■009□励ましてくれよ…
カラオケ店に着くと、早速ボックスの中に入った。
俺は何を歌おうか迷っていた。
実際の所、俺はあまり歌を聞かない。
聞くとしてもアニソンぐらい。
普通の歌より盛り上がり度が違うから、大体はアニソンしか聞かない。
とにかく、アニソンとでも普通の歌にでもとれるような歌を探し、まずは歌った。
水月は歌のリズムに乗って手拍子をしていたが、全くリズムには乗れていなかった。
その天然さ、グッド!
ひと段落歌い終わると次は水月が歌った。
水月が歌う歌は、普通の女子が歌うような歌で、初めて普通の歌でもこんなに胸の高ぶりを感じた。
さっきの手拍子の悪さなんか、どっかに消えていったみたいだ。
それから何曲も2人で歌い続けた。
そして2時間がたとうとした頃、最後の曲を歌うことにした。
締めくくりは水月が歌うことになり、俺はマラカスを持ってスタンバッていた。
最後に水月が歌った歌は、切なく、悲しく、何かを訴えかけるようで、まるで…何だろう…?
とにかく、水月の声は旋律を奏でる声のようだった。
そうだ…まるで、癒してくれる、あの空の色のように透きとおった歌だった。
歌い終わると支払いを済ますことにした。
このとき俺は重大な事実に気づいた。
ここに来る前に気づいておくべき事実。
あそこで緊張していたからすっかり忘れていたんだ。
持ち金、73円…
お金が足りない…
男として最悪の結末が待っていた。
「水月…あのさ……金貸してくんない?今度返すから」
「もしかして、もぉお金使い切っちゃったの?ちゃんと考えて使わないと!」
いやいやいやいや、水月、お宅らの仲間のせいなんですけど。
「別に良いよ、これぐらいあたしが払うから」
「ごめんな……」
水月は優しく微笑みかけて、会計を済ませた。
そして、場の雰囲気で、そこで別れた。
その夜は俺、魂抜けかけてたよ…
「どうした純一?生きてるか?あたし、なんか悪いこと聞いた?」
同情されているような気がした。
でも、これで俺の恋は終わったかな…
1年とちょっとの恋はここで終わるよ。
あんなことがあったらな…飽きられるに決まってる。
それに…相性もよくなさそうだから…
明日…学校休もうかな。
どうでもよくなってきた気がする。
誰か助けてくれよ。
高橋…早くここに来て、励ましてくれよ…