■008□行ってみる?
俺と水月は2人っきりで家にいた。
「…横田君…何か話してよ……」
「うッ、うん……あの…ッさ…!!」
水月はこちらを向いて目をつぶっていた。
これは、もしかして…よくテレビとか、マンガとかで見るアレか?!
アレなのか?!誰か教えてくれ!!
とッ、とッ、とにかく!答えてあげないと、だめだよな…
俺がこれで何もしなかったら、水月が…いや、千歳が恥ずかしい思いをするだけだもんな。
待ってろよ、千歳!今、お前の唇をゲットしてやるから!!!
「千歳〜〜!!」
目を覚ますと朝だった…
抱き枕を抱きながら、俺は枕にキスをしていた。
「…なんだ、夢か…」
逆にこれは、俺が恥ずかしいよな。
それにしても、あんまし昨日のこと覚えてないな…
緊張しまくりだったし。
いろんな意味で…
しかも財布の中身はゼロ。
詳しく言うと73円しか財布には入ってない。
73円で今月を生き延びろってか…
何とかなるかな…
学校ではいつもの風景が待っていた。
昨日デートっぽいことをしたのに、いつもと何も変わらない関係。
ヤッパリ俺、この性格だし、こんな顔だし、誰からも好かれず、このまま生きていくんだろうな…
誰とも話すことがない俺は、っていうか朝、俺に話しかけてくる奴がいないだけなんだけどな。
そんな俺は本を黙々と読み始めた。
この本は1年前に発売された本で、作者は、シュードベルト・スカイ・クロー…って長すぎだ!
中身はいたって普通のSFファンタジーみたいな感じ。
まぁ、一般高校生が読むにしては、オタクといわれる可能性があるかもしれないな。
マイナーなことを考えてしまった…
これじゃあ俺はいつまでたっても俺のままだな…
死にたくなってきた……
ふと後ろから何かを感じた。
振り向くと、ユカリが立っていた。
「あんた元気なさそうだけど大丈夫?」
「いつものことだから気にすんなよ…」
「そうだったね!…それよりさ、昨日あの後どうなったの?千歳はさ、何もなかったって言うんだけど、
実際なんかあったんでしょ!?」
そう、昨日の昼飯を食べに行った後、ユカリと神田は用事があると言って帰っていった。
やっと昨日のことを思い出してきた、実際あの後は―――
「――どうしよっか、横田君?あたしはどうでもいいんだけど…」
「どうしよっか…」
こういう空気苦手なんだよ〜〜!
5分ほど沈黙が続いた。
「じゃあカラオケにでも行ってみる?」
最初の切り口を開いたのは俺だった。
その時には喉が渇いていた。
伝わったかは分からないけど、水月は頷いた。
多分俺が何かを言った事に気づいて、返事をしなきゃと思ったんだろうな、それに俺がその時立ち上がったし。
実際の所、カラオケには今まで行ったことはなかった。
でも女子と行く場所なんて、俺には他に思いつきもしなかった。