四月一日「従妹と嘘つき」
「ゆうにぃ、起きてぇー!」
彩音に揺すられて目が覚める。
「んぁ、まだ六時じゃねぇか……こんな朝早くに何の用だ……?」
「エイプリルフールだよっ!」
そんな弾けるような笑顔で言われても困るのだが……。
「そっか……今日は一日だったか……」
「ほら、嘘ついていいのは午前中までとか言うじゃん? だから少しでも遊びたくて起こしたの!」
「分かった分かった。でもあと五分だけ寝かせてくれ……」
「あ、ゆうにぃ今嘘ついた! 本当は私と遊びたいくせにぃ!」
「今のは本心だよ!」
くっ、都合良く利用しやがって……。
「もうっ! そんなゆうにぃの事なんてき、きき、きききら」
「別に無理して言わんでいい」
取り敢えず彩音は嘘を言いたいようだ。
このまま二度寝しても即叩き起こされそうなので、俺は仕方なく起きることにした。
「ゆうにぃ、今日の朝ご飯は和食でいい?」
「あぁ、別に構わないぞ」
「そ、そぅ……別にゆうにぃの為じゃないけど、し、しょうがないから作ってあげるわっ!」
「何それツンデレ?」
ぷんっと頬を膨らましてそっぽを向く彩音。
嘘つきとは違うような気もするが、これはこれで可愛いので放っておく事にする。
「和食……ってのは嘘で実は今日はパンとコーヒーでーす!」
「お、マジか」
「……ってのも嘘でーすっ! 今から味噌汁作るからね、ゆうにぃ!」
「ややこしいな、おい」
それでもルンルンと楽しそうに料理に取りかかる彩音は、良くできた子だと思う。
ぐうたら過ごす俺とは違って真面目に家事もするし……俺と彩音をくっつける事しか能がない彩音母(笑)の下でよくこんな立派に成長したものである。
彼女の華奢な後ろ姿を見ながらそんな事を思っていた。
「お待たせー! 今日は奮発してマグロにしてみたよ!」
「いやどうみても鮭でしょこれ」
彩音のくだらない嘘が続く。
「そうそう、あと一時間したら地球が滅亡するんだよ?」
「なんの予言だそれは」
「あとねー箸を逆さまに持って食べると恋愛運が上がるんだって!」
「なんの占いだそれは」
「あとあとー、白いカラスが昨日……」
「おいおい、別に本音で喋ってもいいんだよ」
しかしよくもここまで話を続けられるなと思う。
発想や内容が子供っぽいけど。
「じゃあ今から本音言うね? ……ゆうにぃ大好きっ!」
「ぐっ……!?」
危うく味噌汁を吹きかけるところだった。
いやぁストレートすぎんよ。
「彩音……実は俺の両親から連絡があって……来週から実家に戻ることになったんだ」
真面目な表情と声で言ってみた。攻守交代のお知らせである。
「え…………」
彩音ははっと目が覚めたような顔をしてこちらを見ている。どうやら引っかかったようだ。
このまま続けても良かったのだが、これ以上はなんだか可哀想なので引き上げることにする。俺ってば優しい。
「嘘です。……これからもよろしく」
「なあぁもぅぅ。本当だと思っちゃったじゃーん」
「んな簡単な嘘に引っかかるなっての」
純粋すぎて将来が心配だな……。
やはりしばらく俺が見守ってあげる必要がありそうだ。
「一人分も二人分も大して量が変わらないだけで……べ、別にゆうにぃの為にお皿を洗ってあげるわけじゃないんだからねっ! 勘違いしないでよねっ!」
「だからツンデレですか……?」
嘘つきも苦手な彩音ちゃんです。