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NGワードは彼女だけが知っている  作者: 紅涙詩穂璃
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パンツスティールⅥ~謎のピザ推し~

レイナMONO「今日だ。今日中に全てを終わらせる。そして、もう二度とこんなことさせない!」

□校長室(昼)

    勢いよく校長室に躍り込むレイナ。

    さっと注意深く視線を走らせるが、誰もいない。

    ローテーブルの上のピザの箱は一つ残らず空になっている。

レイナ「待っていても、埒が明かねえ」

    そう言ってレイナは退室しようとするのだが、

    その瞬間、昼休みの終了を告げるチャイムの音が鳴る。

レイナ「呑気に授業なんかに出てる暇あるかよ」

校長「そいつは聞き捨てならないねえ」

    部屋の入口から校長の声だけが聞こえてくる。

校長はチャイムが鳴り終わるのと同時に、その姿を現す。

下卑た笑み。ハンカチで口元を拭きながら、

校長「君は? 何しにここにきた? 授業はどうしたんだ?」

    レイナは校長へ鋭く振り向き、少し唇を歪ませながら、

レイナ「お前か、パンツスティーラー!」

    校長はぎくっとして動かなくなる。

校長「あ……」

レイナ「そうなんだろ? お前なんだろ?」

校長「なぜそれを……?」

レイナ「バレないとでも思ったか!」

    校長は抑揚なく、

校長「まさか、君、長谷田君の言うことを真に受けたのかね? 私がパンツスティーラーだという、誰も信じない戯言にしか聞こえないような真相を!」

レイナ「……わざとらしく驚いてんじゃねえよ」

    校長はこの状況を楽しんでいるように笑いながら、

校長「私はこうなることを望んでいたのかもしれんな。パンツスティーラーとしてフェアな最後を……」

レイナ「は? フェアな最後? 大人しく捕まろうってのか?」

校長「ふふふ、私だってねえ理解しているんだよ。自分がゲスだということくらい。罪を犯した者は当然その報いを受けなければいけない。それには同意する。同意した上で、私は私の魂に罪の烙印を押し、このゲームに参加した!」

レイナ「ゲーム?」

校長「わからないか~わからないよねえ? しかしわからない生徒にものを教えるのは実にやりがいのある仕事だ。だから君にもきちんと説明をしてあげよう」

レイナ「あ、わかった。パンツを盗むことがゲーム感覚なのか」

    レイナはあっさりと理解してしまう。

    校長は眉を寄せて不快を露わにする。

校長「答案としては三角だ。一つ大事なことが抜けている。私をゲーム感覚で無邪気にパンツを盗んでいるのだとは勘違いしないでもらいたい。もちろんそこには性欲だってある!」

    レイナは一歩後退り、

レイナ「せ、性欲だと? お前、気持ち悪いぞ!」

校長「こういうことを聞かされるのは苦手なのかな? 男には性欲というものがあってだねえ。たとえば今ここで君が裸になってくれたら、たちまち私は興奮して血が下半身に集まり勃起することだろう! どうだ? いっぺん見てみたいかな?」

レイナ「これ以上、口を開くなあぁああ!」

    右手を思いっきり校長の腹へと叩きこもうとするレイナ。

    しかしその攻撃はひらりとかわされてしまう。

校長「あれ? 止まって見えるよ。威勢は良いのだけど惜しいねえ」

    レイナは自分のパンチが避けられたことが信じられないようすで、

レイナ「あんた。何かやってるな?」

校長「私をありふれた下着泥棒だと思わない方がいいなあ。いざという時のためにバトル漫画を沢山読み込んでいるんだよ。私はねえ、自分は捕まって当然のゲスだとはわかっているが、それでもゲームオーバーになるまでは精一杯頑張らせてもらうよ。ここぞという時の頑張りが功を奏して、今まで何度も死線を乗り越えてきたんだ」

