ………起こりうる全ての可能性………
あるじゃねえか。俺にはこれしか思いつかねえ。
「はぁぁぁっ!!」
俺は再び鋼鉄化をかける。
マカオに一歩一歩近づき、拳を振れる距離になった時に左拳を当て…ようとした。
やはりマカオは紫色の霧を放っていた。俺の外見に変化はなくとも、鋼鉄化されている事は気づいているようだ。
「アンタがどれだけ鋼鉄化しようと、アタシには効かないわよぉ?無駄ということ、まだわからないのかしらぁ?」
「残念ながら俺はそれが狙いだったんだ。」
「ハァ〜?」
マカオが首を捻った瞬間である。
俺は思いっきり左頬を狙い右拳でパンチをぶち当てる。
人肌に触れた感触。やはり当たったか。
マカオは吹っ飛ばされ、そのまま訳の分からない体制で倒れこむ。
「な、なぜ攻撃が……?」
「お前の弱点、見つけたんだよ。魔法を2つ同時に使えねえってことをな」
「なっ…………!!!」
ギクリとした驚く表情を見せるマカオ。それに構わず俺は口を開く。
「最初に鋼鉄化した時を思い出したんだ。お前の無効化は、必ず紫色の霧が出るんだ。んだけど、お前の身体に触れた瞬間にその紫色の霧が消えたことに気付いたんだ。もし、触れた後にも無効化が使えるのならばその霧は出っ放しとなっているはずだ。なのに出ていなかった」
「微弱な射程距離が無効化にはあるんだよ。その微弱な射程距離を使い、魔法を消したところですかさずゼリー化へとチェンジする。そうすることで『擬似的な無敵化』がなされるんだ。そうだろう?」
俺が口を閉じると、マカオは半分笑ったかのような笑みを浮かべ、仰向けになりながら口を開きだした。
「なかなか頭の切れる子ね……アタシの負けよ。全部アンタの言う通り。切り替えの速さを鍛え、無敵になることを鍛えていたのよ。でも、それ以外は何も出来ないままだったから弱点も自然と出来てしまうワケ。頭の無い奴にはまず負けなかったわ」
「アンタ、強いわね。超新星って名に恥じないわね……」
そう言うと、マカオは立ち上がり、俺に背中を向ける。
「さっきも言った通り、アタシの負けよ。次の同士討ちも頑張って頂戴」
「あ、ああ……お前、結構いい奴なんだな…」
「戦う時は作り物でも闘志を出さなきゃいけないものよ。アンタも覚えておくといいわ。例え次の相手だとしても、ね……」
背中を向けたまま、大人しい口調でマカオは言っていた。
そうしてヤツはベンチに向かってゆっくりと歩き出し、ステージから去っていく。
俺も、戻るか……
大歓声を浴びつつ、それに応えるかのように俺はゆっくりとステージを後にした。
ベンチに着くと、すかさずリセとハイタッチ。
「あんた、あんな戦い方も出来るのね……見直しちゃったわ……ただ力任せに拳を振ることしか出来ないかと思っていたわ」
「失礼な奴だな。でも、リセに最初アドバイスを貰っていなければ俺はいつも通りの戦い方に出ていたと思うよ。ありがとうな、リセ」
そういうと、リセは真っ赤になりながら口をパクパクさせる。
「あんたの感謝なんて全然嬉しくないもんっ!!!」
「嬉しくなけりゃそれでいい。俺はストレートに思っていることを言っただけだ。」
そして、俺は試合前のリセのように、左拳を前に突きつけ、優しくこう言う。
「次の試合、お互い頑張ろうなっ」
次回、ストレート男vsえっち姫!!