    レイナは額の汗をぬぐう。

レイナ「今まで何度も? そのたびにどれほどの女の子が気持ち悪い思いをしたと思っているんだ! お前はここまでだ! もうこれ以上誰のパンツも盗ませやしない!」

校長「だったら私を捕まえてごらんなさいよ。吠えてばっかりいないでねえ!」

    校長は竹刀を背中に忍ばせていた。

校長「さあ近づいてごらん? 骨の一本くらいは折れちゃうかもね」

レイナ「あいつらはパンツを盗まれたんだ。私は骨の一本くらい痛くも痒くもない!」

    レイナは校長を戦闘停止状態に追い込むために、足を振り上げ股間を蹴り上げよう

    とするのだが、

校長「せっかちだな……き、君は。私を殺す気なのか?」

    下段に構えて防御する校長。危ないところで受け止める。校長は少し青ざめて、

校長「本気なんだね?」

    竹刀をもろに蹴ったはずのレイナは、それでも表情を崩さない。

レイナ「返せ! 盗んだパンツを返せえぇえええ!」

    蹴りの連撃が校長に降り注ぐ。下段、中段、あらゆる角度の打撃を丁寧にいなす校長。

校長「もうやめておけ! それ以上は君の脚がもたないぞ!」

レイナ「私の仲間を、よくも傷つけたな! お前のくだらない欲望のために、どうしてあいつらが泣かなきゃいけないんだ!」

校長「だ、だから……」

    防戦一方だった校長が、初めて攻撃に転じる。

    レイナの蹴りをかわし、軸足をしたたかに叩く。

    ぱちん、と肉を打ちつける痛そうな音。

校長「やめておけと言ったんだ」

    さすがのレイナもしゃがみ込んでしまう。脚に力が入らない様子。

校長「休戦だ。私と戦って勝ちたいのなら、仲間を集めて再び私の前に現れるとよろしい」

    さっと翻って、校長は去って行く。

レイナ「ま、待て……ちくしょう、いてえ……」

    震えながら懸命に立ち上がろうとするレイナ。

    その時、がやがやと廊下の方から話し声が近づいてくる。

    新たな校長室への訪問者は、堀北と女子Aそして長谷田に美月に前川だった。

女子A「レイナ、大丈夫か? すでに戦闘が終わったみたいだけど」

レイナ「逃げられちまった……」

    レイナが立ち上がるのを、堀北が助ける。

堀北「レイナ、のんびりきてしまってごめんなさい。てっきりあなたが校長を半殺しにしているかと思っていましたけど」

女子A「そうなんだ、ごめんな。呑気にピザを食ってる場合じゃなかった」

    レイナは堀北に肩を貸してもらい、ようやく立っている状態。

レイナ「ピザ? そんなもん、私も食べたいに決まってるだろ。余ってないのか?」

長谷田「あるぜ」

    ピザの箱を持った長谷田が、レイナの前に歩み出る。そして目を泳がせながら、

長谷田「ん」

レイナ「ん?」

長谷田「ん!」

レイナ「どこぞの田舎の小学生じゃないんだぞ、長谷田」

    レイナはさして恥じらいも見せず、素早くピザを一切れ掴む。

美月「戸泉、お前に勝算はあるのか?」

    レイナは口をもぐもぐさせながら、

レイナ「あります。とっておきが。でもそれを取りに行かなくちゃいけない。だから……」

    レイナは申し訳なさそうに、上目遣いで長谷田を見やる。

    長谷田はシャイな田舎小学生の皮を破り捨て、一人の男としてどっしりと構えて、

長谷田「わかった。お前が戻ってくるまで、俺が校長を足止めしておく!」

堀北「違いますよ、長谷田君」

女子A「私たち、だろ?」

    堀北と女子Aの微笑みには、長谷田への信頼の情が表れていた。

レイナ「頼んだぜ」

    ぽん、と長谷田の肩に手を置く。若干歩きづらそうに、でも颯爽と出て行く。

    長谷田たちは早速作戦会議に取りかかる。

長谷田「さて、校長はどこへ行ったんだかねえ?」

堀北「こうしている内にも、外へ出て行くかもしれないです」

女子A「そうじゃん! 表門と裏門に早く行かなきゃ!」

長谷田「いいや、校長はまだ学校にいるような気がする。まだなにかとんでもないことをやるんじゃないかって、嫌な胸騒ぎがしてならないんだ」

    美月は残っているピザに手を伸ばす。それを一口食べて、

美月「とんでもないことって?」

長谷田「そりゃとんでもないものを盗むんじゃないですか? きっと校長は、このピンチの中で、あえてまた女子更衣室に忍び込みますよ。僕たちに予想できないような行動こそが一番の安全策だと、そう考えるんじゃないでしょうか」

    長谷田の物言いは確信に満ちている。その確信さに不信を抱いたのか堀北たちは、

堀北「よくそれほどまで校長の行動が読めますね。そうえば長谷田君、あなたが女子更衣室に侵入したというあの話は、事実ですか?」

女子A「そうだよ! あんた、私たちの味方するフリして、本当はまだ校長の息のかかったスパイだったりして!」

前川「長谷田……どうして?」

    唯一前川の問いかけだけは、他とは違う熱がこもっていたが、長谷田は気づかない。

長谷田「……」

堀北「何か言ってくださいよ! 私たちが安心するようなこと、仲間だと思えるようなこと、言い訳でもなんでも結構ですから!」

長谷田「何か言えるとしたら、それは……」

    長谷田は少し言いかけてためらう。

長谷田「それは、俺も校長と同じように変態だってことだ!」

堀北「え?」

女子A「え?」

前川「え?」

長谷田「もしあの日、あの女子更衣室に校長がいなかったら、俺は何をしていたかわからない。このムラムラくる衝動の取り扱い方が……俺は自分が怖くて、怖くて、軽蔑するよ」

    膝ががくがく震えている長谷田。

長谷田「そうだ! 俺は、変態だ! けどな、それはそういう部分が俺の中にあるってだけで、常日頃から誰にでも欲情するなんてことないんだ。むしろ、大事な人ほど欲情できないというか、妄想の中でさえ穢すことができないというか、眩しい太陽のようなつまりその……」

    長谷田は自分の拳で己の胸をどんと叩く。

長谷田「レイナ! 俺はレイナが好きだ。明るくて爽やかで女らしくないレイナが! 他の奴なら構わないけど、レイナのパンツが盗まれることだけは絶対に嫌だ! そんなことがあってたまるか! いや、他の奴なら構わないとか言ったけど、レイナの仲間のパンツだって盗まれるのは嫌だ! レイナが傷つくようなことは何一つとして俺は許せない……とか言っちゃうのはさすがに痛いから、そうだな……レイナが傷つくことを見逃すような人間にはなりたくない! とか?」

    色んな種類の沈黙が場を支配する。

    堀北と女子Aは感心して、美月は呆れて、前川は悲しくて、それぞれ口を閉ざす。

美月「……なんというかテンションで押し切られた感あるけど、お前は敵に回さない方がよさそうだなって思ったよ」

堀北「一応、認めましょうか?」

女子A「そうだな。そうしとこう」

美月「私も、元カレにパンツ盗まれたことあるわよ、程度こそ違えど、男は皆変態よ。だけど、本当に好きな人のためになら、男は健全な正義のヒーローになることができるのね」

    美月は煙草を吸いたくなるのを我慢しながら、虚空を見つめる。

堀北「では、行きましょう。女子更衣室に。校長を待ち伏せするのです」

女子A「長谷田もな」

長谷田「俺も?」

    堀北と女子A、長谷田はぞろぞろと連れ立って校長室を後にする。

    美月が前川に向かって優しく呟く。

美月「男なんて星の数ほどいるよ。特にあいつを基準にすれば、あいつ以上の良い男は沢山」

前川「……どうしても考えてしまうんです、もし私のパンツが盗まれていたら、どうなってたかなって、それを機に単なる幼なじみでしかない私を違う目で見てくれるようになってくれないかなって」

美月「それは、童貞の妄想かなにかか?」

    前川は寂しげに笑って、

前川「女の子だって、皆、童貞なんです……」


□女子更衣室

    五時間目の授業中の女子更衣室。暗がりの中で息を潜める長谷田、堀北、女子A。

長谷田「あいつは絶対にここに来るはずだ」

    そう言いながら、ピザをかじっている。

女子A「ちょっと、あんたそれいつの間に持ってきたの?」

堀北「静かにしてください」

女子A「私の分はあるの? なんか緊張してお腹空いてきたのよ」

長谷田「後でコンビニでおにぎりでも買っておけよ」

女子A「後でじゃだめなの! 今じゃなくちゃ!」

    女子Aは長谷田から強引にピザを奪おうとする。

長谷田「おい、落ち着けって。お前はまともに待ち伏せもできないのか」

女子A「見上げたストーカー根性ね。いいからよこしなよ!」

    女子Aは長谷田の腕を掴む。

長谷田「急になんなんだよ。てかストーカーじゃねえよ。校長を捕まえようと待ち伏せてるんだろ?」

堀北「大人しくしてください」

    女子Aが長谷田を強く押すと、長谷田はバランスを崩して後ろへ倒れてしまう。

    傍から見ると女子Aが長谷田を組み敷いているような体勢に……。

長谷田「おい! 俺はこんなラッキースケベ期待してないぞ!」

    と起き上がろうとした長谷田の動きと、ピザへとかぶりつこうとする女子Aの動き。

    長谷田の顔は、女子Aの胸元へとダイブする。

女子A「きゃ! このゲスが!」

    会心の前蹴りが長谷田の腹をえぐり、吹っ飛ばされる。

    そんな奇跡的なタイミングで、校長が女子更衣室に入ってくる。

校長「あっ」

    短く叫んで、校長はレアモンスターに匹敵する素早さで逃げる。

    長谷田は横倒れになったまま、

長谷田「あ、校長」

堀北「え、校長?」

女子A「なに? 校長?」

    三人は慌てて追いかけようとするが、すでに逃げ切られていた。



この劇って台詞覚えるの不可能ですよね

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